ニンジャが あらわれた! ▶︎しょくむしつもん むし 作:ケツアゴ
もう考えるのは止めよう。青は鏡の破片が散乱する階段を登りながら思った。動く人体模型と吸血鬼と元忍者で行く夜の小学校七不思議巡りツアーって何処のギャグ漫画だと。
「現実逃避は駄目だよ? ちゃんと始末書に書く虚偽の事実を考えておかないと」
「分かってるわよ!」
こんな事態になった以上、明日は小学校は大きな騒ぎになるだろう。だって鏡が割れているのだから。
警察も来て大騒ぎ、自分も駆り出される可能性だってある。
その時に私はどんな顔をして犯人について語れば良いの? 鏡が妖怪で、吸血鬼を映したから割れましたって正直に言う? 私だったら怒鳴って叱り付ける。
それに私の都合で入り込んだ結果起きた事態を知らん振りとか出来るわけないじゃない。
「不審者の侵入を見たから単独で追い掛けて、結果逃げられた。ちゃんとそうやって報告するわよ」
「つまり好き勝手暴れても良いって事だね?」
「貴女が犯人として捕まってみる? 取調室でカツ丼なんて出さないけれど」
「僕は焼き肉丼のニンニク抜きが好きかな。焼き方は当然レアで」
……こんなのでも私が連れて来た以上は責任を持つのが規律。だから極力被害を抑えつつ対応して行かなくちゃ。
まあ、報告書の方は課長に相談すれば良いわよね? あの人だって同じ里の忍者だし、真相を話せる相手だもの。
「そろそろ音楽室の時間ですね」
田辺さんが音楽室の方向に眼球を動かす。そう、七不思議の中には特定の時間だけ現れるのも存在するから、それを考えて回らなくちゃいけないわ。
音楽室に向かえば聞こえて来たのは エリーゼの為に だった。扉を開けて先ず目に入ったのはピアノの前に座って演奏するモーツァルト。肖像画の彼の部分は白く塗り潰されたみたいな状態。
さて、どう対応するのかしら……。
有名な怪談の一つ相手に私は息を呑んで助っ人達の動向を見守った。
「あのさぁ、ちょっと仕事がいい加減じゃないのかな? 何でモーツァルトなのに曲はエリーゼの為に? ふざけてるの?」
ガンっ! と椅子を蹴る音が響く。ルルさんと田辺さんがモーツァルトを挟んで顔を間近に寄せて問い詰めていた。
「そりゃ上手だよ? ピアノの練習頑張ってねー。で? その程度で世界的音楽家気取り? へー。ほー。ふーん」
「あれ? 文句ある? 自分が本物のモーツァルトだって言いたいの? なら【俺の尻を舐めろ】を今すぐ演奏してみてよ。ほ・ん・も・の・の・モーツァルトさん?」
違うわね。これは問い詰めてるんじゃなくって追い詰めているんだわ。此処に来るまでに聞いた話じゃ大抵は動物霊が正体。
それが動く人体模型と吸血鬼に左右から挟まれてネチネチと嫌味を言われ、気が付けば猫の姿になっていた。
青白い光に包まれているから動物霊で間違い無さそうだけれど、耳を垂れさせ前脚で頭を抱えてプルプル震える姿に私はどうすべきか迷ってしまう。
いや、悪さをしていたのは間違い無いんだけれど、モーツァルトに化けて演奏していただけだし……。
「あれ? 泣いてる? 泣いちゃってる? 駄目だよー? ほら、いい加減な感じで演じるんじゃなくって、ちゃんとモーツァルトを演じなきゃさ」
「モーツァルトのちょっといい所見てみたーい。ほら、演奏してって」
「いい加減にしなさい! 此処まで行くとただのイジメじゃない!」
二人に詰問されて震えながら潤んだ目を私に向ける動物霊、下手すれば子猫程度を二人で追い詰めるなんて見過ごせなかった私は思わず庇うようにして抱える。
「はいはーい。ちょっと調子に乗っちゃいましたー」
「もう苛めないから抱っこしてて下さいね」
「貴方達、あんなに攻撃的になるだなんてモーツァルトのファンか何か?」
私にしがみ付く子猫を抱き締めつつ、力を借りてる相手への態度じゃないと気まずさから話と目を逸らして問い掛けた。
「彼との会話は面白かったけれど、曲の方は別に興味無いかな」
「レコードで出てる曲全部揃える程度には好きです」
まあ、納得はしたんだけれど……ルルさんって何歳?
体育館に響く
床を擦る靴の音、血液が飛び散る音、頭がゴールネットを通る男。首無しのバスケプレイヤーは自分の頭でドリブルとシュートを繰り返す。
この悪霊はただバスケがしたいだけだ。だから訪れる者が居ればやや強引にゲームに誘い、その際のボールは自分が扱い慣れていない相手の物。
首無しバスケ選手に見つかった者の頭を使ってバスケをするのだ。そこに悪意は無い。そこには被害があるだけ。
「!」
扉を開いて此方に駆けて来る足音。室内シューズではなく素足相手だが、バスケの相手に区別は無いと向かい合う。
此処は自分が使い慣れた場所だから、
自分の
軽快な動きでドリブルを行い、追い付かれる事なく豪快なダンクシュート。
漸く動きを止めた視界で相手の姿を捉えれば人体模型だ。
同じく化け物、悲鳴をあげる事はしないが驚きはする中で人体模型が今度は自分の頭を外して首無しバスケ選手の頭をライン外に放ると指をクイクイと動かす。今度はお前の番だという意味だと察した首無しバスケ選手はドリブルしながら向かって来る靭帯模型へと迫り、背後から胸を貫かれた。
細く白い腕と赤く鋭い爪、ライン外に転がった頭が見た自分の体を背後から貫いて胸から出た物がそれ。
そのまま引き抜かれると体は倒れ、頭部と共に塵になって消え去った。
「酔った。気持ち悪い」
「そりゃ頭で激しくドリブルしてればそうなるよ」
頭を体に嵌め込んだ途端に口元を押さえる田辺に人体模型が酔うのかとの疑問が浮かんだ青だったが、そもそも動いて喋っている時点で今更な話だったと考えるのを止めた。
「今更だけれど私って何の為に来たのかしら……」
正直言ってツッコミしかしていない私の居る意味が分からなくなって来た。
首無しバスケ選手vs動く人体模型の頭部バスケ対決からのルルさんによる不意打ち。
本当に来た意味有る?
「君みたいに特異点の力を持っている子はそれなりにいるんだけれど、精々が存在を認識出来る程度で事件に巻き込まれやすいって事も無い。ただ……そんな存在を介してでしか僕達は普通の世界に関与出来ないのさ」
「じゃないと世界にはもっと宇宙人や妖怪が表立って関与していますよ」
つまり今回の事件も特異点の力のに影響で巻き込まれたし、他の人も巻き込む可能性があるのね……。
「特異点の力って捨てられるかしら?」
「それが出来るならあの喫茶店には吸血鬼も宇宙人も妖怪もやって来ないよ? 現実を受け入れて立ち向かう事だね」
現実……宇宙人やら吸血鬼や動く人体模型が?
どうしよう。全然現実味が無いのだけれど……。
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