悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのはこの俺だ」と言いたいだけの人生でした〜 作:む〜べ〜
音の多段攻撃『
「なに、影だと!?」
『
影爆弾が破裂して戻ってきた影を切り離し、その場に留まらせ緊急離脱用として残しておいたのだ。
「……どうやら逃げ足だけは一人前のようだ」
「解せんな。先の影爆弾、貴様の聴覚に狂いを生じさせるには十分なはずだ。なぜ見破れた」
「ほう、知りたいか? そんなに私のことが知りたいというのか?」
「いやそこまでは言って」
「ならば話そう! 我が過去を!」
俺こういう話聞かないタイプ嫌いだわ。
「私は音楽で名を馳せた一族の出だが、生来音が聞こえない体質でね。
余裕綽々の態度のルートヴィヒは聞いてもいない情報を語り始めた。
「しかし私はここで神懸かりの技能を手に入れた。耳ではなく、空気の振動を肌で読み取り音として知覚する技能。そして音楽を、音の『色』として捉える超感覚……生き残るために掴み取った、私だけの特異体質!」
音を触覚刺激で認識する、というのは現実でもあったはずだ。ネットで見たことがある。
それに五感のうち一つを失った人間が、別の機能でそれを代替するというのはよくある話だ。
たとえば視覚を失った人間が聴覚でそれを補うのは創作物でのお約束の一つだろう。
そして後者は『共感覚』と呼ばれる現象だ。
たとえば赤い色を見て『温かい』という感覚を覚えるように、一つの感覚刺激から別の感覚が刺激されることをいう。
奴は聴覚を触覚で補い、さらに共感覚によってその精度を高めているのだ。
「強烈な音色を浴びせられても、私にはペンキをぶちまけられたようなものだ。不快ではあるがそれだけ。無様に惑わされることはない」
「…… それで音楽のみならず言葉さえも習得できるのだから、あるいは普通の聴覚より便利だな」
「然り。私は聴覚を持って生まれなかったこの体を愛してこそいる。何故なら音鮮やかな色彩を感じ取れない愚物と違って、私は音楽に直に触れることができるのだから!」
芸術的な方向性はともかく、戦闘面ではなるほど確かに強力だった。
「なるほど。魔剣頼りではない、自らの技能によって魔剣の真価を引き出しているのか」
もちろん俺も魔剣頼りにならず、自分自身の技や体を鍛えてはいる。
だが優先的に鍛えているのは魔剣のスキルを絡めた戦闘だ。魔剣頼りと言われても反論はできない。
「『体』を縛っている俺では、この環境も合わさって不利になるのも頷けるな」
そんな俺の呟きに、ルートヴィヒは眉を顰めた。
「心外だな。その言い草では、まるで私を相手に手を抜いているかのように聴こえるが?」
「その通りだ。実際に戦ってみて分かったが、今の俺なら力押しで貴様を倒せる」
「……ほう、劣勢の分際でほざく」
「試してみるか?」
『永闇』を一度鞘に納め、居合の体勢を取る。
居合の極意とは迎撃・奇襲、つまり不意打ちだ。
納刀状態から、相手が認識できない
これはあらゆる武術・スポーツに共通することだが、対人戦においては物理的な速度と同じかそれ以上に、体感的な速度のほうが重視される。
人体という規格が同じ以上、極まれば速度域は自分と相手とでほぼ変わらなくなるからだ。
動作とタイミングがわかっていれば光もナメクジも変わらない。
逆に分からなければ、その攻撃はかわせない。
「──こんな風にな」
一瞬で距離を詰め、ルートヴィヒの首筋に黒い刃を押し当てた。
「ば……馬鹿な、視線は外さなかったはず」
「ああ、だからこうなった」
「何を、した」
「膝抜きだ。他にも数手間加えて俺独自の『型』にしているがな」
膝抜き、あるいは無足之法。
通常人間が移動する際は、地面を足で踏み込む工程を必要とする。
つまり体が上下に動いてしまうわけだ。
だが膝抜きは足を脱力させ重心を倒し、重力を利用して前に倒れるように移動する。
それによって相手に動きの前兆を読み取らせず、『いつの間にか迫ってきていた』という錯覚を生み出させるのだ。
俺も剣道に取り入れていた。カッコいいし。
とはいえ現実ではアニメや漫画のように一瞬で何メートルも詰められるはずもなく、単に一歩分の間合いを詰める為の技術でしかなかった。
しかし、この世界では違う。
超人的な身体能力を発揮できる『魔剣戦記』の世界では、現実の一歩分が何十歩分レベルにまで跳ね上がるのだ。
スイゲツからの教えでさらに手間を加え、完成を見せた俺だけの型──『縮地』だ。
「貴様のレベルは高く見積もっても精々30から40程度だが、俺のレベルはおよそ50から60……格の差があって当然だ」
「何を、言っている」
「だから『技』で勝つことを目標にした。ま……このザマだがな」
『体』がない場合、この移動術が効果を発揮するのは近距離においてのみだ。
中・遠距離戦を主体とするルートヴィヒには効果が薄いと判断して使わないでいた。
そしてこの体たらく。
『技』において、ルートヴィヒ相手に圧倒的大差をつけられるほど成熟していないということだ。
我ながら情けなかった。やはり中身が普通の男子高校生では厳しいものがあるか……。
「とはいえまだ試していない技もある。もう少し付き合ってもらうぞ、ルートヴィヒ」
「っ、馬鹿にして……! 下らない三文
放たれた音の矢を回避して距離を取る。さっきまでの距離感、ざっと十メートルほどだ。
「今ので私を殺さなかったことを後悔させてやる……! 奏でろ、『オーベルテューレ』!!」
ルートヴィヒの手指が複雑な動きをこなし、戦闘中だというのに思わず聴き入ってしまいそうなほど美麗な楽曲が鳴り響く。
「『
しかし、直後に掻き鳴らされたのは鼓膜を金槌で叩いてくるかのような不快音だった。
間違いない。これは『オーベルテューレ』が通常状態で放てる奥義の一つだ。
確定でガードを貫通し、相手に大ダメージを与えることができる。
「貴様の演奏は敵ながら心洗われるようだったが……これは聴くに堪えないな」
一方こちらは特に大技で迎え撃つようなことはしない。あくまでも『技』で勝利したいからだ。
刀を振り、下準備を終える。
あとは奴を倒すだけ。
「いけ、『永闇』ッ」
そうして、俺は自身の武器である『永闇』を勢いよく放り投げた。
「馬鹿が! 当たると思ったか!?」
しかし案の定黒刀は回避され、奴の後ろに突き刺さる。当然の結果だ。
そして武器を失った哀れな男は、無防備な状態で奥義を受ける末路を辿る。
「死ね、0721番ッッッッ!!!!!」
勝利を確信したルートヴィヒは、奥義を放とうとして──寸前で、ピタリと動きを止めた。
自ら寸止めしたのではない。
体が動かせなくなっているのだ。
そう、刀の影から姿を現した『影武者』による『影縫』の効果によって。
「馬鹿な、分身だと……!? 本体は今もそこにいるはず! なぜ分身が魔剣を扱える!?」
「『影武者』は俺の影だ。一体しか生み出せない代わりに
そう、俺本体と同じく『永闇』を持てば指示した通りにスキルを行使することも可能だった。
「『影武者』を刀の影に潜ませ投擲。貴様の背後に刺さると同時に浮上させ、『影縫』によって動きを止める。貴様相手では下手に攻撃させると殺気を感じ取られ対応されかねなかったからな。どうだ? 指一本動かせまい」
「ぐ……! だ、だがこの状態だと、君の方も魔剣での攻撃はできないんじゃないか!?」
「ああ、できんな。……魔剣では、な」
ニヤリと笑う。
「だが、剣がなくとも拳はある」
これこそ俺が新発見した『永闇』のコンボ。
『影縫』によって動きを止めている間に、俺本体もしくは『影武者』がボコろう戦術……!
「ま、待て!」
「いいや、待たない」
拳を握る。
直後、原始的な暴力の音が鳴り響いた。
ちなみにルートヴィヒの音楽用語ルビはドイツ語です。