悪の組織のライバルキャラ転生〜「勘違いするな、お前を倒すのはこの俺だ」と言いたいだけなのに〜 作:む〜べ〜
sideサクナ
『それで、例の『計画』は順調なんですか?』
ラゴウさまが昔よく鍛錬の場として用いていた廃鉱山付近の森。
一本の木の洞に隠された通信用魔道具で、彼の共犯者であるアベリアさまと話していました。
「はい。『計画』は万事滞りなく進行しております」
『そうですか。こちらもただ黒十字から姉を連れて逃亡するだけでは不安が残りますからね。うまくいけば奴らも壊滅、そうでなくとも大打撃を与えられれば追手を出す余裕もなくなるでしょう』
それより、とアベリアさまは続けます。
『
「……はい。一週間後に予定されております」
『ついに姉とお近づきになれるチャンスがやってきたかと思うと緊張と興奮で夜も眠れません』
「そんな、お体に悪いです」
『朝寝ました』
寝ましたのでございますか……。
『こちらも
「はい。ご協力誠に感謝いたします」
『精々期待しておいてあげますよ』
そういって通信は切断されました。
静寂が訪れる樹洞で、わたしは僅かばかりの興奮と大きな不安を抱きます。
「……昇格試合」
それは即ち、魔剣使い同士の殺し合い。
勝者総取り、負ければ命さえ失う究極の試練。
それ自体は黒十字では茶飯事ですが、しかし危険度はこれまでと比になりません。
ふと、瞳を閉じて記憶を再生します。
『……うん、いいよ。サク姉の計画、私も賛同する。この組織を放置していいとは思えない』
『セツカさん、ありがとうございます』
『でも忘れないでね。私にとってはサク姉とラゴウの命が何より大事。二人の命が危うくなったら、私は二人の四肢を切り落としてでも止めて、黒十字から逃亡する道を選ぶ』
『……それは困ります。ラゴウさまのお世話もできなくなってしまいますから』
『うん、だから気をつけて。……それに大丈夫。もしそうなっても、私がお世話してあげるから。家事もちゃんとできるようになったしね』
三人ずっと一緒にいられて楽しそう、と楽しげに頬を緩ませるセツカさん。
彼女がこれほどまでわたしたちを想ってくれているように、わたしもまた二人が心配でした。
夜、月の光が優しく照らす時間。
三人川の字で眠る寝台の上で、規則正しい寝息を繰り返すラゴウさまの横顔を見つめます。
『いい歳した男女がいつまでも四六時中一緒はマズいだろう。いい加減風呂と睡眠は別にしろ』
『嫌』『お断りします』
『無駄に息の合った反抗期が……!』
結局入浴の時間は別々となってしまいましたが、共に床に就くことは許してもらえたのです。
「……ラゴウさま……」
月光に照らされる愛しいお顔を眺め、手を添えた頬から伝わる温もりに鼓動が高鳴ります。
「あなたさまの
ラゴウさまが望むなら、どんなことでもいたしましょう。
ラゴウさまが望むなら、都合の良い女となりましょう。
ラゴウさまが望むなら、この身この命も捨てましょう。
「ですからどうか──サクナを、ずっとお側に置いてくださいませ……」
☆
昇格試合を目前に控えた俺は、本番に向けた対策と特訓に明け暮れていた。
「『オーベルテューレ』は確か、音を操る弓の魔剣だったか」
『オーベルテューレ』は弦を弾くことで大気を震わせ、対象を引き裂く『音の矢』を放つのだ。
「遠距離武器、それも魔剣が相手となると少し不慣れが気になるな」
身近に弓兵や魔法使いはいないので、適当な人員を探して特訓に付き合ってもらうしかない。
果たしてうまくいくだろうか。
「え、鍛錬に付き合ってほしい? 全然オッケーだよ! 待ってて、今用意するから!」
「お前に言われちゃ仕方ねぇ。付き合ってやるよ」
「構わない。あの日の恩もあることだ。いくらでも手を貸そう」
しかし心配とは裏腹に、声をかけた相手は快く了承してくれた。
一応確率を高める為にかつての同期に率先して声をかけたのが功を奏したのだろうか。
今や俺は次期
出世の為に協力したいと思う団員は多い、ということだろうか……?
「まあいいか」
ただでさえ原作から外れてしまっている以上、
ライバルが組織の下っ端じゃ格好がつかない。
『き、君は一体何者なんだ……!?』
『俺はラゴウ。黒十字騎士団の下っ端だ。つまり俺に苦戦しているようでは組織に倒すことなど不可能だということだ……』
みたいな感じになってしまう。
……でもこれはこれでありかもしれない。
日本一有名なライバルであるベジタブルな王子も、言ってしまえば悪の組織の下っ端だったわけだし。
いや駄目だ。あくまで俺が目指すのは『理想のライバルキャラとなったラゴウ』なのだ。
悪の組織の幹部キャラという設定は外せないし外したくない。
「魔剣のスキルは全部で八種。『永闇』が今現在使えるのは七種か」
実体のない分身を生み出す『影分身』。
相手の動きを縫い止める『影縫』。
影に潜って移動できる『影潜』。
影をエネルギーに変える『影食』。
自分と同等の力を持つ分身を一体だけ生み出せる『影武者』。
そして新たに習得したスキル。
自身の影に質量を与え、自在に操る『
影武者と自分の位置を瞬時に交代する『
「レベル差のゴリ押しで勝てそうな気はするが」
だが今の自分の力を確かめる為にも、スイゲツを見習ってみるのもいいかもしれない。
「……ん? 待てよ、このスキルの組み合わせってもしかしてかなり強いんじゃ……?」
そうして思いつく限りの鍛錬を重ね、スキルの実証実験をこなしていると、時間はあっという間に過ぎていくもので。
気がつけば、その時がやってきていた。
──黒十字騎士団の本部は、シュテッケン法国の皇都クライノートの地下に存在する。
シュテッケン法国はマグス教と呼ばれる宗教が国教として据えられている。
魔法や魔剣は有用であると同時に、多くの犠牲と悲劇を生み出してきた戦乱の火種でもある。
被害を受けた人も多い。マグス教はそんな人々の受け皿として発展してきた宗教組織だ。
『魔法は人智を超えた力であり、魔剣はその究極である。一刻も早い規制と根絶が不可欠だ』
まあ「自分たちは神に許されているからOK!」というダブスタ具合だし、教祖が獅子王なので完全に創作あるあるの悪の宗教団体なのだが。
「本部基地ともなると監視の目も厳しく、わたしが付き添えるのはここまで……試合はラゴウさまとセツカさんご自身の力で勝利して頂く他ありません」
街の途中で、サクナは別行動を宣言した。
当然だろう。黒十字にバレては元も子もない。
「わたしは信じています。お二人なら必ずや
「愚問だな」
「大丈夫、任せて」
サクナはふっと笑みをこぼすと、
「どうか元気で帰ってきてください。お二人の無事が、わたしにとって何よりの果報ですから」
そう残して、群衆の陰に消えていった。
俺たちもまた、覚悟を決めて一歩踏み出した。
路地裏に入り、隠し通路から地下の本部基地への階段を降りる。
行き止まりの岩壁に手をかざし、魔力認証を抜けると、岩壁に偽装された重厚な扉が開いた。
「……ここが、黒十字騎士団の本部基地……」
マグス教は西洋風の宗教だが、母体となる黒十字はどちらかというと仏教系の色が強い。
本部基地も神殿というよりは寺院といった方が雰囲気は近いだろうか。
石窟寺院にも似た暗い地下通路を照らすように暖色の灯明が等間隔で設置されている。
それはさながら誘蛾灯として、踏み込んだ者を喰らう地獄の誘いのようだった。
その誘導に従い、歩を進めていく。
過剰な装飾が施された扉の先、鮮やかな色彩が曼荼羅の文様を描く広大な一室に、奴はいた。
浅黒い褐色の肌に、相反する純白の長髪。
血のような赤い瞳に、薄笑いを浮かべた表情。
そして腰に携えた一振りの魔剣。
黒十字騎士団を治める獅子王。
『魔剣戦記』のラスボス、テンマ=ジナだ。
「我が宮殿、『
舐め回すような視線を向けられる。
嫌な目だ。原作知識を抜きにしても、人としてこいつのことは好きになれなかっただろう。
「時間通りとはいえ、獅子王様を待たせているのですよ? 貴方がたには十分前行動、いえ三十分前行動という発想はなかったのですか?」
チクチク言葉をかけてくる側近のミラ・ハーフアスドの方も好きになれそうになかった。
「構わない。それよりも……君たちが来たということは、『その時』もやってきたということだ」
視線を動かす。
そこには先日会ったルートヴィヒ・シックザールともう一人、大柄な体格をした斧使いらしき浅黒肌のオッサンがいた。
「彼らは君たちと同じ魔剣使いであり、優秀な団員だ。年齢もそう大差ない」
えっ嘘だろ。あのオッサン同年代なの。
「ラゴウはルートヴィヒと、セツカはウコンとそれぞれ戦ってもらう。勝利した者に
獅子王が指を鳴らす。
すると二つの魔法陣が現れた。
「その魔法陣は君たちを各々の戦場へ転送するものだ。足を踏み入れれば後戻りはできない。覚悟がなければ、ここで帰ってもらっても構わない」
まるでゲームで重要な戦闘イベントが始まる前に挟まる準備タイムのようだ。
だがゲームと違って準備のために一旦逃げ帰るようなことは許されない。
※その場合は魔剣と命を置いて帰ってもらうけどね、という但し書きが言外の意図として添えられているのだ。
魔法陣に乗り込もうとして、服の裾が引かれる。
セツカだ。今にも泣き出しそうな子供みたいな顔をしていた。
「ラゴウ」
「なんだ」
「死んだら、死ぬから」
「……ハ、誰にものを言っている」
そうとだけ答えて、各々魔法陣に乗り込んだ。
次の瞬間、視界を照らす光に思わず目を細める。
やがて光に慣れ周囲を観察すると、俺たちは円形の広い施設の中にいた。
戦闘には申し分ない。
俺は所定の位置につこうとして、気づく。
「影が、ない?」
いや、ないことはないがほとんどない。
どういうことかと見上げて、その理由に気づく。
「天井の照明か……ッ」
まるで正午の太陽のように照り輝くそれが、影の生成を存分に制限してくれていた。
思わぬ障害に戸惑っている俺を、しかし時の流れは待ってはくれない。
『所定の位置につきましたね。──では、これより
「ちょっ待っ」
「我が名はルートヴィヒ・シックザール!! 君を打ち倒し、
戦闘の火蓋が、切って落とされた。