あれから一年が過ぎた。
スイゲツーズブートキャンプのお陰か、俺の戦闘力は飛躍的な向上を見せていた。
この世界は基本的に魔力を用いることで超人的な戦闘力を発揮できる。
これは原作知識があるからといって楽ができるわけじゃない要素だ。
地道な反復練習がものをいう。
なので俺はひたすらボコられながら、スイゲツを手本に身体強化のコツを掴んでいった。
「フ、もはや生傷がない状態の方が珍しいレベル」
だがその分の成果はあった。
妖刀『
攻撃力や防御力は控えめな反面、有用なスキルを活用して戦う。
つまり今は地道に技術力を高め、魔剣を手にしてからレベルを上げていくのが一番効率的だった。
「まあ、ゲームそのままの世界じゃないから過信は禁物なんだけども」
『倒した相手の魂を取り込む』的な理屈で似たような概念はあるようだが、レベルやステータスの確認はできない。
スキルだって都合よく『〇〇%攻撃力アップ』だとか『攻撃力の〇〇%分のダメージを相手に与える』とか、そんな分かりやすい表記はない。
あくまでゲームによく似た異世界だから、といったところだろう。それは利点にもなりうる。
ゲームではできないような能力の幅を、自由に広げられるということなのだから。
「ついてこい、童。齢十になった貴様に対し、獅子王様がお与え下さった褒美の逸品をくれてやろう」
ここ二年間ですっかり師匠と化したスイゲツの爺さんにいわれて後をついていく。
「如何に適合者といえど、心身共に鍛え上げなければ魔剣の持つ『魔力』に翻弄されかねん。故にこれまで鍛錬を続けてきたが……結局、貴様が拙の想像の域を超えることはなかったな」
事実だがひどく心外な一言だった。
ラゴウの本領は影を操る『永闇』の力を活かしたトリッキーな戦術にこそある。
魔剣を手に入れたら絶対に吠え面かかせてやるからな……!
「だが、その生意気折ることはついぞ敵わなんだ」
扉が開かれる。
そこには台座に横たわり、赤い鎖に巻かれた一振りの刀が鎮座していた。
「魔剣三十三工が一振り、妖刀『
促されるままに歩を進める。
ゲームでも幾度となく俺を魅了してくれた、影を操る力を持った日本刀。
黒い日本刀が嫌いな男の子がいるだろうか?
否、いるはずがない。
赤い鎖が弾け飛ぶ。漆黒の鞘を手に取る。
影蝶透かしの鍔から伸びる刀身を抜き放つ。
黒い鋼に、笑みを浮かべる口元が反射した。
「貴様が妖刀『永闇』か。……フ、悪くない」
ひとまず第一関門は突破できた。
ここからはひたすら修行して
やはり思想的な対立は外せないよな。
ラゴウは孤独こそが人を強くするといい、仲間と共に戦う主人公とは相反する思想を持っていた。
しかし原作より主人公や他キャラとの交流を増やすことで、徐々に絆されていく。
そして主人公と共闘関係を築き、第三勢力として組織を内から崩していく……。
うーん最高。
よしこの路線でいこう。
「その場合原作ヒロインのセツカとはどういう接し方をすればいいんだろう」
幹部『
凍てつく水を操る涙刀『
ラゴウと同じスパイとして学園に潜入する役だ。
彼女は我が師スイゲツとの深い因縁がある。
スイゲツの持つ太陰刀『
彼女ら一族は組織が『潮月』を手にするために滅ぼされたが、セツカだけは適合者としての素養を認められ命を拾うのだ。
「ま、原作通り付かず離れずの距離感を保つか」
原作でのラゴウとセツカはあくまで同僚。
特別な関係を築いていたという描写もない。
職場の席が隣の人くらいの距離感なんだろう。
物語開始前から大きく逸れた行動をしては原作知識がクソの役にも立たなくなってしまう。
なるたけセツカとは距離を取る方針でいこう。
「これから貴様の妹弟子となるセツカとサクナだ。兄弟子として面倒を見てやるといい」
「えっ」
そのはずだったのにいきなり皮算用となった。
兄弟子ってなに。そんなの俺知らないよ。
設定資料集にそれっぽい匂わせもなかったよ。
「……
「……
しかも謎の黒髪キャラもいた。
サクナって一体誰……いや待てよ。
記憶が正しければ、セツカの過去にまつわる話で出てきたことのある名前だ。
セツカ同様適合者として見出された彼女の幼馴染で、スイゲツと同じ家系でもあったはず。
しかし実際は適合しておらず、本命であるセツカを躾けるための駒として引き込まれたのだ。
同じ適合者は二人もいらない、という名目で行われた最終試験によってサクナは命を落とし、友を殺したセツカの心は折れ、組織に忠実な僕と化す。
というのが大まかな過去だった、はずだ。
まさかここで接点を持つことになるとは思わなかったが、原作から大きく乖離した覚えもない。
描かれなかっただけで原作でもあった流れなんだろう、きっと。
「適合者同士、気も合うだろう。良くしてやれ」
「……黒十字の騎士に馴れ合いは不要では?」
「無論だ。まさか拙が童同士の朗らかな馴れ合いを求めているとでも思ったか?」
なるほど、つまり先輩として存分にしごいてやれという命令なわけだ。
体育会系の強豪校に青春を注ぎ込んだ過去を持つ俺にとっては簡単な話だ。
ジュースとか買いに行かせればいいかな。
「……っ」「…………」
サクナの長い黒髪の後ろにセツカが隠れていた。
二人で苦楽を共にしてきたのだろう。確かな絆を結んでいるのが感じられた。
まあ最後はその絆を利用されるんですけどね。
「……俺はラゴウ。爺さん……スイゲツ翁に師事する兄弟子として、貴様ら二人の面倒を見ることになった。だが馴れ合う気はない。情けをかけてやるつもりなど毛の先程もないと知れ」
少なくとも主人公と交流するまでは、原作のラゴウのように孤高路線でいく。
『ふん、貴様らと馴れ合うつもりはない。俺は俺の道を行く……精々友達ごっこに励むことだ』
そういってクールに立ち去る。これよこれ。
それとセツカとは変なフラグを立てたくないので、基本話しかけるのはサクナの方にしよう。
どうせすぐ死ぬので、仮に妙なフラグが立ったとしても原作に影響を及ぼすことはない。
「はい。元よりわたしたちに選択の余地はございません。あなたさまの言う事に全て従います」
「……わ、私も」
「それでいい。ではまずは、そうだな」
……何をさせようか。
単なる魔剣適合者から所持者にランクアップしたことで組織での地位も上がった。
ここからはある程度の自由行動も許される。
なので原作知識を活かした鍛錬を積もうと思っていたのだが、こんな流れは想定外だ。
「……とりあえず今後、俺の身の回りの世話を全て貴様らに任せることにしようか」
先輩の無茶振りに応えるのは後輩の役目だ。
一昔前の体育会系のノリを未だに引きずっていた強豪校に通っていた経験を、思う存分活かさせてもらうぜクックック……。