悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
「それじゃ、これから『魔獣の森』での実地訓練を始めるよ。私たち教師の目もあるとはいえ、凶悪な魔物が蠢く危険地帯であることを重々承知した上で、この課外授業を通じて君たちの魔剣への理解を深くし……是非とも『覚醒』に至ってくれたまえ」
──サイフォス王立剣士学園の課外授業。
それは『魔剣戦記』においてアレクサンドラのヒロイン力が大幅に上昇するイベントでもあった。
黒十字が使役する魔物である『隻眼のオーガ』というボス個体に襲われ正規ルートから外れた道に落ちてしまい、魔物ひしめく森の中、三人で安全な場所を目指す……という内容だった。
このイベントを超えて、シャクヤとアレクサンドラがどういう関係性になるのか。
それが最も注視すべき要素だった。
「『魔獣の森』、か」
ゲーム序盤に出てくる場所だけあって、出現する魔物も低レベルの弱い魔物がほとんどだ。苦戦もしない。
「但し『魔獣の森』は危険だから、二人一組で行動してほしい。それとシャクヤ少年とラニ少女は二人で一人とカウントさせてもらうよ。君たちは二人揃わないと魔剣の力を十全に発揮できないようだからねぇ」
「はーい! うけたま!」
となるとシャクヤとラニ、アレクサンドラ、サルファ、セツカ、俺の五人ということだから……一人余るな。
「無礼者! 私と組みなさい! この授業で今度こそ貴方より私の方が強いってことを証明してあげるわ!」
「え、えぇ……」
「ふん、シャクヤはあなたなんかに負けないんだから!」
「ハ、後で吠え面かかせてやるわ! そういうわけだからラシード、貴方はここで待機よ」
「かしこまりました」
「せっつん、ボクと組まない? キミとはあまり話したことがなかったから、クラスメイトとしても仲良くしておきたいなーって」
「構わな……せっつん?」
なるほどね。
俺がぼっちとして余るって寸法ね。
別に気にしてないけどね。
前世の頃から慣れてるしね
クールなライバルキャラを標榜している以上、むしろ名誉まであるしね。ね。
「ふうむ、それでは一人余ってしまったラゴウ少年は私と組もうか。君のことは前々から気になっていたしねぇ」
無言で首肯する。原作のラゴウはこのイベントの最後で少しシャクヤと絡む程度だ。
これ以降は主人公に接触してきて意味深な言動や行動をとり始めるが、今のところは大人しくしておこう。この前失敗したばかりだし。
第一陣としてシャクヤたちが『魔獣の森』へと踏み入っていく。
ここに出てくる魔物なんてボスである『隻眼のオーガ』を除けばスライムやゴブリンに毛が生えた程度の魔物ばかりだ。
一応サクナが二人の監視に回っているはずだが、そう心配もいらないだろう。
……とは思いつつも、一応不安なので『影武者』を護衛につけておく。
お次はサルファとセツカのペアが足を進める。
ほぼ一方的にサルファが話しかけてセツカが二言三言で返している。
そうして。
最初にシャクヤたちが森に入ってから三十分、ようやく俺の出番が回ってきた。
「それでは行こうか、ラゴウ少年?」
「……ああ」
丸眼鏡越しに向けられた黒白の瞳が俺を捉える。
その視線に込められたのは一生徒への平坦な感情か、はたまた学園に潜り込んだ鼠に対する敵意か。
前者だといいなぁ。
☆
『魔獣の森』に出てくる魔物は取るに足らない低レベルの雑魚ばかりだ。
徒手空拳であっても余裕で倒せる。
それはフヨウも同じで、原作での彼女の強さを思えば指一本で倒せても不思議はなかった。
だから自然と、俺達が意識するのは周囲の魔物よりもお互いの存在だった。
「その腰に下げている魔剣は抜かないのかい? 王国における魔剣研究の先頭をひた走っている私としては、是非拝見させてほしいものだが」
「……見せびらかすものでもないだろう」
「ふうむ、つれないねぇ」
言いながら、樹木の陰から襲いかかってきたグラスウルフを裏拳で倒す。
さっきからお互い魔物の方を一瞥することもなく、申し訳程度に舗装された森の道を歩いていた。
「ちなみに私の魔剣は『
「思わん。……やめろ、顔を近づけてくるな……!」
性格はアレだが、外見に関しては美の具現だ。
同じ白髪だが、彼女のそれは真実純白の毛髪。
白以外の一切の色もくすみも存在しない、外界との輪郭がぼやけて見えるほどの白。
陶器のような肌、宝石のような瞳、長いまつ毛。
高価なビスクドールを思わせる造形美。
生れてこの方異性に対して魅力を感じたことなんて数えるほどもないが、異性云々よりも一つの造形物への畏敬の念すら覚えてしまう。
「魔剣の性能は秘匿すべき情報だろう。そのように不用意に明かすべきではないと思うが……?」
「アハハ、心配してくれるのかい? クールな雰囲気とは裏腹に存外優しいんだねぇ、君」
だけど心配ご無用、と彼女は続けた。
「バレたところで問題ないから、私は最強なんだよ」
鼻につくが、事実として彼女は最強だ。
少なくとも現時点においては我らが師匠スイゲツと並んでツートップ。
保有する魔剣の性能差でスイゲツに軍配が上がるかもしれないが、しかし彼女はスイゲツにはない『天眼』という生得的優位性を備えている。
最終的にシャクヤの側に立つ以上、彼女が敵に回ることは考えにくいが、仮想敵として修練を積むのは悪くないかもしれない。
「とはいえ私も万能ではない。この『眼』も魔剣が相手では後手に回ることも少なくはない。もし私の手が届かないことがあれば、その時はよろしく頼むよ」
「……何故。俺は外様の部外者だ。仮に王国の姫君が死に瀕していたとしても助ける義理はないし、助けたなら相応の見返りは貰う。そのような人間でしかないが」
「決まっているじゃないか」
フヨウは速足で俺を追い抜くと、振り返り、その異様の瞳を覗かせた。
「君が、少年と少女を殺さなかったからさ」
────────。
「……何の話だ?」
「ふうんむ……ふふ、反応はないねぇ。いっそ平坦すぎるくらいに」
素知らぬ顔で問い返す。
彼女がカマをかけてくる可能性は想定していた。
原作でもシャクヤの報告を聞いて、学園内に間者がいる可能性を疑っていた。
これくらいならまだ許容範囲内だ。
「まあいい。なんにせよ、君さえよければ余裕のある範囲で皆を守ってもらえるとありがたい。特に少年と少女は目を付けられやすいからねぇ」
「それは、先日彼らに絡んできたという貴族の子息のような?」
「いいや、もっと厄介な奴らだよ」
どうやら怪しまれてはいるようだが、確たる証拠は掴めていないようだ。
その程度なら申し分ない。
どうせいつかは正体を明かして協力関係を結ぶオリジナルのルートに入る予定だ。
最悪正体がバレたとしてもリカバリは効く。
予定より大分早倒しになるから、できれば避けたいところだが。
「……考えておこう」
「どうもありがとう、ラゴウしょうね──ぐぶっ」
そしてどうやら、彼女からの頼みを叶える時間が早速やってきたようだった。
「いたた、一体何が──これは、結界……!?」
道を歩いていたフヨウが突然何かにぶつかったように弾かれ、鼻先を抑える。
一方、俺の方はそのまま歩を進められていた。
「俺の方は何事もなく通れるようだが……確かに、気配は薄いが言われてみると結界が張られている感覚はするな」
「かなり高度な結界だ。今張られたというより、私の『眼』を以てしても気づけないほど薄く大気魔力と同化させ、今励起状態に遷移したというべきか……!? いやそれよりも」
フヨウは自身の右手に魔力を集中させると、勢いよく結界を殴りつけた。
結果、魔力だけは結界を素通りして、フヨウの肉体だけが結界に拒絶された。
「これは……間違いない。一部の人間だけが侵入を許可された結界というより、特定の人間のみの侵入を拒絶する結界だ」
「……つまり」
「『私だけを侵入させないための結界』だねぇ。それもご丁寧に、あくまで私の『肉体』のみに対象を絞って破壊されることを極力防いでいる」
魔力による身体強化には二種類ある。
単純に肉体を魔力で補強すること、そして適切に魔力を放出して運動を補助すること。
これはその後者にあたる"魔力放出"や、魔法による破壊を防ぐための仕様だった。
原作でも同じ状況だったので驚きはしないが、一方でこうして現実で目の当たりにすると到底信じがたい神業の如き結界だった。
フヨウでも通過が困難な結界なんてよく作ることができたな、と感心さえした。
確か獅子王製作だったはずだが、流石は永らくを生きたラスボスと言うべきだろうか。
まあ原作だと「最初は焦ったけど、冷静になったらすぐに対処できたよ」といってすぐに破られてたはずだが。
そのうえで姿を隠してシャクヤたちを見守ることで、学校に潜む間者の正体を探っていた……みたいな流れだった。
それもあって今回はぶっちゃけ失敗確定なので、俺が何もしなくても問題はない。
むしろ下手に動けば勘付かれてしまう。
「どうやら私はまだ連中を見くびっていたようだ。魔剣の贋作といい、この結界といい、私が想定するより一段上の技術力を有している……!」
「そして貴様だけを侵入させない結界ということは、それ以外を素通りさせるということ……それでも問題ないと判断して張った結界、か」
フヨウはふう、と一度だけ溜息を吐くと、
「さっきの頼みを早速聞いてもらう時が来たようだ。シャクヤ少年とラニ少女を狙う不届き者の魔の手が忍び寄っている。私が駆け付けるまで彼らを、できれば皆を守ってくれるかい? ラゴウ少年」
「……さあな」
そうとだけ返事して、木漏れ日が差す道を変わらぬ速度で歩いていく。
俺がやるべき今回の仕事は最後に現れる二体目のオーガを倒し、シャクヤとちょっとしたイベントを交わすことだけ。
シャクヤたちの護衛にはラシードもいるし、最悪サクナたちもついている。
さらに保険として『影武者』も尾けさせた。
これなら心配する要素はどこにもないだろう。
安心して歩を進めていった。