消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか? 作:適当でいいです
開墾作業を続けながら、思いを馳せる。
あの日の夜、5体で出て来た魔物と魔獣。
なぜ田舎町の討伐隊ごときに2日間も包囲・追跡し続け、頭数を揃えていたのか?
簡単に掃討できる連中だとすぐに気付くはずだ。
なにせ向こうにはこのエリアで魔法を放てるレベルの魔族も居たのだから。
「正直、慎重すぎというか、実は殲滅よりも優先すべき目的があったけど横やりが入ったから仕方なく殲滅に入った、のか?」
あのときは結構俺自身も焦っていたからよく覚えていないし、周辺調査なんて気の利いたことができなかった。
いかにして不審な点を残さずに、かつ安全にその場からすぐに離れられるか?
それを最優先に考えてあれこれ思案を巡らせていたのだ。
もし俺に授けられたチートが遺伝子改造でなかったら、もしこの世界に『経験値』という概念があれば、
「俺に任せろ。ドーンと来い!」
なんて主人公ムーブができただろうに・・・
でも現実は戦闘向きじゃない、護身用になんとか槍っぽいものを1本生成することくらい。戦闘しても経験は積めるだろうが、それで強くなれるかは俺次第だ。
日本でも戦闘なんてしてこなかった一般市民。だから戦ったところで命の危機に飛び込んで終わるだけだろう。
だからやらない。人助けもしない、いやできない。
自分の身を守るだけで精一杯。
◇
そう、精一杯なんだ。
俺の2つ隣に畑では首に縄を括られた男女が農作業をしている。
その首の縄は近くの木に縛り付けられている。
そう、奴隷だ。
俺もこの開墾が失敗すればあそこの仲間入りをすることになる。・・・まあ、そのときは全力で逃げてやるけどな。
見た目はリードに繋がれたペットの犬のようだが、実はイメージするほど苛烈な扱いはされていない。
奴隷だって貴重な労働力だし、それなりのお値段はする。
粗末に扱ってすぐに死なせると奴隷商からの受けが悪くなる。
理由としては『転売ができなくなる』からだ。
ある仕事が終われば次の仕事場に貸し出す。奴隷を売って終わりというのはあまり無いらしい。
つまりはほぼレンタル品のようなもの。
それを勝手に鞭打ちなんてやって骨折させたりしたら奴隷商は当然損害金請求してくるし、『あいつに売るときは金額を上増ししておこう』となるわけだ。
◇
開墾の期間中は、民泊の滞在を延長できるらしい。
地主様から預かった木札を見せれば、怪しまれることもなく部屋に泊まることができる。しかも宿代は、領主様と地主の懐から支払われる仕組みだ。
宿となる一軒家の夫婦からすれば、身元が担保された人間を泊めるだけで確実な収入になる。
地主にしてみれば、手勢となる小作人を増やすための先行投資。
そして巡り巡って、領主様の石高アップへと繋がっていく。
みんなそれぞれが得をする面がある構造になっている。
「よくできた仕組みだよな。これじゃあ、下手に現代の経済知識を振りかざすだけの浅知恵だと、返り討ちに遭うわけだ……」
◇
「はいよ。」
「どうも。」
装ってもらった木鉢を受け取り、居候させてもらっている夫婦と一緒に夕飯を囲む。
この世界でも、やはり主食はイモや小麦類、それに米といった穀物だ。調理法も元の世界と大差ない。
ただ、調味料のバリエーションが圧倒的に足りないため、全体的に味付けはかなり薄めだ。
それでもここは、この前まで居た採掘の街から岩塩が仕入れられるルートがあるらしい。おかげで、贅沢にもしっかりとした『塩味』だけは味わうことができた。
食卓に並ぶのはパンか蒸しジャガイモがほとんどだ。それはこの家だけでなくこの周囲の街でも同じだった。だが、パンは価格が高めの嗜好品に近い。
なにせ小麦は栽培が難しい。その上、パン職人の工程が乗っかるからだ。
地主さんからは「できれば小麦を育ててほしいが、難しそうならまずはイモからだな」とも言われているくらいだ。
小麦は病気や天候に左右されやすい。開墾したばかりの土でいきなり育てるには、少々リスクが高い。
とはいえ、イモだって楽なわけじゃない。水はけが悪いと土の中で簡単に腐ってしまうし、根菜類は収穫期になるまで土の中の育ち具合が外から分からないという厄介さがある。
だから小麦は高いし、パンも嗜好品になっている。
「よし、イモだな。」
いや、普通の物語ならここでチートを使って『病気に強いスーパー小麦』でも作るところだろう。だが、俺のモットーはあくまで『平穏で普通の生活』だ。そのためなら、目立たないための努力も手段も惜しまない。
仮にスーパー小麦じゃなく、普通の小麦でいきなり開墾に成功したとしてもダメなのだ。それでは『普通の農家』ではなく『将来有望な開墾のプロ』として上の者に目を付けられてしまう。
一度目を付けられれば最後、税の優遇と引き換えに囲い込まれたり、何かトラブルや災害が起きたときも社会的立場に縛られて逃げ出せなくなる未来が見える。
そんな面倒なフラグが立つルートは、絶対に御免だった。
◇
チートを使わなければ、ただの素人がイチからイモを育てることになる。
フェンズーヌじいさんから農業の手ほどきを受けたとはいえ、あそこ(じいさんの家)とは土の性質も環境も違う。成功するかどうかは五分五分だ。
しかし、領主様と地主から融資という名目で多額の借金を背負っている以上、初年度からの大失敗は絶対に許されない。
かといって、チートを使って目立ち、周りから騒がれるのも御免だ。
失敗はできないが、チートもバレたくない――そんな我がままを叶える答えはひとつ。
要するに、目に見える『痕跡』を残さなければいいのだ。
作物そのものに手を加えれば、万が一疑われた際に『鑑定』などで証拠を押さえられるリスクがある。だが、土の中の微生物の生態まで調べる奴なんて、この世界にいるはずもない。
(……意識を集中して、手を土に突っ込む)
まずは土壌の微生物。有機物の分解効率を少しだけ底上げする。
ん? ミミズか……ちょうどいい。こいつらは全滅しないよう、消化効率と繁殖力だけを少しだけ引き上げてやるか。
これなら、見た目はどこにでもある『たまたま条件の良かった日陰の土』にしか見えないはずだ。