ニンジャが あらわれた! ▶︎しょくむしつもん むし 作:ケツアゴ
「うおっ!? 老けたな、小僧!?」
「ほっほっほっ! 桃姫様とは種族は違いますからな。今は里長を任されております」
「あの迷子になって泣いていた小僧がか……」
韋駄天一族が住まう場所まで足を運の、連絡していた知り合いに会った私だが予想以上に老耄ていた。
背はデカいままだが腰は曲がってシワだらけ、分厚い眉毛が垂れ下がって目元も隠れている。
そうか、此奴等も其処迄長生きする種族では無かったかと思いつつ、事件について話せば出して来たのは人相書き。
「働き者の二人でしたからな。最近では写真など撮る暇も無く働き詰めでしたのが……どうもお役目を投げ出してしまったらしく」
「それが悪党退治の真似事か。人間の娯楽に影響され過ぎではないのか?」
出された温い茶を啜りながら人相書きを懐にしまう。この種族は妙に真面目な上に寺院やらを守ってるせいで人間に接しているからな。
何よりも走る事や速さには誇りを持っている。それが足を奪い車を破壊しつつも命だけは助けると云う事は……。
「独善的ではあるが合理的でも有るな。ある意味、家族よりも犠牲者を慮っての犯行か」
「ですな。……だが、このままでは堕ちてしまいます」
だろうな、と言いつつ茶菓子を口にする。美味っ!
「おい、お前の分も寄越せ」
「……お代わりを持って来させますよ」
そうか、多めの方が良いぞ!
「高っ!? どうして靴程度が此処までするのだ!? ホームセンターに行ったら千円程度のが売っているだろう!?」
靴屋に並ぶ最新式のスニーカー。材料も設計も企業が時間と人手とお金を掛けていると説明しても通じない。
まあいい探偵さんは草履を履いて居るけれど、多分メーカーの物ではないでしょうから靴の値段に納得がいかないのでしょうけれど……。
「それでいい加減にして説明してくれるかしら? 何で最新式スニーカーが韋駄天を誘き寄せるのかしら?」
「真夏のアスファルトは熱いからな。経験豊富な韋駄天は足の裏の皮が頑丈になって感じないが、若造連中は違う。火傷する者が多いそうだ」
「アスファルトで火傷……え? 神仏なのよね?」
確かに地球温暖化の影響で真夏の気温は物凄いわよ。干涸びたミミズとか何度も見ているし。
でも、天部の一員が経験の浅い若者とはいえアスファルトで火傷….…。
ま、まあ、凄く速いから摩擦だって凄いのよね。そう思いましょう……。
「それで時代の変化も考えて靴を履く事を選ぶ韋駄天も増えたのだが、収入の方がな。韋駄天を祀る神社に捧げられた祈りから幾らかが支給されるが……良い靴は高いから」
「世知辛いわね」
物価上昇の波が神仏にまで影響を与えていたなんて。
私も先日の一件、後から課長に協力者への飲食提供は経費で落ちるが、事情が事情なので一部のみ所で言われてしまった。その飲食費さえ一部のレシートを捨ててしまったせいで……。
「あれ? 貴女はどうやってお金を稼いでいるの? 桃姫を祀る神社なんて無いでしょう?」
「オオカムヅミノミコト様から月々小遣いが支給されるからな。小僧も偶に店を手伝ったりすると小遣いを……はっ!? 今のは忘れろ!?」
「ふふふ、そうね。小学生の頃から知っている相手からお小遣いを貰っている桃姫とか、絵本が好きだった私としても解釈違い……ではない気もするわ」
こう、お酒とかお金とかで失敗するエピソードが有るのよね、この神徒。
ついつい駄目な子を見る目になっていたのに気が付いたのか、探偵さんは次の準備だと言って進んで行く。
ほんと、こうやって見ると普通の子供にしか見えないのよね。
「韋駄天へと奉る。この靴を受け取り己が役目を果たしたまえ」
シャンシャンと鈴の音が響く。巫女服に合わせて鈴を付けた棒の様な物を振って用意した高級スニーカーを祀っている。
靴を使って誘き寄せるにしても、ただ置いておくだけではいけない。相手は神仏、誰かの物を横から奪いはせず、捧げられた物を受け取るのみ。
あれを見ていたら本当に神徒だって分かるわね。
普段のポンコツな姿は何処かへ行き、神職のそれを思わせる厳かな空気を纏った探偵さんの動きが漸く終わった。
小さな祭壇の上にスニーカーを置くと、物陰に置いていた容器から大量の液体をぶち撒ける。
これは……油? 容器には食用油の表示 えっと、まさか……。
「どれだけ速かろうが転んでしまえば亀同然! 後は私がゆっくりじっくり料理してやる!」
「随分とふざけた作戦ね……」
さっきまでの姿は何処に行ったのかしら? 今此処にはポンコツな作戦でドヤ顔を晒すコスプレ巫女しかいないわよね?
「それとこれは領収書だ。一旦小僧から金を借りて買って来た。ちゃんと払ってくれるのだろうな?」
結構な金額が書かれた領収書。スニーカーも結構財布に痛かったし、これは暫くの間は焼肉が出来そうに無いわね。
どうにか全部を経費で遠出ないかしら……。
「それでも後は韋駄天達が罠に掛かるのを隠れて待つだけね。探偵さん、私も通常の職務が有るから見張っていられないから…
「うおっ!?」
ツルンと転んでスッテンコロリン、油でズルッと転んで後頭部をぶつけたのは人相書きにあった矢彦さん。
起きあがろうと事件に手を付けるけれど、そこにも油があるからツルツル滑って起き上がれない。
其処に飛天丸を構えた探偵さんが一気に迫る。
「間抜けめ! 私が直ぐに引導を、きゃん!?」
そして油に足を踏み入れた途端に滑って転んだ顔面からビタンと叩き付けられた。
その間抜けな光景に暫く沈黙が続く中、探偵さんは離してしまった飛天丸を杖にして立ち上がった。
「はんっ! 余裕過ぎて油断してしまったぞ。だが、お遊びは此処ま、で!?」
手に付いていた油で滑って再び転倒、顔面から地面にぶつかったところで矢彦さんが笑い声を上げる。
「わはははは! こんな物で本当に俺を、韋駄天の矢彦様を止められると思ったか! こんなところで無様をさらしていたら一族の名前が泣くんだよ!」
その宣言とともに体のバネだけで立ち上がって矢彦さんは再び転んで顔面を強打した。
「……」
不意に、探偵さんの手元から飛天丸が隼の姿で飛び上がると先ず探偵さんの頭を乱暴に掴んで飛び上がると勢いをつけてベシっと地面に投げつける。
続いて矢彦さんの右足を掴むと飛び上がり、こっちもまた地面に乱暴に放り投げた。
「とりあえず立ち上がろうとしないで良いから話を聞いて。全然話が進まないから。それで……鎌鼬の子供を誘拐したのは貴方かしら?」
「ああ、俺が保護したぞ。あのままだったら親に捨てられて死んでいたからな」
問いに対しての返答に私は混乱をきたした。