悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
──原作における今回の流れはこうだ。
隻眼のオーガに追われ洞穴で一時休息する二人。
ふとした会話の流れでアレクサンドラは自らの身の上話をすることになり、弱音をこぼす。
それをシャクヤが励まし、二人の絆が深まったところで追いついてきたオーガを相手に戦い勝利。
そこへ突如現れた二体目のオーガを前に万事休すか、といったところでラゴウとセツカが助けに入る。
次いで現れた黒十字の集団を隠れて様子を見ていたフヨウが倒す。
幹部である二人が助けに入った理由は二つ。
『フヨウに恩を売り信頼を得るため』という口実と、それを建前にした甘さだ。
だから俺もその流れに乗れば大丈夫。
……そのはずだが、計画の変更等があった以上は万全を期すためにフヨウの存在を確認してから助けに入りたい。
実際、キマイラのせいで原作より全体的にスピーディーな展開になっている。
フヨウがいるつもりで介入して「実はまだいませんでした」じゃ俺の立場が危うくなる。
その思いで気配や姿を探っていたが一向に見つからない。本当にいるんだろうなあの女。
そうこうしているうちに交戦が始まった。
『影武者』がいる以上最悪の事態は避けられる。
その前にフヨウを見つけなければ。
そう思い、視界の端にシャクヤたちを捕らえながら捜索を続け──、
「……サクナ?」
サクナの介入に、不思議と足が動いた。
☆
「き、君は……ラゴウ、くん?」
シャクヤからの問いかけを無視し、狐面越しにサクナと視線を合わせる。
多少汚れてはいるが、傷付いてはいなかった。
──……ラゴウ、さま?
それだけで、俺が『影楼』によって『影武者』と位置を交換した本体である事を悟ったようだった。
……どうせあのままだと『影武者』が助けに入っていただろうが、俺が命じたのはシャクヤたちの危機に対応しろという指令だった。
サクナの危機にまで反応するかどうか、自信が持てなかった。
フヨウは見つからないままだ。
それでも俺は助太刀に入った。
その理由を考えようとして、後回しにした。
頭を振って敵に目を向ける。
巨体ごと弾き飛ばされたキマイラたちだったが、既に体勢を立て直していた。
「助かったわ。けどこの状況かなり最悪よ。まともに戦おうだなんて考えず逃げに徹するべき。……手を貸して、もらえるかしら?」
「……ここまでの騒ぎ、森にいた怪しげな黒装束たちも直に寄ってくる。下手に抱えて逃げるより、この場で討伐した方が安全だ」
「討伐って。一体はかなり弱ってるみたいだけど、もう一体はまだまだ余力がある。学生の私達が敵う相手じゃ……」
「それは貴様らが生易しい世界でぬくぬく育ってきた凡夫だからだろう」
挑発に等しい言葉をかけられたアレクサンドラは案の定キレるが、俺から放たれる魔力の圧を感じてすぐに圧倒されてくれた。
「あの程度の魔物、一撃で屠り殺してくれる」
『永闇』を構え、二体のキマイラを視界に収める。
奴らもまた、俺という存在をこの場の誰よりも脅威だと見做し、慎重に様子を伺っていた。
「どうした? 来ないのならこちらから行くが」
わざわざ待ってやる義理もない。
キマイラの背後からもう一人の俺が現れ、黒い刀を振るった。
『GYAO!!!!』
しかしそこはレベル70、即座に反応してもう一人の俺を掻き消す。
だが蛇による感知能力が潰れているのが仇になったようだ。
「引っかかったな、それはただの『影分身』だ」
『GE!?』
体勢が崩れた一瞬を狙って懐に潜り込む。
隙だらけの体躯を切り裂くべく構えを取り──寸前、弱っていた方のキマイラが飛びかかってきた。
「ら、ラゴウくん!?」
シャクヤたちの視点だと、俺はもう一体のキマイラの突進をモロに受けた形だった。
やられてしまったのでは。
心配からか立ちあがろうとするシャクヤの頭を押さえつける。
「人の心配をする暇があるなら疾く身体を治せ……貴様が一番の足手纏いだぞ、模倣の」
「え……えっ!? な、なんで!? さっきまでそこに……えっ!?」
無論、むざむざ喰らうほど馬鹿ではない。
『
『永闇』最後のスキルであり、影から影へ潜りショートワープすることができる。
移動先は視界内の影に限られたり、いくつかの制約はあるが、利便性は他の追随を許さない。
今回はサクナの影にワープさせてもらった。
「そして……これで一箇所に纏まってくれたな」
刀身を大地に突き立てる。
「丁度空も曇天。この森は今、雲による影に覆われている。……この意味が分かるか? 畜生共」
『
森を染め上げる影が瞬く間に『永闇』へと吸い寄せられていく。
『永闇』はサポート・テクニックタイプの魔剣だ。有用なスキルが多い反面、太陽剣『ウテナ』のような火力には恵まれない。
『影食』によって多少は補えるが、しかし一撃の威力という点ではやはり数段劣る。
だが、その弱点を補うスキルがある。
各魔剣に設定されている二つの奥義の内の一つ。
理論上『サラマバサラ』の『
「貴様らの死が、
影の吸収が終わり、刀身を引き抜く。
四方八町、数百メートルに渡って円形状に森の影が食らい尽くされ、光も影もない世界が再構成される。
剣を振り上げる。
スイゲツの爺さん風に言うなら雷刀、剣道風に言うなら上段の構え。
防御を捨てた攻撃の姿勢で、荒れ狂う影の暴流を解き放つ。
「奥義発動」
静かに、その名を呟いた。
「────『
刹那、色が消えた。
星を食らう影の牙。
空間そのものを墨筆で塗り潰すような一撃は、まるで世界が白と黒の二色だけで構成される水墨画のようであるとさえ錯覚させた。
サクナが振るう『随心』を弾き、まだ低レベルとはいえアレクサンドラの『ウテナ』による一撃でさえ痛打にならない怪物。
だが『影食』により最大限威力を高めた奥義の前に、その外皮の堅牢さは意味をなさない。
防御を無視する『影踏』すら不必要。
何故なら俺の
つまり、絶死絶命の一太刀である。
「…………」
誰も、何も口にはしなかった。
ただただ茫然と口を開けて、目の前の現実を飲み込むことに全霊を注いでいた。
俺はというと、確かな手応えを感じて静かに標的となる二頭の姿を捉える。
何百メートルにも渡って木々が薙ぎ払われ、大地が裂けた暴流の跡で、キマイラたちは重なるように倒れていた。
「……やるな」
だが、まだ一頭は事切れてはいなかった。
直撃を避けた上、攻撃を受ける寸前に全身から魔力を放出するのが見えた。
それで即死を防いだのだ。
更に弱っていた方が盾になるような位置関係だったのも功を奏したのだろう。
しかし致命傷は免れていない。
肢体はバラバラで、右半身が消し飛んでいる。
上に重なっている方に至っては頭部以外ほとんど原型を留めていない。
もう一分と保たずに命を落とすだろう。
「折角だ。『永闇』の錆にしてやろう」
ゆっくりと歩き、キマイラの下へ行く。
もはや視界さえ覚束ないのか必死にもがいていた。
一頭がもう一頭に覆い被さるように乗っているから、抜け出そうとでもしているのだろうか。
「死ね」
原作が壊れかねないと焦らされた鬱憤も兼ねて、せめて一息に楽してやる。
その思いで放とうとした斬撃はしかし、寸前で誰かに腕を掴まれることで不発に終わった。
「……何の真似だ、模倣の」
背後の下手人に問いかける。
シャクヤは何故か悲しそうな顔つきをしながら、目の前のキマイラ二頭を見つめていた。
「あの……多分だけど、その二頭はきっと、
「なに?」
「だから、もう永くない時間を……せめて最期だけは、安らかに過ごさせてあげてほしい」
キマイラの方を見る。
抜け出そうともがいていると思っていた行動は、その実、上に覆い被さっているキマイラを揺さぶって反応を確かめているだけだった。
体を揺すり、顔を舐めて、しかしもう目を開けることはない。
ここへ来る前に随分と弱っているようだったし、盾になるような位置関係でもあって──そこまで考えて、気付く。
「……ああ。ような、ではなく……盾になったのか、お前は」
毒に侵された身で、番を守ったのだ。
「よく分かる」
「父さんと母さんが、似たような最期だったから」
そう言って、シャクヤは二頭に対して手を合わせる。静かに目を閉じると悲しげに祈った。
「……自分を襲ってきた魔物相手に、よく情けをかけられるな」
「そうだね。感傷的になってるだけかもしれない。でも……もしかしたらだけど、この二匹は無理矢理やらされてただけかもしれないから」
ちらり、首輪に視線を向ける。
シャクヤの察しの通り、黒十字騎士団は特殊な魔道具の首輪によって魔物を従えている。
それによって強力な魔物を兵として従え飼育している。夫婦で捕らえられていても不思議はない。
「君が合流してきたのはきっと、奥さんを守るためだったんだね」
似たようなイベントは原作でもあった。
二体目のオーガを倒したラゴウとの会話だ。
その慈悲に満ちた表情を見て、改めてこの男が『魔剣戦記』の主人公であることを実感する。
「だが、青いな」
「? ──がっ!?」
シャクヤを蹴り飛ばし、『永闇』を振り抜く。
死角から迫っていた蛇の尾を両断し、『影画』によって形成した槍で完全にトドメを刺す。
「げほっ……い、一体なにを!」
「上から目線で憐憫たれくさるのは勝手だが、魔物からしてみれば敵が無防備に隙を晒しているだけだ。死ぬ前に一矢報いようとくらいするさ」
赤い瞳で、紺青色の瞳と視線を交わす。
「所詮こいつらはただの魔物。強くなるための
「それは、でも──ぐっ……」
シャクヤが腹の苦痛に顔をしかめる。
ふ、原作のライバルキャラらしい冷酷な台詞を吐けてなによりだ。
刀を鞘に納め、ふうと息を吐く。
「さて……力の差は見せつけたはずだが、まだやるか? 黒装束の一団よ」
誰へともなく言い放つと、どこに隠れていたのか黒十字騎士団の団員達が姿を現した。
総勢ざっと三、四十名ほど。
奴らは俺に対し、真意を問うように厳しく睨みつけていた。
まあ奴らからするとそうなるわな。
さてどうしたものか。
悩みに悩み──視界に映った『人影』を確認して、その必要は無くなったと安堵した。
「……無論、我々は我々の使命を果たすのみ」
「そうか。では好きにしろ」
見ての通り、俺は既に納刀している。
戦う意思はないし、その必要もない。
「相手は俺ではなく、そこの『最強』だがな」
そう聞くや否や、団員達の視線が一斉に同じ方を向いた。
戻りつつある木々の影の下、木漏れ日に照らされながら悠々と歩を進める怪物。
黒い服の上に白衣をなびかせるその女は、黒白に輝く瞳を露わにしていた。