悪の組織のライバルキャラ転生〜「勘違いするな、お前を倒すのはこの俺だ」と言いたいだけなのに〜 作:む〜べ〜
アベリアとの密約から三ヶ月が過ぎた。
彼女とはよく鍛錬をしに行く森に隠した連絡用魔道具を介して、月一で情報交換をしていた。
さすがは研究者キャラ、早くも遠距離連絡可能な魔道具を獲得できた。便利便利。
とはいえ現状では大きな進展はない。
姉であるカイナに近づけるのは基礎修練生か、同じ
『ま、気長に待ちますよ。元から最短でも十年はかかると見越していましたから』
「悪いな。代わりにその半分の年月で契約を満了すると約束しよう」
現時点で俺が十歳。
本編開始まであと五年だから、丁度半分で契約を完了できる目処はついていた。
つまり俺のやるべきことは一つ。
「『影分身』」
影分身を都合十体生み出し、それぞれ異なる角度からスイゲツに向かって踏み込ませる。
それだけでは影の有無で見破られてしまう。
そのため初級闇魔法による地面を伝う影の刃を複数放ち、その上を走らせる。
さらに俺自身が『影潜』によって影の刃に潜ることで、攻撃と移動を同時にこなす。
そして分身が消滅する際生じる墨汁のような影で奴の視界が遮られた瞬間、飛び出て不意をうつ。
完璧なコンボだ。
これなら魔剣を抜かざるを得ないはず。
「──などと思っていたのだろうが、詰めが甘なんだな。童」
「クソォォォォ…………!!!!!」
だが結果は惨敗だった。
背後から不意打ちの刺突を繰り出したはずが、右足を軸にした一回転で避けられ返り討ちにされた。
「魔剣を得てからの貴様の成長には瞠目すべきところがある。どうやら剣才には乏しくとも、小細工を弄する知恵の才には恵まれたようだな」
「さいで」
「だが地力が不足している。畢竟貴様に不足しているのは技と体、特に後者の割合が大きい」
スキルの試行錯誤ならまだしも、剣術となれば一朝一夕で身につくものではない。
つまり今すぐ改善できるとすれば体。
レベル上げだ。
「策はあるにはあるが……いやしかし……でもなぁ……」
少々ハイリスクがすぎる手段だった。
だが原作のラゴウも乗り越えた試練だというのなら、ここで躓くわけにはいかない。
効率的なレベリング等で多少ショートカットできている自信はあるが、それでもこの男から認められるビジョンが想像できなかった。
「お疲れ様です、ラゴウさま。こちらお水と手拭いでございます。めたるどらごんのささみ肉を茹でたものと、ゆで卵とぶろっこりーも用意しています」
「ああ、よく言いつけを守れているな……」
「むっふっふ」
「え?」
「いえ、なにも」
今奇妙な笑い方をしたような気がしたが、気のせいだったかな。
「……童、貴様……」
スイゲツが変な目を向けてきた。何故。
「いや、よそう。それよりもサクナ、そしてセツカ。次は貴様らの番だ」
そして俺の稽古が終わったばかりだというのに、もう次の稽古だ。
いつかこの男の鼻っ柱を折ってやる。
そう心に決めて、俺はハイリスクな手段を取るための下見に向かった。
ここは数ある黒十字の基地の中でもゲーム本編中に訪れる場所だ。
イベント戦があり、レベル次第では詰む恐れもある難易度だった。
それに対する救済策として用意されていたのが、高効率のレベリング場所。
──地下で飼育されている、無数の魔物たち。
「……魔力の『圧』が半端じゃないな」
鍛えたからこそ分かる彼我の実力差。
特注の檻の中に閉じ込められている魔物の一体一体が、今の俺とは格の違う強敵だった。
確かレベル帯は50+5辺り。
今の俺がいいとこレベル30ということを考えると、倍近い差が開いていた。
「プレイング次第でどうにかなる範疇ではあるが……ゲームだとレベル50を超えた辺りから敵も味方も強さが段違いに上がるからな」
ステータスが上がるというのもあるが、AIの賢さが跳ね上がるというのが大きかった。
魔物たちの瞳を見る。
野生の本能に支配された獰猛な目をしていながら、俺の一挙手一投足を見逃さず、隙さえあれば喉笛を掻き切ってやろうという冷静さがあった。
「ゲームで最後に戦うラゴウのレベルが50ほど。このままのペースなら十分追い越せそうではあるが……そろそろまた冒険をする頃合い、か」
AIが格段に進化を遂げるレベル50の壁。
この世界ではどれほどの影響を及ぼすのか。
とりあえずゲームで一番弱かった敵の檻の前に行くと、意を決して鍵を開けた。
俺の勇気が成長への道を切り開くと信じて――、
――数時間後、そこにはボロックソにやられた俺の姿が。
やっぱりレベル50の壁には勝てなかったよ……。
「地力が足りていないというのも頷けるな」
魔剣戦記はアクションでありRPGでもあるので、レベル差によるダメージ補正等は大きい。
神がかったプレイングスキルがあれば低レベル進行も可能ではあったが、今の俺にそこまでの戦闘技術はないということか。
「……だがまぁ、ゲーム通りなら負けても多少経験値は入ってくる」
それに決められた行動パターンこそなくとも、生き物には好みの『呼吸』がある。
ほかでもないスイゲツから教わった話だ。
『人間も魔物も、生物には必ず独自の"呼吸"が存在する。それは個の癖や嗜好、生命活動の
『呼吸……』
『それを見極めることが叶えば戦闘において絶対的な有利性を獲得したも同然。相手の技術や思考の土台となる方向性そのものを掌握するのだからな』
『水の呼吸みたいなものか……?』
『…………』
その時はうまく理解できなかったが、つまりはそういうことだろう。
このまま戦い続けて勝利すれば、俺は更なる成長へのきっかけを掴めるはずだ。
「ククッ、そのためにはまずこの体の傷を癒さなくてはな……!」
「ラゴウさま、ただいま戻りま――ら、ラゴウさま!? そ、そのお怪我は一体……!?」
「わ、すごい傷。誰にやられたの?」
「……騒ぐな、少しヘマをしただけだ」
サクナは慌てた様子で回復薬や包帯が入った救急箱を取ってくると、俺の治療にあたった。
セツカはというとしゃがみこんで体をつんつん突いてきた。
……認めまいとしてきたが、やはりどうにもなめられている気がする。
クソ、蛇蝎のごとく嫌われるよりはマシだがこれはこれでよろしくない。
悪の組織の同僚なのだから、もっとこう、殺伐とした関係であるべきだ。
「少し沁みると思いますが、我慢してくださいね……」
それを言うと、一番分からないのはやはりサクナだった。
どうせ死ぬからと放置してきたが、彼女の思考は相変わらず読めない。
何故か俺の三歩後ろが定位置になったサクナは率先して世話を焼いてくる。
最初は媚びを売るためだと思っていたが、少し違うような気がする。
治療が終わり、ベッドに寝転ぶ俺に膝枕をしながらどこか聞き覚えのある鼻唄を歌う彼女に対して、意を決して問うてみた。
「貴様は……俺が怖くないのか?」
「と、申されますと……?」
「俺は散々貴様らをこき使ってきたし、危険な狩場へ無理に連れ回しもした。普段も高圧的な態度で接している。それでなぜ呑気に膝枕などできる。媚びを売り、俺の警戒を解こうという腹積もりか?」
俺は十歳で、セツカの誕生日ももうすぐ近い。
そろそろ涙刀『冰雨』授与の日がやってくる。
つまりはサクナとセツカが殺しあう運命の日だ。
その前に彼女の真意をたずねておきたかった。
サクナはしばし「何言ってんだこいつ」みたいな表情を浮かべたかと思うと、いつものような穏やかな顔つきに戻った。
「そうですね……ラゴウさまは、わたしたちの故郷についてご存じでしょうか」
「ああ、知っている」
日本モチーフで、和の文化が色濃い東方の国だ。
名を『アシハラ』という。
「そこでわたしは、
「……なるほど、妾の子など厄介者の代名詞だ。冷遇され、いじめられでもしたか」
「はい。幼いころに母も亡くなったので、わたしの味方は一人もいませんでした。血の繋がった人はおりましたが、家族と呼べるような人は誰も」
よくありそうな話だ。サクナの過去については知らなかったが、それなりに悲しい過去とやらがあったらしい。
「花鏡家はセツカさんが生まれた皇族の血筋――
「……うん。サクナとは、それからずっとなかよし」
「こんなわたしにもよくしてくれるセツカさんは、とてもよい子ですねぇ……」
「むっふっふ」
やっぱりあれは聞き間違いじゃなかったと今確信を抱いた。
「……あれは、寒い冬の夜でした」
滔々と、けれど確かな実感を持って語られるのは彼女たちが黒十字に来ることになった『ある日』の出来事だった。
魔剣戦記において、黒十字のボスはある魔剣の封印を解くべく暗躍を続けている。
その鍵となるのが本編ヒロイン・アレクサンドラの持つ太陽剣『ウテナ』。
そしてスイゲツが持つ太陰刀『潮月』なのだ。
「わたしの叔父――花鏡スイゲツは太陰刀『潮月』を奪って逃走。その場にいた人たちや、セツカさんのご両親も手にかけた挙句、組織の者に命じてわたしとセツカさんを連れ去りました」
そのあたりはゲームをやって知っている範囲内だった。
『冰雨』や俺の持つ『永闇』もその時に持ち去られたはずだ。
……そんな因縁のある魔剣を持っていたのに一切かかわることなく消えた原作のラゴウェ。
「それからはラゴウさまも知っての通り、黒十字での日々を送ることを強制させられました。いつ命を落としてもおかしくない苦境……一体いつこの地獄が終わるのか、震えながら毎日を過ごしました」
俺は未来のことばかり妄想していたから耐えられたが、普通は精神に異常をきたすだろうな。
「ずっとずっと、耐え難い日々を耐え忍んできました。いつか報われると、いつか楽になれると、それだけを信じて」
サクナと視線を交わす。
出会った頃は深く澱んでいた彼女の瞳は、鮮やかな桜色に輝いて見えた。
「ですから――今この日々をお与えなさってくれたラゴウさまに、わたしは……わたしたちは、とっても感謝してるんですよ」
「……ん」
サクナの柔く小さな手が俺の白髪を梳いていく。
それに倣うようにセツカの手もまた頭に触れた。
穏やかな様子で、とても苦手な先輩にするような態度ではなかった。
何故か妙に好感度を稼いでしまっている。
それだけは確かだった。
認めるのが癪だったから目をそらしていたが、認めようじゃないか。
自らの若さゆえの過ちというやつを。
何がこいつらの琴線に触れたのか理解できない。
もしかしてドMなんじゃなかろうか。
「……そうか」
だが、まあいい。
今後のフラグ管理はより慎重になって臨む必要があるということが分かっただけ、本番前のモデルケースとしては成功といえる。
どうせサクナは死ぬのだ。
そうなれば連鎖的にセツカは塞ぎこむ。
この様子だと俺に縋ってくるかもしれないが、冷たく突き放してやればいい。
二人の顔が映る。目を閉じ、視界を黒く染めた。
そうして一か月後、雪の降る冬の季節。
運命の日はやってきた。