悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
「や、ラゴウ少年。今日も今日とて稽古ご苦労様。どうかな、君の目から見た彼らの才能は?」
暇な時は稽古をつけてやると約束したシャクヤたちとの鍛錬からの帰り道。
まるで旧来の友人のような気軽さでフヨウから声をかけられた。
「……答える必要があるのか? 貴様の『眼』の方が余程正確な見立てができるだろう」
「ハハ、それはそうなんだけども」
この女のこういうところが作中で結構な人から嫌われる要因になってたんだろうなぁ。
「とはいえ驚いたよ。私と同じか、或いはそれ以上に少年たちのことを理解しているようだねぇ。……君独自の情報源があったりするのかな?」
白髪から覗く丸眼鏡越しの瞳に対し、素知らぬ態度で返答する。
「……さあな、単に俺の目がいいだけだろう」
「ふむ、まあいいか。少年たちの成長著しい様を見せられると文句のつけようもない。むしろ君にメリットがあるのか問いたいくらいさ」
「奴らの過去を駄賃として拝聴している。どの陣営も気になる報酬だろう?」
「その割には子供の頃によくしていた遊びとか、益体もない情報ばかり聞かされているようだけど?」
確かに二人から聞かされる過去なんて精々その程度の、いってしまえば下らない子供の頃の思い出話でしかない。
だが『魔剣戦記』ファンからすれば話は別だ。
思い出話を本人たちから直接聞かせてもらえるなんて、どんな大金積んでも叶えられない夢のボイスドラマだ。
そもそも二人に隠された秘密なんて俺の方が知ってるレベルだ。わざわざ尋ねる必要がない。
「去り際に尋ねていた質問も、君にとっては価値ある答えが返ってきたのかい?」
先程、シャクヤたちとの稽古を終えた別れ際にふと投げかけた質問。
『……随分と余裕だな』
『え?』
『武闘会に向けた訓練。なるほど結構だが、貴様らは黒十字騎士団とやらに狙われているのだろう? 此度の大会に潜り込んでいても不思議はない。恐ろしいとは思わないのか?』
黒十字騎士団の名を出すことで、先日の復讐の提案についてどんな思案を巡らせているのか、俺なりに探りを入れたつもりだった。
案の定シャクヤは戸惑ったように答えに詰まり、なにやら思い悩んだ様子を見せた。
恐らくどうすればいいか分からないから、とりあえず目の前のやるべきことをこなそうとしているのだろう。気持ちは理解できる。
うまく刺さってくれているようでなによりだったが、肝心のラニはというと。
『怖くないよ。だってシャクヤと一緒だもん。わらわたちは二人一緒ならさいきょーなんだから!』
と、単純明快な答えを返してくれた。
憂い気だったシャクヤの表情もほぐれ、安心したように笑っていた。
ゲームでもそうだったが、意外とラニの方が精神的に安定している。
追い詰められた時、手を差し伸べる役はほとんど彼女が担っていた。
だからこそヒロインとなるグランド√でその関係が逆転するのが最高にエモいわけだが。
「……さあな。価値があったかどうか、判るのはもう少し先になるだろう」
「ふーん? ま、深く詮索はしないよ。いま藪の蛇をつつくのはおいしくない」
「何かあったようだな」
「国境付近で『エスパーダ帝国』の動きがあったようでねぇ。出征を命じられて武闘会に顔を出せなくなったんだ。悪いけど当日はよろしく」
エスパーダ帝国。
サイフォス王国の隣国にして長い歴史の中で何度も戦争を繰り広げてきた大国だ。
王国ほどではないが、魔剣持ちも複数いる軍事国家でもあった。
「……報酬の一つでもあればあるいは」
「ふーむ、なるほど。じゃあ私のおっぱいでも揉むかい? 結構大きいよ、年頃の男子なら垂涎ものじゃないかな」
そういって、フヨウは開いた白衣から飛び出た黒いシャツ越しの胸を見せつける。
確かに大きい。プロフィール上のバストサイズも三桁近くあったはずだ。
思春期の男子なら普通は目を奪われるだろう。
だが俺はラゴウ、クールなライバルキャラだ。
俺の推しはそういうのになびかない……!
「消えろコンプラ違反セクハラ教師」
「ハハハ辛辣」
フヨウは罵倒されたというのにおかしそうに笑うと、一転穏やかな顔つきで言った。
「刀剣武闘会、
そう言い残してフヨウは去っていった。
なにやら含みのある言い方だったが、特に警戒するような意味合いではなさそうだ。
考えても仕方ない。
次なる目的のため歩を進めた。
☆
さて、もう二、三週間後に迫った刀剣武闘会だが、当然のように黒十字騎士団が乱入してくるご予定となっている。
共通ルートの締めを飾るに相応しい大規模イベントであり、
「その
今回はその件についての会合があるからと黒十字本部に呼び出されていた。
対象は
「……行きたくない」
「言うな。俺もそう思うが」
王都に転移魔法陣を仕込んでいて気軽に召集をかけられるからか、当たり前のように本部帰還を求められる。
どこでも行けるドアがあったら会社への通勤が楽になるという冗談はよく聞くが、実現したら会社側も便利にこちらをこき使ってくるようになるんだろうな。クソが。
「……ラゴウ」
セツカがぎゅっと腕に抱きついてくる。
柔らかい胸越しに温もりと鼓動が伝わってきた。
「何があっても、私が守ってあげるからね」
白銀の髪から、覚悟に満ちた暗い瞳が覗いた。
「……そういう台詞は俺より強くなってから言え」
「あう」
色々重くなりそうだったので、軽くデコピンをすることで誤魔化しておいた。
まあ、セツカも不安なんだろう。
その気持ちは分からないでもなかった。
でも腕を組んだまま歩いて他の団員に見られるのはラゴウ的にNGなので離れてもらう。
めちゃくちゃ嫌そうな顔をされたけど。
通路を進んでいると、一般団員たちがこぞって敬礼の姿勢を取ってくる。
幹部だから当然だがなんだか新鮮な気分だった。
前世だと廊下で他人とすれ違う時は舌打ちか陰口が基本だったからなぁ。
俺の嫌味な一匹狼ムーブのせいなんだけど。
「……来たか」
王の間の扉を開くと、懐かしの姿が目に入った。
我が師匠スイゲツだ。
他に
指定された時刻までまだ数分の猶予はある。
孤高のライバルキャラらしく一人柱の陰にでも隠れていようかと思案していると、
「あらお二人さん、連れ立ってご登場なんて随分と仲良しさんじゃない。お熱いわね」
「照れる」
「照れるな。……男女が二人でいるからと、すぐ恋愛ごとに結びつけるのは下世話だ」
「やだ生意気。でもそうね、不躾だったかしら。ごめんなさいね」
「えー、でも悠々自適な重役出勤かましてくれたくらいだし邪推されても仕方ないんじゃなーい?」
「……俺たちはサイフォス王国での潜入任務中だ。転移陣があるとはいえ多少の遅れは仕方ないだろう。それに指定の時刻には間に合っている」
「同じ潜入任務中のカイナちゃんはちゃーんと集合時刻の三十分前にはいたけどね、ねー?」
「それは……休日だったはずが引き継ぎの書類に不備があったとミラ様から呼び出しを受けていて、ついでに仕事を押し付けられたせいで今まで対応に明け暮れていたというだけの話で……」
「さっすがカイナちゃん、社っ畜ー!」
その話に
可哀想な人だ。常日頃からくたびれたOLみたいな雰囲気を漂わせているが、その理由の一端が垣間見えた気がした。
「グゥ……グゥ……」
「寝てる……」
「クンバカルナは常におねむなのよ。常人なら百度は死んでる過度な肉体改造の結果らしいけど、そのせいで脳にも影響が出ていてね。さっきご飯も食べたばかりだし、起こさないであげてもらえると助かるわ」
「そう……可哀想」
体躯を丸めて眠っているのは
黒十字の団員ならば誰しも薬物投与等で肉体改造は施されるため、同情の気持ちが強く湧いたのだろう。
直立すると三、四メートルは優に超える巨人だが姿勢が姿勢なだけに数値ほどの威圧感はない。
それでも二メートルはあるので十分首が痛くなるサイズなのだが。
「……? 一人いないように見える。
「ベアヴォルフちゃん? あれは正確には団員じゃないし、本人の気分が乗らない時はまず来ないから気にしなくていいよ。だからって獅子王様の命令を無視するとかガチでありえないんだけどねー」
ベアヴォルフ=ベルセルクルは戦闘に生き甲斐を見出すというありがちな造詣のキャラクターだ。
そこから一捻り加えられてはいるが、基本的にはテンプレ戦闘狂キャラと思っておけばいい。
「…………」
「…………」
そして
なお謎の仮面キャラという立場のカバネはともかく、爺さんは単に口下手なだけだ。
事前知識だけでなく、長年接した経験からくる確信だった。
さて、これで役者は揃った。
間もなく定刻を迎える。カチリ、秒針が予定の時刻を指し示すと同時に膝をついてこうべを垂れた直後、王の間の扉が開いた。