悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
は~うまく誤魔化せてよかった。
フヨウと戦った時以上の緊張感あるピンチを乗り越えて一息つく。
なんとか説得されてくれたセツカは、糸が切れたように眠っていた。
隈もすごいし、もしかしたら一睡もしていなかったのかもしれない。
「……セツカさん、一日以上ずっと寝ずにラゴウさまの無事を案じておられました。不安で泣き腫らしていた疲労もあって、ぐっすりお休みのご様子ですね」
「そうか」
静かな寝息を立てるセツカの頬にそっと触れる。
俺とサクナのいない夢を見る、とか言っていた。
本来辿るべき原作の記憶が流れ込んできた──みたいな話だろうか。
……いや、別にこの世界でもたまたま俺がサクナを助けてしまったから今があるだけで、予定通りならそうなっていた。
考えすぎだろう。
「わたしも同じ気持ちです。本当に……ようございました。もしもラゴウさまの身に何かあれば、サクナは正気ではいられませんでした」
「大袈裟な」
「大袈裟ではございません。この身はあなたさまと共にあります。あなたさまが死ねば、わたくしも死ぬ覚悟でございます」
サラッとめっちゃ重いこと言うじゃん。
冗談……ではないんだろうな、こいつも。
「セツカの言葉を聞いていただろう。軽率に死を選ぶと悲しむんじゃないか」
「はい。ですからラゴウさまも、決して死なないでくださいませ」
「ああ言えばこう言う。ええいもういい、不在だった間の報告を聞かせろ」
かしこまりました、とサクナは居住まいを正して報告を始めた。
「ラゴウさまが置かれた『影武者』によって本部基地滞在中、他者に不在を気取られることはございませんでした。……『影武者』による替え玉の実験はひとまず成功ということになります。しかし肝心のフヨウ氏は用事で不在とのことでしたので、彼女の天眼にも通じるかどうかは不明でございます」
「事前に相応の魔力を込めていれば、魔剣を休眠状態にしても『影武者』は行動可能だということも分かった。手痛い失敗だったが、いい実験の機会にもなったと前向きに捉えよう」
ゲームと違って魔剣スキルを日常活用できるのか。それは以前から試していたことだった。
ある程度の実証実験は済んでいたが、実際にやってみてどうなるかは分からない。
こうして早いうちに試せて良かったと思おう。
『天眼』の性能次第ではワンチャン既に俺の正体がバレている可能性も危惧していたが、獅子王やミラの反応やフヨウの動きから察するにこちらも大丈夫と考えて問題ないだろう。
多分。そう思いたい。
「それと……例のシャクヤさまとラニさまですが、昨日ラゴウさまが不在の間に学園の生徒たちに難癖をつけられ、決闘を申し込まれる事態になっておりました」
「! ……ほう、してどうなった?」
「お相手が貴族の子息たちだったのでお二人とも対応に苦慮しているご様子でしたが、アレクサンドラ王女が途中で助けに入り、事なきを得ました」
サクナの報告を聞いて、心の中でガッツポーズを取る。
これはゲームでもあったイベントだ。
平民の身分で魔剣を持ち、魔剣科に在籍する栄誉を預かったシャクヤとラニに対して、嫉妬心を働かせた貴族の生徒たちが練習稽古と称した決闘を申し込むのだ。
つい昨夜黒十字の人間に襲われたばかりで心身ともに弱っているというのに、勝っても負けても面倒なことにしかならない難題をふっかけられて悩む二人。
そこになんとアレクサンドラが救いの手を差し伸べるのだ。
『練習稽古? それなら代わりに私が稽古をつけてあげるわ。この無礼者は仮にも私に勝った男なんだから、私を倒せない程度の腕前じゃ挑むだけ無駄でしょう。違うかしら?』
『そ、それは……ひっ! し、失礼いたしましたァッ!!』
『あ、アレクサンドラ王女……様? どうして、僕たちを助けてくれたんですか?』
『フンッ、勘違いしないで。別に貴方を助けたわけじゃないわ。ただ私に倒される前に貴族相手に下手な真似して退学されても困るってだけよ』
などとまるでツンデレキャラのような台詞を吐いて立ち去っていく。
主人公及びプレイヤーはそれを皮切りにして彼女への評価を改める流れになっていくのだ。
「今のところは原作に沿っている……! 運命というか修正力というか、やはり多少の変化は本来の大筋に収束するようになっているのか?」
「しゅーせーりょく」
「これが世界線の収束か……」
「しゅーそく」
とにかく、先日の事件による影響が物語の本筋に多大な影響を与えていないようで何よりだった。
「となれば次なる舞台は課外授業……魔物が住まう森での実地訓練か」
「入学前に学園に潜入して密かに入手した予定表にもあった行事でございますね……王都から馬車で半日ほど離れた場所に広がる魔物の群生地である森へ出向き、力量を試す授業。……そこで黒十字の襲撃が予定されております」
「ああ、その通りだ」
ゲームでもこの課外授業イベントは共通ルート中間の山場として設定されていた。
サクナの懸念通り、黒十字騎士団がアレクサンドラやシャクヤ、ラニに対してどれだけ魔剣の力を扱えているかの検証をする目的で強力な魔物を放つのだ。
レベルは20。普通に進めていたらシャクヤのレベルが10もあればいい方なので、アクションゲームが苦手な人は苦戦しかねない。
そういった人たちへの救済策も兼ねてアレクサンドラが共闘し、戦闘を通じて彼女と絆を深めるイベントなのだ。
「王都から離れた森の中……つまり護衛の数も相応に減る。まだ入学から一週間も経過していない時分故、そう派手な動きをみせるとは考えづらいが……油断して痛い目を見たばかりだ。少し慎重に動いた方がいいだろう」
「はい。わたしもその意見に同意いたします」
「当日は俺やセツカも堂々と魔剣を携えて同行できるから、ルートヴィヒには待機を命じておく。黒十字の監視の目が多い森に連れて行くのは危険だ」
「であれば不測の事態へ対応する人員として、このサクナをお使いくださいませ。この身は毛先から足の爪先に至るまで全てあなたさまの所有物……如何な命令にも従ってみせましょう」
「お前には気配遮断のスキルもある。適任だな。――サクナ、お前には当日アレクサンドラ王女、並びにシャクヤとラニの監視兼護衛の役を命じる。期待しているぞ」
「はい。必ずやそのご期待に応えてみせます……! むっふっふ」
その笑い方くせね。
「それと『脚』から入手した情報ですが……ラゴウさま。エアフォルクさまの一件についてのご相談なのですが
エアフォルクの一件? どういうことだ?
……ああ、本部基地でエアフォルクとちょっとしたいざこざがあった時、『脚』の誰ぞが隠れて盗み見ていたのか。
「問題ない。アレも俺の
「承知いたしました。ではそのように」
そういって今夜の作戦会議も恙なく終了する。
シャクヤとアレクサンドラの仲が深まり、彼女の√に入りそうかどうかの見極めも可能になってくる段階。
物語の歯車が大きく動き出す予感に、胸中の高ぶりが止まらなかった。
☆
side:サクナ
深夜、お二人が眠る寝台から抜け出してわたしは『脚』のおひとりと作戦概要の最終確認をしていました。
エアフォルクさまによる作戦内容の一部変更についての情報。
当初予定されていた魔物より遥かに強力な個体の投入。
詳細は不明ですが、いかに魔剣使いといえども未熟な者では対処しきれないレベルの魔物が選ばれたと聞きます。
他にもいくつかの
それにより作戦に多大な影響が及ぶ可能性があります。
そのことでラゴウさまにお尋ねしようとしたところ、先んじて察知なされていたのか「問題ない」との返答がございました。
「サクナ様。これはつまり、どういうことでしょうか?」
『脚』の中でも結びつきの強いフラーラさまとの会話で、ラゴウさまの思惑を推理し、組み立てていきます。
「黒十字は『天眼』を一時的に隔離できる手段を試す、とのことでしたが……」
「はい。ですが向こうにはわたしも交戦した暗部の魔剣使いもいます。いかに強力な魔物でも、熟達した魔剣使いであれば対処は容易でしょう」
「黒十字の団員たちにはどう対処するのでしょうか」
「狙いはシャクヤさまとラニさま、そしてアレクサンドラ王女殿下です。会敵しないよう誘導すれば問題はないかと。それに彼らも魔剣使い、対抗手段は持ち合わせています。それでも不足する穴は我々が埋めるのです」
とはいえ戦力的には五分と五分。
王国側も先日の一件で十分注意しているでしょうが、黒十字が奇襲を仕掛ける都合上どうしても不利にならざるを得ません。
そのうえで、なぜラゴウさまは問題ないと言い切られたのか。
「ラゴウさまの狙いは恐らく──エアフォルクさまの介入を見越したうえで煽り、実行に移させ、そして失敗に追い込むこと。そうすることでかの御方を蹴落とし、今より高い地位を得て黒十字からの評価と信頼を確固たるものにするおつもりなのです」
「! なるほど、それならば
「はい。そしてわたしたちでさえ知り及んでいない情報もあって『問題ない』と断言なされたのでしょう」
「……先の襲撃任務はもとより失敗に終わることが前提でした。
「恐らくは。失敗なりの意味があった、とはこのことだったのでしょう」
であれば我々にできるのは、彼を信じて全霊を尽くすことのみ。
「わたしたちに失敗は許されません。死力を尽くして臨みましょう」
「はい。美しさだけが取り柄の私も、今回ばかりはそれ以外の面でもお役に立ってご覧に入れましょう……!」
一通り話し終え別れると、わたしはお二人の待つ寝台に戻ります。
そして幸福そうに眠るセツカさんと、抱き着かれて苦しそうにしているラゴウさまのお顔を眺めながら、明日への意気込みを新たにするのでした。