ゲヘナとトリニティの混血の生徒はミレニアムに通う 作:青色好き
陽が落ちる時間帯。
ミレニアムサイエンススクールの通学路は多くの生徒が歩いている。この通りは周辺に様々な店舗があり、商品を買おうとしたり、食事をしようとしたり、様々な目的で訪れる生徒が多い。
「あっ、欲しい部品だわ。これも買った方が良いわね。まだ予算内に収まるし」
エルは機械屋に入っており、店内にある部品を隅々まで見ている。機械好きとして興味深いようだ。細かいスペックもきちんと見ている。
「あっ、エル。目的の部品は見つかった?」
「えぇ。これがあれば次の製品を開発出来るわ。予算内だからユウカ先輩も怒らない筈よ」
「予算内で済むのは嬉しいけど…… もう少し多めに商品を買ってみない? まだ余裕があるし」
「そしたら予算の1.5倍の予算を使ったわよね?」
「あ~………… それは…………」
「やれやれ………… 新しい」
エルの元にやって来たヒビキは、もっと買う事を提案したが以前大量に予算を使った事を指摘したら言い淀んでしまった。実際それは事実であるし、そのせいユウカ先輩から説教を受ける事になってしまった。
どうやらエル達はエンジニア部の新たな発明品製造の為に部品を買いに来ているようだ。開発欲があるのは良い事であるが…… あり過ぎるのも問題になる。
「あっ、いました! ヒビキ! エル!」
「あっ、コトリ」
エルとヒビキが話していると、コトリがやって来た。彼女の手には買い物が握られているが、その中には多くの部品パーツが入っている。彼女もエル・ヒビキ同様部品の買い物に来ているのだ。
「此処の品揃えは多いですね! 商品数は何と200万点! ミレニアムサイエンススクール自治区内の店の中で最大規模の品揃えです!」
「重宝しているわよね。キヴォトスでもこれ程の品揃えは珍しいわ」
「だからこそ、今の内に部品の予備をもっと買っておきましょう! 大きめの発明品を造るなら部品も多めに買って……」
「それを考慮してもう十分な予備も買っているわよ」
「あっ! そうでしたか! 流石はエルですね!」
「コトリ、そういえば部長は?」
「今サーバー売り場にいますよ! あと30分位は見回るそうですよ!」
「あっ、これは2時間位見回りそう…………」
「はぁ…… 後で迎えに行きましょう。どうせ30分どころじゃ済まないでしょうし。ちょっとおやつでも食べましょうかね?」
「そうだね。少しお腹空いたし」
「それじゃあ近くのお店で何か食べましょう! 此処の近隣には」
エル・ヒビキ・コトリを含めた3人は部品を見て回っているであろうウタハを後で迎えに行く事にして、エル達はおやつを食べる事にした。ヒビキもコトリも楽しそうな表情をしている。そんな友人の様子を見るとエル自身も自然と笑みが浮かんでしまう。
そう思っていると、エルの携帯電話が振動した。どうやらメールを受信したようだ。
(あら、メールだわ。送り主は…………)
送信先の名前を見てみる。そこに書かれていた名前は……
(………………………………、はぁ………… 面倒ね……………………)
その名前を見たエルは溜め息を吐きそうになるが、我慢してこらえる。
「ごめんなさい、少し用事が入っちゃったわ。少し出ていくけど大丈夫?」
「そうなの? 直ぐに終わる?」
「まぁ………… そんなに時間はかからないわね」
「それじゃあ私達は美味しそうなお店を探してきますね! 店の数が多いので、調べるのに少し時間がかかりそうですので、丁度良いかもしれません!」
「それじゃあ少し行ってくるわね」
何て事無い表情でエルはヒビキとコトリのいる場から離れる。二人共ちょっとした用事で離れると思っているので、さほどエルの事を心配していない。そもそも彼女自身ミレニアムでも屈指の実力者なのだ。仮に悪人に襲われても十分返り討ちに出来るだろう。
ヒビキとコトリはエルの帰って来るまで周辺の店を散策する事にした。
人通りがほぼ無い小道、と言うより建物と建物の間の空間にエルは歩いている。野良の動物ですら通りそうにない場所で、日が当たらないため夕方と言わんばかりの薄暗さだ。周囲の地面は黒ずんでおり、廃墟のようにも感じる。
「ハァ………… 毎回呼び出す場所を考えて頂戴よ」
暗く、人気の無い場所でエルと相対する人物がいる。
「クックックッ…… 私達は他の人に見られるのは不都合なので…………」
黒いスーツを着用しており、黒い靄が人の形を成したような姿。頭部には白い光が目のように光っており、エルを見つめている。明らかに異形と呼べる見た目だ。
彼の名は「黒服」。
キヴォトスの神秘を研究する「ゲマトリア」と言う組織に属する一人。
神秘を研究する為に生徒を利用する事があるため、シャーレの先生から警戒されている存在だ。だが、現在は解散して各々のメンバーが独自に行動しているようだ。
「あなたを呼んだ理由は簡単です。最近研究をしようとしている新たな神秘のデータを私に提供して欲しいのです」
「はぁ………… 地獄耳ねぇ………… 何処から仕入れてくるのよ?」
「機密事項なので…………」
「答えはNoよ。怪しい人に大事な研究の情報を渡す訳無いでしょ?」
「そうですか…… あなたにも無視し難い取引を用意したんですがね…………」
「聞き流すからその取引の対価って何よ?」
冷静な雰囲気を纏いつつエルは黒服から対価を聞き出す。無視しても良い(と言うより無視したい)のだが、ゲマトリアの勧誘は巧妙だ。少し油断をしたら自身やその周辺に被害を受けるような罠が仕組まれている時がある。そのため、一応細かく聞く事にしている。
「…………、という事です」
「ふぅ…………、確かに私やエンジニア部の皆に悪くない取引であるけど…………」
「何か言いたげですね?」
「怪しいから断るわ」
「おや、そうですか。非常に残念ですね」
「怪しい勧誘には乗らないのは常識よ? 知らないのかしら?」
「そのつもりは無いのですがね…………」
「聞いた感じだと、断ってもデメリットは無さそうだし」
「あなたは私と同じく貴重な神秘だけでなくテクスチャの研究者。敬意を表してあなたに不利になあるような事はさせたくないのですよ。誘いに乗っても、断ってもね」
「そこは褒めてるのかしら……」
どうやら黒服はエルが不利になるような事をする気は無いらしい。喜ぶべき…… だと思うのだが複雑な心境だ。
「暁のホルスこと小鳥遊ホシノが『キヴォトス最高の神秘」とするなら、あなたは『キヴォトスの特殊な神秘』と言えるでしょう」
「“特殊”ねぇ…………」
「本来なら分かち合えない筈のゲヘナとトリニティ。しかし奇跡的に手を結び、その軌跡の中で生まれた存在である天魔エル。故に、あなたは今までの生徒の中で見た事の無い特殊な神秘を持っているのです」
「まぁ、自覚はあるわ。発明の合間に神秘研究をしているけど、自分の神秘が他の人に見られないようなものである事は知っているわ」
エルの神秘。
ゲマトリアから見れば、エルの神秘は非常に興味深い、特殊な神秘のようだ。そもそもエルはキヴォトスで唯一ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の生徒から産まれた存在。それ故か、キヴォトスにおいて他の者では見られない神秘を有している。
「あなた自身も詳しく知りたいのでしょう? 今存在する発明品では全てを解明出来ていない。協力者がいれば少しは進歩するでしょうが、神秘を研究する人は今のキヴォトスではあなた以外となると非常に少ない。ですから、数少ない協力者として…………」
「だから怪しいからお断り」
「遠慮しなくても良いのに…………」
エルから見たゲマトリアは「技術は悪くないが、胡散臭くて怪し過ぎる組織」だ。どうやらかつてアビドスの小鳥遊ホシノを誘拐したのだ。しかも色々と腹黒い噂が絶えないカイザーと結託していた事もあって尚更怪しい印象が強い。こういう事をしなければ多少は協力する事を考えるのだが。
「やれやれ、仕方無いですね。今回も諦めます」
「信用されたいなら行動で示す事ね」
「善処しますね…………」
少し残念そうな表情(に見える)で黒服は建物の影に向かって行った。そして、影の中に入り込むと黒服の姿は霞のように消えてしまった。そこには最初から何も存在しなかったような空間が広がった。
「ふん………… 不気味ねぇ…………」
黒服が立ち去った様子を確認すると、エルはそのままこの場所から立ち去って行く。もうこの場所に用が無い。そのため、ヒビキとコトリが待っている場所に戻るのだ。
「ヒビキとコトリは…… そこまで時間がかかってないから、大丈夫でしょうね」
二人はまだ待っているだろうと思いながら、二人がいる場所へと戻って行った。
「…………、で戻って来たら………… 何これ?」
「えぇと…………」
「解説が必要…… ですか?」
「必要」
「ははは…… 良いかい、落ち着いて聞いて欲しい」
エルが戻って来ると、ヒビキとコトリ、そしてウタハが集まっていた。どうやら予想以上に早くウタハが帰っていたようだ。だが、彼女達の表情は少し気まずいような…… 気分が悪いような表情を呈している。触れたらまずいものを持っているかのように。
「実はね………… 興味深い部品を見つけてね………… やや値段が高いが欲しかったものだから…………」
「予算の2.5倍を超える金額をクレジットカードで費やした、と…………」
「「「はい……………………」」」
その一言は非常に重い。
ウタハ達3人は汗を流しながら別の方向に視線を向けようとしている。これは明らかに気まずい時に人間が行う行為だ。
「ユウカ先輩に報告ね」
「「「それは勘弁!」」」
ユウカ先輩。
エンジニア部の予算を出してくれる、ミレニアムのお母さんとも言える存在。もしも予算超過の金を使用したとなれば、ユウカは間違い無くお冠である。エンジニア部の面々は彼女の恐ろしさをよく知っているのだが、開発欲と製造欲のせいで予算超過をしようとするのだ。その度にエルが止めている訳だが。
「はぁ…… 報告は無しにしとくわ」
「おぉ! 助かったよ! エル!」
「先輩が近くにいるし」
「「「え」」」
その一言と同時にウタハ達は一瞬だけ硬直してしまう。そして感じ取ってしまった。背後から“よく知る人物”の気配を感じると。
三人が体を震わせながらゆっくりと顔を後ろに向ける。
そこには、紫色の髪と白黒のミレニアムの制服を着用している人物が立っている。
「また予算を超える金額を使ったようですね…………」
「ゆ、ユウカ……………………」
冷酷な算術使いという異名を持つ少女、早瀬ユウカが堂々と立っていた。
「3人共………… エルちゃんの言った事を忘れたのかしら?」
「えぇと…………」
「そのぉ………………」
「き、聞いて欲しい。これには訳が…………」
「予算超過を勝手にするなんてね…… こっちがあなた達の予算超過のせいで費用の調整がどれだけ大変だったか…… 言った事あるわよね?」
「まぁ、その…………」
「エルちゃんが制止してきたおかげで予算管理が多少しやすくなってきたのに…… アンタ達は…………」
「えぇと………… 科学と技術の発展のために…………」
ユウカ先輩は笑顔の表情を浮かべている。しかし、こめかみに血管がビキビキと浮かび上がっている。そのギャップが今のエンジニア部の面々(エルを除く)にはとても恐ろしく感じた。
「それじゃあ…… あなた達、今からセミナーの方でじっくり話を聞きましょうか……」
「ひぃ! じ、慈悲を!!」
「そんな物無いわよ」
「そ、そんなぁ……!」
「え、エル! ユウカ先輩を説t」
「私、知らないわよ…………」
「えぇ!? 薄情者ぉ!」
「いや、予算を超過しちゃった訳だし……」
「さぁ、あなた達…… こちらに来なさい。たっぷり説教をしてあげるわ」
「「「ひいいぃぃぃ!!」」」
「あっ、エルちゃん。少しヒビキ達を借りるから時間を潰しててね」
「多少長くても構いませんよ」
「「「ひどっ!?」」」
結局その日、ヒビキ・コトリ・ウタハはユウカ先輩から厳しい説教を受ける事になり、しばらくの間エル一人で一日を過ごす事となった。
一人になったものの、機械屋巡りをしたり、ゲーム開発部でモモイ達とゲームで遊んだりして過ごしたため暇にはならなかった。
「そろそろ帰って来る時間帯かしら?」
大分時間が経過した。
そろそろユウカ先輩の説教が終わる頃だと思い、エルはエンジニア部の部室に戻って来ていた。部室には多くの機械や発明品が置かれており、その多くは依頼品のようだ。とはいえ、少し乱雑気味に置かれている。
「やれやれ…… もう少し整理整頓した方が良いわね…………」
少し面倒臭く感じながらも、発明品や機械の整理を始める。自分も多少散らかす事はあるものの、ヒビキ達程散らかす事は無い。ある程度分かりやすく纏めて複数の場所に置いておくことが多い。
「あら? これは…………?」
整理整頓をしていると、エルはある物を見つけた。
「あー…… これはヒビキと一緒に作った応援服じゃない」
壁に掛けられている白と水色の応援服がエルの視界に映る。これは、エルがヒビキと友達になったばかりの頃に作った応援服だ。
ミレニアムサイエンススクールにおいて、獣耳などの獣人要素を持つ生徒は少ない。エルとヒビキはその数少ない要素同士という事もあって、自然と話すようになった。
『あなたもエンジニア部に入るつもりなんだ』
『えぇ。物作りは昔から好きだから』
『ねぇ。物作りって言っていたけど、どんな物を作ってきたの?』
『えぇと、例えば…………』
些細な事から会話が始まり……
『私みたいな獣人というか、非人間要素ってミレニアムにはいないけど、他にもいるのね……』
『私も驚いたわ。ゲヘナやトリニティみたいな生徒が入学するなんて、聞いた事が無いかな』
『まぁ、そう思うわよね。元々そこに入る事も考えたけど、あの二校は互いに仲が悪いから角や羽が生えている私が入学するのはあまり気が進まなかったのよ』
『あぁ…… 成程…………』
『おぉ……! これは面白い発明品…………!』
『家具や壁の隙間に入って埃を除去する装置よ。隙間に落ちた小物拾いにも役立つわ』
『そうだ。自爆装置を取り付けてみたらどう? 空き巣が入って来た時にこっそり突撃して迎撃するとか…… あとBluetoothを付けてスマホで遠隔操作出来るようにすれば便利になると思う』
『また自爆装置を…… でも、Bluetoothは良い案ね』
徐々に二人は話す機会が増えていく。
『おや! あなたはキヴォトスで唯一ゲヘナ生とトリニティ生の混血である……!』
『そう、天魔エルよ』
『それで私は猫塚ヒビキ。あなたは確か……?』
『はいっ! 私はエンジニア部に入ろうと考えているミレニアムサイエンススクール1年生、豊見コトリです! 私がこの部活に入ろうとした理由は……』
((あ、これは長くなる…………))
途中でコトリと出会い、何だかんだで気が合い始める。
『お二人もエンジニア部に入る予定なんですね? なら一緒に行きましょう!』
『そうだね。3人共行く場所は同じだし』
『確か部長はウタハって人よね? どんな人なのかしら?』
『やぁ、よく来てくれたね。私がエンジニア部の部長を務めている白石ウタハだ。君達が入部希望者だね? 部室の詳しい案内をするよ』
こうしてエル達はウタハ部長と出会い、エンジニア部に加入した。
「そういえばこの棚にある発明品、ほとんど私達が作った発明品ね」
過去の事を思い出す中、ふとエルが近くの壁にかけられている棚を見る。そこには、様々な発明品や一風変わった機械が置かれている。それらはエル達がエンジニア部に入部して以降に発明・製作した物だ。
『さぁ! 皆! 今日もロマンを求めて』
『予算を使い過ぎたらユウカ先輩の怒号が飛んできますよ』
『それは………… エルが何とか言いくるめて…………』
『いや予算が超過する時点でもう……』
『そこを何とか!!』
何かと予算を超えてでも発明品を造ろうとするエンジニア部。
そこにストップをかけるエル。
そんな、奇妙なようで有り触れたような日常。
「これから物作りが始まったのよね…………」
今までミレニアムサイエンススクールで作ってきた様々な発明品。それらはヒビキ・コトリ・ウタハ部長達と共に作ってきた。自分の青春の現れとも言える。
「Bluetoothとか自爆機能とか付けるとか、変なオプションを付けようとするけど、なんだかんだ言って皆と一緒に発明品を作るのは楽しいのよね…………」
三人の発想に呆れたりする事はあるものの、そんな様子を楽しく過ごしてきた。
当然モモイ達やユウカ達・アビドスの者達との触れ合いもエルにとって非常に楽しい時間だった。ミレニアムどころか世界規模の事態に巻き込まれたりする事があったが、仲間達と共に立ち向かう事が出来た。
「こんな日々が続いて欲しいわね…………」
ふと、口から漏れた言葉。
気付けば、自身でも気付かぬ内に微笑んでいた。
「あぁ、今日のユウカも手厳しかったよ……」
「あっ、部長。終わったんですか?」
「まぁね。何度か聞いているけど、心に来るものがあるね……」
「たまにはエルも一緒に叱られてよ…… 私達だけって理不尽だし……」
「予算超過したのはヒビキとコトリ、部長のせいでしょ……」
「うぐっ……! それはそうですけど、ロマンのために必要な事でしてね…… 細かく説明するn」
「どうであれ予算を超えている事に変わりは無いから、ダメでしょ…………」
「「「ぐふぅ!!」」」
「やれやれ…………」
三人の発言に少し呆れつつも、これがエルの楽しい青春だ。
こんな日常が何時までも続きますように……
そう思った。
「エルー! 新しい対戦ゲームを遊んでみて―! アスナ先輩も手伝うって!」
「エルちゃーん! このゲームで勝負しよー! なんか面白そうだもん!」
「うわっ…… また騒動の種が…………」
こういう日常は…… どうなんだろうねぇ…………
次回投稿はオリ主であるエルの簡単なプロフィール+おまけです。
次回は2026年9月6日21時00分に投稿します。