悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜   作:む〜べ〜

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第50話 失敗した幹部を他の幹部が笑う例のアレ

 獅子王テンマ=ジナ。

 その側近ミラ・ハーフアスド。

 そして第八位(アハト)エアフォルク・アハトゥングス。

 

 彼らはそのまま玉座へ続く段差の前まで行くと、エアフォルクだけがその場で膝をつき、獅子王とミラは階段を登っていった。

 

 そして玉座に腰掛けると、表情や語調だけは穏やかなまま王が口を開いた。

 

「皆、揃っているね。……いや、ベアヴォルフは欠席だったか。彼の気まぐれにも困らされるな、任せたいことがあったというのに」

 

「申し訳ございません、獅子王様。これもひとえに私の管理能力が不足しているが故、如何様な処罰も受ける所存でございます」

 

「構わない。彼との契約内容である『強者との血湧き肉躍る戦い』をしばらく提供できていない。招集に応じないのも無理はないだろう」

 

 それよりも、と獅子王の目が眼下でこうべを垂れるエアフォルクへと向けられた。

 

「此度は彼へ処罰を下すための会合だろう?」

 

 ひく、とエアフォルクの体がわずかに揺れた。

 

 悪の組織とは失敗を許さない一発勝負の世界。

 上層部が責任を負うのではなく、個々人が責任を負って首を飛ばされる(物理)完全ブラック企業。

 当然黒十字騎士団も例外ではなかった。

 

「エアフォルク以外は顔を上げて構わない。私の前だからといって遠慮する必要はない、好きに発言することを許す」

 

「は〜い、じゃあお言葉に甘えさせていただきま〜す! 実はさっきからずっと我慢してたんです ──ワンワン吠えるのだけはお上手な無様な口だけワンちゃんを馬鹿にするの♡」

 

 獅子王に対しては露骨に声音を高く、甘い言葉遣いになるゼンゼは一転、エアフォルクに対しては明らかな嘲笑の意図を含んだ態度を向けた。

 

「ねぇねぇどんな気持ち〜? ねぇ今どんな気持ち〜? 何を考えたのか前々から入念に準備されてた計画に横槍入れた挙句、貴重な上位種の魔物二体と贋造魔剣(ファルシュ)を三本も失って、ねぇどんな気持ち〜?」

 

「……ッ」

 

 お手本のような煽りに対して、エアフォルクは身を震わせながらも耐えることしかできなかった。

 

「ワタシも煽るわけではないが疑問だな。様子見ではなく初手から上質な戦力を投入する……理屈は分かるが、それならばセツカやラゴウともっと密な連携を取るべきだったのではないか?」

 

「そんなの簡単だよカイナちゃん、ラゴウちゃんに対抗意識燃やしてたんでしょ」

 

 今度こそ、エアフォルクは耐えきれずゼンゼを射殺さんばかりの視線で睨みつけた。

 

 しかし彼女には逆効果だ。効いている、その事実が愉悦と嗜虐心を加速させる。

 そして肉体的精神的問わず、ゼンゼ・モルスは他人の『傷』を的確に抉るのが得意だった。

 

「前も噛みついてたしねー。自分が今より下の順位に落ちるんじゃってビビったんじゃなーい? うぷぷ、やっぱ最下位コンプレックス感じちゃってたー?」

 

「テ、メェ……ッ!! 第六位(ゼクス)ッ!!」

 

「キャハハハハ! 弱い犬ほどよく吠えるー!」

 

 めっちゃ煽るじゃん。

 原作にはない展開だから口出しせず静観しようと決めているのに「いい加減許してやったらどうや」と口を挟みそうになってしまう。

 

 いざ現実で失敗した幹部が嘲笑されるよくある展開を目の前にすると普通に可哀想が勝つな。

 

「こらゼンゼ、そこまでにしておきなさいな。 あなたが自他問わず『傷』をえぐるのが趣味とはいえ少しやりすぎよ。弱いものイジメは感心しないわ」

 

「コル姐ごめんなさーい。……聞いた? エアフォルク。弱いものイジメだってさ」

 

 それが最後の引き金となったのだろう。

 怒れるエアフォルクは己が魔剣の柄を固く握り込むと勢いのままに抜剣し──、

 

「エ(・)ア(・)フ(・)ォ(・)ル(・)ク(・)」

 

 その一言で、激情に突き動かされた体が停止した。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

 

 悪魔の瞳に映ってしまった、人間のように。

 

「今の君にはその行いをする権利も資格も存在しない。大人しく膝をつきなさい」

 

「それは……でもっ」

 

「聞こえなかったかな。──膝をつけと言っているんだ、エアフォルク・アハトゥングス」

 

 言葉と共に、獅子王から莫大な魔力の圧が発せられ、空気が粘ついたかのように感じられた。

 まるで巨大な魔物の胃袋に呑み込まれてしまったかのような、閉塞感と圧迫感が心身を襲う。

 

 それがトドメだった。

 エアフォルクの怒りは急速に冷め、代わりに恐怖と焦燥が心中を満たす。

 半ば倒れるように膝をついたエアフォルクは先ほどとは異なる理由で体を震わせる。

 

 即ち、自分より高位の存在に対する畏れだ。

 

「エアフォルク・アハトゥングス、愚かな貴方の処遇は既に決定しています。早急に獅子王様と呪印契約を結ぶ準備をしなさい」

 

「呪印契約って……まさか」

 

「次に失態を犯せば文字通り首が飛ぶ『徒花の印』。黒十字騎士団における慈悲と警告の証です」

 

 悪の組織においてありがちな「二度目はないぞ」という警告に実効力を持たせるための設定だ。

 無論ただの飾りではない。失敗したと判断されれば即時起動し、刻まれた者を絶命に追いやる。

 

「……相変わらず最低な組織……」

 

 セツカに一から十まで同意だった。

 

「そしてその上で──近くサイフォス王国で開催される『刀剣武闘会』中、忍び込ませた黒十字の団員たちを指揮して一斉蜂起し、太陽剣『ウテナ』を奪取する作戦の総責任者に任命します。この意味が分かりますね、エアフォルク・アハトゥングス」

 

 即ちこの計画に失敗すれば命はないという事実。半ば死刑宣告と呼んで差し支えない決定だった。

 

「お待ちくださいミラ様。エアフォルクは曲がりなりにも十剣(シュヴェルト)に列せられる強者、処分してしまえば甚大な戦力の低下が見込まれます。そうなれば今後の作戦立案に多大な悪影響が及ぶことが考えられま──」

 

「これは決定事項です。口を挟むことは許しませんよ、カイナ・アスモダイオス。それにそういった懸念事項は貴方がたが二倍三倍働けば済む話でしょう、違いますか?」

 

「いえ……それは、その通りですが……」

 

 哀れカイナはエアフォルクに助け舟を出そうとするも、ブラック企業丸出しの反論で呆気なく突き返されてしまった。

 しれっと仕事を増やされているのも可哀想ポイントが高い。

 

「安心するといい。先の作戦、当初予定していた次善の成果……アレクサンドラ王女の実力を測ることには成功している。キマイラに遠く及ばない程度であるならば、エアフォルクが敗れる道理はない。それに今回はラゴウやセツカとも協力してことに当たってもらう。カイナにも補助に回ってもらう。失敗する要素はどこにもないだろう?」

 

「……お言葉ですが獅子王様。我らが協力しようと、例の『天眼』がいる時点で作戦は失敗したも同然です」

 

 巧みな工作でどうにかするのは既に知っているが、一応抱くべき懸念事項を進言してみる。

 

「愚かですね、十剣第九位(シュヴェルト・ノイン)ラゴウ。獅子王様は既に手を打ってあります」

 

「当日は『天眼』及び魔剣を持つ隊長たちはほとんど出払う。残る隊長格は一人か二人が精々……対するこちらは『十剣(シュヴェルト)』が三人に加えて、団員も中隊規模で駆り出す予定だ」

 

 原作知識と相違ない内容だ。エアフォルク率いる部隊が外部から強襲し、内部からセツカとラゴウが秘密裏に太陽剣『ウテナ』の奪取を狙う。

 

 結局セツカの裏切りやラゴウの利敵行為、そして主人公シャクヤの覚醒も相まってエアフォルクは敗れ、作戦は無事失敗に終わるわけだが。

 

「エアフォルク、私は何も君に失望したわけではない。無論私的な感情に振り回され組織に不必要な損害をもたらしたのは看過し難い失敗だが、そのお陰で『面白い発見』もあった。今回の作戦で見事汚名を晴らせたのならば徒花の印も取り消そう」

 

「……?」

 

 面白い発見とはなんだろうか。

 原作だと存在しないやり取りなので、どの伏線と繋がっているのか推測できなかった。

 

「では此度の会合はここまでとしよう。良い報告を期待しているよ。エアフォルク、セツカ、ラゴウ」

 

 そういって白髪の魔人は玉座から立ち上がると、今来たばかりだというのに扉に向かって歩き出す。

 

 こんな短い時間のためにわざわざ幹部を呼びつけるあたりに絶妙なブラック組織っぽさが出ている。次からはやらないでほしい。

 

 心の中で舌を出し、獅子王が俺の隣を過ぎ去ろうとした、刹那のことだった。

 

「──期待しているよ、ラゴウ。十剣(シュヴェルト)として……なにより、私の同類として」

 

「……? なにを……」

 

「ではね。君は君の役割に励むといい」

 

 意味深な発言に慌てて振り返る。しかし獅子王は既に通り過ぎ、その顔色は伺えそうにない。

 床にまで届きそうな長い白髪を揺らす後ろ姿からは、どんな感情も読み取れそうになかった。

 

「ああそうでした。カイナ、まだ仕事が残っています。これから執務室へ行くので着いてきなさい」

 

「えっ。……は、はい……」

 

 カイナが肩を落としながらついていった。南無。

 

「あたしは他に任務があるから手伝ってあげられないけど、陰ながら応援しているわ。頑張って頂戴」

 

「ゼンゼも参加したかったー! それなら太陽剣『ウテナ』なんて簡単にゲットして獅子王様にも褒められたのにー! ……失敗して獅子王様の期待を裏切ったら殺すからね?」

 

 続くようにコルとゼンゼもその場を立ち去る。

 クンバカルナはぐうぐう寝たまま動かない。カバネは相変わらず無言のまま立ち尽くしていた。

 

 我が師スイゲツは──なんかこっち来た。

 

「…………」

 

「…………」

 

 視線が合う。次にセツカの方を見ると、再び俺の方へ目線を戻し、腰に下げる魔剣に手をかけた。

 "アレ"だ、と気づいた俺たちもまた魔剣の柄を掴み、静かにタイミングを測る。

 

 そして。

 刹那の瞬間、一斉に抜刀する。

 

 セツカの振るう『冰雨』の氷刃がスイゲツの首筋を刈り取らんと迫り、同時に『永闇』の黒刃でスイゲツの胴体を両断せんと切りかかる。

 しかしスイゲツは『潮月』の刀身のみならず鞘さえも用いた二刀流でそれを阻止。

 

 攻撃を弾かれ生まれる隙。

 その隙を予測して立ち回ろうとしていた俺たちの、さらに先を予測していたスイゲツの太刀筋が美しい弧を描く。

 

 まずはセツカがやられる。

 俺は何とか回避に成功したものの体幹を崩されてしまう。

 体幹の崩れは即ち攻防の崩れ。

 続く二太刀目は防ぎきれず、首を刈り飛ばされる──、

 

 という夢を見た。

 いや、正確には夢ではなく三人での脳内シミュレーションなのだが。

 

 わずかな動きの起こりから相手がどのように動くか予測し、頭の中で戦闘を組み立てる。

 スイゲツから教わった鍛錬法の一つだ。

 今のところ全戦全敗。これだから幹部最強は。

 

「……まだまだ成長の余地はある……精進しろ」

 

 そう言い残してスイゲツは去っていった。

 

「……悔しい……」

 

「……俺もだ」

 

 いつか絶対見返してやる。そう固く決心した。

 そして、残るエアフォルクはというと。

 

「第十位(ツェーン)、それに第九位(ノイン)。…………足引っ張んじゃねェぞ」

 

 失敗したばかりで後がないというのにかませ狂犬幹部としてのキャラを崩さない捨て台詞を吐いて、どこか覚束ない足取りのまま消えていった。

 

「……自業自得とはいえ、なんだか可哀想だね」

 

「まあな。奴も所詮は組織にいいように使われるだけの飼い犬……俺たちも含め、哀れな最期が約束された身にすぎん」

 

「ラゴウとサクナの安全が第一だけど……黒十字騎士団の壊滅、叶えたいね」

 

 エアフォルクによる想定外の行動はあったが大筋は変わらなかった。これなら当日も原作通りの動きをしていれば問題ないだろう。

 

 シャクヤがどのヒロインのルートに進むのか。

 俺のライバルキャラ√はどうなるのか。

 全てが決まる運命の日が、やってくる。

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