悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
さて、厄介なアベリアも去って時刻は夜。
奴への対応だけで十分疲れたが、今日はもうひと頑張りしなければならない。そもそもこっちのイベントが今日の主題となるはずだったのだ。
ベッドに寝ころびたがる体に鞭を打ち、天狗の面を装着。黒十字の隊服に身を包むと準備完了だ。
音もなく窓から地面に飛び降りる。
素早く建物の陰に身を潜めると、目的の場所へ移動する。
魔法による気配・姿隠しの類は使わない。
魔力の痕跡からバレる可能性があるからだ。
敵のお膝元で何も考えず使える手ではなかった。
「黒十字で潜入調査訓練を受けておいてよかった」
魔法を用いない原始的な気配遮断術だが、それ故に痕跡も残らない優れものだ。
そのため黒十字では工作班には物理と魔法両方の技術を教え込んでいる。
俺は精々魔力の漏出を抑えたり、足音や呼吸音を消す程度が関の山だが、極めれば世界と同化したように存在を消すことも可能だ。
それこそラシードがそのレベルにいる。
サクナはその一歩か二歩手前といったところか。
「そういった技術はサクナに一日の長があるな、っと……」
目当ての気配を感じ取ったので、所定の位置に身を潜め、その時をじっと待つ。
アニメや漫画ではありがちな『気配もなく現れ声をかけてくる謎のキャラ』だが、いざその立場に回ってみると実に滑稽だった。
相手がやってくるまでただひたすら待ち続ける。
これを馬鹿らしいと言わずなんと言おうか。
「ああいうカッコイイシーンの裏側には、こういう地道な待ち時間が隠れていたんだな……」
気分的には隠れて相手を脅かそうとする小学生みたいなものだった。色々台無しだ。
そうこうしているうちに目的の人影を視界にとらえたので、ラゴウらしい煽りから入ることにする。
「どうやら束の間の幸せを存分に享受しているようだ。ハ、気楽なものだな」
こっちは想定外の事態に頭を悩ませてるっていうのによお(八つ当たり)。
困惑する人影──シャクヤとラニに更なる言葉を投げかけると、短刀片手に"縮地"で距離を詰める。
原理を知っているからといって即時対応できるほどこの技は甘くない。フヨウがおかしいだけだ。
「素晴らしい提案をしよう。俺の仲間になれ──そうすれば貴様は、憎き怨敵への復讐を果たすことができる」
そう、これこそがメインディッシュにして本懐。
これからの行く末を決める分岐点にして分水嶺。
俺が理想のライバルキャラになるために踏まざるを得ない、絶対必須の工程だった。
『目指せ!理想のライバルキャラルート』構想において、初期から決めていた展開。
即ちシャクヤとの協力関係。
しかしただ仲良しこよしの協力関係を結ぶだけではライバルキャラとは呼べない。
否、正確にはラゴウのキャラに合っていない。
ラゴウは他人の手を借りることを良しとしない冷酷な一匹狼。
当然他者と手を組む時も実利を重視し、互いに利益を提供し合うだけの冷たい関係を望むだろう。
ならば俺がシャクヤと協力関係になる上で、理想の過程とはなにか?
──その答えが、復讐の提案だった。
「ふく、しゅう……?」
「ああ、貴様のことは知っている。黒十字に故郷を家族諸共滅ぼされたそうだな」
わざと心の脆い部分に触れると、シャクヤの視線が刃物のように鋭くなった。
当然だろう。やらかした側に味方する人間が、配慮の欠片もなく繊細な過去をほじくり返したのだ。
そしてそれは、彼に黒十字への恨みつらみが当然のように根付いている証拠でもあった。
「理不尽だとは思わないか? 何故自分がこんな目に遭うのかと。憎いとは思わないか? そんな悲劇を生み出す黒十字の悪行が。報いを受けさせてやりたいと、そうは思わないか?」
「な、にを……君は、黒十字の人間なんだろう……!? その君が、なんでそんなこと」
「決まっている。故あってかの組織に在籍している立場ではあるが、俺も貴様と似た心情だからさ」
一歩、一歩と近づき胸元に短刀の刃先を当てる。
「貴様は不思議な男だ。ただの田舎者かと思えば、非凡な剣の才能を持っている。そしてなにより、黒十字の王が目をつける『魔剣』を有している」
ちらり、こちらを睨みつけるラニに視線をやる。
敢えて意思を持つラニを『魔剣』という無機物と同じ存在だと遠回しに伝えることで、悪の組織のライバルキャラらしい冷徹な人格をアピールする。
「思うに貴様は組織にとっての危険因子なのだろう。ならば利用できる──黒十字騎士団を滅ぼすという野望のためにな」
「黒十字を……ほろぼす……!?」
ここで真の目的を明かす。
バッドエンドに繋がりかねない特大の綱渡りだが、奴の人間性は知っている。
現時点なら思い悩みこそすれ、他人に話すような性格ではない。
「驚くことではあるまい。あのような極悪非道の組織、壊滅を願われて当然だろう?」
「いや、そうだけど……でも、そんなこと本当に」
「できるのか、と? 確約はできんが、成し遂げる為の道筋はいくつか見つけている」
原作をなぞれば壊滅自体は容易だ。
そして俺が目指すのは唯一獅子王の完全撃破が叶うグランド√を下敷きにしたオリジナル√。
その為には、やはりラニとの仲を深めてもらう必要があった。
「最初はこれ以上痛い目を見る前に、その魔剣を置いて王都から去れと忠告するつもりだったが……素直に言うことを聞くタマでもなさそうなのでな」
原作では実際にそう忠告し、当然のように断られるというイベントだ。
素直にそのままでいく手もあったが、原作通りだと中盤で出番がなくなってしまう。
序盤のうちから種を蒔いておかなければ、ライバルキャラ√には入れない。
「貴様の復讐心を踏み台とする代わりに、俺は黒十字の壊滅を約束しよう」
「……ふく、しゅう……」
「今ここで答えを出せとは言わん。また折を見て答えを聞きに来る。それまでに考えをまとめておくことだ。もっとも……考えるまでもないと思うがな」
刃を引き、背中を向ける。
言うべきことは全て言い終えた。
あとは謎の男として忽然と姿を消すべし。
今の俺、最高にイカしてる……。
「べーっ、だ!」
と思ったら、ラニが可愛らしいお見送りをしてくれたせいで変なオチがついてしまった。くそう。
とはいえ目的は達した。
ラニと一緒にいる状況下で精神を揺さぶってやれば、自然と相談相手はラニに偏るだろう。
まだ仲良くなったばかりのアレクサンドラを始めとする友人たちに持ちかけるには重すぎて、かつ繊細すぎるお悩み相談だ。
素直に復讐を受け入れるのか、はたまた復讐なんて望んでないと突っぱねるのか。
シャクヤたちの性格を考えればまず間違いなく後者を選ぶ。
どちらにしても黒十字との対立が確定している以上、俺との契約は捨て切れないだろう。
フヨウあたりを介した事務的な協力関係になるかもしれないが、とにかくシャクヤとラニとの繋がりが持てればそれでいい。
協力関係を結んだ上で、敢えて非道を選ぶ俺と正道を歩むシャクヤとで対立する。
時に口論になり、時に斬り合い、時には本気で殺し合うこともあるだろう。
しかし最終的には獅子王打倒という共通の目的に向けて、共に刃を振るうのだ。
「俺の理想のライバルキャラルートは、ここから始まるんだ……!」
拳を固く握り、夢への第一歩を踏み出した実感に酷く酔いしれる。
頭上では、白銀の月が眩しく輝いていた。