悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
これからどうしよう。
やたらとウザ絡みしてくるフヨウと別れたあと、一人森の中を歩きながら思考に耽る。
天狗面の男が俺であることがフヨウにバレた。
最悪そのことについては覚悟していたが、なぜか俺のことを可愛いだとかいって頭を撫でてきた。
特に追求もしてこなかった。
「俺の狙い」だとか「信頼を得られた」だとかよく分からないことも言っていた。
シャクヤたちを助けたことで信用されたというのは分かるが、狙いとはなんだ。
俺は何を狙っていたことになっているんだ……?
もう訳がわからないよ。
原作通りに事を進めるつもりが、今回もまた原作からかけ離れたシナリオ展開になってしまった。
原作だと合流していたセツカが追いついてくる前にキマイラを倒してしまったし。
一応シャクヤにラゴウらしい冷徹だがその実ツンデレなライバルらしい絡みができたのはよかったが、それ以外は赤点だ。
もう思考回路がショート寸前だった。
「……だがまだやらなければならないことが残っている……」
雑草を踏み、崖を登り、魔剣特有の魔力の痕跡を辿って目当ての人物の下へ走る。
まるで局所的な嵐が起こったかのような惨状の跡地を過ぎて少しした所の洞窟に、そいつはいた。
「それで、これは一体何の真似だ? ──エアフォルク・アハトゥングス」
「……何しに来やがった、
立っていたのは、薄い金色の髪をした狂犬キャラ、エアフォルクだった。
「あれだけ痛めつけられていたキマイラが何故あの場にやってこられたのか……貴様が例の濃紺装束の魔剣使いに横槍を入れ、邪魔をしたのだろう?」
「それがどォした」
「なに……そうまでして成功させようとした作戦が失敗に終わり、残念だなと励ましにきただけだ」
いつもなら絶好の機会とばかりに煽っていたところだが、なにがエアフォルクの地雷となって今回の凶行に及んだか分からない。
できれば理由が知りたいところだが、正直に話してくれそうな相手でもなかった。
ラゴウらしさは維持しつつ、慎重に言葉をかけていく。
「テメェが邪魔しなけりゃあ……!!」
「まさか。あの場には既にフヨウがいた。むしろ見過ごせば俺の正体が露見していた恐れもある」
まあ露見しちゃってるんだけども。
「本来ならばただの小手調べでしかなかったものを、貴様の一存で戦力を増設したと聞く。……その上でキマイラ二頭を失い、貴重な人員や
今のエアフォルクは最高幹部であることを考慮しても危うい立場にある。
それはいけない。
こいつには次の山場で担当してもらわなければならないことが山程ある。
具体的には敵幹部との初実戦、新要素のお披露目、そして主人公の覚醒の踏み台等々。
こんなくだらないミスでいなくなってもらっては困る重要人物なのだ。
「テメェにゃ関係ねェだろうがッ」
「いいや、俺にも俺の目的がある。ここで貴様に退場されては少々困るのでな」
エアフォルクの肩に手を置く。
なるべくラゴウらしい平坦な語調で、それでいて優しく寄り添うような声音で言葉をかける。
「なんなら俺から獅子王様に頼み込んでやろう。貴様に下される罰を軽くしてやってほしいとな」
「テ、メェ……ッ!!!! 見下してんじゃねェぞッッッ!!!!!」
エアフォルクが抜刀し、斬撃を放ってきた。
えっいきなりなにこわっ。
咄嗟に奴の腕を掴んで抑え、反射的に抜いた『永闇』の刃を首筋に添えた。
「なっ……!?」
「……いきなりどうした。
もちろんエアフォルクに退場してもらっては困る立場上、俺からバラすつもりはない。
しかし今のこいつには何を言ってもキレられそうだ。そんなにショックなんだろうか。
……まあ処分もあり得る状況だし当然か。
これ以上は藪蛇にしかならないだろう。
最後にできるだけ安心させる言葉をかけよう。
「だが案ずるな、このことは黙っておく。貴様のお陰で得られたものもあると獅子王様には進言しておこう──ではな、エアフォルク
「──ッッッッッッ…………!!!!!!!」
さん付けもされたがってたし、これならエアフォルクも素直に矛を納めてくれるはずだ。
背中を向け、洞窟から外に出る。
しばらく歩いた後、まるで獣の雄叫びのような音がかすかに聞こえた気がした。
☆
そして。
暗い地底の城、王のみが座するを許された玉座。
今回の作戦を裏から掌握し、糸を引いていた黒幕は一人笑みを湛えていた。
「実験は成功半分、失敗半分といったところか。結界自体は通用しても、初見でああも容易く指定条件の書き換えを行われるのでは効果も薄い」
フヨウという怪物の動きを阻害する結界。
力尽くで破られる分にはまだよかったが、術式そのものに介入されるのでは意味が薄い。
とはいえフヨウ以外に用いる分には問題ない。
それが分かっただけ悪い結果ではなかった。
「さて。短気でプライドが高く、肩書きにこだわるエアフォルクの激情を巧く煽ることで介入を後押しし、その上で失敗に追い込んだ……」
白髪褐色の魔人は、赤い瞳を報告書に向けながら視線を右へ左へと忙しなく動かしていく。
「
彼の脳内に一人の青年の姿が浮かぶ。
「そして自分は生徒たちを守ることで王国、ひいては『
自身と同じ白髪赤眼に変質した青年。
最初、黒十字騎士団に招き入れた時は大した期待もしていなかった。
精々魔剣使いとして最低限戦力になればよし、ならなくても特に問題はない。
その程度の凡夫でしかなかったはずなのに。
「エアフォルクの失脚を招きつつ、相手の信用を勝ち取る……今回、真に裏で糸を引いていたのは君だったということか。フ、面白い」
今回の事件で誰が一番得をしていたか、そう考えれば簡単に辻褄が合う。
一連の流れは全てラゴウの策略によるもの。
より高い位に上がるため、他者の感情を操作して作り出した結果であると。
獅子王テンマ=ジナもまた、そう解釈していた。
「期待しているよ、ラゴウ。きっと君は私が描く物語に不可欠な
黒十字の王は、物語の黒幕らしい不敵な笑みを浮かべ続けていた。