転生したら結城丈二(♀)だったのでプルトンロケットを回避したい!   作:青葱小口切り

15 / 15
番外編その2、仮面ライダー4号を知る日の話です。時間軸としては13話から一週間後くらいになります。


番外編2 その名前は聞いていません

 

 午後の作業場は、油と金属の匂いがした。

 

 板を渡した長い台の上に、換装台の受け金具と留めねじを並べていた。先日の試験で、腕を載せる台の保持位置が足りていないことが分かっている。持ち上げる途中で先端がわずかに下がって、軸がずれる。受けを三センチ前へ出せば、たぶん噛み合う。

 

 通常手型で紙の端を押さえて、左手で寸法を書き込んだ。字は相変わらず読みにくい。片桐に見せれば、また言い訳になっていませんと返ってくるだろう。

 

 この一週間で進んだのは、そのくらいだ。

 

 ネットアームの網は、巻き取るたびに片側がたるむ。張力の試験はまだ一度もしていない。単独換装の再試験も、台を直してからだ。

 

(一週間じゃ形にならないんだよな。というか、なった方が怖い)

 

 階下で電話が二、三度鳴ったところで止まった。立花さんが出たのだ。受話器の向こうと短くやり取りする声が、床板越しにくぐもって聞こえてくる。

 

 その声が、急に大きくなった。

 

「志郎、海外からだぞ!」

 

 風見が工具箱の蓋を閉じる。

 

「本郷だ!」

 

 今度は俺の手が止まった。

 

(本郷猛!?)

 

 風見が作業場を出ていく。階段を下りる音が遠ざかって、下で受話器を受け取る気配がした。

 

 俺は紙へ視線を戻す。

 

 戻したのだが、寸法線が同じ位置に二本引かれていた。定規を当て直して、間違えた方を消す。それからさっき締めたばかりのねじにドライバーを当てて、すでに締まっていることに気付いて手を止めた。

 

(落ち着け。国際電話は高い。そのうち終わる)

 

 盗み聞きに行く気はなかった。行ったところで階段の下は店だ。客に見つかる。

 

 電話は、思ったより短かった。

 

 板の鳴る音が戻ってくる。俺は顔を上げ、なるべく落ち着いて見えるように背筋を伸ばした。

 

「本郷先輩から連絡があった」

 

***

 

 本郷猛は、まだ国外にいるという。

 

 風見の説明は短かった。日本のデストロンが壊滅したことを向こうで知ったらしい。それで、風見と立花さんの無事を確かめるために電話をかけてきた。

 

(無事の確認が電話一本で済むのか……)

 

 近いうちに一度、日本へ戻る予定があるそうだ。日取りが決まれば、また連絡が来る。

 

「会わせたい人がいる、と伝えた」

「……そうですか」

 

 少なくとも、自分のことだとは思わなかった。少年仮面ライダー隊の誰かか、店に出入りしている若い子たちの誰かだろう。

 

「本郷先輩は、了承している」

「名前や経歴は、話されたんですか」

「話していない」

「先に伝えておいた方がよかったのでは」

「国際電話だ」

 

 それもそうだ。俺は台の上の部品を並べ直した。

 

「必要なら、デストロンの施設と技術について資料をまとめます。日本支部の残りの拠点は、たぶん私の方が把握しています」

「資料だけじゃない。君も来い」

「私も、ですか」

 

 並べ直しかけた部品を一つ持ったまま、少し考える。

 

(元デストロンの科学者として? それとも技術協力者? ……風見さんの手術を勝手にやった人? いやこれは絶対に外聞が悪い)

 

 どう説明されるにせよ、まあ、支援要員あたりだろう。それが一番実態に合っている。

 

「仮面ライダー4号として、紹介したい」

 

 一瞬、息が詰まった。

 

(……俺、仮面ライダー4号だったの!?)

 

***

 

 今度こそ作業を続けるのを諦めた。工具を台へ置く音が思ったより大きく鳴る。

 

「待ってください」

「なんだ」

「今、仮面ライダー4号と言いましたか」

「ああ」

 

 混乱している時ほど、この口は事務的になる。順番に確かめていくしかない。

 

「仮面ライダー4号というのは、誰のことです」

「君だ」

「いつ決まりました」

「プルトンロケットから人を守った時だ」

「誰が決めたんです」

「俺だ」

 

 息を吸った。

 

「どこで、誰に言ったんですか」

「発射台で、ヨロイ元帥に」

 

(立会人が敵だけ! しかもそいつ、もう死んでる!)

 

 次々に浮かんだ言葉を全部飲み込んだ。念のため、確認しておく。

 

「その場に、他に誰かいましたか」

「いない」

「その宣言を聞いたのは、ヨロイ元帥だけなんですね」

「そうだ」

 

 俺は世界で二人目にその話を知った人間ということになる。当事者なのに。

 

 ここしばらく、俺は網の張力に頭を悩ませていた。知らないところで肩書きが一つ増えていたとは思わなかった。

 

「なぜ、今まで私に知らせなかったんです」

 

 風見はすぐに答えなかった。忘れていた、という顔ではない。

 

「君はまだ、起き上がったばかりだった」

 

 二日間見つからず、三日眠って、目を覚ましてからもなかなか動けなかった。その間ずっと、この人はこの話を持ったまま椅子に座っていたわけだ。

 

 台の上の道具へ一度目を落として、それに、と風見が続ける。

 

「君に名乗らせるために言ったんじゃない」

「では、何のためにです」

 

 少し間があった。

 

「……あいつに、言い返すためだ」

 

 作業場がしん、と静かになる。俺は誤魔化すように紙の端を指で押さえ直した。

 

「……本人へ知らせずに決めていい話では、ないでしょう」

「四号と呼ばれるのが嫌か?」

 

 風見の問いに、すぐには答えられなかった。嫌か嫌でないかの前に、先に言っておかなければならないことがある。

 

「ライダーマンは、私が自分で引き受けた名前です」

 

 そこは取り消さない。

 

「あの夜も、そのつもりで行きました。これから必要になれば、同じように動くつもりです」

 

 台の上の、まだ腕になっていない筒を見る。あれはそのために作っている。

 

「ですが、仮面ライダーというのは……私の中では、それとは違います」

 

 仮面ライダー。

 

 俺にとってそれは、ヒーローの名前だ。

 

 配信の画面の向こうで、何度でも立ち上がっていた人たち。改造人間となり、多くを奪われて、それでも人間のために戦うことを選んだ人たち。どの回も結末を知っていたのに、立ち上がる場面では毎回、息を詰めて見ていた。

 

 俺は菓子を食べながらそれを眺めて、次回が待ち遠しいと言っていた側の人間だ。

 

 もちろんそんなこと、口には出せない。

 

「私は、その名前を自分から名乗れません」

 

 それだけ言うのが精一杯だ。

 

 風見は否定しなかった。腕を組んだまま、俺の言葉が終わるのを待っている。それが分かったので、続ける。

 

「私がしたのは、設計した人間としての後始末でしかありません。それに……最後は、泣き言ばかり並べました」

 

 そこで言葉を切った。

 

 怖かった。逃げたかった。死にたくなかった。全部そのとおりだ。

 ただ、否定を並べ続けるのも違う。レバーを引いたことを恥じてはいない。恥ずかしいのは、その最中の自分の声の方だ。

 

 紙を押さえていた通常手型の指先に、いつの間にか力が入っていた。薄い紙の端が小さく折れている。

 

 言い終えてから、もう一つ引っかかっていたものが浮いてきた。

 

 あの時、この人は俺が死んだと思っていたはずだ。四つの炎を見て、落ちた先も分からず、二日のあいだ見つからなかった。

 

 だとしたら。

 

「あの時、私は死んだと思われていたのでしょう」

 

 風見の眉が動いた。

 

「だから、せめて――」

「違う」

 

 遮られたが、止まる気はなかった。

 

「私はあの時、怖くて――」

「知っている」

 

 その言葉を聞いて、言葉に詰まった。風見が台のこちら側へ一歩出る。

 

「全部、聞こえていた」

 

(……あのみっともなさを改めて確認されるくらいなら、通信記録ごと爆発していてほしかった!)

 

 そう思ったのは一瞬だった。風見の顔が、慰めるためのものではなかったからだ。

 

「怖くなかったから四号と呼んだんじゃない」

 

 風見は俺を見たまま言った。

 

「怖がっていたことも、逃げたがっていたことも知っている。それでも君は最後まで手を止めなかった」

 

 喉の奥が狭くなる。返事をしようとして、うまく息ができない。

 

 通話器を引き出したのは、落下地点の確認を頼むためだった。そこへ俺は、必要のないことまで流した。

 覚えている。だからこの一週間、自分からは一度もその話に触れなかった。

 

「……死んだと思ったから、贈った名前ではないんですか?」

 

 指先が紙の端をわずかに折った。そこだけは、言葉にして否定してもらわなければ受け取れない。

 

「生きて戻っていても、同じことを言った」

 

 ……そうか。

 

 追悼では、なかったのか。死者なら、名前だけをきれいに残せる。生きて戻った俺は、この先も失敗するし、また怖がる。それでも同じ名前を使うと言っている。

 

 その方が、ずっと重かった。

 

「それでも私は、あなた方と同じでは――」

「俺も、本郷先輩じゃない」

 

 あっさり言われた。

 

「君が俺と同じである必要もない。君は、君のやり方で人を守った。――俺はそれを見て、仮面ライダー4号だと言ったんだ」

 

 風見はそこで言葉を切った。少し置いてから、続ける。

 

「それでも嫌なら、本郷先輩にはそう紹介しない。君が使う名前だ。そこは君が決めろ」

 

 風見は腕を解き、台の脇へ二歩退いた。視線で催促することもなく、俺と作りかけのネットアームのあいだを空ける。

 

 俺は台の上を見た。

 

 通常手型。今、紙の端を押さえている手。

 換装台。受け金具は、まだ仮留めのままだ。

 ネットアーム。網の片側だけが、不格好に垂れている。

 設計紙。俺の字の横を、片桐の字が同じ線の先まで延ばしている。

 

 どれも、俺一人のものではない。どれも、まだ完成していない。

 

 ライダーマンは、自分で選んだ。だから失敗しても俺一人の見込み違いで済む。

 仮面ライダー4号を受け取るなら、あの日に風見が見たものまで一緒に受け取ることになる。

 

 同じようには、扱えない。

 

 本郷猛の前に立って自分から名乗るところを想像してみる。

 

『初めまして、仮面ライダー4号です』

 

(……無理だって! 仮面ライダー1号へ4号として挨拶するって、どういう状況だよ)

(元デストロンの研究者です、右腕は自作で、残りは生身です。……ないな)

 

 想像だけで頭を抱えたくなる。それでも、嫌かと訊かれたなら答えはは別だった。

 通常手型の指を、一度握ってから開く。

 

「自分からそう名乗れるかは、まだ分かりません」

 

 少しだけ、間を置いた。

 

「……でも、嫌ではありません」

「そうか」

 

 風見はそれだけ言って、台のこちら側へ戻ってくる。

 

「本郷先輩の帰国日が決まったら、君にも知らせる」

「……はい」

「その時は、仮面ライダー4号として紹介する」

 

 四号、という音はまだ落ち着かない。それでも、今度は訂正しなかった。

 

「資料も用意します」

「好きにしろ」

 

(そこは譲らない。俺は科学者だ)

 

 工具を持ち直したところで、念のため、言っておくべきことを思い出した。

 

「ただし、一つだけ」

「なんだ」

「今後、私の呼び名や立場を決めるときは、先に伝えてください」

 

 風見が俺を見た。ほんの少し咎めるような視線と、からかいの色が乗っている。

 

「戻れないことを黙ってロケットへ乗った君が、それを言うのか?」

 

(ぐうの音も出ない。……いや、出す。ここで黙ったら全面的にこちらが悪いことになる)

 

「それとこれとは別です」

「どこがだ」

「私が黙ったのは、私の命についてです。あなたが黙ったのは、私の名前についてです」

「どちらも君のものだろう」

 

 言い返そうとして、口が止まった。

 

 目を覚ました朝に、この人が最初に言ったことを思い出したからだ。

 

 ――君はまた、勝手に一人で決める。

 

 あのときの声まで一緒に戻ってきた。 

 風見は腕を組んだまま、こちらの返事を待っている。

 先に息が漏れた。肩から力が抜けて、口元が自然と緩む。

 

「風見さんだって、大概勝手に決めるじゃないですか」




次は8月25日に主人公が意識不明だった五日間の話を投稿します。その後十年後のライダーマンの話を一本投稿する予定です。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:3694/評価:9.03/連載:23話/更新日時:2026年08月21日(金) 18:00 小説情報

ジョジョ四部アアアアァァァーーーーwwwwwwwwwwww(作者:K.A.Raage)(原作:ジョジョの奇妙な冒険)

ジョジョ四部に足立レイとして転生した主人公が原作に関わったり関わらなかったり色々な物を唐揚げにして食べたりする話。▼「スタンドあるヤッター!!◯ねぇぇぇぇァァァァァ!!……」


総合評価:2072/評価:8.63/短編:7話/更新日時:2026年08月18日(火) 16:30 小説情報

日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです(作者:ken4005)(原作:MARVEL)

▼クウガとアベンジャーズのクロスです。▼マーベルは完全ににわかです。▼原作を Avengers から MARVEL に変えました。


総合評価:6779/評価:8.24/短編:33話/更新日時:2026年08月22日(土) 00:08 小説情報

その菊、手折られず(作者:もちがゆ)(原作:BLEACH)

もしも、少女乱菊さんがヨン様の部下に魂魄を奪われなかったら……という妄想を元に、原作知識まで持たせて大暴れしてもらい、遂には卍解に至……ったらいいなぁという内容。▼憑依と言うか人格混ざっちゃって本来の乱菊さんとはかけ離れてます。


総合評価:1808/評価:8.54/連載:22話/更新日時:2026年08月11日(火) 18:59 小説情報

頭文字C(作者:アサルトゲーマー)(原作:頭文字D)

もし秋名に頭のネジ飛んだハチロク乗りと、頭のおかしい軽トラ乗りが居た場合


総合評価:1045/評価:8.77/短編:4話/更新日時:2026年08月20日(木) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>