消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか?   作:適当でいいです

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第12話

そう、俺の唯一の『正義の味方ムーブ』――それは、行き場のない遊女たちの救出にある。

 

俺が問いただしたいのは、あくまで『出口戦略なき無計画な救出』なのだ。

逆を言えば、その後の保護と隠蔽という『出口戦略』が完璧に組み込まれているのなら、何の問題もない。

 

実は現在、俺は3人の娼婦と1人の男娼を『飼って』いる。

――この俺の、1号くんの体内で、だ。

 

もちろん、性的なお楽しみなどではない。彼ら・彼女らの主な用途は、俺の能力の『実験台』だ。

 

『【細胞操作】によって、生きたままの人間を殺さずに体内に取り込み、維持することはできるか?』

 

『取り込んだ人間の脳に直接アプローチし、安寧と極上の快楽を与える脳波(神経伝達物質)を強制的に送り続けられるか?』

 

それらを検証するためのサンプルになってもらっている。

人道的に見れば狂気の沙汰かもしれないが、彼らにしてみれば、暴力と病気に怯える街の底辺から解放され、脳内麻薬による永遠の幸福と安全を手に入れたのだ。お互いにとって完璧なギブアンドテイクである。

 

『店からの足抜け』による追手や報復も心配いらない。

裏社会の追尾や手配網なんて代物は、たいてい国境を越えれば途切れるものだ。超大国や世界規模の組織でもない限り、他国の領地にまで影響力を及ぼせるはずもない。

 

ましてや、その『逃亡先』が他人の体内だとは、世界のどんな名探偵や追手であっても絶対に気づくはずがないのだから。

 

 

 

さすがに、営業中の店から直接連れ出すような真似はしない。そんなことをすれば即座に事件化し、街中で捜索が始まって余計なリスクを背負うことになるからだ。

 

だから、俺が声を掛ける対象は――自らの意志で脱出を試み、その『行動』を示した者に限っている。

 

具体的には、店を脱走して街の外、魔獣や野獣が蔓延る夜の山林へと逃げ込んできた者たちだ。

遭遇したターゲットが『逃亡中の遊女』であるかどうかは、いくつかの明確な根拠から判別できる。

 

第一に、服装。

中級以上の店であれば、客を引くために上等で派手な仕事着が支給されている。そんな動きにくく目立つ服を着て、夜の山道を必死に彷徨っている時点で怪しすぎる。

 

第二に、匂い。

体臭や客の匂いを誤魔化すために染みついた、娼館特有の強いお香や安っぽい香水の残香だ。

 

そして第三に――これが決定打なのだが、多数の人間の細胞や遺伝子が【探知】に引っかかること。

直近数日の間に複数の男性と致していた場合、体内に残留した異物のDNA残滓がはっきりと感知できる。さらには、彼女たちの体を蝕む『性病の病原体』の遺伝子情報まで探知網にはくっきりと浮かび上がるのだ。

 

(※ちなみに、体内に取り込んだ後は【細胞操作】で病原体や残留細胞をきれいに分解・無菌化処理してやる。それが実験台兼同居人に対する最低限のマナーだ)

 

服装、匂い、そして体内の遺伝子情報。

これだけの条件が揃っていれば、見誤るはずもない。

 

自力で運命を変えようと山へ逃げ込み、そのまま野獣の餌になるはずだった命――それを俺が回収し、1号くんの中で永久の安寧を与える。

これこそが、俺の完璧な『出口戦略』というわけだ。

 

 

「ただいま戻りました」

 

「あぁ、おかえり」

 

「おばさん、これ、山でもらったお土産です」

 

俺はあの猟師親子から分けてもらった食用のキノコを、民泊のおばさんに手渡した。

無口で素っ気ない居候と、必要以上に踏み込んではこない中年夫婦。干渉し合わず、過剰な情も湧かない――まさに金銭関係だけで綺麗に繋がった、理想的な居候関係だ。

 

そんな『ごく普通の日常』のやり取りを交わしている間にも、俺の脳内には1号くんからうっすらと映像が送られてきている。

体内に取り込んだ遊女たちが今どんな状態にあるのか、リアルタイムの安否確認モニターだ。

 

実験の結果分かったことだが、体内の人間を現実へ『呼び出す(排出する)』となると、目を覚まさせるまでに数時間単位の丁寧な準備プロセスが必要になる。

 

極上の快楽に浸っている状態からいきなり現実へ引きずり出せば、脳内麻薬の急激な遮断(瞬断)によって、重度の薬物中毒者のような烈しい拒絶反応を起こしてしまうのだ。

 

かといって安寧の眠りのまま外に出せば、今度は激しい頭痛や意識障害が残る。

深海から浮上するダイバーが減圧時間を置くように、数時間かけて段階的に脳波とホルモンバランスを現実の数値へと戻していく『ならし運転』が不可欠だった。

 

だからこそ、彼女たちは『いざという時にすぐ出せる即戦力』ではなく、あくまで『安全に保管されている実験サンプル』に過ぎないのだ。

 

そして――非道だと言われるのは重々承知しているが、万が一の最悪な事態に陥った場合、彼女たちには1号くんの『緊急電源(エネルギー源)』になってもらう手はずになっている。

 

ただし、一方的な搾取ではない。その場合は事前に脳波を同調させ、完全な安寧と合意の中で一切の『痛み』を感じさせることなく体を分解・吸収する契約を結んであるのだ。

 

【細胞操作】を使えば、痛覚神経の電気信号をカットして『痛み』をゼロにすることは容易い。だが、死の直前に脳が感じる『苦しみ(恐怖やストレス応答)』は要素が複雑すぎて、現在の俺の技術ではまだ完全に制御しきれていないのだ。

 

痛覚は殺せても、精神的な『苦痛』までは消し去れていない。

完璧な生体エネルギー変換効率を達成するためにも、この『苦しみ』の完全緩和は今後の重要課題だ。

 

(……またタイミングを見て、ネズミや小型の魔獣を使った動物実験で脳波制御の精度を上げないとだな)

 

居候先のおばさんに手渡したキノコの温もりを感じながら、俺は脳内で次の生体実験のデータ構築を静かに進めていた。

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