ニンジャが あらわれた! ▶︎しょくむしつもん むし 作:ケツアゴ
「貴女、化け物二人連れてこんな所に来るだなんて変わってるわね。
最近の特異点は誰も彼もこんなのかしら?」
トイレから引き摺り出した腕を蹴り続けていた少女は動かなくなり消えたのを確かめてから私に向き直る。
この時、桃姫なんて存在を知っているからこそ分かったわ。この子……いえ、この方は….…。
「私は埴山姫。正確にはもうちょっと長い名前が有るのだけれど、気になるなら自分で調べて。伊邪那美が産んだ粘土の神もとい厠の守り神よ」
「じゃあ、この学校の七不思議に出て来る女の子の怒声というのはもしかして……」
「そっ。此処みたいに変なのが住み着きやすい場所を見張ってはどうにかするのも私の仕事。他にもやる事は多いし、妹とツーオペでやってるけれど大変なのよ」
ちょっと、神の世界の労働事情を知ってしまった……。
埴山姫様は大きく溜息を吐いた後でトイレへと戻って行く。どうやらこの後も別の場所に行かなくてはいけないらしい。
「大変だろうけど、頑張りなさいよ。あの馬鹿の残り香が付いてるし、知り合いなんでしょう? 戦いにおいては頼れるから、桃姫の馬鹿を頼りなさい」
手をヒラヒラさせて私に言葉をかけた少女神は両足が便所のタイルの上に入るなり完全に姿を消した。
「これで二つ目が解決で良いかしら? って言うか、あの探偵は知り合いだったのね」
一応神の娘だから妙な話では有るけれども、実際に女神の口から名前が出ると本物なんだなと思わされる。
いや、最初の呼び方が あの馬鹿 な時点で評価は散々なんだけれども……。
「今更なんだけれど、神様のお化け退治の方法が物理攻撃なのね」
こう不思議な力でパァァッってするのかと思ってたのに殴る蹴るだった事に若干ながらモヤモヤが残る中でやって来たのは階段前。
あの鏡に映った自分が中に引き摺り込もうと……あれ? あの時、埴山姫様は何って言った? 化け物二人?
「ねえ、ルルさん。貴女一体……」
何者なのか訊ねようとするも彼女はスキップ気味に階段を駆け上がって踊り場に移動する。鏡の中から彼女の偽物が現れるのを警戒したけれど、特に何も起こらない。
鏡の中の彼女は……鏡に映ってない……?
そう、鏡の前に立っている彼女の姿はまるで存在しないかの様に鏡には映らずに誰も居ない踊り場の様子が映っているだけ。
ちょっと待って。鏡に映らず日光に弱くて……口の中で鋭い犬歯が輝いている。
「気が付いたかい? そう、僕こそは夜の支配者である闇の住人。吸血鬼の……あっ、やば」
鏡の箸から亀裂が広がって行き、ピキピキという音は徐々に大きくなって行く。
鏡の表面が歪み始めた時、私の横をルルさんが通り過ぎて鏡が音を立てて割れて破片が飛び散った。
間に合わない! 咄嗟に顔を両腕で庇おうとした私の全身巻き付いた田辺さんの大腸。ヌラヌラとした光沢と焼肉の大腸みたいな感触が身体中に張り付く中で引っ張られ足が床から離れる。
ベチョリと嫌な感触を顔面に感じて目を見開けば目の前には脈動する心臓。
「大丈夫?」
「ええ、助かったわ」
巻き付いた大腸が外されても身体中に嫌〜な感触が残っている。何で人体模型の内臓が湿ってるの!? この臭い汁って大丈夫!?
お風呂に入って酒呑んで寝たい中、平然とこっちに近寄って来るルルさんにどういう事か分かるかと訊ねてみた。
「んー。多分だけれど、鏡自体が妖怪にでもなっていたね。虚像から自分が動くための体を手に入れる。今回虚像が存在しない私だから、作るはずの肉体がなくなったせいで限界を迎えたってところじゃないかな?」
それよりもこれどうするの? ケラケラと楽しそうに刺した先では、床や階段に上がる鏡の破片。
本当にどうしよう、と迷う青であった。