消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか? 作:適当でいいです
この街の民泊は、基本的に「長居はしない」のが通例だ。
主な客層は、旅人や商隊のお偉いさん。
民泊アプリ会社なんて便利なものがないこの世界で、素性のわからない飛び込み客ばかりを泊めるのだ。盗賊を引き入れるリスクだって十分にある、かなり危険な商売と言える。
「滞在期間は……まあ、だいたい3日。引き延ばしても1週間ってところか」
これが怪しまれずにいられる限界の期間だ。
商人や学者みたいに「ちゃんとした理由」があるなら長期滞在も通るだろうが、ただの『工事作業員と兼業農家志望の男』じゃあ、言い訳として弱すぎる。
……だが、問題はそれだけじゃなかった。
「参ったな……。この街、農業よりも『採掘』がメインの街か。農業とは相性が悪すぎる……」
軽く街を歩き回ってみたが、農家の数自体が圧倒的に少ない。
跡継ぎがいない農家もゼロではないが、「誰でもいいから受け入れます!」なんて奇特なお人好しはそうそう転がっていなかった。
前にいた街で農業と運送業が盛んだった理由が、ここでようやく繋がったよ。
要するに、前の街はこの鉱山街へ『食料』を供給していたのだ。
あっちから食料を運んできて、この街で鉱石を積んで持ち帰る。あるいはさらに足を伸ばして、領主様がいる地方都市へ流す……という物流ルートが完成しているわけだ。
「まあ、金ならあるし、無理してここに執着せず他を当たるか」
と言っても、俺の資産の大部分は1号くんの体内(腹の中)に安全保管してあるのだが。
この世界には『銀行』なんて便利な組織はない。
仮にあったとしても、利用料でガッポリ持っていかれるのが目に見えている。
セキュリティ維持、他支店での引き出しに対応するための準備金……コストを挙げ出せばキリがないからだ。
現代日本で、当たり前のように無料で銀行口座を作れて預け入れできるのが、どれほど神がかったシステムだったのか痛感させられる。
ちなみに、よくファンタジー小説にある『冒険者ギルドは世界規模の組織で、銀行機能も完備していて〜』みたいな都合の良いシステムも存在しない。
冷静に考えてみてほしい。
もし国家を超えた超巨大な金融・情報組織なんてものを作ったら、それはただの『上位国家』だ。
仮に魔法の力で技術的・距離的な問題を突破できたとしよう。
そんな魔法があるなら、ギルドは冒険者の仲介なんてやめて『国際銀行』として独立した方が遥かに儲かる。貴族や官吏の裏金・賄賂の流れだって丸見えになるはずだ。
そんなヤバい存在、各国の貴族たちが指をくわえて見ているわけがない。
真っ先に情報戦の要として取り込もうとするか、自分のところのお抱え魔導士を動員して、そっくりそのまま類似システムを作って対抗するに決まっている。
つまり、単独でそんな万能ギルドが存在すること自体、構造的に無理難題(無茶振り)なのだ。
……とまあ、色々と熱く語って(不満を垂れ流して)しまったが。
要するに何が言いたいかというと――「今俺の手元にある現金は、そこそこの小金持ち程度しかない」ということである。
◇
ちなみに、「ところで2号くんはどうしている?」という話だが――。
『2号くん』には、1号くんよりも遥かにハードなワーク(極悪なミッション)をこなしてもらっている。
俺が2号くんに与えた指示は、ただひとつ。
『ひたすら南へ進め』
目的は単純だ。
「俺からの意思伝達がどれほどの距離まで届くのか?」
そして「魔族エリア特有の『魔素環境』の中でも、俺の細胞(ゾンビ)は正常に機能するのか?」を検証するためである。
もちろん、GPSなんて便利なものは存在しない。
だから、2号くんが本当にこの星の赤道を越えたのか?魔族側エリアまで到達したのか?という保証はゼロだ。
『じゃあどうするか?』と考えた結果、「惑星を1周して俺の元に戻ってくるまで、定期通信させ続ければいいだけじゃん」という結論に至った。
「いやぁ、やっぱりネットの格言は正しいな。【力こそパワー】。【筋肉(肉塊)はすべてを解決する】だわ」
……まあ、進路上にある国や集落の人々には、非常に申し訳ないと思っている。
この大実験を実行して数日経っての結果、距離が離れるにつれて命令の精度がガクッと落ちることが判明したのだ。
そのため2号くんは「集落や人を避けて通る」なんて器用な芸当ができなくなり、障害物(街や人)ごと力任せに押し潰しながら突き進む重戦車と化してしまった。
「まあ、物理法則寄りの考え方ならこうなるよな。良かった、あの指示も出しておいて。」
さすがに「踏み潰した遺体がそのまま放置されると疫病が流行ってマズいな」と思い、『死体を見つけたら片っ端から食え』とだけ追加の命令を出していた。
これで環境破壊(?)もある程度は抑えられているはずだ。
……と、高をくくっていたのだが。後になって重大な事実に気づいてしまった。
「あ……そういえば俺のチート、生命反応は察知できても【生死判定】はできないんだった」
……ということは、だ。
瀕死で倒れている人間も、2号くんのガバガバな判定基準(おそらく『倒れている+血が流れている匂い+生命反応が一定以下』)では『死体』としてカウントされ、そのまま捕食されてしまっている可能性がある。
「いや、でも瀕死のまま見逃されてもどうせ死ぬんだから、区別なく全部食って回る方が衛生上安全なのか……?」
そんな物騒極まりない思考を巡らせながら、俺は次の街へ向かうための荷馬車を探していた。
◇
「銀貨2枚で、ベスター市まで載せていってくれ」
「おいおい、兄ちゃん随分と足元を見るねぇ」
「じゃあ、銅貨2枚を追加する」
「もう一声ほしいねぇ。馬の餌代もバカにならんのだよ」
「……じゃあ他を当たるよ。俺の予算はこれが限界なんだ」
「……チッ、分かった分かった! 銅貨をもう1枚追加するなら載せてってやるよ!」
「助かるよ、おっちゃん」
無事に交渉成立だ。
ここから先は、これまでの田舎町とはワケが違う。それなりの規模を誇る地方都市へと足を踏み入れることになるのだ。
街の入口に辿り着くと、防疫(検疫)関係の係員が立ち、通行人たちに木札の『許可証』を配っていた。
紙がまだそれなりに高級品であり、大量生産はあまりされていないこの世界では、こういう使い回せる木札が定番だ。
ベスター市ともなれば、人口もかなり多い。
人口が多いということは――当然、その胃袋を支えるための『広大な農地』が周囲に広がっているはずだ。
(ここなら……今度こそ腰を据えて、本格的に農家ができるはず……!)
フェンズーヌのじいさんから仕込んだ『ありきたりの農法』と『常識的な作物の質』。
スローライフとまではいかないかもしれないが、ジールとしての「普通の人生の基盤」を、俺は今度こそ手に入れてみせる。
……遥か南の地で、2号くんがすべてを破壊しながら爆進し続けていることなんて、綺麗さっぱり頭から消し去って。