消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか? 作:適当でいいです
『大型・1号くん』
あの悍ましい肉塊に俺がつけている、名前というか識別コードだ。
俺自身の細胞(髪の毛)を核にして作られているため、当然ながら基本的に性別は『オス』から発生するが、弄れば『メス』に変えることもできる。
・・・そう、やろうと思えば俺も『女性の体』になることはできる。やったことないけど・・・
その1号くんは、器用に巨大な体を揺らすと、ニョキッと生えた4本の腕で荷車を持ち上げ、俺の後にトコトコとついてくる。
当然、こんなバケモノを街道で見られたら一発アウトだ。
だから1号くんには、街道から外れた森の中を無理やり歩かせている。
おかげで森の奥からは「バキバキバキッ!」と、木々がへし折れる凄まじい轟音が響き続けていた。
……まあ、万が一誰かに目撃されたり接触したりしたら、俺は全力で「知りません」「何ですかあれ怖い」と知らんぷりを決め込むつもりだが。
◇
次の目的地には、すでにアタリをつけてある。
すぐ目の前にある隣町だ。
「そんな近くで大丈夫か?」と思うかもしれないが、すでに容姿も声も、素性もすべてリセット済みだ。わざわざ遠方まで高飛びする必要なんてサラサラない。
それに、下手に国境を越えてしまうと、これまでせっかく覚えたその国の法律や常識、マナーまで一から覚え直しになってしまう。
進路上、どうしても国を跨がなきゃいけない状況でもない限り、移動は「隣町」にするのが一番効率的なのだ。
……そういえば以前、「ホージー」時代を知る奴に街角で声をかけられたことがあったな。
だが、それだって「いや、人違いですよ?」で何の問題もなく通ってしまった。
なにせ今の俺は、顔の骨格も声のトーンも、以前とは『若干』変わっているのだから。
やがて暗視視界(生命探知)に複数の反応捉え、俺は隣町へと到着した。
ここは昔、輸送商会の荷役として何度か足を踏み入れたことがある街だ。ちょっとした土地勘はある。
「じゃあ君は、いつものようにどこかで寝てて」
俺は森の奥で待機する1号くんにそう指示を出した。
とにかく燃費の悪い巨躯だ。大人しく寝ていてもらうのが一番省エネになる。
道中で消費しきれなかった余った水や食料は、そのまま1号くんに取り込ませてエネルギーに変換させた。ついでに使い終わった木製の荷車も、じっくり時間をかけて分解・吸収させてエネルギーにしてもらう。
ゴミが出ないどころか、自家処理できるエコなシステムである。
◇
ここもそこまで大きな街ではないため、立派な城壁や門番なんてものは存在しない。
この世界で街の入口に門番が立つなんて、それこそ非常事態の時くらいだ。
というわけで、俺は何のチェックもなく、ごく普通の一般人(旅人)としてすんなりと街へ入った。
そのまま、職業斡旋も兼ねている冒険者ギルドへ向かい、掲示板で工事関係の求人をチェックする。
正直なところ、もう5年もこんな逃亡・流浪生活を続けてきたのだ。いい加減、どこかにドッサリ腰を据えて平和に暮らしたい。
「ギルド登録をお願いします。『ジール』と申します」
受付で爽やかに嘘をつく。
我ながら、偽名を名乗る手馴れっぷりには感心するほどだ。
……だが、悲しいかな。
俺の勘は「ここでの生活も長続きしないだろうな」と告げていた。
あの謎の魔族による襲撃。
あいつが放っていた魔力の高さは、あまりにも尋常じゃなかった。
となれば、そのすぐ目と鼻の先にあるこの隣町も、間違いなく時間の問題で『危険地域』と化す。
結局のところ――いつでも全てを投げ打って逃げ出せるよう、俺はここでも『工事作業員』と『農家の手伝い(小作人)』の兼業から始めるしかなかった。
◇
やがて夜が訪れた。
この街には専門の「宿屋街」なんて大層なものは存在しない。そのため、主な宿泊先は一般家庭が部屋を貸し出している民泊・民宿のスタイルになる。
俺は街を歩きながら、『中年以上の夫婦しかおらず、若い子ども(特に年頃の女性)が居ない家』を厳選して声をかけた。
……当たり前だ。
変に年頃の娘がいる家に泊まって、あらぬ誤解やトラブルの種を撒くなんて愚の骨頂だからな。
ちなみに1号くんはというと、森の中で居心地の良い場所を見つけたらしく、脳内に『ここで寝るー』と呑気なメッセージを送ってきた。
俺の細胞(髪の毛)を核にして作られた存在なので、俺と同じく生命探知能力を持っている。
もし冒険者や野盗、魔獣などが近づけば、自動的に目を覚まして対処してくれるはずだ。
……まあ、あの巨体が動き出した時点で、相手側からは『新種の凶悪な魔獣』にしか見えないだろうが。
◇
「さてと……移動の時に森をへし折った痕跡は、適当に大型魔獣のせいにでもしておけばいいか」
ある意味、1号くんも魔獣みたいなものだしな。
見た目こそ「グロい・キモい・デカい」の三拍子が揃った悪夢のような造形だが、実は最低限の知能はある。感覚的には3歳児くらいだ。
知能がその程度で留まっているのは、核にしたのが俺の髪の毛1本なのと、あとは死後間もない(かすかに生命反応が残っていた)死体しか取り込んでいないからだろう。
もし、もっと新鮮な細胞を取り込ませれば、もっと賢くなるのかもしれない。
「……魔族は流石にリスクが高いとしても、魔獣や野生動物を生きたまま『食う』んじゃなくて『吸引(吸収)』させたらどうなるんだろうな?」
実は、これに似た実験は過去にやったことがある。
と言っても、文字通り動物実験レベルの話で、「知能や扱える体積が増えたな」と確認した程度で終わらせていた。
もし、そこからさらに『生の細胞』を吸収させ続けたらどうなってしまうのか……。
それは俺にとっても、まだ見ぬ未知の領域だった。