ニンジャが あらわれた! ▶︎しょくむしつもん むし 作:ケツアゴ
韋駄天の仕事は寺院と仏法の守護である天部。俺は薬師如来様を祀ってる寺の担当だからか病人やその家族を多く見て来た。
そんな中で気になったのは元気に走り回る足を持ってるってのに悪い事に使おうって連中だ。
韋駄天にとって速く走る事は誇りだが、それとは別で気に入らなかった。
だって世の中には満足に歩けない人も居るんだぜ? それに悪い事してりゃ悪行が善行を上回って死後の裁判で不利になる。
少し位強引な手を使っても止めるべきじゃないのかって薬師如来様に相談したんだが、己の内の良心によって止まらなければ意味が有りませんって嗜められるだけ。
俺はそれに納得が行かずに同じ考えの奴と一緒に抜け出した。善因善果悪因悪果。罪には罰を……。
「そんな風に思ってたんだが、いざ行動に移るって時にあの子を見付けたんだよ。親が気が付いていないだけで病気だった鎌鼬の子供にな」
韋駄天による連続襲撃事件の動悸、それは神仏の視点だからこその物で、人間社会の倫理とは大きく逸脱した極端で、それでも確かに人間の事を思っての物ではあった。
罪を重ねて地獄に落ちる可能性を減らす為。成る程、大怪我をして過ごす人生よりも地獄で受ける責苦のじかんの方がずっと長いから、大怪我した方がマシ。
でも、私はそれを認められない。罪は法の下に裁かれ、そして更生の機会が与えられるべき。
被害者の心理とか問題は多いけれど、それでも私は人の世界の罪は人の世界で裁かれるべきだと思うわ。
「弥彦さん、それで病気の子を保護したというのは分かったけれど、親御さんも心配しているの。どうして事情を話さなかったのか教えてくれるかしら?」
「そりゃ病気の子供なんて捨てられるからに決まってるだろ」
「え? 捨てられるって、それは一体……」
「野生の掟だ。病弱な子供が親から放置されるなんて獣では珍しくもないだろうに。それと矢彦、少し焦ったな。もう親の元には戻れんぞ、その子供は」
子供を探して欲しいと真摯に頼んで来た夫婦の姿を見た私には、病気だからと子供を捨てる姿が思い浮かばない。でも。矢彦さんが語る時の悲しそうな顔が嘘ではないと語っている風にも見えて、どう判断すべきか迷う中で掛けられた探偵さんの声。
「……だよなあ。親から要らないって言われるのが可哀想だからって治療してたんだが、俺みたいな神仏の匂いが付いちまったら受け入れて貰えないって分かるだろうに、とんでもない事をしちまったよ」
神仏の匂いが染み付いた子供が捨てられる、そんな事が有るのかと口にする前に私は思い出す。
相談を受けた際に探偵さんや思円さんが何処か複雑そうな顔をしていた事を。
座り込んで頭を抱える矢彦さんの姿からは本当に子供を助けたいって善意だけで動いたのが分かる。それが何を引き起こしてしまったのか深く後悔している姿も。
そういえば巣から落ちたツバメの子供を拾って戻しても人間の匂いがついているせいで巣から落とされるって話を聞いた事が有るわね、
「未だ諦めるのは早いわ。ちゃんと両親に話をしてみて、それで子供を拒絶したなら今後を考えましょう。それよりも犯罪者への連続襲撃事件についてだけれど……」
「それなら俺は関わってねーぞ? まさか薬師如来様の所に連れて行く訳にも行かねえし、ずっと看病してたしな」
嘘は……多分言っていない。警官のって言えたら良いんだけれど、忍者としての修行で身に付けた嘘を見抜く技術。も
少なくとも天部なんてい普段から嘘をつく機会なんて無いであろう相手なら見抜けないはずがない。
「それじゃあ、犯人はもう一人、矢太郎さんの方ね……」
「呼んだか? ヒーローを!」
その辺の布で作ったマントに仮面を付けた人相書き通りの人物。少し高い所に立って、足には忘れていて放置していたスニーカー。
それを片足を上げて誇り高そうに掲げていたけれど、私が気になったのはヒーローという言葉。
ええ、地獄に落ちにくくする為に大怪我を負わせるって動機には人間じゃないって事を考慮して僅かながら理解を示すわ。
でも、ヒーローを名乗るのは、自分が絶対的に正しくって被害者を絶対的な悪とでも言うのは許せないわ。
二度と歩けず家族も介助を背負わされて、それで本当に助かったって言える? それよりはちゃんとした罰を受けてこそ更生が出来るんじゃないの?
気に入らなかったのは私だけじゃなく探偵さんも。木刀を首に当てて傾けながらも矢太郎さんを睨んでいた。
「随分とふざけた事を言うな、若造。ヒーローなんて物はこの私……」
「アンタ桃姫か!? 尊敬してるぜ、スーパーヒーロー!」
「それ程でも……あるな!!」
何をやってんのよ、ポンコツ探偵! そんな言葉に調子に乗ってどうするのよ!?
「感謝する 市民の皆 完全懲悪正義の味方側! みんなが大好きなヒーローの俺様の登場だ! 応援ありがとう。この靴大切にするぜ」
矢太郎さんはそれだけ言うとクラウチングポーズを取る。
「このまま逃さないわよ!」
逃げられたら次も犠牲者が出てしまう。此処は高速道路じゃないし止められたら言い訳なんて出来ないけれど、知った事じゃ無いわ!
用意していたポルシェに乗り込んで一瞬だけ通話を開始する。直ぐに切れたけれど問題は無い
鍵を回して一気にアクセルを踏み込むけれど、車の加速よりも相手の加速の方が上、一瞬で遥か遠くに立って行くけれど私が諦めずに更に加速した時、助手席から声が掛かった。
「アンタは警官として俺を捕まえに来たのか。立派だな! 凄い勇気だ!」
身失ったと思った一瞬で私の隣に座った矢太郎さんはシートベルトを装着しながら私を眺めるけれど、その表情から言葉は本心からに見えた。
私を攻撃する気はなるらしいわね。
「私は貴方をヒーローと認めない。更生の機会も家族の負担も考えずに暴力に及び、市民に恐怖を与えたヴィラン、悪役よ」
「結構結構! 正義の形は一つじゃねえ。俺みたいなのに啖呵切れる警察官がいたら、民間人は安心だろうな。じゃあ頑張れよ!」
そう言って矢太郎さんは一瞬で消えた。
厄介だわ。あれは本当に自分に酔ってヒーローになりきっているタイプの犯人だわ。
「これはあれだな 嫌われ者を人気者がたたきのめすのを賞賛してきた文化だな 時代劇に特撮ヒーローアクション映画 そして悪党大事する絵。あれは人間は、それが当たり前だと思ってしまってんだ」
こんな時に人間の考察をするなんて。
矢彦さんに肩車された状態でポルシェと並んだ探偵さんはそんな風に語るけれど、そんなもので、犯罪を起こされたら黙っていられない。
「矢彦さん、その探偵さを捨てれば追いつけるかしら?」
「俺も今頃になって極端な考えだから止めたいが彼奴と俺じゃ陸上部のエースと補欠位の差があるんだよ。だが、大丈夫だ」
「私が取っておきを用意してある。桃太郎のきびだんごなんぞ比べ物にならない品だぞ!」
そう言って探偵さんは桃を一個掲げて、手に付着した油で滑ったのか、桃は手から離れて、遥か広報へと消えていった。
「切り札が失われたわね、ポンコツ探偵さん」
あぁ、こんなポンコツに頼りきりにならずに、私も切り札を用意しといて良かったわ。
」
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