悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
その女は、まるでこの世に怖いものなど何もないのだと言わんばかりに綽々と歩いていた。
すぐそばに黒十字の団員がいるというのに、平然と横切って俺たちの下へとやってくる。
「助けに来るのが遅れてすまない。他の教師たちも黒装束の連中に邪魔されてしまっているようだ。……王女殿下、無事かね?」
「……ええ、何とか」
「それはよかった。君に万が一のことがあれば責任者の私の首が飛びかねない。お身体は大事にしてくれたまえよ、切実に」
「相変わらず自分本位ね、貴方……!」
だが、彼女が来てくれたというだけでその場の緊張感は急速に弛緩していった。
当然だ。フヨウがこの場にいるのなら、あんな雑兵何人いたって関係ない。
対して、黒十字の団員たちは息を呑んだ。
自分たちが詰んだことを理解したからだ。
「な、何故……貴様は結界の影響でここへは来られないはずだ!!」
「ああ、随分と高度な結界だったよ。この『眼』を以てしても解析と逆算に時間を要した」
「か、解析だと……!?」
「しかも解除するには時間がかかりそうだったから、結界の指定対象を書き換えるので精一杯。いやはや、この術式を構築した人は化け物だねぇ」
お前が言うか。
その場の誰もが同じことを思った。
「それにあれだけ派手な一撃を見せられちゃ、嫌でも出てくるさ」
そういってフヨウの視線がこちらを向いた。
どうやら狙いがうまくいったようだった。
隠れて見ているにせよそうでないにせよ、フヨウが表に出てきてくれないとマズい。
ならば『表に出てこない方が不自然』な状況を作り上げるしかない。
仮に結界を突破してシャクヤたちを探している最中だったとしても、居場所を察知してやってくる。
そして奴がこの場に現れた以上、本当の時系列はどうであれ『フヨウを気にしてシャクヤたちを助けた』という言い訳が立つ……!
どうやら賭けには勝ったようだ。
「だがこうして私が来た。君たち全員、大人しくお縄につくなら手厚く歓待するが?」
「ふざけるな」
黒十字の団員たちが一斉に剣を抜く。
「我ら総勢三十八名、これだけいれば如何に『王国最強』と名高い貴様でも無事では済むまい……!」
「ふーん、なるほどなるほど。魔剣の贋作持ちもいるのかい、これは興味深い」
フヨウはパッと両手を開くと、
「うん、決めた。情報源として捕らえておきたいし、魔剣の贋作も欲しい。魔剣抜きで相手してあげるから、かかってきたまえよ」
「──よくもほざいたァ!!」
黒十字の団員たちが怒声と共に一斉に駆け出す。
前衛二十名の背後で魔法部隊が詠唱を開始。
中でも
普通に考えれば、いくら『王国最強』とはいえ生身で贋造魔剣持ち他数十名に勝つのは厳しいと思うかもしれない。
だがそれはあくまで普通の領域の話。
普通を容易く超越した一握りの強者の前に、その常識は通用しない。
「死ね、フヨ──う゛ッ」
振り下ろされた炎の贋造魔剣を、フヨウは右足を軸に体の向きを変え、紙一重で回避する。
そして間髪入れずに腹部へ膝蹴りを叩き込むと、前屈みになった男の首筋に手刀を入れる。
そのたった一秒にも満たない流れで、贋造魔剣を与えられたエリート団員が戦闘不能となった。
次いで振るわれる雷と冷気を纏った贋造魔剣。
しかしフヨウは奪い取った炎の贋造魔剣で防ぎ、鍔迫り合いの最中、腹部へ蹴りを瞬時に二度放つ。
やはりそれだけで団員二人は数十メートルにわたって吹き飛ばされ、呆気なく意識を失った。
「さ、どんどん来たまえ。研究素材たち」
「う、ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
数秒遅れで続く団員たちがフヨウを取り囲み、一斉に切り掛かる。
これならば誰か一人の刃くらいは届くだろうと夢見て。
だが、それは所詮夢物語に過ぎない。
フヨウは奪い取った三本の贋造魔剣を両手で掴み口に咥えて、全方位からの斬撃を防いでみせた。
まるでどこぞの海賊狩りだ。
そのまま体を回転させて弾き返すと、贋造魔剣を地面に突き刺し、手近にあった剣を二本
流れるように峰打ちで近くにいた団員数人を気絶させると、剣を投擲して前方にいた連中の足を止め、翻ると同時に倒した団員の剣を抜き取り後方へと切り掛かる。
「敵の剣を奪って戦ってる……!?」
「そうよ。戦場にある全ての武器を我が物とする『王国最強』我流剣術……『無限千刀流』」
気が付けば、前衛は全滅していた。
詠唱していた後方の団員達が慌てて魔法を放つ。
「し……《
火属性の中級魔法、その掃射。
鋼鉄の鎧だろうが容易く溶かし穿つ熱量。
だがフヨウは右手を差し向けると、静かにその名を口にした。
「術式31項『
全く同じ術式、それも単発の無詠唱。
本来ならば呆気なく押し負けるはずのそれは、逆に炎の軍勢を打ち破ると、後衛部隊をまとめて吹き飛ばすに至った。
規格外、その三文字が脳裏を過ぎる。
その当人である白と黒の怪物は、何でもないように振り返って言った。
「授業はここまで。それじゃあ帰ろうか、みんな」
☆
side:フヨウ
時間が経ち、集まってきた他の教師陣が黒十字の団員たちを魔法で拘束していた。
このまま連れ帰って情報を抜き取れれば楽なんだけど、彼らの頭に記憶を破壊する類の術式が刻まれているのが『見』えた。
解除しようとしても、その干渉に反応して実行されてしまうだろう。
ま、だとしても搾り取れるものはある。
廃人になっても肉体から得られる情報は大きい。
「さてと。や、ラゴウ少年。お願いを聞いてくれてありがとう。君がいなかったら危なかったよ」
「……狸が。どうせ隠れて見ていたのだろう。いたならもっと早く姿を見せろ」
「ハハ、こっちにも事情があってね」
私が結界の書き換えに成功したのは彼と別れて十分から二十分が経った頃だった。
サルファ少女とセツカ少女はいち早く危険を察知して教師陣に情報を伝えに行っていたから問題ないと判断して放置した。
ならばと黒十字、およびラゴウ少年の動きを観察しつつ本当に危なくなったら少年少女たちを助けようと立ち回っていた。
だからこそ特に彼にはバレないよう気合を入れて隠れていたわけだ。
先日襲ってきた天狗面の男。
認識阻害の上から把握できた身体的特徴に、かなり近い特徴を持つラゴウ少年。
少年少女を襲った割には敵意や殺意が見受けられなかった彼は果たして本当に敵なのか。
信頼のおける相手になり得るのか。
強引に取り調べて「違いました」では国家レベルの問題になりかねない。
故にコソコソ観察していた訳だが、彼も彼で何かを探している様子だった。
そして少年少女たちの様子も伺っていた。
──あのまま見捨てるも良し。あわよくば敢えてピンチを演出し、王国の人間の前で彼らを助けることで信頼を得ようという算段か?
もしそうなら敵と見做そう。
そう思っていたところに狐の面をつけた桜羽織の少女が乱入してきた。
黒十字側の人間には見えない。
思惑はあるだろうが、少年少女たちのことを本気で心配して守るつもりだ。
力量で遠く及ばないキマイラを相手に、技術を駆使して必死に渡り合っている。
だがそれも限界に近い。
空から二体目が降りてきて状況はより絶望的だ。
狐面の少女も危機的状況を悟ったのか、死を覚悟した人間特有の心理反応を見せ始めた。
ここまでか。
そう判断しようとした刹那、ラゴウ少年が動きを見せた。
かけておいたのであろう『保険』ではなく、自分自身の手で彼らを助けてみせたのだ。
いや、正確には彼らというより、彼女。
狐面の少女の無事を確認して、明らかに安堵したような心理的反応を見せていた。
──いやはや、なんというか。
可愛いところもあるものだと、そう思った。
「おめでとう、ラゴウ少年。どうやら君の狙いはうまくいったみたいだよ」
「……? 何の話だ」
「あの夜のことさ。君は少年たちを殺す気はなかった。私の乱入まで意図していたかは不明だが……」
もしそうならアベリア少女も怪しくなる。
あの時は徹夜テンションで魔剣の自爆機能を見つけたと聞かされたからつい暴走しちゃったけど、『実証実験のために外に行きましょう』と続けていれば自然と私を外に出せた。
「どちらにせよ君は私に姿を見られた。とはいえこちらにも確証はないから、のらりくらりと躱すこともできただろう」
そして今回、私は彼に気配を悟らせなかった。
周囲に王国の人間がいない以上、少年少女を助けて王国に恩を売るメリットよりもそのまま見殺しにするメリットの方が大きい。
「でも君は助けに入った」
それも冷静かつ冷徹に判断したわけじゃない。
恐らく彼にとって大切な存在なのであろう狐面の少女を護るために走り出した。
あの時の不安と安心は本物だった。
そして狐面の少女が彼の仲間だったということは、最初から少年少女たちを見殺しにするつもりはなかったということだ。
あの騒動の最中にいつの間にかいなくなってるし、ちゃっかり逃げる暇も確保してあげていたらしい。
「君の狙い通り、こちら側の信頼を得られたってことさ」
「…………意味が分からないな」
「へえ、なるほど」
照れ隠しをしているつもりなんだろうけど私の『眼』の前には通じない。
メチャクチャ動揺してるのが見て取れる。
「君は案外可愛い子だねぇ、ういうい」
「!?」
無遠慮に髪を撫で回す。
「やめ……やめろっ」と嫌がる反応を見せるあたりが実に面白い。
クールな風を気取っているけど、中身はまだまだ可愛いお子様みたいだ。
どうやら複雑な立場にいるみたいだし、今のところは扱いを保留にしておいてあげよう。
そう思った。