どうしてこうなった。
眼下で跪く数十の人間たちを視界に収めながら、ふとそんなことを思った。
「ご覧下さい。彼らは皆、我々の意思に賛同してお集まりくださった同志たち……ラゴウさまを長とする団の仲間です」
団の長か。
いつの間にそんなものになったんだろう。
我々の意思っていうけど、俺の意思とお前たちの意思は多分違うと思うよ。
「悪逆非道の『組織』に反旗を翻すべく集った反逆の徒。これも全てはラゴウさまの人徳あっての結果……流石でございます」
人徳もクソも誰一人として見知った顔がいないんだけどなぁ。
「さあラゴウさま。悪の組織に立ち向かう『英雄』として、彼らに向けたお言葉をお願いいたします」
そんなものないよ笑。
そう口に出そうになったのを必死に堪えて、それっぽい演説の内容を急拵えで考える。
本当どうしてこうなってしまったんだろう。
俺はただ、理想のライバルキャラになりたかっただけなのに。
☆
『魔剣戦記』と呼ばれるゲームがある。
中世ファンタジーな世界観で魔剣を操る厨二アクションRPG。
アニメ化も果たした令和の神ゲー。
――しかしどんな神ゲーにもクソなところはあるように、魔剣戦記にも『汚点』が存在していた。
それが悪の組織に属する敵キャラ『ラゴウ』だ。
舞台となる学園に送り込まれたスパイで、幹部でありながら組織への反抗心を秘めている。
口調も態度も冷たいが、よくよく観察すれば優しさが垣間見えるツンデレ。
設定だけは最高だ。
一言でいえば『素材は良かったが、製作陣が調理をミスった不遇キャラ』、それがラゴウだった。
『馬鹿な、俺が貴様如きに負けるだと……!?』
『僕には支えてくれる仲間がいた。それが君との決定的な違いだよ』
人は孤独でこそ強くなれるというラゴウを仲間との絆の力で倒し、お互いの強さを認め合う。
ここから改心して王道ライバルになっていく。
そう思っていた時期が俺にもありました。
『そう遠くないうち再会の時は訪れる。その時に今回の借りは返す。それまで誰にも負けるなよ』
と王道のセリフを吐き──しばらく音沙汰がなかったと思ったら急に出てきて、何も残せないままラスボスに雑に殺される。
別にラスボス相手に負けるのはいいんだよ。
主人公の前座はライバルとしての役目の一つだ。
しかし不意打ちであっさりやられて終わりじゃ引き立て役にすらなれてない。
かませ役の在庫処分でしかなかった。
『君は期待外れだ。私のシナリオには要らない』
ふざけんなよボケが。
まるで製作陣の言い訳のような台詞に、そうこぼしてしまったのも仕方ないだろう。
そして俺は、そんなラゴウをこそ愛してしまった悲劇のプレイヤーだ。
俺は生粋のライバルキャラオタクだった。
悟空よりベジータ派、アムロよりシャア派だ。
スイカに塩をかけるとより甘さが際立つように。
光である主人公に対比する影として、あるいはその逆として、懸命に生きる姿に憧れた。
誰もが認める主人公でなくても、人の心を焼き焦がす存在になれるのだと。
どれくらい好きかと言えば、どうすれば自分もライバルキャラになれるかを考えた結果、スポーツの名門校に入学して嫌味なエリートキャラとして過ごすくらいには好きだった。
まあ全然なれなかったんだけども。
陰ながら主人公を助けたり、一方で人間性の面で対立したり……。
序盤はライバルとして完璧だったラゴウに、発売前から二次創作活動に励む熱量を注いでいた。
黒い日本刀に軍服風衣装、白髪赤眼の片目隠れライバルキャラなんて俺好みにも程がある。
胸を躍らせながら発売即プレイした結果、天上から地の底へと叩きつけられる羽目になった。
なんだこれは。
ライバルキャラの姿か? これが……。
怒りのあまりネットに長文お気持ち怪文書を投下しまくって炎上した。
推しが制作に愛されず、大衆からは馬鹿にしていい失敗キャラとして消費されてしまう悲しみ。
この胸の苦しみを言葉で表現できるはずもない。
俺はラゴウが理想のライバルキャラとしてもてはやされる世界を妄想する日々を過ごした。
「それがまさか、ラゴウに転生するなんてな……」
公式資料集に申し訳程度に記されていたラゴウの設定知識を活かして、現状の把握に努める。
ラゴウはある地方貴族の長男として生まれるのだが、当主は代々組織に忠誠を誓う狂信者だった。
「わ、我が息子が魔剣使いの素質を持って生まれた!? それは本当ですか!?」
『魔剣はそれぞれの適合者でなければ起動できない。故に反応を示した貴様の子息を頂戴に来た』
「ああ、こんな光栄なことはない! 組織の為ならばたかが息子の一人や二人、いくらでも献上いたしましょう! どうか存分に役立ててください!」
というやりとりを五歳の俺はじっと眺めていた。
実の親に一切の躊躇なく売られるって中々に堪える展開だよな。
そういう点も含めて悲劇の悪役っぽいところに惚れ込んだというのに製作陣ときたら……いや、愚痴はやめておこう。
組織へ向かう馬車に揺られながら考えていた。
このままいけば、俺はラゴウと同じ人生を歩むことになる。
悪の組織――魔剣の力で世界征服を目論むよくある感じのやつ――の幹部として育て上げられ、原作ヒロインと共に学園へスパイとして送り込まれ、中途半端なキャラのまま殺される。
逃げ出そうにもこんな子供のうちから親に売り飛ばされた以上、組織からの離反は不可能。
つまり原作ルートからは逃れられない。
下手をすれば本編時間軸に到達する前に犬死する可能性だってある。
そんなのは嫌だ。俺は死にたくない。
せめてラスボス戦後に主人公と戦って負けるやつがしたい。
「勘違いするな、助けたわけじゃない。ただ……貴様を倒すのはこの俺だ」って言いたい。
ラゴウという推しを、理想のライバルへ仕立て上げたい。
ならばやるべきことは一つだろう。
『魔剣戦記』は作品内での選択次第でストーリーが分岐するシステムを持っていた。
震える拳を天に掲げる。
ラゴウが理想のライバルキャラとして生き残るルートを、この手で掴み取ってみせようじゃないか。