ゲヘナとトリニティの混血の生徒はミレニアムに通う 作:青色好き
「あぁ…… 今日も疲れたわね。メンテナンスに時間がかかっちゃったわ」
太陽がミレニアムサイエンススクールの建物どころか地平線に沈んだ時間。
エルは彼女自身の寮に戻っていた。彼女の寮の部屋内には様々な機械が置かれており、それらは部屋の掃除・気温や湿度の調整をする機械などが常に起動している。これらの機械のおかげでエルが不在でも常に清潔を維持出来ている。
「さて、今日はどの料理にしようかしら…… あら? 着信音?」
エルが台所に行って料理をしようとすると、据え置きの電話から着信音が鳴り響いた。この電話は着信先に応じて着信音を変えているのだが、この着信音はエルにとって聞き覚えがあるものだ。
この着信音はとある“エルの血縁者”に設定してある。
「はぁ…… また来たのね…………」
エルは溜め息を付きそうな気持ちを押さえて通話ボタンを押した。
すると、電話から少し大きめの画面が映し出された。
『おぉ! エル! 久しぶりだな!』
『そうね! 背が伸びたかしら?』
「お父さん、お母さん……」
電話をかけてきた相手はエルの父親と母親。
黒い短髪から上方向に伸びる黒い角・エルと似たような形の尻尾を生やす男性、エルの父親である麻鬼ダイ(あさぎ ダイ)。
淡い金髪が目立ち、白い翼を生やす女性、エルの母親である天使アン(あまつか アン)。
「それじゃあ切るわね」
『いやいや! 早い早い!』
『そうよ! もうちょっと話を聞いて!』
エルは少し不満気な表情で切ろうとするが、両親が慌てて止めに入る。普通なら仲良く会話をするだろうが、エルは通信を直ぐに切ろうとした。
それは何故なのか。それは……
『何せアンが新しいバスタオルを買ってきたんだ! このきめ細やかな繊維で編まれているタオルは美しいアンにピッタリの筈!』
『そしてこのカッコいいデザインの歯磨きはダンディで笑顔が似合うダイに似合う筈なの! エルもそう思うでしょう?』
(うわぁ…… 心底どうでもいいわねぇ………… 何年経ってもイチャラブしてるわね…………)
夫婦揃ってバカップルなのだ。
エルが子供の頃からこんな感じの様子だ。
何かある度に互いの事を褒めたり、愛を彷彿とさせる事を話している。あまりのイチャチャぶりにエルは何度も呆れている。まぁ、夫婦仲が悪いよりはずっとマシだが。
「はぁ、父さんも母さんがそう思うんなら、それで良いと思うわよ! 父さんと母さんの感性は何だかんだ言って良い方だし」
『おぉ! 流石我が娘だ!!』
『流石はエル! 分かってくれると思ってたわ!』
『おぉ、そうだ! エルにお似合いの服を見つけたから買ったんだが、今度送ってあげるぞ!』
『エデン条約の時はアリウスの一件でエルの晴れ舞台を撮影出来なかったからね…… 次の大きなイベントの時は愛しい愛娘の美しい姿をきっちり撮影したいからね!』
「…………、次はその服を着ようかしら」
『『おぉ!! 嬉しいぞ!/嬉しいわ!』』
(うわぁ、単純ね…………)
父母同士の仲の良さから、今度はエルへの愛情を露わになる。バカップルではあるが、娘であるエルへの愛情は本物だ。親子故に。
『あっ、そうそう! 次のミレニアムの発表会には必ず行くからな!』
『えぇ! エルなら優秀な賞を採る筈よ! 楽しみにしているわ!』
「えぇ。そこは自信あるから、楽しみにね」
アンとダイは会話を終えると電話の立体映像を切った。その時のエルの表情は嫌そうな表情ではなく、少し嬉しいような、優しさを表すような表情だった。
エルも何だかんだ言って、両親の事を大事に想っている。何だか言動はバカップルかつ娘一直線とも言うべき感じであるが、エルを大切に思っている事は間違い無い。それを分かっているため、少し面倒に思う事はあっても本気で嫌いになる事は無いのだ。
「さて、料理は…… まぁまぁ進んでるわね」
賞の事を頭の中で考えながら、エルは尻尾で器用にフライパンを持って野菜を炒めている。どうやら両親と話している間に尻尾を使って調理を進めていたようだ。こうしてエルは夕食の準備を少しずつ進めていった。
「さて、測定器の準備は出来た。これで万全だ」
「ダミーターゲットも設置したよ。硬さもバッチリだよ」
「距離は100メートルぴったりです! それでは始めましょう!」
「人払いも良し。それじゃあ始めるわよ」
広大なミレニアム自治区内の荒野で、ウタハ達エンジニア部は高度な機械を設置して後方に待機している。エルはやや前方で立っており、正面を見つめている。彼女の視線の先には、小さな的が立てられている。的と言ったら多くの人が思い浮かべる、環と円が描かれている的だ。
「あれがターゲット…… ターゲットまでの距離は100メートル…… 当てられるわね」
エルが的を直視しながら気を集中し始める。彼女の視線は的のみ。周辺の景色には一切気を向けていない。
「ふふ、大きな一発が放たれそうだ」
「どんな数値が観測出来るか楽しみだね」
「もうワクワクしていますよ! どれくらいかと言うと…… おや、来ますね!!」
ウタハ・ヒビキ・コトリが測定器に表示される値に釘付けになる。そこには非常に難しそうな文字列や数字の羅列が表示されている。その表示は常に変動していて、僅かに機械音を鳴らしている。
一方のエルはと言うと、
「…………、集まってきたわね」
エルのヘイローが光始める。
それと同時に、
エルの前方に光が集まり始める。
いや、角から光の粒子が放たれて、それがエルの前方に集まっているのだ。
エルのヘイローが光ると同時に、結んである髪に隠れている側頭部の角も光始める。すると、前髪が少し風で浮かび上がり、角が露わとなった。そしてその角から青白い光の粒子が放たれて、それがエルの前方に集まっている。粒子が集まる度に光が強くなっていき、まるで電球のような強光だ。
「……………………、そろそろね…………!」
エルの光がある程度集まり、光が一層強まる。
そして、
収束された光から、
一本の光線が放たれた。
「「「おぉ!」」」
「っ…………!」
凄まじい光が放たれる場面を見たエンジニア部の一同は感嘆の声を上げる。エルの方は光線発射の衝撃により何も言えない。彼女の表情は衝撃に我慢している様子は窺えない。十分耐えているようだ。
エルから放たれた光線は、予め設置したダミーターゲットに直撃する。光線の熱によりターゲットが少しずつ焦げていく。そして火が付いてターゲットが燃えてしまい、只の燃えカスとなってしまった。そして、ターゲットが焼失すると光線は真っすぐと飛んでいき、延長上にある特殊な素材で構成されたブロックに当たる。。
そして、その光線はブロックにしばらく当たっていると粒子が霧散するように消失してしまった。
「ふぅ…… 何時見ても中々強力な威力ね」
「いや~! 何回見ても迫力がありますね!」
「何だかレールガンとは異なるかっこ良さを感じる」
「ふふ、今回も良い数値や結果を手に入れられたよ」
エルの光線発射を終えると、コトリ・ヒビキ・ウタハが満足そうな表情でエルに寄って来る。皆少し興奮している様子だ。
「それにしても、エルの能力はキヴォトスでもあまり見ないものだよ」
「やっぱり、部長もそう思います?」
「うん。光線を出せるなんて、今まで聞いた事が無い」
「あれ程の出力を出せる装置は中々造れませんよ。レールガンよりも出力は上ですからね」
キヴォトスにおいて、ヘイローを持つ人物の中には不思議な能力の使用、もしくはそれに近い現象を引き起こす者がいる。例えば、何処からともなく見方を回復させて敵にはダメージを与える手榴弾を出したり、少し料理をしただけで料理そのものが生物のように変化してしまったり、直感で複雑な暗号・暗礁馬暗号をスラスラと解いたり…… 中には隕石を落とす者までいるという。
キヴォトスではそういった不思議な力を「神秘」と呼ばれている。
エルもそういった類の能力を持っている。
その能力は、「光線を発射する」というもの。
エルの側頭部から生えている角(普段は結んだ髪に隠れている)から粒子を放出してエルの目の前に収束させる。ある程度粒子が溜まったら光線として放出するのだ。まるで、エルの「光線」への強い好みの表れのように。ただ、原理で言うなら「荷電粒子砲」に近いらしいが。
傍から見ればSF映画に登場する兵器類のようにも見えるだろう。
エルはこの技を「神秘粒子砲」と呼んでいる。
「機器の数値を見る限りでは、今の出力の場合100メートルを少し超える位の威力だ。ターゲットを破壊出来るけど、特殊な鋼鉄ブロックは流石に無理の様だね」
「…………、やっぱり手加減していたからあれ位の飛距離と威力ね」
「出力を上げれば上げる程威力と飛距離は指数関数的に伸びていく…… 凄くロマンを感じる」
「今エルが使っている銃の光線発射装置も、元々エルの光線を再現しようとして造ったんですよね!」
「威力は大分劣るけどね……」
エルが現在使用している銃。その機能の一つに光線を発射する機構が備わっているが、元々エルの光線を再現しようとして造った物なのだ。それを銃に取り付けて使用しているのだ。
「だが、さっきの光線は君が手加減したからあの威力だった」
「……………………」
ウタハからの言葉を聞くとエルは何やら神妙な顔つきになる。薄っすら察しているのだ。これから何を言おうとしているのかを。
「もしも全力でさっきの光線を発射した場合、射程距離も威力も桁違いに上がる。以前今回よりも出力を高くして放った際の威力はかなりのものだった。ミレニアムが建設した耐地中貫通爆弾性ビルを5棟纏めて溶断・爆破する程の威力だったからね」
「……………………」
「もしもこれを人に向けて撃てば………… どうなるか分かるね?」
「えぇ。勿論」
エルの光線はビルを破壊出来る程の威力だ。それを、ヘイローを持つ人間に向けて撃ったらどうなるか? いくら銃弾や手榴弾に耐えられる程の体といえども耐えられない。
それこそ、ミレニアム最強の実力者である美甘ネルや、アンドロイドの天童アリスでも。
「威力を調節出来るとはいえ、ホイホイと使わないように心がけてくれ。威力が強すぎる」
「……………………、分かっています」
強力な攻撃であるが故に命を奪いかねない。
それは使用者であるエル自身も分かっている。この光線を今まで使った回数は少ない。ここぞという時に使う最終手段なのだ。この攻撃を行う程の事態となると、エデン条約やアリス(正確に言えばKey)の暴走、そして空が赤く染まって奇妙なタワーが何本も出現した時といった、キヴォトスを揺るがすような大事件の時位だ。
「当然、怒った時も使わないように。以前アビドスに行った時便利屋68という人達に向かって撃とうとした事があったからね。あの時はヒヤヒヤしたよ」
「…………………… あの時の事は反省しています」
かつてアビドスに行っていた時、柴関ラーメンで昼食を食べていたのだが、便利屋68の面々が柴関ラーメンの店舗を爆破してしまったのだ。柴大将も爆破の影響で負傷してしまい、その時は流石のエルも激怒して便利屋の面々を単独で攻撃したのだ。元々戦闘は得意だったため、彼女一人でも高い実力者である陸八魔アル達を圧倒した。
だが、便利屋に止めの一撃として神秘粒子砲を放とうとしたのだ。その時、柴大将やアビドス廃校対策委員会の面々が止めた事で事なきを得た。
「重ね重ね言うが、これから神秘粒子砲は人に向けて放たないでくれ。分かったね?」
「勿論です」
「大丈夫。エルならきちんと言う事を聞く」
「はい! 心配する事はありません!」
ヒビキもコトリもエルがきちんとウタハの注意を守ると確信しているようだ。二人はエルと同期で親しい間柄と言う事もあって信用しているのだ。
「まぁ…… エルならきちんと言いつけを守るだろう。話を戻して、あと4回程神秘の出力を調整して粒子砲の実験を行うよ。この結果はヒマリ部長とリオ会長にも共有する、大事な実験だからね」
「神秘の実験………… ですからね」
「エルが神秘の研究をしているから、それのおかげで神秘の測定装置や観測装置を造れるようになったよね」
「神秘はまだ分からない部分がありますから、ミレニアムだけでなくキヴォトスにとっても重要な研究です。リオ会長やヒマリ先輩もこの研究をかなり重視しています」
「神秘をある程度解明出来た事もあって、神秘の操作をある程度自分の意思で出来る様になったんだよね。あれは驚きだった」
神秘はキヴォトスで暮らす人達にとっても身近な存在だが、今でも分からない部分が多い。
その研究をエルはおまけ程度に行っているのだが、今まで未知である神秘を解き明かす研究という事もあり、生徒会長の調月リオや明星ヒマリといった重鎮達から注目されているのだ。
『中々興味深いデータが取れているようね』
すると、背後から機械音声が聞こえてきた。発声源を向いてみると、そこには子供の落書きを彷彿とさせるロボットの顔が描かれているドローンがホバリングしている。一般人から見れば珍妙なドローンと思うだろう。声の発声源はこのドローンのようだ。
そのドローンから立体映像が投影された。
立体映像には。黒いロングヘアに赤い瞳、黒い制服を着た人物。髪にはミレニアムの校章が描かれているヘアピンを付けている。
「リオ会長、何時から来ていたんですか?」
『15秒程前よ。つまり、ついさっきと言えるタイミングよ』
調月リオ。
ミレニアムサイエンススクールの生徒会長。
即ち、現在のミレニアムの最高権力者である人物だ。
『神秘の研究は今のキヴォトスにとって非常に価値があるわ。神秘が詳細に分かればヘイローの構造や起源が分かるかもしれないわ。それはキヴォトスにとって非常に意味のある成果だわ』
「と言っても、おまけ程度の研究ですからあまり進展はしてないですよ?」
『いいえ、神秘の測定方法や測定機器を開発しただけでも大したものよ。おかげで以前よりも神秘だけでなくヘイローの謎も少しずつ解き明かされつつあるわ。研究者と技術者である私から見ても、非常に興味深いわ』
リオの表情は淡々としているが、彼女の瞳は好奇心で渦巻いている。キヴォトスの人達にとって身近でありながら未知が多く含まれている神秘を知れるとなると、常に落ち着いているリオでも気になるのだろう。
「そこまで会長に期待されているとは、光栄です」
『余った予算でここまで進めている手腕も見事よ。ウタハ達は予算を多く使う事が多いからセミナーとしても助かっているわ』
「「「ギクッ…………」」」
「……………………、そうですか」
リオの指摘にエルを除くエンジニア部の面々は冷や汗を流す。実際ロマンを求めて開発するとかなりの予算を使う。大体エルが止めている訳だが、用事があってエル不在の場合は大体かなりの予算を使う。それでユウカは頭を悩ませることになるのだが。
『今回の実験の数値は後で私の方に共有してほしいわ』
「はい。勿論です」
『あとウタハも言っていたけど、あなたの神秘粒子砲は軽々しく使わないようにして頂戴。理由は言わなくても分かるわね?』
「心得ています」
「心配無いよ。エルはきちんと言う事を聞く後輩だからね」
『…………、そうね。その様子なら問題無さそうね。それでは私はこれから別件で行かなければならない場所があるから通信を切るわ』
通信が切断された事で画面が焼失し、ドローンは何処へと飛んで行った。その方向はミレニアムサイエンススクールがある方向とは別の方向だ。また何か変な事でも企んでいるのだろうか。何時の間にかエリドゥとかいう都市を造っていた実績があるので尚更だ。
「何処に行くんだろう? この前はデカグラマトンの調査をしていたらしいけど……」
「それじゃあエルも呼ばれるのでしょうか? 以前の調査の時もエルが呼ばれましたよね?」
「えぇ。私達の発明品を使えば調査しやすい、と言われてね」
「報酬として研究費を増やすと言われて協力したよね? あの時の報酬で私達エンジニア部の予算に余裕が出来たのは嬉しかったよ」
「その予算も自爆用の爆弾製造費で9割位使っちゃいましたけどね」
「「「ギクッ…………」」」
「その予算で、超大型ビームライフル砲の開発をしようと思っていたんですけど、私がシャーレの仕事に行っている間に部長達が勝手に……」
「「「その件は本当にすいません」」」
「まぁ…… その件は許しますよ。防衛用ロボットの機能として採用されて予算が少し増えましたし…………」
「「「は、はははは…………」」」
リオのドローンが去った後、エンジニア部4人は意気揚々と会話している。3人のぐいぐい進もうとする姿勢に呆れてはいるものの、嫌いではない。むしろ一緒にいる事を楽しんでいる。それぐらい3人を友達と思っている訳だ。
「そういえば、神秘の実験で試したい事があるんですけど」
「ん? 何だい?」
「私の神秘を操作して角以外の個所から神秘粒子砲を放つ実験です」
「ええぇ!? そんな事が出来るの!?」
「恐らく。多分翼の羽根や尻尾からも放てると思う」
「最早何でもアリだね……」
「実験用のドローンが沢山壊される気がしますね…………」
「ここまで来たらミレニアム最強の生徒になれるかもしれないね」
エルの神秘による必殺技が更にパワーアップしそうだ。このままだとその内ネル先輩を一瞬で倒す程強くなるかもしれない。
ウタハは内心そう思った。
エルの両親のラブラブっぷりは、「クレヨンしんちゃん」のミッチー&ヨシリンをマシにした感じです。
エルの技が光線って強過ぎだろ!? って思う人がいるかもしれませんが、ミカの隕石やジュリのパンちゃん生成、コユキの解錠能力とかと比較したらギリギリ有り得る範囲内だと思います。多分。
次回は2026年8月30日21時00分に投稿します。