ニンジャが あらわれた! ▶︎しょくむしつもん むし 作:ケツアゴ
まさか桃姫が本当に居たなんてね……。
自分が忍者の里出身だったのを思い出し、都市伝説の怪異と遭遇したりして、ここ数日で私の常識なんてぶち壊された。
喫茶店で聞いた金星地下帝国ってキーワードは忘れる事にして、もう私は日常に戻る。
何気なく寄った古本屋の絵本コーナーで見付けたのは日本各地に残る桃姫の伝承を元にした絵本。
ちょっとお間抜けで直ぐ調子に乗っちゃうポンコツ具合はこの頃からなのねと飼い求め、あの喫茶店へと足を運ぶ事にした。
多分二度と合う事はないから事件解決のお礼を改めて言おうと思って、あの食いしん坊が好みそうなお菓子を手土産に訪れる。
そして私は……。
「僕ノ宇宙船盗マレタ。探シテクレル?」
「どうも一人で遊びに来たら宇宙船が消えたそうなんでづ。すいません。流石に普通の警察には頼める事じゃなくって」
私の服の裾を掴んで不安そうに見上げて来るのは推定金星人の少年ポコ。
宇宙船が盗まれたから探して欲しい? 普通の警察には頼れない?
私も普通の警察官なのだけれど!?
どうにか拒否したい一方で警察官の誇りが語り掛ける。不安そうな子供を見捨ててまで事件から目を逸らすのか、と。
ええ、ええ、仕方の無い事よね。これが最後、最後だから……。
「え? 普通に無理だよ。お姉さんは特異点だからね」
あの雪だるまの着ぐるみ姿のルルが心を読んだみたいに声を掛けて来たせいで
「特異点?」
聞いてはいけないと本能が警鐘を鳴らす一方、あの探偵と出会った時に言われた言葉だけに思わず聞き返す。
「要するに異常な存在との縁が出来易く、仲良くなった異常な存在にとって近くの居心地が凄く良い存在の事かな」
大小は有るけれど今回を切っ掛けに目覚めたし、今後も普通じゃない事件が待っている、と聞いた所で青の精神が限界を迎えた。
「私は普通の事件を解決しつつ日常を送りたいのよ!!」
それは、魂からの叫び。自分の普通が失われていくのを悟った瞬間。
どれだけ否定したくても、本能が本当のことだとつけてしまう。
「もう良いわ。今後の事はそのうち考えるとして……ポコ君。宇宙船が盗まれた状況と盗まれた宇宙船の特徴について教えてくれるかしら?」
それはそれはそうとして困っている子供を見捨てるのは、それ自体が普通の警察官ではない。
なので、相手が金星人だろうが、盗まれたのが宇宙船だろうが当然のように職務に動くそれだけよ。
「反異星人協会って何? なんで警察官の私がオリオン座を駆け抜ける宇宙船レースに参加しなきゃならなかったわけ? 金星名誉勲章ってもらっても、地球では何の役も立たないわね……」
彼女からすれば十日以上後、地球上の暦では半日も経っていない頃に、地球に戻ってきた私は仕事机に突っ伏す。
わかっていた、わかっていたのよ。金星人の宇宙船を盗むような連中が普通なはずがないって。そんなSF映画みたいな展開に自分から巻き込まれた時点で苦労が確定したって。
当然ながら高速道路で事故を起こしていた都市伝説の化け物を退治したり、金星人の宇宙船を取り戻すためにレースに参加していました、なーんて上司に報告できるはずもなく、私は極度の精神的に具体的疲労に耐えながらも、通常の業務を行っていた。
近いうちに有給休暇が必要ね。絶対に温泉とか行っておいしいもの食べてリフレッシュするんだ。
「西宮、大変そうだな。桃姫様の相手は苦労しただろう」
「ええ、そうなんですよ。課長
……あれ? ここで私は疑問を抱く。
あの探偵が、この警察署に来た時に課長が彼女の姿を見ることができないからって、私は1人で怒鳴っていた恥ずかしい女に見られていたはずだ。
それが、あの探偵のことを知っていて、しかも一緒に行動していたことまで把握している?
すぐに問いただしたかったけれど、課長はそれより前に部屋から出て行った。
普段は、自分の机でお茶を飲んだりしながら、のんびりポヤポヤしているのに、今日に限っては、妙に足早い.。
まるで忍者みたいに足音がしなかった事も上司に対する疑惑が固まりつつあった。
「端宿署の地域課の課長さんで御座るか? あの人も普通に拙者達と同じ忍者の里の出身で御座るよ?」
むしろむしろなんで知らないの? とでも言いたそうな団蔵の視線に対して、青は手元のピザを貪って誤魔化した。
なんで知っていると思っているのよ!? 知ってるはずがないでしょう!!
この日は自分達が紹介した助っ人が事件を解決したからと、青を呼んでの軽いパーティー。
テーブルに並ぶのは、お店で扱ってるのと同じピザ。ただし、お店の時よりチーズ増量。
一流のお店で修行した上で動きを完全コピーしたことにより、ピザの味は本家に勝るとも及ばない。
ついつい夢中で食べていたら、ピザがどんどん消えていく。あれ? 1種類につき8枚切りのピザなのに、私これ3枚以上食べてる?
この場にいるのは忍者3人と青のみ。つまり一人当たりの割り当ては2枚だ。私は3枚食べた。
「別に構わないのに。お腹減ってるんだったらたくさん食べなさいよ」
恵がフォローを入れてくれる。さすが幼少期は、憧れのお姉さん的な存在だっただけはあるわよね。
そう、私はこのマッチョなオカマさんに憧れていたのだ。相手の性別を勘違いしていたから、きっと素敵な大人の女性になっていると本気で思っていた.。
実際にはゴリゴリでマッチョのオカマであったが、青の黒など知らないとばかりに分身に追加料理を用意させていた。
その口から告げられた衝撃の事実に曖昧だった。幼い頃の記憶がさらに戻って行く。
近所に住んでいて、子供達に飴を配っていた変わった男性が、課長にものすごく似ていた。多分本人だ。
もう別にいいや。あの頼りにならない課長が、実は探偵のことを見えていたり、見えない演技をして自分に全部押し付けたこと。
あの探偵の挑発、給料日前の生活を直撃した経費として献上不可能な探偵の飲食費。
(ふっざけんなぁああああああああああああああ!!)
一瞬だけ全部諦めて受け入れようとして、受け入れられるはずがなかった。
特異点だかなんだか知らないが、自分の平穏と日常を奪われてなるものかと。
「警視総監も忍者で御座るが、今の青殿には教えない方が良いで御座るな」
「店長さんからの伝言も、今は伝えない方が良いわよね」
男2人が何か喋ってるような気もするが、今の私にはどうでも良い。本来ならば知っておくべき事実でさえ知らない振りをしたかった。
もう絶対にあの探偵に関わるまい、そう決めたのだけれど……。
「真夜中に誰がピアノなんて?」
帰り道に近くを通った深夜の小学校から響くピアノの音色。誰か残っているかと音楽室の方を見るも電気は付いておらず、何となく視線を感じて、渡り廊下の方を見た。
いえ、見てしまったの。
「……は?」
手すりに捕まって此方を見ている
明日来ないと会いに行くね、耳元で誰かが囁く。ああ、もう会いに行かないって決めたのに、会うしかなくなったじゃないの。
あの特異点とやらが本当の話だったと身を持って教えられた。