悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
アレクサンドラはチュートリアルヒロインだ。
公式の攻略推奨順という意味でもそうだが、ゲームにおける対魔剣戦という意味でもそうだった。
魔剣同士の派手なバトルは『魔剣戦記』の醍醐味。彼女はプレイヤーの初めてを優しく手解きしてくれる存在だった。
「今時懐かしさすら覚えるイベントだな」
入学式前の一大イベントとして演習場は既に人、人、人でごった返していた。
「太陽剣『ウテナ』……能力の一端でも見られればいいけど、あんな田舎っ子相手じゃ難しいか」
「さて、それはどうかな」
「……? どういう意味?」
さあな、と不敵に笑って返す。
これが後方理解者面というやつか……。
「見せてもらおうか。王国の至宝、太陽剣『ウテナ』の性能とやらを」
スポーツもので試合会場の通路の陰で密かに監視しているライバルキャラみたいなノリで呟く。
懐かしい。前世でもよくやったな。
やった相手の学校みんな敗退したけど。
「先に一本先取した方の勝ちよ。私は寸止めしてあげるけど、貴方の方は遠慮なく打ち込んできてくれて構わないわ。それくらいのハンデがないと話にならないもの」
「は、はい。武器は木剣を使うんですか?」
「いいえ、自分の『剣』を使うわ──ラシード!」
「は、ここに」
アレクサンドラはどこからか現れた執事から、紅玉が埋め込まれた黄金の剣を受け取った。
刃渡は一メートルを優に越え、全長でいえばアレクサンドラの身長と同程度はある
金色に輝く刀身に刻まれた紅い梵字の
「貴方の剣は? 私の剣と打ち合うには心許ないっていうなら、学園の支給品を渡すけど」
「いえ、僕も貴方の剣に負けない凄い剣を持ってるから大丈夫です」
対するシャクヤは、純白の刀身が眩しい一振りを抜いてみせた。
豪奢を極めたような『ウテナ』と違う自然の美しさは感じられるが、形状としては何の変哲もない普通のロングソードだ。
それで「貴方の剣に負けない」といわれて王族としてのプライドが傷ついたのか、アレクサンドラはそこはかとなく怒気を滲ませながら、
「上等じゃない。……我が名はアレクサンドラ・オブ・サイフォス。我が父より太陽剣『ウテナ』を賜りし剣士として、此処に
「え、ぼ、僕の名はシャクヤ。えっと……村の近くの洞窟に刺さってた剣をたまわりし? 剣士として、ここに剣の誓いを宣言します……?」
「っ──
とことん馬鹿にされたと感じたのか、アレクサンドラは爆発的な速度でシャクヤに切り掛かる。
「うわっ、くっ、速ッ!?」
「どうしたのかしら、無礼者くん? まだまだこんなものじゃないわよ!!」
嵐のような剣戟が甲高い鋼の音を鳴らす。
アレクサンドラの剣捌きは基本に忠実で、それ故見事なまでに流麗な動きだった。
西洋剣術において、型とはあくまで動きの一部分を切り取った姿勢に過ぎない。
型と型の間を埋める動きこそが肝要なのであり、一動作を終えても留まらず、流れるような剣戟を見せるのが特徴だ。
ましてアレクサンドラが持つ太陽剣『ウテナ』は
その重量を振り下ろす勢いを乗せたまま剣を振り続けるのが正式な戦い方だった。
「ふうん、温室育ちのお嬢様かと思ってたけど……やるね、彼女」
「サイフォス王家は自ら戦の矢面に立つことで永く王威を示してきた一族……ハリボテでは務まらん」
ゲームにおいての彼女はアタッカータイプ。
高火力の連打によって『魔剣戦記』でトップクラスのDPSを叩き出すキャラだった。
それはこの世界でも変わらずに、波状攻撃によって攻勢を保ち続けていた。
だが、そろそろ彼女も気付くことだろう。
それでも何故か攻めきれない、という事実に。
「っ、この! かわしてばかりでっ、攻めてきたらどうなの!?」
防戦一方であることに変わりはない。
そう、変わっていないのだ。
シャクヤは様々な角度からの斬撃を受け流し、間合いを保ちながら火花と共に刃を打ち払っていく。
「そんな余裕っ、ないっ!」
「ハ、だったらこれで終わらせてあげる!!」
アレクサンドラが高く剣を振り上げる。
狙いは頭蓋、真っ向からの振り下ろしだ。
全長、重量共に通常人間が振るう剣としては最上級である両手剣から放たれるそれは、鋼鉄の鎧すら両断しかねない威力を誇っている。
対して、シャクヤが選んだのは後退ではなく前進だった。
一歩分間合いを詰め、刃よりも先に振り下ろされる部位である『手』を蹴り上げることで、必殺の一撃を食い止めた。
「なっ」
一撃必殺を狙っていたアレクサンドラに致命的な隙が生まれる。
だが彼はそのまま距離を取った。
「あ、あいつアレクサンドラ様とまともに打ち合ってるぞ」
「まさか、まぐれだろ」
「でも互角にやれてるような……」
「というか、今ヤバくなかった……?」
ええぞ、ええぞ。
主人公が微妙だとライバルも映えないからな。
「嘘、私の剣を防いだ……!? いえ、それよりも──貴方! どうして今剣を振らなかったの? 振っていれば勝て……はしなかったでしょうけど? いい攻撃が通っていたかもしれないのに!」
不可解な行動だ。それは対戦相手であるアレクサンドラが一番強く感じたのだろう。
その問いに、シャクヤは何でもない風に答えた。
「いやあの、気迫が凄くて咄嗟に……なんというかこう、僕の村によく出てきたアサルトボアっていう猪の魔物みたいで……」
申し訳なさそうに、しかしそう思うならそもそも口にするなよという無礼千万な発言に、決闘を見守る周囲全員の肝が冷えた。
打首の刑に処されてもおかしくない暴言。
下された判決は、焚刑と斬首刑であった。
「ふ、ふふふっ。面白いじゃない、気に入ったわ──ぶっ飛ばしてあげる、私の魔剣でね!!」
「えっ寸止めしてくれるんじゃ」
ついさっき口にしたばかりのハンデを秒で投げ出すほどの激情が、起唱という形で吐き出された。
「──
瞬間、大気を焼き尽くす紅白の火炎が爆ぜた。
肌を炙り、流れた汗が落ちきる前に蒸発するほどの赤光が放たれる。
花弁の如き火の粉の一粒一粒が、町々を燃やし尽くす大火の如き熱量を保有しているようだった。
だが、『ウテナ』の炎の真骨頂はそこじゃない。
「石畳が……燃えた……!?」
決闘場に敷き詰められた石畳が、溶けるのでも焦げるのでもなく『燃えていく』。
本来燃えないはずのモノも燃やし尽くす暴食の炎、それこそが太陽剣『ウテナ』の力だった。
「よ、よく分からないけどなんだかヤバそうだ。さっさと勝負を決めなきゃ……!」
焦って攻勢に出るシャクヤに、しかし炎の羽衣を纏ったアレクサンドラはただ立ち尽くす。
諦めているのではない。
対処する必要がないのだ。
「ぐ、ぅう!?」
刃が炎の羽衣に接触した瞬間、小規模の爆発が発生して斬撃ごとシャクヤを吹き飛ばした。
「悪いわね、『ウテナ』を目覚めさせた私にナマクラの刃は通らない……勝負にもならないから使う気はなかったけど、コケにされちゃあ仕方ないわ」
パッシブスキル『日輪の羽衣』。
ダメージを軽減し、さらには接触攻撃に対して固定の割合で反射ダメージを返す特性だ。
「この世界だとある種の爆発反応装甲のように表現されるのか。しかも一定威力以下の攻撃は無効化される……フ、面白いなぁ……!」
ゲームで散々見た魔剣でも、いざ現実で見ると興奮が抑えきれない。むほほ。
「安心して、峰打ちにしてあげる」
「峰ないじゃないか……!」
まさに絶体絶命のピンチ。
周りの観客も「終わったな」と諦めムードだ。
勝ち目も光明も一切見えない敗戦処理。
「魅せてみろ、主人公」
だからこそ。
奴の主人公としての特質が輝くのだ。
「これはこっちも本気出さないとマズいな……ラニ! "アレ"をやる!」
「ん、オーケイ! "アレ"だね!」
シャクヤは何故か一度剣を鞘に納めた。
「……? なに、勝負を諦めたのかしら?」
「逆です。貴方は強いから、僕も本気でやりたくなった」
そして、その文言を呟いた。
「──
「……は?」
それは、一体誰が漏らした言葉だっただろうか。
特定が馬鹿らしくなるほどの人数が口に出したことだけは確かだった。
観客も、他国から遣わされた使者も、黒十字からの刺客も、隣でこの試合を見ていたセツカも、誰もがその異常性に目を奪われた。
サイフォス王国の至宝、太陽剣『ウテナ』。
その対立を。
「う、嘘……な、なんで貴方がそれを……太陽剣『ウテナ』を持ってるのよ!?」
「
「そんな理由でぇ!!」
アレクサンドラは動揺冷めやらぬまま切り掛かるが、そんな太刀筋が通るはずもなし。
先程までの流麗な剣捌きはどこへやら。
なまじ魔剣の身体強化によって両手剣の重量を十分扱える膂力を得てしまったせいで、逆に剣術の冴えが落ちてしまっていた。
「こ、の……っ! これならどう!?」
ならばと、アレクサンドラは爆炎を放出。
シャクヤに距離を取らせると、剣をまるでバットのように振りかぶる体勢を取った。
「灼き尽くせ、『アグニ』!!」
『ウテナ』の初期解放スキルだ。
巨大な火炎の斬撃がシャクヤに襲いかかる。
受けるは愚策、回避は不可能。
であれば自然、取れる手段は唯一つ。
「灼き尽くせ、『アグニ』」
同一の攻撃を衝突させ、猛る豪火を相殺した。
「は──」
ただでさえ混乱激しいアレクサンドラの頭蓋に、更なる困惑が叩き込まれる。
その隙は致命的だった。
決闘場の中央で燃え盛る炎を突っ切って猛進するシャクヤは『日輪の羽衣』を容易に貫通して、アレクサンドラの首元に刃を当てた。
「僕の勝ち……ってことでいいですか?」
「……う、うそお……」
決着がついた。
予想外の終幕に、誰もが唖然としていた。
「そうこなくてはな」
ただ一人、俺を除いて。