悪の組織のライバルキャラ転生〜「勘違いするな、お前を倒すのはこの俺だ」と言いたいだけなのに〜 作:む〜べ〜
暗闇に閉ざされた黒十字の地下施設。
そこは凶悪な魔物がひしめく万魔殿であり、踏み入った者の希望を奪い去る地獄の底でもあった。
マンティコア、ヒポグリフ、キングトロル、ギガンテス、エルダートレント、ケルベロス、デュラハン、etc……。
どれも一つの地域の覇者となり得る力を持った凶悪な魔物たちだ。
そんな魑魅魍魎が跳梁跋扈する地獄の中。
彼らを蹂躙する、真の魔物の姿があった。
「首を落とせ! 死骸を晒せ! 我が眼前にひれ伏すがいい!」
というか俺だった。
「グガアァッ!!!」
今現在戦っているのはアダマンタイトドラゴン。
以前戦ったメタルドラゴンの上位種であり、名前の通りアダマンタイトというファンタジーあるあるの超硬度鉱石の鱗を持つ防御特化のドラゴンだ。
以前までなら『影踏』の防御無視ダメージを加味しても倒せなかった強敵。
だが、研鑽を積みまくった今なら違う。
「『
周囲の黒が『永闇』へと吸い寄せられていく。
『影食』はその名の通り、影を食い自らの力へと変換するスキルだ。
要は影をパワーリソースとした威力増強。
理論上、影がある限りどこまでも威力を高められる、『永闇』唯一の攻撃力上昇系スキルだった。
周囲の影を喰らい尽くし、白と黒の世界と化した檻の中で、影を束ねた一撃を叩き込む。
堅鱗を無視する強烈な攻撃を浴びせられた竜は血を吐き、呆気なく倒れこんだ。
防御特化など『永闇』からすればおやつも同然。
いい経験値になってくれた。
地下の魔物は黒十字が管理しているのでそう多くは倒せないが、それでも推測すると今の俺は最低でもレベル50は固かった。
「──お疲れ様でございます。治癒魔法をかけますので、そのままお待ちください」
「……音もなく背後に忍び寄るのはやめろといつも言っているだろう、サクナ。それとかすり傷程度のダメージしか負っていないから必要ない」
「かすり傷とて化膿すれば一大事でございます。ラゴウさまに万が一のことでもあればこのサクナ、後を追う覚悟を抱いております故」
重い。
「なにより、ほんの少しでも傷ついたラゴウさまを見ていられません。……ダメ、ですか?」
まるで捨てられた子犬のような下り眉の上目遣いで、俺への治療を懇願してくる。
…………。
「…………さっさとやれ」
「は、お任せください。サクナはラゴウさまの忠実な従僕ですので……っ」
ふんすっ、と何故かドヤられる。
あれから四年が経過した。
そう、つまり本編開始が一年前に迫っていた。
「……なのに」
本来なら死んでいたはずのサクナは、俺の馬鹿みたいなミスで生き残ってしまった。
それだけじゃない。
『これより我が身命はあなたさまの為に……此の命尽きる其の時まで、どうぞ従僕として如何様にもお使い下さいませ。ラゴウさま』
などと言って、従者キャラとしてのポジションを確立してしまった。
サクナは既に死んだと思われている身。
つまり黒十字の目を掻い潜って好きに動かせる駒になれるのだ。
長きに渡るいびりのせいで便利に成長したこともあって、手放すには惜しい存在となっていた。
それにもうセツカにサクナを殺す動機はない。
自分の手で殺すからこそ『悲しい過去を持つクールビューティ』としてのセツカに繋がったのに、今更別の要因で死んでも意味がない。
それだけじゃない。
「サク姉っ!」
「わ、セツカさん」
なんか擬似姉妹関係みたいもん築き上げとる。
ゲーム本編じゃ「ごめんなさい。私、貴方に興味ないから」なんて言ってたTHEクールキャラのセツカも、今やこんな感じだ。
「八時間五十六分二秒ぶりのサク姉だ……あったかい。今日もちゃんと生きてくれてる、嬉しい」
「セツカさんは心配性さんですね。よしよし、サクナはここにおりますよー」
「むっふっふ」
クールisどこ。
原作でも打ち解けた後は天然要素がギャップ萌えとなっていたが、既にクールが消えて愛が重い天然ペットキャラに成り果てていた。
そして今度はこちらに抱きついてきた。
「ラゴウも、あんまり無茶しないでね。地下の魔物は強いから、もしものことがあったらって思うと……怖い」
「……ハ、余計なお世話だ。俺がこの程度の魔物にやられるとでも? みくびりすぎだ」
そう吐き捨てるが、セツカは深い闇を目に湛えた。
「それでも、怖い。もうあの時みたいなことは嫌だから……いっそ氷漬けにしてずっとそばに置いておきたい」
「…………」
「セツカさん、いけませんよ。わたしたちはラゴウさまに付き従う身。たとえ破滅に進む道だとしても決して邪魔はせず、粛々と後を追うのみです」
「ぶー、だってラゴウもサク姉も危なっかしいんだもん。手足の一本や二本落とすくらいしないと安心できない」
怖いです。
重すぎる感情を向けられていて怖いです。
ナチュラルに思考が病んでて怖いです。
そして、全ての事情を知るスイゲツは今も黙認を続けていた。
なんならそれとなくサクナの様子を聞き出そうとしてくるくらいだ。
『童、その……サクナの奴はあれからどうだ、息災か?』
『息災』
『そうか……』
不器用な父親か何かかよ。
親族ではあるが親娘関係ではなかったはずだが。
しかも結局自分からサクナに接触しているようで、裏で何やら話しているのを見かけた。
もう何もかもがメチャクチャだ。
これでは原作知識が役に立たなくなってしまう。
一体どこで歯車が狂ってしまったのか。明白だけど問わずにはいられなかった。
ちらり、二人の方を見る。
「くらえサク姉、『冰雨』の冷たい刀身攻撃ー!」
「ひゃあ!? せ、セツカさん……! いたずらも程々にしないと怒りますよ……!」
「ふふん、油断したサク姉が悪い」
…………。
……………………。
「まあ……なんとかなるだろう」
多分。きっと。いや知らんけど。
☆
さて、他にも気にすることがあった。
アベリアとの約束にも関わることであり、当初俺が目標としていたものだ。
つまりは
ゲーム本編開始一年前になった今、そろそろあってもおかしくない
「確か原作のセツカの話だと、同じ十剣候補の団員と戦って勝利した……と言っていたな」
つまりは同じ魔剣使いとの戦いだ。
黒十字騎士団のボス、獅子王はとある手段によって他とは段違いの効率で魔剣を集めることに成功している。
魔剣は一本あれば、それだけで戦況を一変させる戦術級兵器として扱われている。
魔剣の『真髄』を使えるようになれば評価はさらに跳ね上がり、戦略級兵器となる。
それを十六本。
魔剣三十三工の半分近くを所有していることになる、まさに世界を裏から支配する悪の組織に相応しい軍事力だった。
「黒十字が保有する魔剣。その中で所有者がおらず空きがあるのは四つ。
「
突然聞こえてきた声に振り向く。
そこにいたのは、灰色の天然パーマの髪が特徴的な青年だった。
軍服を模した黒十字の隊服に、ジャボと呼ばれる貴族がつけていそうな白いヒラヒラとした首の装飾で独自に着飾っているのが目につく。
まるでハープのように幾つもの弦が張られた奇妙な弓を持つ彼は、気障ったらしい所作で髪を撫で付けると、
「どうも久しぶり、団員候補番号0721番こと現団員番号0011番ラゴウくん。私のことは当然覚えているだろう?」
「…………?」
「忘れたフリでもして気を引こうというのか? 残念だったな、この私がそんな幼稚な手段で惑わされるとでも?」
「…………???」
「お、おい! 本当に忘れたのか!? そんなことはあり得ない! 君と私は永遠の
いや全くもって知らんけど。誰。
主人公・シャクヤのライバルにはなりたいが、顔も知らんやつのライバルになった覚えはない。
「団員候補番号0326番だ! 同期にして同じ魔剣適合者の顔を忘れたとは言わせないぞ!」
「いや、忘れたも何も覚えたことすらない」
「なにぃ!?」
いたっけマジで。
「くっ、相変わらず癪に障る男だ……!」
「それで、貴様は何者だ。……『オーベルテューレ』の所有者と見て相違なさそうだが」
「フ、その通り! 私の名はルートヴィヒ・シックザール。団員番号0012番にして、獅子王様より奏弦『オーベルテューレ』を賜りし魔剣使い!」
設定資料集にすら出てこなかった名前だ。
セツカの台詞で断片的に語られたモブ同然の脇役だし、きっとロクに設定を作り込まれていなかったのだろう。
「獅子王様より言伝だ──これより一週間後、君と私! そして団員番号0013番と0014番とで空席の
「!」
「常に私の先をいく目の上のたん瘤だった君を打ち倒す日がようやく来たんだ。精々練習しておきたまえよ、
『オーベルテューレ』の弦が弾かれ、心地の良い音楽が奏でられる。
次の瞬間だった。
俺の頬が切れ、背後の廊下に敷かれた絨毯が数メートルに渡って引き裂かれた。
「ではこれにて失礼、我が
そうして嵐のように現れて去っていったルートヴィヒとやらの背中が消え、見えなくなった頃。
俺は背後の廊下の惨状を眺めて暫し思考に耽ると、ポンと手を叩いた。
「よし、見なかったことにしよう」
一週間後に迫る昇格試合の為に時間を有効活用しなければならないのだ。
下らない雑事にかまけている余裕はなかった。
くわばらくわばら。