消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか? 作:適当でいいです
これまで何度も拠点を変えてきたのには、当然それなりの理由(トラブル)がある。
ある時は、工事現場で崩れてきた重さ300キロはありそうな巨岩を、うっかり受け流してしまった。
物理的に押し潰される寸前、俺は【遺伝子改造】で強化した手のひらで軽く受け止め、斜め下に向かってぬるりと力を逃がした。さすがに受け止めるのはチートでも不可能だ。
岩は自然と直撃コースから逸れ、俺は無傷。
(やばっ、やってしまった……! ……で、でも崖の不規則な出っ張りに当たったとかなんとかで、たまたま軌道が逸れただけに見えるよな……?)
冷や汗ダラダラでごまかそうとしたのだが――甘かった。
現場監督の目は誤魔化せなかった。俺を凝視するあの目は確実に「人間じゃねえ」って顔だった。だから即座にトンズラした。
(ああ……思い出した。そういえば、あの現場で名乗っていた偽名が『ホージー』だったわ……)
他にもトラブルの種は尽きない。
「戦争が始まるから」と強制徴用されそうになって脱走したり。
「給料が良い現場見つけた!」と転職したら、その国の徒弟制度では『ご法度中のご法度(無断引き抜き)』だと後から知らされて追い出されたり・・・。
待て待て待て。
これ、俺が見てきた異世界生活と違くね??
スローライフどころか、ただの流浪の指名手配犯じゃねーか!
幸いだったのは、この世界には厳密な『戸籍』なんて存在せず、精々どこかの都市市民名簿くらいしかなかったことだ。
国境を違法越境しまくっても、大きな都市部さえ避けて通れば何のお咎めもなかった。
そして――流浪の末、俺の手元にはそれなりの資金が貯まっていた。
そこで俺が目をつけたのが、『農業』だ。
よく考えたら、【遺伝子改造】の能力なんて、これ以外に平和な使い道があるか? いや、ない。
作物の品種改良こそ、このチート能力が一番輝くフィールドのはずだ!
「……とは言っても、見ず知らずのどこぞの馬骨が作った野菜を、地元の農業組合がすんなり受け入れるか?」
だからこそ、俺はこの中途半端な規模の田舎町に、丸3年もじっくりと根を張ったのだ。
『肉体労働でコツコツ金を貯めた若者が、夢を抱いて地元の老農家に弟子入りする』
うむ。完璧だ。
これなら不自然さが一切ない、美しいストーリーの完成である。
◇
郊外に農場を構える、フェンズーヌ家。
主(ぬし)はこの道50年という超・大ベテランの老農家だ。
8歳から親の手伝いを始め、ずっと土を耕してきたらしいが……子供は全員、すでに亡くなっている。病死、戦死、事故死。理由は様々だ。
もっとも、この過酷な異世界ではそんな話、珍しくも何ともない。
むしろ58歳になってもまだ生きているこの老夫婦の方が、かなりの少数派(レアケース)と言えた。
俺が数ある農家の中から、わざわざこの家を選んだ理由――それは『寿命』だ。
俺はチートを通じて、生物の遺伝子情報をかなり詳細に読み取ることができる。
細胞のテロメアの長さや、ガン細胞の進行具合を見れば、その人間の『残り寿命』なんて一目で丸わかりなのだ。
おまけに、フェンズーヌ家はごく普通の農家。
他を圧倒するような特殊な技術や、秘伝の農法なんてものも一切ない。
――隠れ蓑としても、乗っ取り先(継承先)としても、これ以上ない物件だった。
「やあ、おじいさん。今日も手伝いに来たよ」
「おお……いつもすまんのう……」
(……あと、せいぜい3年ってところか。また少し進行が加速したな)
俺は内心で冷ややかに残された寿命をカウントしながら、爽やかな笑みを浮かべて見せる。
「じゃあ、今日も色々とご指導お願いしますね」
「うむ……ゴホッ! ガホッ!」
すでに老夫妻は、自力で鍬(くわ)を振るう体力すら残っていない。
だから俺が代わりに畑を耕し、その手さばきを見てもらいながらアドバイスを受ける。そして返礼として、彼らの身の回りの世話を焼く。完璧な『孝行息子』の演技だ。
正直な話、俺のチート能力を使えば、圧倒的な糖度のフルーツや、あり得ない収穫量の穀物、絶対に病気にならないチート品種を作るなんて朝飯前だ。
だが、そんな真似をすればどうなる?
間違いなく「どうやって作った?」「どんな魔法や薬を使った?」と嗅ぎ回る奴らが出てくる。
近所の農家仲間だけじゃない。噂を聞きつけた商人、貴族、果ては国家の連中まで押し寄せてくるだろう。
だからこそ、俺はこのおじいさんから『この地域のありきたりな農法』と『常識的な作物の質と量』を徹底的に学んでいるのだ。擬態のためのカモフラージュとして。
懸念があるとすれば、乗っ取りが100%うまくいくかはまだ微妙な点だ。
調べてみると、老夫婦には一応、遺産を受け取る権利を持った遠縁の親族が数名いるらしい。
じいさんがくたばった後、奴らがこの農場をどう扱うか……そこが勝負どころだ。
もし俺をただの『小作人』として使おうとするなら、貯めた金で別の放棄農場を買い取って即おさらばする。
もし農場を金で手放したいと言うなら、俺が提示された額で買い取るだけだ。
すべては計算通り。
俺の、俺による、俺のための『偽りのスローライフ』の準備は、着々と進んでいた。
◇
午前中は老夫婦の畑を手伝い、午後からは土木現場で汗を流す。
これが俺の日常ルーティンだ。
……だが、土木工事というのは現場が終わればそこで一気に収入が途絶える。
そうなると、嫌でも『冒険者関連の仕事』に手を出すハメになるのだ。
魔物、あるいは魔獣と呼ばれるバケモノは、ここ人間エリア(北半球)にも普通に生息している。
南北の属性問題のせいで奴らも魔法は使ってこないが、巨体と凶暴性だけで十分に脅威だ。
そして俺が今日参加するのは、その『魔獣討伐遠征』である。
……と言っても、俺が刃物を振るって戦闘するわけじゃない。
やるのは専ら、『運搬係(荷物持ち)』だ。
よく創作の追放もので「荷物持ちなんて無能はいらん!」とパーティーを追い出したり、たった数人の冒険者が手ぶらで何週間も野宿しながら討伐に向かう……なんて話を聞くが、現実的に考えて不可能なのだ。
人間が生きて遠征するには、絶対に大量の水と食料がいる。
それに、夜の森の中でそのまま寝るなんて正気の沙汰じゃない。そこは『昆虫パラダイス』だ。毒虫や害虫を防ぐための頑丈なテントや寝具が絶対に必要になる。
「現地調達すればいいだろ」って?
甘い、甘すぎる。
野山で見つけた水やキノコ、木の実の毒性や病原菌をどう判定する?
煮沸消毒すれば何でも解決……なんてのは素人考えだ。熱に強い毒素もあれば、寄生虫の卵だってある。
となると、どうしても「安全な水と食料を大量に持ち込む」しか選択肢がないのだ。
すると必然的に、膨大な荷物が発生する。
だからこそ、日頃から重い資材を運び慣れている土木作業員である俺たちに、運搬係としての白羽の矢が立つわけだ。
命の危険がある戦闘に参加させられることもなく、重い荷物を運ぶだけで破格の臨時収入が入る。
うん、俺にとっては実にありがたい依頼だった。