悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜 作:む〜べ〜
──準決勝第二試合は激戦の様相を呈していた。
「荒天に奔れ『ルドラストラ』!」
「雪ぎ落とせ『冰雨』」
学園の生徒の間では周知の事実となった魔剣のコピーだが、一般客にとっては未知の現象だ。
敗退したセツカが使っていた魔剣を振るう少年は、絶大なインパクトを観客に与えた。
「なんだありゃ、さっきの嬢ちゃんが持ってた魔剣と同じやつ!?」「二本目があるってのか!?」
盛り上がる周囲とは裏腹に、試合自体は静かに進むチェスや将棋のごとき様相だった。
離れた場所から一方的に矢を放つサルファと、それを切り払いながら隙を窺うシャクヤ。
現実でもそうだが、武器の
「ほらほらシャクやん、この窮地どう攻略する?」
『ルドラストラ』に対してシャクヤが切れる最適解は攻防一体の太陽剣『ウテナ』だ。
しかし体力も魔力も多大に消費する手札を序盤から切るのは愚策。
故に防御に秀でた『冰雨』を選んだのだろう。
大会を通して動きも見られた。今のシャクヤは一割ほどの精度でセツカを模倣できている。
「……こうして自分の動きが真似されてるのを見ると、なんか複雑な気分……」
確かに、これまで積み上げてきた技術をサラッと真似されてモヤるのは分かる。
俺のすり足も結局ほとんど完璧な精度で模倣されてしまった。これだからバトル作品の主人公は。
「『霧雨』」
放たれる矢を必死に切り落としてきたシャクヤが次手に転じ、凍てつく霧を散布した。
武闘台全体を覆わん勢いだったが、端の方にいるサルファまではギリギリ届かなかった。つまりこれは自分の姿を隠す煙幕としての役割なのだろう。
「ふうん、姿が見えなきゃ矢も当てられないだろうって? 普通の使い手ならそうだろうね」
でもさ、とサルファは空に目掛けて矢を番えた。
「ボクのこと、魔剣使いだって忘れてない?」
矢を天高く打ち上げる。重力に従って落ちてくる瞬間、一本だったはずの矢が無数に枝分かれして雨のように降り注ぎ、武闘台を抉っていった。
「『
百を超える矢の雨が次々白霧を穿っていく様は、さながら戦闘機から放たれる機関銃のようだった。
あれではほとんど逃げ場もない。
霧が晴れる頃には倒れ伏したシャクヤの体が見えることだろう。
──あいつが、俺との修行を経ていなければ。
「……? シャクやんが、いない……?」
しかし、霧が晴れたそこに少年の姿はなかった。
抉られた武闘台の破壊痕だけが残されていて、シャクヤがいた痕跡は影……いや、消え去っていた。
サルファはシャクヤの居所を探ろうと視線を左右に動かす。その背後に一人の『影』が迫り、
「──なんてね」
「ぐっ……!?」
サルファは魔力を編んで生み出した『矢』を握り込むと、振り向かずに背後を突き刺した。
「どう後ろに回ったかは知らないけど、ボクは風を読むのが得意なんだ。わざわざ後ろを向かなくてもどう迫ってきてるか、手に取るように分かったよ」
「……そっか……」
弓使いにとって人並外れた視力と風読みの技能は必須級だ。ゲームでいう感知系のコモンスキルを伸ばした彼女に生半可な不意打ちは通用しない。
自らの腹に刺さった矢を見て、シャクヤは諦めたように項垂れ、
「ありがとう、
「……? なにを……」
そこで初めてサルファは振り返り、気づく。
シャクヤが手に持つ魔剣が、『冰雨』ではなく黒い刀に変容していることに。
「ラゴウくんの『永闇』……!? まさか!」
「うん、僕の勝ちだ」
サルファの首筋に、背後から黒刃が添えられた。
「……参ったな。『影分身』とかいうのは実体がないから、風切り音を生まないはずなんだけど」
「『影武者』っていうんだ。自分の影を切り離して作る実体のある分身だよ」
「どうやって矢の雨を凌いだの?」
「
『冰雨』の『霧雨』。
『去渡』の『
そして『永闇』の『影武者』と『影潜』。
瞬時に複数魔剣のスキルを切り替えることで、シャクヤは矢の雨を凌ぎ、勝利を掴んでみせた。
「うーん、負けた! 降参! もうホント魔剣のコピーって反則すぎだよ〜!」
サルファが白旗をあげ、シャクヤの勝利が決まる。会場がワッと歓声に包まれた。
同時に決勝戦の対戦カードが決まる。理想通りの流れに、思わず笑みがこぼれてしまう。
「……!」
武闘台を見下ろす俺に、シャクヤが視線を返してきた。ここまで来たよ、と言っているようだった。
「……『影潜』と『影武者』はそれぞれ三つ目と四つ目に解放されるスキル。それを使えるということは、つまりそういうことか」
俺に勝つために、少しでも手札を明かそうと努力していたのだろう。
「いいだろう、見せてやる。お前のライバルとなる
☆
選手用の控え室で一人、精神統一を図る。
この場にはサクナもいない。正真正銘俺のみ。静寂に満ちた空間の中で、ゆっくり息を吐く。
そして肺一杯に空気を吸い込んで、
「──ひゃっほおおおおおう!!!!! ついに!! ついにここまできたあああああ!!!」
俺は狂喜乱舞した。
ここまで順調すぎて怖いが、よくよく考えると逆にこうなるまでが波瀾万丈すぎて怖い。どうしてあんなに荒れまくってたんだろう、不思議だ。
「あとは決勝でシャクヤたちをボコって意味深な発言をしてから姿を消して、陰からエアフォルク戦を見守りつつあわやといったタイミングで都合よく助けに入るだけ……! 共通ルートが終わればオリジナルのライバルキャラルートが始まる……! 夢が広がる!」
今回の襲撃作戦、原作でラゴウはシャクヤを助けるという特大の利敵行為を働くのだが、そのことで即座に処分が下されたような描写はなかった。
もしかしたら裏で罰せられていたり、実は獅子王にバレていて着々とデッドエンドフラグが溜まっていたりしたのかもしれないが、逆に言えば即座に殺されるような処分は下されないということ。
それなら問題ない。
泳がされていたとしても、その間にシャクヤたちとの関係性を築き上げればいい。
そして原作ではその後にラゴウが無様な死を迎える羽目になった中盤の山場で先んじて組織を裏切り離脱し、第三陣営として王国と本格的な共闘体制を結ぶ……!
完璧な流れだ。
学園入学前後は不安と心配で胃痛に悩まされていたが、なんだかんだでうまくやれている。
今章で組織を裏切るはずだったセツカの役割は浮いているが、まあ静観に回らせて同じタイミングで組織から抜けさせればいいだろう。
「万事順調、何も心配は要らないな」
そろそろ試合の時間だ。
ウキウキ気分を胸に秘めたまま扉を開き、武闘台へ向かう通路を歩む。
道中、一人の人影が膝をつき俺を待っていた。
「ラゴウさま。お待ちしておりました」
「サクナか。どうした、何かあったのか?」
「いえ……ただ晴れの舞台に
つくづく大袈裟な奴だ。たかが刀剣武闘会の決勝にそこまでの意味はない。
単に強キャラライバルムーブを見せつけるための舞台でしかないのだ。
「それに──楽しそうに笑っておられるラゴウさまのお顔を、間近で拝見したく思いました」
「…………さっきの、見てたのか?」
「いいえ。ただなんとなく分かります」
嘘だろ、そんな表情に出てたか俺。
サクナが指摘してくれて助かった。クールなライバルキャラがニヤニヤ笑っていたら台無しもいいところだ。無表情の鉄面皮、これ基本。
「いってらっしゃいませ、ラゴウさま。御身の勝利を心より願っております」
「……ハ、誰にものを言っている」
恭しく頭を下げるサクナに後ろ向きで手を振りながら、出入場口の光の中に一歩を踏み出した。
陽光と歓声を浴びる。魔法で修復された武闘台の上に、俺の計画における最重要人物が立っていた。
「……それで、少しは俺を楽しませてくれるのか? 模倣の」
「うん。
黒刀の柄を握り込む。白剣の柄に手がかかる。
赤朱の瞳で、紺青の瞳と視線を交わす。
なにやら長々と司会進行が語っているが耳に入ってこない。ただ試合開始の合図だけを待ち侘びる。
そうして悠久にも感じられた時の末。
ついに、戦いの火蓋が切られた。
「それでは刀剣武闘会の最後を飾る決勝戦を開始いたしましょう。果たして勝利の女神が微笑みかけるのは模倣剣士のシャクヤか、はたまた圧倒的強者ラゴウか──試合、開始!」