消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか? 作:適当でいいです
翌朝、ベスター市の朝市を軽く見学してから農地エリアへ向かった。
……と言っても、この街には区画整理された「農地エリア」なんて整然としたものは存在しない。
市街地を一歩出れば、全方位にまばらに畑が散らばっているだけだ。中には、明らかに長年放置されているような使われていない土地も転がっている。
「すみませーん、ここって畑作れたりします?」
「ん? 地主が良いって言うなら、別に構わねえぞ?」
作業中の地元農民に声をかけてみると、地主の許可さえ取れれば使っても良いらしい。
……だが、問題はその「地主」という存在だ。
フィクションによくいる『悪徳地主』という奴も一応存在するが、この世界では大抵長続きしない。
権力でガチガチに守られた領主や貴族ならともかく、民間地主は「年貢」という形で物的徴税義務を負っている。その生産者である農民を理不尽に虐げれば、農民はあっさり逃げ出して経営が破綻するからだ。
(そういえば……昔ネットで見た江戸時代の雑学でも『年貢が重すぎると農民があちこちへ逃亡(夜逃げ)していた』なんて話があったな……)
理由はともあれ、生産者が潰れたり居なくなったりすれば、地主だって売るものがなくなる。
この世界は「今年は売上が出なかったので納税はナシで!」なんて生ぬるい言い訳が通る世界じゃないのだ。
「じゃあ、その地主様ってどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「ここ」
泥にまみれた頬と手をかざし、ニコッと微笑む中年男性。
……なんと、今まさに話しかけていたこのおっさん自身が地主だった。
「助かるよ。農業経験者なら、今はいくらでも喉から手が出るほど欲しい状況でね」
「……あ、すみません。ちょっと他の地主さんのところも見てきていいですか?」
「ああ、いいぞ」
強引に引き留めてきたり、脅して囲い込もうとしてきたりしない。
そういう法律なのか、この業界の商慣習なのか……。
相見積もりを取られても最終的に自分のところに来るという自信か? それとも、寛容さを見せて心理的に引き入れる高度な交渉術なのか……!?
◇
『モ……デ……ケド……』
2号くんからの定期通信だが、いよいよ本格的にノイズが混じり、連絡が途絶えかけてきた。
判断ミス……というか判断材料がなさすぎた。
「どこで引き返せと命じればいいか」を迷っているうちに、完全に暴走(南進)状態に入ってしまったのだ。
もはや現在地の把握なんてとっくに不可能。詳細な命令も届かない。
かすかな定期通信の反応だけが、脳裏にポツポツと響いている。
「まあ……惑星を1周して北側から近づいてくれば、また通信も復活するでしょ。月の探査ロケットみたいな感じで」
……戻ってきた時、南半球(魔族領)がどうなっているかは知ったこっちゃない。
一応、『疲れない程度の小走りで行け』『向こうから攻撃されない限り、自分から積極的に襲うな』とも細かい命令もしてある。
まあ、倒れている死体や瀕死の重傷者は「食いやすいものから片っ端から食う」スタイルなので、向こうからすれば大災厄以外の何物でもないだろうが。
◇
さて、農地探しに思考を戻そう。
「……ここ、市街地の外はほぼ全面が農地か荒れ地だから、見て回るだけで1週間はかかるんじゃね? しかもそこから地主探しまでやるんだろ……?」
……もう、さっきのおっさんのところで良くね?
そんな誘惑が頭をよぎる。
実際、いくつか見て回った他の地主と比較しても、最初のおっさんの条件は「良くも悪くもない平均点」だった。どこも人手不足なのは変わらない。市街地に近ければ条件は厳しくなるが、その分運搬コストが下がるので理解はできる。
「他の街の農業事情? そんなのオレは知らねえ。お貴族様か冒険者、商人、あとはお役人様くらいしか知らんよ」
途中で尋ねた別の地主には、呆れ顔でそう言われた。
そういえば転移前、ネットの雑学記事で見た記憶がある。
『中世ヨーロッパでは、村人の4分の3は生涯で一度も自分の村から出たことがない』
この世界も、まさにそれに近い状態だった。
だから「隣街だと農場の条件はいいか?」と聞いても、地主たちは「噂以上のことは分からん」と首をかしげるばかりなのだ。
「でもなぁ……あのおっさんのところにノコノコ戻るのもな……」
あそこまで頭の切れる(寛容さを装える)地主相手に、対等にやっていける自信がない。
現代日本なら借主を保護する強い法律や政府機能があったが、ここは圧倒的な資本主義社会。領主への納税を怠らず、小作人が死なない程度に抑えていれば、あとは地主の思うがままだ。
逃げることはできるが、また一から農地を探し直すのも骨が折れる。
そこで俺が出した結論は――。
おっさんの農地を本命にしつつ、別の地主から一番外れにある『荒れ地』を1箇所、『実験農場』という名目で借りることにした。
当然「実験場」なので年貢(成果物)は納めない。
かと言って無料で貸せとも言わない。かなり足元を見た交渉だが、現金(または現物支給)での少額定額払いを持ちかけたのだ。
何十年も誰も寄り付かなかった死に地に小銭が入るのだから、断られるはずもなかった。
◇
「よし……これでプライベートな【実験場】を確保したぞ。ここなら人目を気にせず色々試せる」
うっそうと雑草と木々が茂る荒れ地の中、俺は右腕に意識を集中させる。
――ビキビキ……グチグチ……ッ!
不快な金属音と、生々しい肉の組織音が交差する。
俺の手のひら全体を基部にして、ぬるりと『三角錐型の重厚な金属の棘』が伸び出してきた。
以前解説した『生物の細胞を利用するチートなので、金属を自生させるのは困難』という制約。
……それに対する【抜け道】がこれだ。
要するに、『金属生命体(メタル系)の魔獣』を取り込んでしまえばいいだけの話である。
『メタル○○』と名のつく魔獣は、この世界では多種多様に存在している。
ならば、そいつらの遺伝子情報を読み込んでコピーするか、細胞そのものを体内に組み込んで使えばいい。
円錐ではなく「三角錐」にしたのは、角がある方が敵の魔獣や人間に突き刺しやすいからだ。
「……やっぱり、まだ一度に出せるのは1本が限界か。でも長さ1メートルはある。戦闘時、1号くんが駆けつけてくれるまでの『時間稼ぎ』としては十分使えそうだな」
この金属の槍自体の成分は、俺自身の体内から集めたものなので無限に連射できるわけではない。
メタル遺伝子の導入には成功し、全身の細胞に少しずつ金属成分を同居させてもらってはいるが……現状ではこれが精一杯だ。
バトルアニメの主人公みたいに、マシンガンのように金属針を連射……なんて芸当は夢のまた夢である。
「次の課題は、この体内金属量を2倍に増やせないか……だな」
誰もいない荒れ地の中、俺は無数に伸びた金属の棘を見つめながら、一人腕を組んで深く唸るのだった。