悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
「ラゴウ、私ちゃんとやれたよ。身の程知らずの王女様を舌戦で打ち負かしてきた。次は剣の腕で打ち負かす」
俺はやれなんて一言も言ってないんだけどな。
原作でも二人が戦って「前章であれだけ頼もしかったアレクサンドラが負けるなんて……!」とプレイヤーにセツカの強さを見せつけるありがちなイベントが挟まるのだが、これがシナリオの強制力というやつなのだろうか。
半ば強引な形で二人の間に因縁が結ばれていた。
遭遇イベントも終わったのでサクナの姿がないか辺りを見回し、少し離れた露店の前にいるところを発見した。
狐の面越しに品物をじっと見つめている。
しかしこんなところに店があったとは。
路地裏に出店しているなんて儲ける気がなさすぎるんじゃなかろうか。
「サクナ、そこにいたのか。奴らは去った。もう気配を隠す必要はない」
「…………」
「おい、どうした」
「──はっ。も、申し訳ございませんラゴウさま。少し商いの品を見ておりまして……」
普段なら声を出す前に反応する俺の呼びかけに対してこうも反応が遅れるとは、よほど気になる商品でもあったのだろうか。
横から覗いてみる。そこには花を模した装飾具が陳列されていた。
「どうしたの? ……わ、つまみかんざしだ。しかも綺麗な作り」
「ええ。わたしも大変懐かしく思い、客引きの声に負けてつい目を奪われておりました」
「つまみかんざし?」
「はい。主に花や鳥、動物などを模した絹細工の一種でございます」
和風のキャラがつけがちな花等の髪飾りをイメージすればわかりやすいだろうか。
「仰る通りこれは遠い極東のアシハラから仕入れた品物で、鮮やかな職人芸によって生み出された美しい絹細工。最近この国で流行りの『花言葉』という風習に商機を見出しましてね、ふふっ」
花言葉か。そういえばゲームでも結構重要になる要素だからか、度々言及されてたっけ。
二人の方をチラリと覗く。セツカの方は原作で象徴となる花があったが、サクナはどの花がそれに当たるのだろうか。
シュテッケン法国にさらわれて早十年近く。
故郷の名産品を目にして郷愁の念をくすぐられているのか、二人はつまみかんざしをじっと見つめていた。
そんな彼女たちを見ていると、ふとサクナの視線が一点に向けられていることに気づいた。
視線の先には白桃色の花のかんざしがあった。
「『桜』か」
「……桜は、亡き母との思い出の花ですので」
サクナのパーソナリティについてはほとんど知らない。家族構成や過去についても、これまで共に過ごしてきた中で断片的に聞いた情報しかなかった。
だがそういえば確かに、原作でセツカがサクナについて語るとき大抵『桜』のイメージがセットになっていた。
彼女というキャラクターと密接な関係にあるのだろう。
かんざしを見つめる瞳は、同じ桜の色に輝いているように見えた。
「……魔力の波動を感じるが、これは魔道具か?」
「お目が高い。これは良質な魔道具で、致命的なダメージを受けても一度だけ身代わりになってくれる『形代』の効果が付与されているんですよ」
ゲームでも低体力を維持して攻撃力を高める火事場式戦闘スタイルだとお世話になる魔道具だ。
さっきの店とは違い、ここはちゃんとした商品を扱っているようだった。
「このかんざしを買いたい。値段はいくらだ」
「! ら、ラゴウさま……?」
「こちらアシハラから仕入れた魔道具ですから、お値段も少々張りますがよろしいので?」
「金なら有り余っているのでな」
これでも黒十字の幹部なので給金は山ほど貰っているし、そうでなくとも原作本編に備えて昔から珍しいアイテムを見つけては貯蓄してあった。
なんなら基地で倒した魔物の素材を近くの町でうっぱらったりもしていた。余裕はある。
「それでは十万ルド……といきたいところですが、今日初めてのお客様な上、お可愛らしい恋人様への贈り物ならお安くしないわけには参りません」
「こ、恋人……」
ちなみに魔剣戦記において貨幣単位はよくある金銀銅の貨幣ではなく、分かりやすく『ルド』で統一されている。
ゲームで一々銅貨何枚分が~という処理をはさむのは手間なだけで面白さに繋がらないからだろう。
つまみかんざし一つが半額に割引されて五万ルドとなった。
「ら、ラゴウさま。かように高価で美麗な代物は、わたしには過ぎた賜り物かと存じます」
「気にするな、この程度なら痛痒にもならん」
それでもサクナは食い下がってきたが、無視してかんざしを購入した。
困惑する彼女に商品を無理矢理手渡すと、
「謙遜は美徳だが、何事も過ぎてしまえば悪徳に変わる。……お前に死なれては困ると言っただろう、その保険ついでだ。素直に受け取っておけ」
サクナはどうにも自分の命を軽んじるきらいがある。計画がいよいよ本番を迎えつつあるこの段階で、下手に死なれても迷惑なだけだ。
だから買い与えた。それだけのことだった。
だというのに、最初戸惑っていた彼女はおずおずとかんざしを受け取ると、やがて大事そうに手のひらで包み込んで、大輪の笑顔を咲かせた。
「──ありがとうございます。このサクナ、一生の宝物にいたします……っ」
…………。
まあ、喜ばれて悪い気はしない。
「サク姉ずるい、私にも買うべき」
「……そういうだろうと思って一緒に買っておいた。『紫苑』のかんざしだ」
「わ、綺麗。ラゴウ、意外とお洒落」
「原作のお前がつけていたものだからな」
「ゲンサク……?」
確か『紫苑』の花言葉は『あなたを忘れない』『遠くにある人を想う』で、亡き親友を表していてエモいとファンの間で話題になっていた。
この世界だとサクナは生存しているのでエモさゼロだが、俺の中でのセツカといえばこの花飾りのイメージなので、丁度いいと思っていたのだ。
サクナに与えた物と同じ効果も持っている。
「さあさ、仮面を外して早速付けてご覧になられてはいかがでしょうか。きっと綺麗にお似合いになられますよ」
促す店主。サクナは少し考える素振りを見せると、そっと狐面を外した。
そして二人は早速かんざしを髪に通すと、見せびらかすように小首をかしげた。
「どう、似合ってる?」
「綺麗、ですか?」
降る雪の白銀に開いた紫苑の花。さながら雪原に咲く気高き一輪を思わせる色彩は、見るもの全てを感嘆させる魅力を持っていた。
ぬばたまの黒髪に咲いた桜の花。さながら夜桜を思わせる色彩は、数瞬の間呼吸を忘れさせるほどの美しさだった。
「…………さあな」
綺麗だと、悔しいが素直にそう思った。
だが俺はラゴウなのだ。
照れるにしても「ふん、下らん……」と言って顔を背けつつ「まあ、悪くはないんじゃないか」みたいなことをボソッと呟く程度だ。
もちろん耳を赤くしたりもしない。そんな分かりやすい照れは不要だ。
だから俺も顔を背ける。見られても問題ないが、ラゴウのキャラ的にこれが正解だからだ。
「照れてる」「照れておられます」
「照れてないが」
決して赤くなった顔を見られたくないだとか、そんな間抜けな理由では断じてなかった。
そう、単にまだ買いたい品物があったから店主に話しかけようとしただけだ。
「店主。もう一つ品を貰おうか」
「ええ、なんなりとどうぞ」
「そうだな。それでは……この獅子の頭を模したアクセサリを貰おうか」
「──……お客さん、お目が高いですね」
たまたま目についたってだけだが、黒十字の団員は獅子王の爪牙である、という扱いだし忠誠心アピールにもなるだろ。
知らんけど。
お金を払い、店主から品物を受け取ろうとして……受け取り損ね、落としそうになった。
「っと失礼」
「…………ふふ、落とされて品に傷がついても交換はいたしませんよ?」
「別に構わん。気にしてはいない」
二人から顔をそらす口実でしかないし。
そうしているうちに開催の時刻も近づいてきた。
刀剣武闘会場に向かうという名目のもと、二人からわずかに距離をとりつつ会場へ向かうのだった。
「…………フ」