転生したら結城丈二(♀)だったのでプルトンロケットを回避したい!   作:青葱小口切り

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第十三話 ここから先は知らない

 

 石鹸の匂いがした。

 

 洗われた布の匂いと、その下にごく薄い薬品の匂いが混じっている。目を開けると、白い天井があった。板の継ぎ目が三本、まっすぐ横へ走っている。薄いカーテンの向こうに朝の光があった。

 

 階下で水を使う音がする。金属の棚に何かを並べる音も混じっていた。店を開ける前の音だ。

 

 頭が重い。後頭部の奥に、脈に合わせた鈍い痛みがある。右肩は痛みというより熱に近くて、息を吸うと肋の内側が軋んだ。

 

 どこがどう痛いのか、全部分かる。

 

(……死んで、ない?)

 

 右肘の下に畳んだ布が敷かれている。前腕を斜めに立てるのは、片桐の固定の仕方だ。

 

 その先の手を、両手で包んでいる人がいた。

 

 風見だった。

 

 椅子に座ったまま、上体だけを寝台の縁へ預けている。頬が削げていた。目の下に濃い影がある。髪に埃と煤が残っていて、服の破れ目はそのままだ。傷の手当ても、間に合わせで止めただけに見えた。

 

 デストロンとの最後の戦いは、俺が思っていたよりずっと過酷だったらしい。

 

 指先をわずかに動かすと、風見の顔が上がる。

 

「……君はまた、勝手に一人で決める」

 

 その口から最初に出てきたのは、苦情だった。ただ、責めるというよりは、ずっと喉に置いたままだったものをやっと下ろした言い方だった。

 

(だって言ったら止めたでしょ!?)

 

 言えば止められる。止められたら、あのプルトンロケットに対処する人間がいなくなる。そこまで含めて選んだのだから、詫びる筋合いはない。

 

 ……いや、たぶん少しはある。あるけれど、今それを認めたらこちらの負けだ。

 

「……結果的に、無事でした」

 

 言ってから、我ながら殊勝さのかけらもないと思った。

 

 風見が口を開く。何か言い返そうとして、そのまま息だけが出た。肩から力が抜けていく。

 

 それでも、手は離さなかった。

 

 右肘を寝台につけたまま、包んだ手をわずかに自分の側へ寄せて、風見が屈み込む。額が俺の手の甲へ当たった。

 

 右肩は引かれなかった。この人は、俺の腕がどこで繋がっているかを知っている。

 

 髪しか見えない。長く吐かれた息が、右腕の上で散った。風見はそのまま、何も言わずにいる。

 

(……これは、どうするのが正解なんだ)

 

 答えは出なかったが、俺は動かずにいた。

 しばらくそうしていると、廊下の板が鳴った。足音が近づいて扉が開く。

 

 顔を出したのは片桐だった。

 

***

 

 片桐は、風見が俺の手へ額を伏せている姿を見て一瞬だけ足を止めた。

 

 それだけだった。何も言わず、寝台の横へ来る。

 

「結城さん。見えていますか」

「見えている」

「今日が何日か、分かりますか」

「……分からない」

「ここがどこかは」

「立花さんの店だ。二階の、物置に使っていた部屋」

 

 片桐が小さく頷いて、俺の左手の指を一本ずつ触っていった。呼吸の数を数え、瞼を上げて光を当て、最後に右肩の布へ手を添える。

 

「動かしていませんね」

「動かせる気がしない」

「結構です」

 

 風見が、そこでようやく手を離した。

 

「最後に覚えていることは」

「分離レバーを引いたところまで」

 

 言葉にすると、そこで切れているのがはっきりした。引き切って、固定が外れて、指が何もない場所を掴んで——その先がない。

 

 俺は天井を見たまま訊いた。

 

「ロケットは」

 

 片桐は前置きを置かなかった。

 

「四つとも、別々に爆発しました」

 

 息が、少し深く入った。

 

「市街地への被害はありません。山へ落ちた分の火も、その日のうちに消えています。あなたの操作は、最後まで動きました」

 

 左手の力が抜けて、指が寝具の上で開いた。

 

 声は出なかった。出したいものがないというより、出す形が見つからなかった。

 

(……成功、したのか)

 

 紙の上で組んだ順番が金属になって、そのとおりに動いた。四つが、別々に散った。それだけのことに、体の芯が沈むほど安心している。

 

「中央連結区画は、山へ弾き飛ばされました」

 

 片桐が続ける。

 

「上の枝を折りながら斜面に当たって、谷底の手前の木で止まっています。外郭は潰れていました。内部保守室だけが、形を保っていた」

 

 その形が頭の中で自動的に組み上がっていく。組み上がってしまうのが、少し嫌だった。

 

「助けるための構造ではありません」

「……知ってる」

「そうでしょうね」

 

 全体を分けるための機構が、そのついでに俺を死から数センチだけ外した。それだけのことだ。

 

「誰が見つけた?」

「少年仮面ライダー隊です。風見さんが、中央区画の消えた方角を見ていました。立花さんが地図で捜索範囲を絞り、二日目から私たちと少年仮面ライダー隊で山へ入ったんです」

 

 その捜索中、隊員たちが林に散った金属片を見つけた。そこから、折れた木と土のえぐれた跡が一方向へ続いていたそうだ。それを追って、枝と土に半分埋まった区画を見つけた。

 

(子どもに山を探索させるなよ……時代って怖い)

 

 片桐は俺の内心には気付かず、立花さんと二人でハッチを開けた、と続けた。右腕は外さず、肩ごと固定して車で運んだとも。

 

「退路は二本用意して、合流地点も決めたのに」

 

 そこで初めて、片桐の口調が崩れた。

 

「まさかそのどれも使わず、空から拾うことになるとは思いませんでした」

 

 俺は天井から視線を戻した。

 

「……予定外だった」

「全員にとってそうです」

 

 片桐は、右肩の布の縁を指で追った。

 

「接続部に相当な負荷がかかっています。留め具が三つとも、布ごと持っていかれた」

 

 つけてもらった縫い目と留め具は、流石に保たなかったらしい。耐久試験もしてないから仕方ないんだが、ちょっと寂しい。

 

「通常手型は応急で調整しました。動きます。ただし、あなたが自分で動かすのは、まだ先です」

 

 そこまで言って、片桐は俺の顔を見る。

 

「守れますか」

「……努力する」

「今の返事は、記録しておきます」

 

(いちいち記録しなくていい!)

 

 扉がコンコン、と優しくノックされた。

 

***

 

 幸江さんは、俺の上体を起こさなかった。

 

 枕の下へ手を入れて頭だけ少し高くして、湯呑みの縁を唇へ当てる。口の中が乾いていて、最初の一口は喉を通るのに時間がかかった。

 

 三口ほど飲ませてから、幸江さんが言った。

 

「今日は、あの日から五日目です」

 

 五日。

 

(俺の知らないところで、五日も経ってる)

 

 順を追って説明された。

 

 二日間、行方が分からなかった。見つかってからは三日、この部屋にいた。ずっと眠り続けていたわけではないという。一度、目を開けたこともある。水を飲ませれば飲み込んだ。名前を呼ぶと指が動いた日もあった。

 

 ただし焦点は合わず、言葉は通じなかった。

 

「お名前をお呼びすると、指だけ動くんです。返事なのか、ただ動いただけなのか分からなくて。それが、いちばん困りました」

 

 俺には、その三日の記憶が一つもない。

 

 頭を打ち、落下と加速で全身へ衝撃を受けボロボロだったこと。目を開けてもすぐ眠り、水を含ませるたび、喉が動くのを確かめていたこと。今は起き上がらず、右腕のことは片桐に任せること。

 

 この三日、幸江さんが実際に見ていたものと、してきたことを並べているだけだ。

 

 枕の横に、畳んだ服が置かれていた。

 見覚えのない生地だった。柔らかい色で、厚みがある。どう見ても、戦うための服ではない。

 

「戻ってきたら、着てもらおうと思っていたんです」

 

 幸江さんが、袖の付け根のあたりを指でなぞった。

 

「前の服は、もう使えませんから」

 

 右肩から袖にかけて、まだ縫っていない印が糸でつけてある。開けるようにするつもりなのだ。

 

 ありがとうございます、と言おうとして、うまく声にならなかった。

 

 最後に入ってきたのは立花さんだった。

 

「ようやく目を覚ましたか」

 

 それだけ言って、寝台から二歩離れた場所で腕を組む。

 

 俺は、もう一度風見を見た。頬の削げ方も、目の下の影も、朝の光の中で見ると余計にはっきりする。

 

「ずいぶん、過酷な戦いだったようですね」

 

 立花さんが、鼻から短く息を吐いた。

 

「戦いだけでこんな顔になったんじゃない」

 

 ……え。

 

「お前さんが生きていると聞いても、目を覚まさんと聞いてな」

 

 立花さんの顎が、風見の座っている椅子を示した。

 

「全部片づけて戻ってきてから、志郎はそこを一歩も動いとらん」

 

 風見は否定しなかった。説明もしなかった。膝の間へ視線を落としたままでいる。

 

 俺は自分の右手を見た。さっきまで包まれていた通常手型が、布の上に置かれている。

 

 目が覚めたときに見たものの意味が、今になって書き換えられていく。

 

 謝罪は口にしなかった。きっとこの人は受け取らない。次はないと強く言い含められるだけだろう。

 それも悪くはないな、と少しだけ思って、すぐに振り払った。

 

「基地の奥へ逃げた怪人を、志郎が追った」

 

 立花さんが続けた。

 

「そこで今度こそ倒し、その先で本物の首領とも決着をつけた。デストロンの中枢は、もうない」

 

 言い方が短いのは、風見が詳しく話していないからだろう。

 

 俺は、その一つ一つを頭の中へ置いていった。ヨロイ元帥。首領。デストロンの壊滅。

 俺を処刑したがった相手も、俺を科学者として拾い上げた相手も、俺のいない場所で終わっていた。

 

(見届けます、って言ったんだけどな)

 

 約束を果たす機会は、眠っているあいだに通り過ぎてしまったらしい。

 

 それでも、安堵のほうが大きい。

 

 都市は無事だった。風見は戻ってきた。片桐も幸江さんも立花さんも生きている。俺も、なぜか生きている。

 

「……これで、終わったんですね」

「ああ」

 

 答えたのは、風見だった。

 

***

 

「休んでください」

 

 片桐が言った。命令に近い言い方だった。幸江さんが盆を持って立ち上がり、立花さんが扉の方へ顎をしゃくる。

 

「お前さんも何か食え。二人揃って寝込まれちゃ、寝床が足りん」

 

 風見はすぐには動かなかった。

 

「風見さん、休んでください」

 

 俺が言うと、風見が短く笑った。

 

「君に言われたくはない」

 

(それはそう)

 

 反論の材料が一つも出てこないのは、シャツの一件以来だ。

 

 枕の横の服が、視界の端にある。

 

 これまでなら、目を覚ました瞬間から頭が先に予定を組んでいた。次に出てくる怪人。次の事件。ロケットまでの残り日数。原作のどこを、どうずらすか。

 

 今は、何も浮かばない。

 

 見届けられなかったことは、これからも悔いとして残る。残ったままでいい。眠っていた自分を責めたところで五日は返ってこないし、誰も得をしない。

 

 空白を、埋めなくてもいい。

 

 自分の意思で、ゆっくりと目を閉じた。

 

***

 

 右肩の固定が外れて、通常手型で軽いものを持てるようになった頃。

 

 立花さんの店の奥の一室が、いつのまにか作業場になっていた。運動具の在庫棚の前に、板を渡した長い台が置いてある。

 

 台の上には、失ったものの図面と、壊れてなお残ったものが並んでいた。

 

 ヘルメットは内側の材が潰れ、強化服は右肩から裂けている。幸江さんの縫い目は途中で途切れ、外れた三つの留め具だけが小皿へ移されていた。ロープアームと回路計、携行ケースは、さそり谷に残したままだ。

 

 残ったのは通常手型だけで、それも片桐が調整し直した。

 

 俺は一度指を曲げて、伸ばす。細い工具を持って、置いた。紙の端を押さえた。湯呑みを掴んで、持ち上げて、割らずに戻した。

 湯呑みを戻すと、幸江さんが持ち上げてひびが増えていないか一周確かめた。

 

「合格です」

「……なら良かった」

 

(この腕の初仕事が、湯呑みを割らないことになるとは)

 

 戦うための手として直したのではない。飯を食い、字を書き、扉を開けるために直した。順番として、たぶんこれで合っている。

 

 左手で書いた紙を、片桐へ渡した。

 

 右肩の接続部にかかった負荷の見当。裂けた位置。留め具の並べ方の欠点。改修案。

 

「読みにくいです」

「左手で書いた」

「言い訳になっていません」

 

 そう言いながら、片桐は最後まで読んだ。それから鉛筆を取って、二か所に線を引き、余白へ自分の案を書き足した。

 

 この紙はもう、俺一人の設計ではない。

 

 ロープアームは、思ったより早くできた。図面が残っていたし、これまでの実測値もある。一度作ったものを、今度は少し安全に作り直しただけだ。

 

 巻き取りの衝撃を吸収する部品を挟み、右肩へ来る力の向きを変えた。緊急停止をつけた。動力が死んでも左手で外せるように、手動解除もつけた。まだ慣れないが、そのうち馴染むだろう。

 

 新しく作ったものとして、左手で操作する換装台がある。いざというとき、一人で腕を替えられる選択肢を作るためのものだ。

 

 そして換装台の横で、今いちばん場所を取っているのがネットアームだった。

 

 筒の中には試作の網が半分だけ巻かれ、張力調整用の歯車は蓋を外したまま露出している。巻き取り部を回すたび片側が少したるみ、まだ腕というより実験装置に近い。

 

 台の隅には、右肩を補強した強化服の図面と、幸江さんが縫い方を試している生地の切れ端と、衝撃吸収材を入れる新しいヘルメットの外殻が置いてある。

 

 どれも、まだ完成していない。

 

***

 

 風見が作業場へ来たのは、ネットアームの網を巻き直しているときだった。

 

 入口で足を止めて、台の上を端から端まで見ていく。並べられてひとつひとつに目を留め、しばらく黙っていた。

 

「戦うつもりか」

 

 ようやく発せられたのは、何を作っているのかを確かめる声だ。

 俺は手を止めて答える。

 

「戦いたくはありません」

 

(できれば一度も使わず、棚の上で埃をかぶっていてほしい。本当に)

 

「ですが、これは守るためです」

 

 言葉を選びながら続ける。

 

「デストロンは世界規模の組織でした。中枢と首領を失っても、人員も施設も兵器も、同じ日に全部消えたとは限りません」

 

 風見の眉が動いた。この人も、たぶん同じことを考えている。名簿も、支部の数も、俺のほうが知っている。

 

「必要になったときに手段がないと、困るので」

 

 網の端を台へ置いた。

 

「これは、殺すための腕ではありません。受け止めるか、押さえるかです」

 

 風見が台へ寄って、巻いた網の縁を指で持ち上げた。目の粗さを確かめている。

 

「人を受けるには、たわむ必要があります。怪人を押さえるには、たわんでは困る。同じ網では両方できません」

「切り替えるのか」

「そのつもりです。まだできていませんが」

 

 それから、少し言い方を探した。

 

「誰かに手を伸ばす必要があるなら、届く形にしておきたいんです」

 

 風見は、台の上ではなく俺を見た。

 

「なら、今度は自分が戻るための仕組みも入れておけ」

 

 ……そこか。

 

「そのための再設計です」

 

 強化服の図面の、右肩の補強を指した。換装台の緊急停止も、手動解除も見せた。

 

「試験は一人でやるな」

「最初から、そのつもりです」

 

 停止条件まで書いた試験表を、風見の前へ滑らせる。風見は端まで目を通し、換装台の横へ立った。

 

***

 

 試験は三日後に行った。

 

 俺が換装操作。片桐が接続部と右肩の監督。風見が転倒と落下の補助。幸江さんが強化服側の仮留めと、休憩の管理。立花さんは階下で店番だ。

 

 開始前に、停止条件と合図を一度ずつ声に出して確認した。片桐が試験表の各項目へ印をつけ、幸江さんがその横へ休憩の時刻を書き足した。

 

 誰も、それを大げさだとは言わなかった。

 

 左手で換装台のレバーを倒す。

 

 通常手型の固定が入り、接続が外れた。台の受けが手型を支えて、肩から離していく。

 

「外れました」

 

 片桐の声がした。

 

 ここまでは、初めて一人でできた。

 

 次に、ネットアームを台へ載せる。

 

 網の収納部があるぶん、前が重い。台が腕を持ち上げていく途中で、先端がわずかに下がった。保持点から軸がずれる。

 

 接続面は合った。最初の固定部も入った。

 

 最後の一つが、噛み合わない。

 

 左手でレバーを一段だけ押した。押せば入るかもしれない、という角度ではあった。ただし、その力の行き先は右肩の接続部だ。

 

「そこまでです」

 

 片桐が即座に言ったので、俺は迷わず手を止めた。以前なら、あと少しだと言って押し切っていたかもしれない。

 

「風見さん、先端を少し上げてください。二センチほどで足ります」

「分かった」

「片桐、接続面の下側を見てくれ。噛み合っていない側が分かるか」

「見えています。あと一度、右へ寄せてください」

 

 風見が腕の重さを引き受け、片桐が保持位置を直す。俺は左手でレバーを戻して、もう一度倒した。

 

 金属が奥で噛み合う音がした。

 

「入りました」

 

 幸江さんが、強化服の縁を仮に留めていく。右肩は痛くない。片桐が接続部へ指を当てて、熱を確かめた。

 

「異常なし。三分四十秒です」

 

 三分四十秒。あの夜、風見が二分二十六秒でやった作業より、一分以上かかっている。

 

 単独換装は、できなかった。

 

(単独換装の実験が、最終的に三人がかりになっている)

(まあ、実験とはそういうものだ。多分)

 

「何が『多分』ですか」

 

 片桐が手を止めずに言った。声には出していないはずだが、顔に出ていたらしい。

 

 左手で紙を引き寄せて、換装台の保持点を三センチ前へ出す、と書いた。網の張力の試験は、まだ一度もしていない。

 

 幸江さんが、そろそろ休憩を、と言いかけたところで、階下から声が飛んできた。

 

「網の発射試験は外でやれ!」

 

 二階まで、まっすぐ届く声だった。

 

「まだ発射するとは言っていません」

「するつもりではあるんだな」

 

 風見が横で言う。

 

 ……この人、こういうところがある。

 

 幸江さんが笑いをこらえそこねて、片桐が窓を開けた。表の通りから、自転車の音と、誰かが商品の名前を呼ぶ声が入ってくる。日はまだ高い。

 

 俺は、右腕にネットアームをつけたまま椅子へ座って、その音を聞いていた。

 

 台の上には色んなものが雑然と散らばっている。その中に怪人の名前はない。次の事件の日付もない。

 

 代わりに、自分たちで決めた次の予定がある。換装台の保持位置の修正。網の張力の試験。右肩の保護材の追加。ヘルメットの内装の調整。

 

 知っていた物語は、俺が眠っているあいだに最終回を迎えた。台の上に並んでいる予定は、どれもその先へ自分たちで書き足したものだ。この先に何が来るのかは、もう分からない。

 

 ここから先、俺は何話目を生きるんだろう。

 

 ――答えがないことに、初めてほっとした。

 




これにて全13話完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
感想・評価などいただけましたらとても嬉しいです。

※番外編を書こうと思っているのですが、候補が三つあるのでアンケートを設置しました。もし一編読むならどれが気になるでしょうか?
以下、それぞれの選択肢の概要になります。

① 主人公が目覚めるまでの五日間
十三話で主人公が目覚めるまでの五日間に、周りの人達が何をしていたかの話。

② 主人公が「仮面ライダー4号」を知る日
本人だけがまだ知らない、仮面ライダー4号という与えられた名前の話。

③ 十年後の主人公
本編から十年後、主人公が何をしているかの話。

よろしければアンケートに参加してくださると嬉しいです。

完結記念におまけを一編書こうと思っています。 もし一編だけ読むならどれが気になりますか?

  • 主人公が目覚めるまでの五日間
  • 主人公が「仮面ライダー4号」を知る日
  • 十年後の主人公
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