悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜   作:む〜べ〜

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第2話 理想の悪役ライバルたるもの強くあるべし

 基礎修練──使える駒とそうでない駒を子供のうちから選別するための仕分け作業。

 落ちこぼれは容赦なく死に、殺される。

 

「お、おねがいします、もうやめ゛──ぎぇ」

 

「ふん、たかだかこの程度の打ち込みにも耐えきれんとはな。この肉はあとで魔物の檻にでも放り込んでおけ!」

 

 さっきまで命だったものが地面に投げ出される。

 最初は恐怖で沸いていた悲鳴も一人が「うるさい」という理由で殺されてからは聞かなくなった。

 

「0721番、次は貴様だ! ……魔剣適合者で、次期『十剣(シュヴェルト)』候補だからと甘く見るなよ。俺は貴様のような生意気なガキが嫌いでな。つい痛めつけたくなってしまうんだ」

 

 俺を目の敵にしている『傷の教官』から、稽古という名の木剣による打ち込みを受ける。

 歯を食いしばって必死に耐えるしかなかった。

 

 ちなみに『十剣(シュヴェルト)』というのはよくある四天王的ポジションだ。

 

 第一位(アインス)から第十位(ツェーン)までのドイツ語読み数字の称号を与えられる幹部陣。

 原作でのラゴウは第九位(ノイン)だったので、その地位を目指すつもりだった。

 

「何をしている0326番! ナメクジと競争でもしているつもりか!? 魔剣適合者だから甘やかされると思うな、あと一周でも遅れたら殺処分だ!」

 

 最初に始まるのは子供には厳しすぎる強度の走り込みで、最低10km単位からだ。

 古い監獄を再利用した修練施設の運動場で、体力の尽きた子供から死んでいく。

 

「……流石は悪の組織というべきか……」

 

 これでも時代遅れなしごき文化の残る強豪校に在籍していたので、厳しいしごきには耐性があった。

 それでも比較にならないほどキツかった。

 自認がラゴウでなければとっくに折れていた。

 

「ほう、0721番はもう走り込み百周を終えたのか。同じ魔剣適合者でも0326番とは大違いだ」

 

 『傷の教官』は俺の他にも一人いるらしい魔剣適合者にも辛辣な態度をしていた。

 もしかしたら嫉妬かもしれない。

 だとしたら迷惑なことだ。

 

「殊勝な心がけだ、精進するといい。もっとも──この先も、その心持ちを維持できればの話だがな」

 

 ここまでが準備運動。

 ここからが本領発揮だった。

 

 まず待ち受けているのは悪の組織あるある、禁止薬物をふんだんに活用した非人道的な肉体改造だ。

 

 ここまでやっても普通に鍛えて強くなった主人公たちに負けるんかーいと突っ込まれるまでがセットのイカれた人体実験で、年齢一桁の子供に下手したら死ぬ劇薬を投与していた。

 

 というか横で何人か死んでいた。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛!゛」

 

 原作通りなら俺は死なないので、生まれてきたことを後悔する激痛に耐えればいいだけだ。

 

 ストレスか、はたまた薬物による影響か。

 黒髪が白髪に、黒目が赤目になってしまったが、原作通りなので問題はなかった。

 

 素体を鍛えたら、お次は実戦面での訓練だ。

 

 同じ団員候補の子供達と戦い、実戦経験を積む。

 殺人してもお咎めなし、推奨すらされている。

 隣なんか相打ちで死んでいるくらいだ。

 

「0721番! 今日こそ君との因縁に終止(Schluß)を打たせてもらう!」

 

 などとほざく子供をぶちのめしたり、時には凶悪な魔物の前に放り出されることもあった。

 

「今日の訓練での死者は五名だった。貴様らもこうなりたくなければ死に物狂いで励むように。分かったか!」

 

 この人でなし!

 なんて言ったが最後待ち受けているのはデッドエンドだけなので、お口にチャックをつけておこう。

 

 鍛錬を終えても油断はできない。

 数少ない心休まる食事の時間ですら、事前通知なく容赦ない訓練が始まることもあった。

 

「えっ、今日はステーキたべていいの!?」

 

「ああ遠慮するな、今まで苦労した分たっぷり食え……」

 

 などと甘い誘惑の言葉を囁く時は大抵罠だ。

 

「これより毒魔法散布訓練を開始する!」

 

 このように、毒耐性を上げるための訓練が急に始まることもあった。

 

 調子に乗って食べすぎれば吐瀉物が喉に詰まって死ぬし、ちゃんと備えていても毒への抵抗力が足りなければもちろん死ぬ。

 

 そんな死と隣り合わせな生活が続くこと三年。

 今日も今日とて、ようやく底冷えする雑居房の毛布に包まれる時間を迎えられた。

 

「……ようやく今日分の修練が終わったか……」

 

 周りを見渡すと、みんな目が死んでいた。

 そりゃそうだ。

 転生者だから中身が成熟していて、精神と肉体が馴染みきっていないのか苦痛の実感が鈍い俺ですら死にたくなる。

 自殺モノの境遇だろう。

 実際既に何人かは自死を選んでいる。

 

 俺も原作知識の安全保障があっても、本当に死なないのか恐怖で胸が張り裂けそうになる時はある。

 

 そんな時は理想のライバルキャラになった自分(ラゴウ)を妄想する。

 陰のあるクールなライバルキャラというのはえてして◇悲しき過去──を背負っているものだ。

 ここで辛い目にあえばあうほど、本編開始後のライバルキャラムーブに深みが出るのだ。

 

『そこまでの強さを手に入れる為に、一体どれほど壮絶な人生を歩んできたんだ……!?』

 

『フ、ぬるま湯のような日々を過ごしてきた貴様には想像もつかない"闇"の人生さ……』

 

 みたいなね。

 原作のラゴウが耐えられたなら、今現在ラゴウである自分も耐えられて当たり前。

 

 ……どんな苦痛も、自分は今ラゴウなのだと思えば耐えられた。

 

「しかしこのまま漫然と過ごしていていいものか」

 

 ラゴウはお世辞にも強くはなかった。

 中盤で出番がなくなってから急に死んだので当然といえば当然だが。

 

 原作をなぞった先にあるのは『死』だ。

 万難を排すためには原作を壊さないよう慎重に、しかし大胆により強くならねばならない。

 

「というわけで、お前の分の薬物を追い投与したいから代わってくれないか?」

 

「あ、頭おかしいんですか……?」

 

 まるで異常者を見るような目を向けられた。

 

「あんなの一日に二回も受けたら死んじゃってもおかしくないですよ……? というか死ぬよ……?」

 

「俺は死なない。そういう星の下に生まれたからな」

 

 とはいえ原作から外れた動きなので最悪死にかねないのだが、死の末路が待ち受けている以上、結局どこかで賭けに出る必要がある。

 正直恐ろしくはあるが、やるしかない。

 

「……ごめんなさい、ありがとう……!」

 

 というわけで薬物投与×2が可能になった。

 最近はちょっと動悸が激しくなって胸が締め付けれるように痛むくらいで効き目が薄くなっていたのだ。恋かな。

 

 二回打つくらいが丁度いい負荷に感じられた。

 筋トレもそうだが、徐々にキツくしていくのが鍛錬の秘訣だった。

 

 次は魔物の討伐数を少しでも稼ぎたかった。

 経験値の概念があるか未確定だが、それを抜きにしても実戦経験は積んでおきたいからだ。

 

「グオオオオオオオオ!!!!!!!」

「ひっ、やられる──!」

 

激ウマ経験値(ミニトロル)発見! 死ねえええぇぇぇ!!」

 

「い、いきなり現れて魔物を叩き切った!?」

「た、助けてくれてありがとう……!」

 

「ん、ああ……気にするな。じゃ」

 

 なんかよく分からんお礼を言われたので適当にあしらって再び狩りに赴く。

 不足する体力はゲーム知識をもとに採集した薬草で補う。余った分は他人にでも渡しておく。

 

 そして三年の努力がどれだけ実を結んだか。

 丁度いい実験相手が声をかけてくれた。

 

「0721番、試合稽古の時間だ。いつものように可愛がってやるから楽しみにしておけよぉ?」

 

 散々俺を可愛がってくれた『傷の教官』だ

 嗜虐的な笑みを浮かべ、まるで自分の勝利を疑っていない様子だった。

 構わない、それでこそ下し甲斐がある。

 

 そうして試合稽古が始まった。

 流石に苦戦は免れない、と思っていたのだが。

 

「おや、どうしました教官。いつもと比べて動きが鈍いように見えますが」

 

「ぐっ、この! 馬鹿な、当たらんだと……!? クソッ、八歳のガキがちょこまかと!!」

 

 どうやら追い投薬や魔物との実戦はちゃんと効果を発揮してくれていたらしい。

 木剣の斬撃を軽く避けていく。

 圧倒的格上だった『傷の教官』がまるで雑魚キャラだった。

 

「疾っ!」

 

 斬撃をかいくぐって傷の教官の足に打ち込む。

 激痛に思わず膝をついた奴の襟を掴むと、そのまま木剣の切先を首筋に添えた。

 

「なっ……!?」

 

 完全勝利だ。笑みを浮かべて煽ってやる。

 

「修練生に負ける気分はどうですか? 教官殿」

 

「ッ……き、貴様ァ……!! 舐めるなよクソガキがッ!! 教官に無礼な言動を働いたな!? これを口実にして今すぐ地獄に叩き落としてや」

 

 る、と言い切る前に『傷の教官』の首が落ちた。

 別の教官が剣でそっ首を刎ねたのだ。

 

「……なぜ、と理由を聞いても?」

 

「ここでは弱肉強食が絶対の掟。子供に負ける弱者が教官など、反乱すら助長させかねない誤謬だ。よって排除した」

 

 黒十字騎士団においては強さこそ正義。

 魔剣適合者かつ実力を示した俺とあの教官。

 どちらが優先されるかは明白だった。

 

「フン、大方魔剣適性を持つ者への嫉妬といったところか……馬鹿が。教官といえど所詮黒十字の飼い犬であることに変わりないというのに」

 

 『傷の教官』の死体に唾が吐き捨てられた。

 彼もこの基礎修練を乗り越えて生を掴み取った精鋭なのに、こうもあっさりと。

 

「……やはり、もっと強くならなくては」

 

 拳を握る。決意を固め、さらなる特訓に励んだ。

 

「今日はここまで! 各自房に戻るように!」

 

「お待ちくださいアスモダイオス教官、まだ鍛え足りません!」

 

「0721番……教官の一人を倒したそうだな。もう十分強くなっただろう。これ以上は必要ない」

 

「いえ! これじゃダメなんです! こんなもんじゃ足りない! もっとシゴいて! 俺をシゴきまくってください!」

 

「え、なに……こわ……」

 

 ライバルキャラたるもの、最初は主人公を圧倒できる程度には強くあるべし。

 俺はゲーム知識も活かした自己強化に心血を注いでいくのだった。

 

 

 ・団員候補番号0721番についてのレポート

 

 ──0721番は妖刀『永闇』を扱う素質を見出された魔剣適合者である。基礎修練では慎重に取り扱うべし。

 

 ──訓練態度は至極真面目であり、境遇に絶望して折れる様子も見受けられない。組織への貢献意欲も認められ、総じて優秀な団員候補と評価できる。

 

 ──ただし過剰に自分を追い込む癖が見られる。基礎修練に加えて自己流の鍛錬も行っているとの報告あり。

 

 ──内容は他被験者の肩代わりによる規定量以上の薬物接種や想定していない魔物の討伐等。教官を下すなど想定以上の成果を上げ続けているため不問に処すが、少しでも異常や不調が見られた場合はやめさせるように。

 

 ──それに伴い、他被験者からある種の英雄扱いを受けている模様。本人は素知らぬ顔だが、何かを企んでいるかもしれない。腹の底が読めない子供なので注意されたし。

 

 ──なお担当教官の一人であるカイナ・アスモダイオスから「あんなに気の狂った奴は今まで見たことがない」とのコメントあり。参考までに。




十剣(シュヴェルト)は某十刃的なものと思っていただければと。
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