悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
「そんな店の商品なんて買う必要はないわ、この私が断言してあげる!」
「サーシャちゃん、しー、しー……!」
耳朶をつんざくような大きな声に、特徴的な凛とした声質。
体格より一回りは大きいフードのついたローブで顔を隠しているが間違いない。
声の主はアレクサンドラ・オブ・サイフォスだ。
すぐそばでシャクヤとラニとサルファが慌てているし。
「な、なんだあんたは! 急に失礼なことを言いおって、私の店の商品にケチつけようってのか!?」
「当然! そんなロクに魔法も付与されていない低級品以下の『もどき』、詐欺もいいところじゃない! しかもご丁寧に一般人はだまくらかせるよう低濃度の魔力だけは纏わせて、明確な意図を持った詐欺行為ね! 万死に値するわ!」
ちなみに事前にそれらしい気配を察知して手は離してあるし、サクナも気配遮断を活かして姿をくらませている。
セツカから恨めしそうな目で見られたが、下手な勘違いをされるリスクは負いたくない。
「な、なにを……でたらめだ! ウチはちゃんとした商品を扱ってる! それ以上言うようなら営業妨害で憲兵に突き出すぞ!」
「あら、いいじゃない。やってみるといいわ」
この後の展開が目に見えるようだ。
それはどうやらあの三人も同じなようで、必死にアレクサンドラを止めようとしていた。
だがそれでは足りない。彼女は意気揚々とローブに手をかけると、ヒーローのように声高らかに自らの正体を明らかにした。
「──このアレクサンドラ・オブ・サイフォスが間違っているというならね!」
露わになった蒼い瞳に、背負うようにしてローブで隠していた黄金の大剣。
なによりこの国において王族の象徴ともされる、鮮やかな緋色の毛髪。
サイフォス王国の王女殿下アレクサンドラの登場に、周囲は一瞬しんと静まり返ったかと思うと、直後に堰を切ったような歓声を上げた。
「お──おおおおお王女様あああああ!!!??」「おいみんな、王女様だ! アレクサンドラ王女殿下がここにおられるぞぉ!!」「嘘、王女様の姿をこんな間近で見られるなんて!!」「なんて……なんて神々しいんだ……!!」
ただでさえお祭り騒ぎだった大通りが最早熱狂の渦の中心と化していた。耳を塞いで尚うるさい。
「出るとこ出るなら付き合うわよ。で、どうするのかしら?」
「あ……あ……も、申し訳ございませんでしたああああああああ!!!!!!」
店主は一気に青ざめた顔になったかと思うと、天板に並べていた商品を秒速で布に包み込み、一目散に駆け出して行った。
詐欺であったことを認めたようなものだ。
無様に逃げていった店主の背中が見えなくなったあたりで、再び歓声が上がった。
「あくどい商いに手を染めるふてぇ野郎をああも見事に撃退なさるとは!」「流石はアレクサンドラ様!」「なんて……なんて神々しいんだ……!!」
さっきからまるで女神か何かと勘違いしてる奴いないか?
「あああああどうしよう……こんな騒ぎにならないようちゃんとサーシャを止めてくれって注意されてたのに……」
「あはは、もうこうなったら楽しむしかないよね」
終いには王女様コールが始まる始末だ。
熱狂に駆り立てられる群衆の中心で、アレクサンドラはドヤ顔で堂々と胸を張って立っていた。
☆
あの後、これ以上は収拾のつかない大騒ぎになると判断した俺たちは魔力による身体強化で屋根へと飛び乗り、そのまま屋根伝いに大通りから離れた路地裏に身を隠す運びとなった。
「貴方、運がよかったわね。私がいなかったら今頃無駄な消費をさせられていたところだったわよ」
「……余計なお世話だ。貴様の口添えがなくとも、元々買うつもりはなかった」
「な。素直に『ありがとうございました、アレクサンドラ王女殿下』も言えないなんて、嫌な奴ね!」
この時点のラゴウは嫌味で冷たいクールライバルキャラなのでそれらしい返しをする。
別にそうじゃなくてもそこまでへりくだった感謝はしないと思うけども。
「サーシャ……師匠を助けようとしたのは分かるけど、もう少し立場というか身分というか色々わきまえてよ……肝が冷えたよ……」
「そ、それは……興が乗ったというか……」
「確かにものっそい盛り上がってたもんね。ボクも割と楽しんじゃったし」
「わらわ、あんなに人がいっぱいで騒ぐの初めてだったから、くらくらした……」
ゲームにおいて、刀剣武闘会前に自分が選んだヒロインと露店巡りをするというイベントがあった。
主に四人のヒロインの中から選ぶわけだが、ネタ枠選択肢としてラゴウを選ぶこともできたはずだ。
当然一蹴されて選択やり直しとなるわけだが、この世界のシャクヤはなんとも判定のしづらい選択をしたようだ。
サルファまでいるし、アレクサンドラ√かラニ√かまだ判別がつかない。
「……待ちなさい。シャクヤ、今貴方あの真っ白頭のことを師匠って呼んだ?」
「え? うん。ちょっと前からこの日に向けて修行をつけてもらってたから」
「んなっ、どういうこと!? 師事を仰ぐなら私がいるじゃない!」
「そ、それはその、色々理由があるというか」
「サーシャちゃんよりししょーの方が強そうだからだってぇ……」
「な、なんですってぇ!?」
「ああラニ、人酔いしてるからってそんな正直に言わなくてもっ」
シャクヤの失言がトドメになったのか、アレクサンドラは怒髪天を衝くといった様子で勢いよく指を差し向けてきた。
「貴方! 覚悟しておきなさい、武闘会で負かして私の方が強いと証明してあげるわ!」
「……その前に他の人とあたって敗退する可能性を考えた方がいいんじゃない?」
「わ、私が途中で誰かに負けるとでも!?」
「少なくとも、私とあたれば確実に」
アレクサンドラの赤色とセツカの青色のオーラがせめぎあう、そんな光景を幻視した。
原作でも二人はそれぞれ表と裏の二大ヒロインとしてセット売りされていた。
ストーリー中でも王女と元皇女、活発と静謐な性格とでよく対比されていたし、魔剣の性質や属性も正反対だ。
まさしく龍虎。相反する二人が互いの闘気を燃やし、ぶつけあっていた。
「彼は私より強い。つまり私に遠く及ばない貴方では、彼に勝とうだなんて思い上がりも甚だしい」
「……吠えたわね。いいわ、セツカ・オカミ。まずは貴方からぶちのめしてあげる」
矛先が逸れてくれたのはありがたいが、原作になかった変なフラグを立てるのはやめてほしい。
急に割り込んできたセツカに小声で真意を尋ねる。
「おい、どういうつもりだ」
「……ラゴウを軽く見過ぎ。あと三人でのデートを邪魔された、ムカつく」
デートじゃないが。
表面的な性格が陽と陰なだけで、二人とも根っこのところでは直情的な似たもの同士なのかもしれなかった。
「お~いいじゃん。炎熱と水冷の魔剣のぶつかり合い……映えるね!」
それは分かる。
「ごめんなさい師匠。サーシャがその、無理に絡んじゃって」
「……手綱はしっかりと握っておけ、面倒だ」
対立する二人とそれを茶化すサルファに対処することを諦めたのか、シャクヤが話しかけてきた。
「大会までお祭りを楽しもうってラニと話してたら、サーシャが案内してあげるって言ってきて、サルファさんも一緒に行くことになったんです」
「サーシャちゃん、昔からお忍びでお祭りの露店を回ってたんだって」
王族あるあるだ。そのへんセツカの御上家よりは監視の目が緩いのだろうか。
いや、単にアレクサンドラの行動力が並外れているだけか。
それに恐らく執事のラシードがどこかで監視し、見守っていたに違いない。
なんなら今もそうだろう。こと隠密技能でいえば作中随一の使い手だ。
隠に徹されると俺も気配を探るのは不可能だ。
「そうだ、見て見て! さっきお店でシャクヤに買ってもらったブレスレット! 綺麗でしょ~」
「! ……ふん、興味ないな」
「むぅ」
ラニが自慢するように見せてきた青い花の意匠のブレスレットを見て、俺は内心で笑みを浮かべた。
間違いない、これは各ヒロインとのデートで発生するプレゼントイベントで贈られる装飾品だ。
このイベントが発生しているということは、グランド√に移行したと見て間違いないか……?
いや、まだ様子見の段階だ。
今章が終わるまでは慎重に接しよう。
「このブレスレットとパワーアップしたわらわたちの『秘密兵器』で、ししょーをギャフンと言わせてみせるんだから!」
「……ふん、やってみろ」
そうやって雑談を交わしていると、そろそろ言い合いにも一段落ついたのか、ずんずんとこちらに向かってきたアレクサンドラがシャクヤたちの手首をつかんだ。
「シャクヤ、ラニ! こうしちゃいられないわ、大会前のウォーミングアップとしゃれこむわよ!」
「えっちょっそんな急に言われてもおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…………!?」
「サーシャちゃああああああぁぁぁぁぁん…………!?」
「じゃあねーラゴウくん、せっつん。また大会で会おう!」
人間二人がまるで風船のように見えてしまうほど軽く持ち上げ引っ張っていく彼女の背中についていくように、サルファが別れの挨拶を告げた。
……どうでもいいけど俺だけあだ名つけられてないんだな。どうでもいいけど。