あれから一年が過ぎた。
基礎修練を終え、魔剣使いのエリート街道を約束された俺は、組織から厚遇を受け悠々自適な悪役ライフを送っていた。
なんてことはなく。
「脇が甘い。視野が狭い。なにより死力を尽くせていないッ」
「ぐぼぉっ!?」
むしろその逆、徹底したスパルタ教育を受けていた。
おぶちのめしくださるのは
幹部最強の剣翁スイゲツだ。
「その程度では、妖刀『
「ごはぁっ!?」
そんな相手だから当たり前のようにボコられることしかできない。
魔剣戦記はキャラの攻撃モーションのモデリングに現実の剣術等の動きを取り入れている。
スイゲツのベースは新陰流。
後の先を得意とする活人剣であり、相手を思い通りに動かして勝つ剣術だ。
この世界では『
俺は前世で剣道もやっていた関係で、剣術にも多少は明るいからこそ分かる。
この男は化け物だ。
相手は魔力による身体強化を行っていないというのに、剣先をかすらせることすらできなかった。
ちなみに剣道をやっていた頃の俺は、才能と根性は一人前だが経験が追いついていないTHE・主人公な同級生にいけ好かないライバルキャラとして絡んでいた。
そしたら嫌な奴として無視されたままインターハイ優勝してしまった。
嫌味なライバルキャラをやる場合は好感度調整が大事と思い知らされた中学三年の夏だった。
「獅子王様の命を受けた故、仕方なく試してみたが……
えっなにその身勝手な理屈は。
おかしいな。中身はともかく、身体はラゴウのものだから十二分に才能に溢れていると思うのだが。
……いや、才能に溢れていたらあんな不遇な扱いのまま終わらないか。
彼の言う通り、優秀ではあれど最終的にはTierBくらいの実力で終わってしまったのがラゴウだ。
だが、それでは困る。
最終的にTier Sまでいく主人公のライバルになるためには、せめて一段階上のAまでいかなくてはならない。理想をいえば最強格に肩を並べたい。
弱いライバルキャラなんて興醒めだ。
そう、例えば――第一位のこの男を超えるくらいにはなりたい。
「待て、爺さん」
「……なに?」
「さっきから黙って聞いていれば、まるで人の才を既に見極めたかのような上から目線の物言い……気に食わないな」
「事実、貴様の剣からはさしたる未来も見通せぬ」
「ハ、早くも老眼が来たようだなスイゲツ翁」
木刀を地面に突き立て、残る力を必死に振り絞りながら立ち上がる。
「俺は妖刀『永闇』を手にし、必ずや『
「……ほう」
剣鬼の瞳が一層眼光鋭くなる。それはまるで、視線という名の銀閃であった。
並みの人間ならば向けられた殺気と恐怖で怯え震えるだろう窮地。
だが理想のライバルキャラになるという夢を抱く俺には通じない。
この程度で躓いていては話にならない。
それにライバルキャラというのは、プライドが高く負けず嫌いなものだ。
『今回は負けたが、次こそは俺が勝つ。それまで負けるんじゃないぞ』
的なね。
「威勢だけは感嘆に値する――いいだろう、童相手に力で勝利しても空しいだけだ。その生意気折れるまでは稽古をつけてやろう」
木刀の切っ先が向けられる。
怪我をしないよう優しく打ち込んでくれるなんて甘えた考えは持つだけ無駄、有害まである。
最悪死んでもスイゲツは一切気にしない。
文字通り死ぬ気で挑まなければならない。
だからこそ。
「理想に至る壁にしては生ぬるい試練だ……!」
まだまだ本編時間軸に到達すらしていない。
つまりこれは不遇キャラとして名高いラゴウもクリアした試練なのだ。
その先を目指す以上、こんなところで挫けるわけにはいかない。
木刀を構えると、目の前の頂きに向かって一閃を振り下ろすのであった。
☆
スイゲツにとって、それはただ退屈なだけの仕事でしかなかった。
彼の故郷に起源を由来する妖刀『
影を操るその武器は、陰に潜み世界を裏から支配する黒十字騎士団に相応しい一振りといえた。
その適合者として見出された少年。
『永闇』との浅からぬ因縁もあって、どれほどの逸材かと思い稽古をつけてみたが、彼の想像以上に想像以下の凡夫だった。
彼には他人の剣才を見抜く眼力が宿っている。
その人間がどれだけの才を有し、どれほどの兵として大成するのかがある程度分かるのだ。
そこへいくとラゴウという少年はそこらによくいる凡夫でしかなかった。
子供にしては優れた肉を持っているが、技はお粗末にも程がある。
正真正銘の凡人よりは才に恵まれていても、毎年掃いて捨てるほどに湧き出てくる天才。
そういった意味での凡夫。
──下らぬ。
スイゲツというキャラクターは、ひたすら純粋なまでに強さを追い求める求道者だ。
強者には敬意を払い、弱者は一顧だにしない。
本来ならラゴウはここで見切られ、彼との縁は結ばれないはずだった。
けれど今回は違った。
明かされていない設定までは知りようのない現在のラゴウは、今回のイベントを『原作のラゴウも乗り越えた試練』と誤解した。
結果、ラゴウは折れない道を進んだ。
──技も体も見飽きた天才。だが『心』だけは拙の目を以てしても底知れぬものがある。
それが、スイゲツの琴線に触れた。
「踏み込みが甘いッ! 恐怖に惑わされるなッ! 男子が刀を握ったなら、その瞬間己が命など捨てたものと思えッ!」
「押忍ッ!!」
組織最強の幹部に修行をつけてもらえるという原作との相違点。
その些細な違いがどういうルートを形作るのかは、まだ誰にも分からない。
しかし一つだけ言えることがあるとすれば。
──ああああああああああ打ち込みクッソ痛えええええええ!!!! 少しは手加減しろよクソジジィ!!!! 女性人気高いイケおじだからって調子乗るなよクソぉ!!!!
本人が一番よく分かっていない。
それだけは確かだった。