悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
明けて翌日、魔剣科の特別教室にて。
俺は昨日シャクヤたちに復讐の提案を持ちかけるという一世一代の原作崩壊イベントをこなしておきながら、平然と窓の外の景色を眺めていた。
なぜならそれはかねてより構想していた『予定調和の原作崩壊』。
サクナの生存だの、『蟲』の結成だの、フヨウへの身バレだの、エアフォルクとの敵対だのといった
「フ、改めて振り返るとイレギュラーが多すぎる」
ゲームならやり直しを考えるレベルだが、生憎とリセットもセーブロード機能も存在しない。
けれどここからノーミスなら余裕で目的は達成できるので、何の心配もいらなかった。
「みんなおっはよー! ってあれ、一番乗りかと思ったらラゴウくんいた! 珍しいね、今お暇?」
「…………」
「ボクは『みんなおっはよー! って誰もいないんかーい!』ってセルフノリツッコミしようとしてたのにラゴウくんがいて内心動揺が隠せないとこ!」
サルファはゲームのキャラとして外側から見る分にはおもしれー女扱いできるが、いざ絡まれると死ぬほど対応しづらいノリだった。
彼女の立場からすると、魔剣科の生徒とは少しでも多くの交流を図って情報を得たいのだろうが、ラゴウエミュ状態では叶えてやれない相談だ。
結局次にアレクサンドラがやってきてタゲが移るまで、一言二言で対応しておいた。
そのままセツカ、シャクヤ、ラニ、身だしなみから明らかに寝起きで直行してきたであろうフヨウと付き添いのカイナがやってきて、全員が揃う。
「いや〜起こしに来てくれて助かったよ、カイナくん。これからもよろしく頼むね」
「…………」
死ぬほど嫌そうな顔をしていた。
そして、次なる舞台の幕開けとなる行事の開催が告げられた。
「例年通り一月後、『刀剣武闘会』が開催される」
──刀剣武闘会。
サイフォス王国の主要な祭典の一つ。千を超える人数が優勝を求めて争いあう、トーナメント形式のよくあるバトル大会だ。
大会か。前世のインターハイを思い出す。
無言キャラと剣道の掛け声の兼ね合いを模索した結果「ふっ!」とか「はっ!」とかゲームの戦闘ボイスみたいな声の出し方だけやたらとうまくなっていった。
「サイフォス王国の内外問わず、鍛え抜かれた剣士たちが一堂に介して覇を唱えあう祭典……遂に私がその栄冠を手にして『最強』になる時がやってきたのね!」
「まあ仮に優勝したところで私がいる以上サーシャちゃんは最強にはなれないんだけども」
「余計なお世話ね! 大体貴方にサーシャ呼びを許可した覚えはないわよバカメガネ!」
「つれないねぇ、昔からの仲なのに」
そういうところだぞ。
「お父様がご観覧なされるんですもの、絶対に負けられないわ……!」
刀剣武闘会は王様も観にくる国の一大行事。次代の王であるアレクサンドラは人一倍のやる気を見せていた。
「刀剣武闘会は『武を競い合う』という趣旨の大会だ。基本何でもありだけど、魔剣は少々ズルが過ぎるからねぇ。例年通り通常試合では使用を控えてもらうよ」
「うえ、じゃあボク不利だぁ……剣より弓の方が得意だもんなぁ」
「おや、サルファ少女は武闘会を見たことがないのかな? 刀剣とは名ばかりで、多種多様な武器の使用が認められているのがウリでね。弓なんてスタンダードもいいとこさ」
「そうよ。そこのダメ大人なんて羽ペン一本で参加して優勝しちゃってるんだから」
「……ほ、ほんと?」
「ホントホント。いや〜当時は若かったからねぇ。優勝して大勢の前で『ペンは剣よりも強し!』って言いたいが為にやってみたのさ」
フヨウほどの強者が魔力強化を施せば、ただの羽ペンでも凡人が振るう名剣より余程脅威になる。
……そのレベルなら素手でも優勝できるだろうし、わざわざ羽ペンを使うのは煽り行為以外の何者でもないのだが。
「まあ安心したまえ。魔剣が使えないのは通常の試合の話。魔剣使い同士の場合に限り、使用が許可される。……せっかく魔剣使いがこうして何人も揃っているんだ。今年は派手にいこうじゃないかって、私から上にかけあってみたのさ」
「本音は?」
「魔剣同士のド派手な戦いが見たい! あわよくば研究データをとりたい!」
「アハハ、正直〜」
魔剣同士の戦い。
ゲームではアレクサンドラ戦以降、ほとんど制限されていた要素の本格解禁の場でもあった。
同時に章ヒロインでもあるセツカが、その秘密のベールを脱ぐ場でもあったのだが。
「……お祭りだって。一緒に楽しもうね、ラゴウ」
隣の席から小声でボソッと囁かれる。
今のこいつには期待できそうにない役割だ。
原作ではフヨウの目を気にしたラゴウとセツカが二体目のオーガを倒し、主人公との縁が生まれる。
今章ではセツカが掘り下げられ、決勝戦で激突して想いをぶつけ合う熱い展開だったが、今のセツカにその役は荷が重すぎる。
だって普通にサクナ生きてるし。
毎日一緒に寝てるし。
めっちゃメンタル安定してるし。
「となるとやはり、決勝でシャクヤと戦う役を担うのは俺であるべきか」
元より理想のライバルキャラルート構想を練る上で、十分に想定していた流れだ。
チラリ、シャクヤとラニの方を見る。
ラニはフヨウの話に目を輝かせていたが、シャクヤの方は心ここにあらずといった様子だった。
昨夜の話の影響だろう。存分に効果を発揮してくれていて嬉しい限りだ。
──揺さぶりは十二分。あとは当日まで様子見に回るだけだ」
ここまでのアホみたいなガバが嘘のように順調だ。逆に順調すぎて何か起きるんじゃないかと怖くなってくるくらい綺麗にハマっている。
……ダメだな、この流れは危険だ。また想定外のイベントが起きるフラグ的な思考だ。
慎むべし、慎むべし。
「さ、説明も終えたところで座学に入ろうか。まずは魔法属性間の相性についておさらいしよう。火、水、風、土の基本四属性に木、雷、氷の応用三属性、光と闇の特殊二属性があるわけだけど。このうち光と闇は相互に弱点を突き合っていて──」
刀剣武闘会の説明も終わって座学授業が始まる中、俺はフヨウの姿を見つめていた。
現在発生しているイレギュラーの内の一角。
彼女への正体バレも今のところは何とかなりそうだ。
あれはそう、課外授業が終わってすぐのことだった。
『や、ラゴウ少年。今話せる? ちょっとお茶しない?』
『教師が生徒をナンパするつもりか?』
『ハハハ、それもいいけれどねぇ。……君の抱える事情について、聞きたいことが山程あるんだが』
丸い眼鏡越しの『
表情の変化、発汗、体温、脈拍、鼓動、あらゆる側面から俺の心理を丸裸にしようとしているのが丸わかりだった。
どうすべきか。
当然前もって想定していたので、その通りの答えを返した。
『そうしたいのは山々だが、俺もまだそちらの内情を把握しきれていない。話すことはできない』
『へえ、それはまたなんで?』
『鼠に漏れると、俺の立場が危ういのでな』
要約するとこうだ。
王国側に潜り込んでいる黒十字のスパイがどこにどれだけ潜んでいるのか俺ですら把握しきれていない以上、下手に内情を伝えて情報の流出を気取られるような真似はしたくない、と。
まして黒十字の作戦内容を伝えて事前に対策でも取ってみろ。
裏切り者がいることが一発でバレてしまう。
それだけで俺が下手人だと行き着くことはないだろうが、安全策は取りたい。
なにより、共通ルートが終わるまでは極力原作通りの流れを踏みたかった。
『……なるほど、どうやら予想以上に敵の魔の手は広がっているようだ』
『そのことを教えてやっただけ歩み寄ったと捉えてほしいものだな』
『はは、豪胆だねぇ。……けれど君ぃ、私がその『鼠』であるとは考えなかったのかい?』
『ありえん』
『わーお即答。これまたなんで?』
『貴様が『鼠』であるのならば、こそこそ暗躍などせずとも力でどうとでもなるからだ』
『……アッハッハッハ! そりゃそうだ! これはまた一本取られてしまったねぇ!』
スイゲツとフヨウ、二人の最強を抱えこめているなら賢しい小細工など弄せず純粋な武力でどんな国だって攻め落とせる。
そうせずに、フヨウに対して最大限の警戒と対策を払っている時点で答えは明白だった。
『了解、今は聞かないでおこう。だけどいつかは話してもらうよ、力尽くにでもね』
『無論だ』
次の山場が終われば嫌でも話せるようになる。
『君も色々大変だねぇ。こっちへ来たまえ、労いのよしよしとハグを贈呈してしんぜよう』
『いらん。……おいやめろ、強引に頭を撫でるな。抱きしめてくるな……!』
無駄にデカい胸を押し付けてくるな……!
抜け出そうにも向こうの方がレベルとステータスが上なので、それも難しい。
結局あのあと好き放題可愛がられて、解放されたのは数分後のことだった。
……嫌な記憶だが、まあ時間稼ぎはできたので良しとしよう。
いずれ来たる刀剣武闘会。
そして同時に、我らが共通ルートラスボス、
はずだった、のだが。
「ラゴウくん。僕に剣を教えてほしい」
「おねがいします!」
放課後、何故かシャクヤとラニに頭を下げて懇願されていた。なんでさ。