悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
後日談、というか今回のオチ。
あの後は無事何事もなく学園に帰り着くことができた。原作でも共通ルート前半の山場だったし、ここを越えればしばらく黒十字の襲撃もない。
次の山場が始まる二ヶ月後までは、入学から一週間のジェットコースター感が嘘のように平穏な生活が続くことだろう。
黒十字騎士団についても、魔剣科の生徒にのみある程度の詳細が明かされた。
といっても謎多き集団だ。名前と、何故かシャクヤとラニを狙うことしか明らかになっていない。
本命は『ウテナ』なのだが、そこは巧妙に隠しているのでバレていないようだった。
「貴方! あの時助けてもらった借りは後で必ず返させてもらうわ!」
「……どうでもいい、俺に関わるな」
「知ったこっちゃないわね」
知ったこっちゃあれよ。
「申し訳ありません、お嬢様は少々ア……いえ、他人の気持ちを慮るのが苦手なお方でいらっしゃいまして」
「……教育はちゃんとしてほしいものだな」
「返す言葉もございません」
執事のラシードが申し訳なさそうに頭を下げる。
温和な雰囲気だというのに、これで生粋の暗殺者なのだから驚きだ。
……フヨウが俺の正体に勘付いてることだし、この男が気付いていても不思議はない。
そう考えると怖くなってきた。その笑みの下にはどんな表情が隠されているのだろうか。
それはさておきアレクサンドラだが、原作通りシャクヤとの距離は近づいたようだ。
ようなのだが、原作と違って二人で魔物を倒したわけじゃないからか、微妙に異なっていた。
「二人とも! 今後私のことをサーシャと呼ぶことを許可するわ!」
「さーしゃ?」
「アレクサンドラの愛称よ。貴方たちには弱みも見せちゃったし、共に死線を乗り越えた仲だもの。今更見栄を張っても無駄だと判断したわ」
「わかった! よろしくね、サーシャちゃん!」
「よろしく、サーシャさん」
「さん付は不要よ。貴方たちは守るべき臣民、つまりは弟分や妹分も同じだもの。私もこれからは無礼者じゃなくシャクヤとラニと呼ばせてもらうから」
「う、うん分かった。じゃあこれからはやたら戦えって迫ってこなくなるんだね!」
「それとこれとは話が別よ。私が勝つまで勝負は持ちかけるからそのつもりで」
「あっはい」
原作では背中を預けあった仲として割としおらしくなっていたというのに、これでは男女の仲というよりは姉貴分だ。
こんな所でも原作との乖離が発生していて、ますます悩ましい限りだった。
そして肝心のシャクヤとラニはというと。
「ラゴウくん。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
「……雁首揃えて何の真似だ?」
「この前、助けてもらったお礼を言いそびれていたから。……だけど僕は、あの時の自分を間違いだとは思わないし、思いたくない」
「……それで?」
「だから、いつか正解にしてみせるよ。── 君より強くなって、相手にも慈悲をかけられるように」
「わらわとシャクヤ、二人でね!」
「……好きにしろ」
興味なさげを装ってその場から立ち去る。
口元に湛えた笑みが見られてしまわないように。
「そういえばスイゲツから手紙が届いていたな」
黒十字を通じて定期的に届けられる文だ。
一応内容を確かめる。
書かれていたのはいつも通り『息災か』の三文字だけ。
……いつもこれなら送ってくる意味はあるのだろうか。
分からないが、一応『息災』の二文字を書いた手紙を返すのが恒例となっていた。
『おや、どうしたのかなアベリア嬢。定期連絡にそんなやつれた顔で出席するとは。音楽の摂取量が不足しているのではないかな?』
『音楽を必要栄養素みたいに言うのやめてもらっていいですか? ……あのクソ魔剣狂が新しく三本も
『……大丈夫?』
『だいじょばないです死にそう。ああ、お姉ちゃん……! アナタに会える日を心待ちにする時間だけがアタシの癒しです……!』
黒十字の動きが一旦落ち着いたということは、『蟲』の活動も比較的穏やかになるということだ。
これからに向けて下準備は進めていくが、大きな動きは当分ないだろう。
その間に俺もチャートの練り直しをしておこう。
もう本当にオリジナル展開が多すぎてメチャクチャになっている。
あれだけ目障りに思っていた『蟲』が、まさかいないと詰んでいたまであるレベルで役に立つとは思ってもみなかった。
自業自得な部分も多い。見通しが甘すぎたと言わざるを得ないだろう。
「要改善、と……」
「ラゴウ、何書いてるの?」
「俺のこれからの行く末を示す虎の巻だ」
「すごそう」
「あんちょこともいう」
「あんちょこ……」
俺の部屋に入り浸りやがってくれているセツカとサクナからの質問に生返事で答えつつ筆を進める。
これまでに起きた重大な誤算は四つ。
『サクナの生存』『蟲の設立』『フヨウへの身バレ』『エアフォルクとの敵対』。
前者二つは当然として、後者二つも中々に大きなミスだ。
今、俺はフヨウに生殺与奪の権を握られている。
彼女の気分次第で計画がおじゃんになる可能性だって十分あり得る。
そしてエアフォルクの謎の敵対だ。
ハッキリいってこっちは何一つとして原因が思い浮かばない。
煽りが理由かとも思ったが、やはり記憶の限り原作でも同じようなやり取りは交わしていた。
あの会話のせいで強行に及んだとは思えない。
何か気づいていない部分で地雷を踏んでしまっているのだろう。
エアフォルクの悲しい過去が関係しているのかもしれないが、心当たりはなかった。
腐っても共通ルートのラスボスで、シャクヤが初めて死闘を繰り広げる
ここで因縁を作っておいて、来たる決戦の時にシャクヤと二人で奴を討ち取るというのも悪くない。
「ねえ暇ー、構ってー」
「やめろ、ひっつくな。……おい、後ろから抱きついてくるな……! お前には兄弟子に対する敬意というものはないのか……!?」
「うん」
こいつぅ。
「そんなの後で考えてもいいと思う。それより下街の方に行こう。サイフォス王国は甘味が美味しいと聞いた。アシハラのとどう違うのか気になる」
「セツカさんは甘いものに目がありませんね」
「黒十字にいた頃はロクに食べられなかったから。今は自由に食べられる」
「……一人で勝手に行け」
「嫌、三人で行きたい」
「密室なら誤魔化しも効くが、野外となると黒十字の目もある。サクナがいる以上、三人で仲良しこよしと言うわけにもいかんだろう」
「むう……」
「いえ、大丈夫でしょう。先の一件で黒十字もしばし様子見の方針となり、お二人の監視役も必要最低限の人数に削減されたのですが……その過程で『蟲』の一員を紛れ込ませることに成功いたしました。どの程度誤魔化せるか確認するためにも、甘味を楽しむくらいは構わないかと」
「やった」
くっ、無駄に有能さを発揮しやがって。
まるで散歩をせがむ自宅の犬みたいにぐいぐい引っ張ってくるセツカに根負けして、仕方なく三人一緒に下街の方へ出かけることになった。
「今回は何事もなかったから大目に見るけど、それはそれとして心配した。罰として奢ってね」
厚かましい奴め。
共通終了までは余裕があるとはいえ、そこからはとんとん拍子で物語が進むから思案はしてもし足りないのだが……仕方ないか。
セツカに手を引かれて、背後にサクナを付き添えて、下街への道を歩む。
余程楽しみなのか、セツカは一人でどんどん先へと進んでいった。
「……俺まで付き合う必要はないだろうに」
「甘味が好き……というのもありますが、ラゴウさまと一緒に出かけたかったのでしょう。ふふ、いじらしくて可愛いですね」
「ふん。それで、お前は相も変わらず俺の後ろを歩くのか」
「ここがサクナの定位置ですのでっ」
「ええいこの大和撫子系ストーカーめ……!」
最近はいないはずのサクナの気配を感じてつい振り向いてしまうほどだ。
いや、もしかしたら本当にいるのかもしれない。
幽霊かよ。
「……ラゴウさま。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「なんだ」
「あの時……キマイラから助けていただいた際、なぜ『影武者』ではなくラゴウさまご本人がいらしたのでしょうか」
不意に、サクナがそんなことを聞いてきた。
「……お前自身はどう解釈している?」
「フヨウさまの存在を察知し、自ら救助に向かうことで『影武者』を見破れるかもしれない彼女からの信頼をより確実に得ようとした……といったところでしょうか」
「それもある」
なかったけど。
……本当の理由は別にある。
それを言おうか言わまいか、少し悩んだ。
前を向いたまま、何でもなさげに言葉を紡ぐ。
「お前はあの時……キマイラに襲われた際、あの三人を庇って死のうとしていただろう」
「! ……お気づきでしたか」
遥か格上のキマイラを相手に決死の覚悟で三人を守ろうとしたサクナを見て、ふと思った。
『影武者』に命じたのは三人に命の危機が迫り、どうしようもなくなった時に助けに入ること。
であれば──三人を守るためにサクナが犠牲になろうとしたとして、果たして『影武者』は動くのだろうか?
分からなかった。
だから、俺本体が四人を守るために駆けつけた。
「まともに相対するなと命じておいたはずだが?」
「……ラゴウさまは件の少年少女に入れ込んでいるように見えました。それにアレクサンドラ王女も展望溢れる立派なお方で、黒十字に対抗する戦力になり得る存在。あなたさまにとって大切なお人なら命を賭けるに値する。それだけでございます」
たしかに、シャクヤとラニは俺の理想のライバルキャラルートを成立させる上で不可欠な
アレクサンドラもストーリー上決して欠かすことのできないポジションにいる。
それに引き換え、サクナは元々想定していなかった存在だ。
失うと痛手ではあるが不可欠ではない。俺の野望が即時頓挫することにはならない。
そのはずだ。
そのはず、なのだが。
「……業腹だが、お前はもう俺の野望を叶える上で欠かせない駒となっている。いなくなられると面倒だ」
「ラゴウさま……? その、つまり……?」
「──俺の命なく勝手に死ぬな、ということだ」
何故だか振り向く気になれなかったので、やはり前を向いたまま言いたいことを言い終える。
不思議とサクナの反応を見られなかった。
「……勘違いするなよ。別にお前が大切だからというわけではない。ただお前がいなくなるとセツカも不安定になるし、『蟲』の運営にも支障が出る。それだけの話だ」
言い切って、手庇で影を作る。
春だというのに日差しが強くて、熱かった。
……返事がないな。いつもならコンマ以下の速度で返答があるのに、何を固まっているのか。
仕方がないので、なるべく表情が見られないよう少しだけ振り向いて尋ねる。
「返事は?」
「──…………はいっ!」
大輪の花のような笑顔が咲き誇る。
何故そんなに嬉しそうなのか。
本当に分からない奴だと、改めてそう思った。
「二人とも、はーやーくー」
「……急ぐか」
「そうですね」
セツカに急かされて少しだけ歩調を早める。
サクナは、やはり俺の三歩後ろを歩いていた。
☆
──三歩後ろを歩くのは、きっとあなたに振り向いてほしいから。
これにて第二章完!
毎日更新はここまでとなります。
多少書き溜めていたというのにしんどかった……安定して毎日更新できてる人は化け物ですね。
番外編と章終わりのキャラ紹介をアップしたら次は第三章に入ります。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。