ミュウが一度だけ頷く。眠気は、それだけで消えた。
横になっていた日廻は布団から身体を起こす。枕元に浮かぶミュウの傍らには、眠る前にはいなかったゼットが静かにこちらを見上げていた。
「ロトムは?」
ミュウは廊下の方へ顔を向け、そのまま先に部屋を出ていく。
時計を見ると、日付はとっくに変わっていた。身体にはまだ重さが残っているが、少なくとも頭は動く。
廊下へ出ると、居間から青白い光が漏れていた。
◇◆◇
『日廻、起きたロト。早速だけど見てほしいロト』
入ってきた日廻に気づき、ロトムが振り返った。
壁際のテレビは音量を絞ったまま、まだ世界各地の異常を報じ続けている。その横でロトムが画面を切り替えると、日本列島から太平洋へ地図が広がり、海上の一点に赤い印が現れた。
「……海?」
『そうロト。ミュウ様が感じた異常の方向と強さ、それに世界中で起きてる空間異常を重ねて絞り込んだロト』
赤い点を囲むように、新たな境界線が表示される。
日廻は画面へ顔を寄せた。陸地からはかなり離れている。だが、日本列島との位置関係を見ているうちに、別のことに気づいた。
「……ここ、日本の排他的経済水域の中じゃないか?」
『問題があるロト?』
「ある。ここなら日本も無関係じゃいられない」
スマートフォンを取り出し、先ほどの通話履歴を開く。
防衛大臣と話した番号は、まだ一番上に残っていた。
ロトムから座標を受け取り、異常の大本と思われる地点を特定したことと、確定ではないことだけを短く打ち込んで送信する。
日本の排他的経済水域内なら、政府も放ってはおけないだろう。知らせる前から動いているだろうし、これで艦艇なり航空機なりが確認へ向かう可能性もある。
それが必要なのも分かっている。だから、来るなとは言えない。
(……来ないでくれ)
それでも、そう思った。
何が待っているのか、自分たちにすら分からない。
日廻はスマートフォンをポケットへ戻した。
「行こう」
◇◆◇
準備は最低限で済ませた。
「なんだか、もうお守りみたいだな」
そう独り言を零して、ゼットから送られてきた変哲もない石をポケットに入れる。
アブソルとコジョンドには、現地までモンスターボールへ入っていてもらう。二匹とも拒むことなく、日廻が差し出したボールへ自分から触れた。
二つをホルダーへ収めたところで、ロトムが三つ目のモンスターボールを差し出してくる。
『日廻。これも持っとくロト』
「これは予備か?」
『そして、最後の一個ロト。材料はまだあるけど、プリンターがもう限界ロト』
「ああ……騎乗具まで作ったもんな」
『これ以上は本当に壊れるかもしれないロト』
「分かった。持っとく」
空いている場所へ収め、そのまま玄関へ向かった。
外ではフライゴンが待っている。背には騎乗具が取り付けられ、いつでも飛べる状態だった。
けれど、その前に。
『クマ!』
小さな身体が飛び出してきた。
「ヒメグマ?」
『クマッ!』
ヒメグマは日廻の前へ立つと、前脚を高く上げた。小さな爪を伸ばし、ぶん、と夜気を引っかく。
もう一度。今度はさらに強く、何かを証明するように。
『クマ!』
日廻は笑わなかった。昨夜は何かを感じ取っただけで震えながら母屋へ逃げ込んできた。そのヒメグマが今は、自分から前へ出て爪を見せている。
「……お前も行きたいのか」
『クマ!』
力強く頷いたヒメグマの視線が、不意に横へ向いた。
そこには、いつもと変わらない小さな緑色の身体がある。
ヒメグマはゼットを見て、それから日廻を見た。
『クマ……クマ?』
何かを訴えるように、自分とゼットを交互に指す。
ロトムが少し言いづらそうに口を開いた。
『……ゼットはいいのに、どうして自分は駄目なのか、って言ってるロト』
「…………」
ここまでくれば、日廻にも分かっていた。
自分のすぐ傍にはミュウだけではない。もう一体、神話に名を残していてもおかしくないほどの存在がいたのだ。
口を開きかけた時、ゼットが前へ出た。
「ゼット?」
小さな身体が、夜空を見上げる。
次の瞬間、周囲の空気が震えた。
草むらの奥に、緑色の光が浮かぶ。
一つだけではない。木々の間から、畑の向こうから、さらには遠い山の方角からも、蛍の群れにも似た光が次々と夜を横切ってくる。
「……なんだ、これ」
『セル、そしてコア、ロト』
ロトムが小さく呟いた。
無数の光は、すべてゼットへ迷いなく向かっている。
小さな身体が緑に呑まれ、その光は瞬く間に膨張して巨大な球となった。
光球の内部に、四本の脚を持つ
次に現れたのは、大地を這う巨大な
それすら、完成ではなかった。
なおも集まり続ける光の中で長大な身体がほどけ、分かれ、さらに巨大な何かへと組み上がっていく。地面まで低く震え始め、日廻は知らず一歩後ろへ下がっていた。
やがて、見上げるほどに膨れ上がった光球が弾けて、緑色の残光が夜へ散っていく。
その中心に立っていたものを見て、日廻はしばらく言葉を失った。
「…………でか」
ついさっきまで足元にいた小さなゼットの姿はない。
大地へ根を下ろすような巨体。大きく張り出した上半身には、夜の中でも鮮明な緑の光が走っている。
見上げなければ顔さえ視界に収まらない。
やがて、巨大な王冠のような頭部がゆっくりと下がった。
姿も、大きさも、何もかも違う。
それでも――目が合えば、分かった。
「……それがお前の本当の姿か、ゼット」
『――訂正する。当該形態のみを本来の姿と定義することは、適切ではない』
突然の人語に日廻は瞬きをした。
『先ほどまでの形態も、変化の過程において確認された各形態も、すべて私を構成する形態の一つである』
「…………」
『したがって、すべて私の姿である』
一拍遅れて、日廻の口元が僅かに緩んだ。
「……そっか」
声が違う。姿も違う。
それでも、自然と受け入れることが出来た。
「それにしても喋れたのか?」
『当該形態において、意思伝達機能の拡張を確認』
「……もうちょっと何かないのか」
『質問の意図を解析できない』
「……ゼットだな」
日廻が視線を戻すと、その横でヒメグマが呆然とゼットを見上げていた。首をいっぱいまで反らしていたが、やがて視線を下ろし、自分の前脚を見る。
先ほどまで必死に見せていた爪は、もう引っ込んでいた。
何を伝えるべきか、もう決まっている。
「ヒメグマ」
『……クマ』
しゃがんで、その小さな手を取る。
「ゼットには、ゼットにしかできないことがある」
ヒメグマが、もう一度だけ巨大な姿を見上げる。
「お前にも、お前に頼みたいことがある」
『クマ……?』
「……家を頼む」
日廻が包んだ小さな前脚に、きゅっと力が入った。
「畑も。ここに残る皆も。俺たちがいない間、頼めるか?」
ヒメグマはしばらく自分の手を見つめていたが、やがて顔を上げた。
『……クマ』
一度頷く。
それから、もう一度。
『クマ……ッ』
今度は強く頷いたはずなのに、声は震えていた。
大きな目に溜まったものが一粒こぼれ、それでも日廻の手を握ったまま離さない。
「……頼んだぞ」
『クマぁ……』
横からピカチュウが近づき、ヒメグマの肩へ小さな手を置いた。
それをきっかけにしたように、チュリネも、マリルも、ニャスパーも近づいてくる。
日廻は困ったように息を吐くと、その場で腕を広げた。
広げた腕の中へ、小さな身体が次々と飛び込んでくる。柔らかな毛や耳、葉が頬へ触れ、ヒメグマの鼻を啜るような声がすぐ近くから聞こえた。
全員を綺麗に抱えられるほど、日廻の腕は長くない。
昨日までなら、何でもなかった距離だ。畑へ出ればそこにいて、飯を作れば集まってきて、縁側へ座れば誰かしら勝手に隣へ来る。
今だって、それと大して変わらない。
普段の日常より少しだけ、近いだけだった。
しばらくして、日廻は腕を解いた。
「じゃあ……いってきます」
『ピカ』
『チュリ』
『マリ』
『……ニャス』
ピカチュウに支えられたヒメグマはまだ目元を濡らしていたが、それでも日廻の手を名残惜しいように離した。
ピカチュウと目が合い、一度だけ頷く。
日廻も頷き返した。
それで十分だった。
立ち上がり歩みだす。振り返ることもない。
帰ってくれば、また見るのだから。
『ミュ……?』
突然、ミュウが動きを止めた。
「どうした?」
ミュウは遠くの何かを聞くように顔を上げ、目を閉じている。
数秒後、再び開かれた目がロトムへ向いた。
ロトムの表情が変わる。
『……ゼルネアス様からロト』
一拍置いて、ロトムが続けた。
『「こちらも始まりました」』
日廻は黙ってミュウを見た。
ミュウがもう一度、小さく鳴く。
『「……ご武運を」』
日廻は夜空を見上げた。
「……そっちもな」
それだけ返した。
◇◆◇
日廻はフライゴンの背へ乗り、騎乗具へ身体を固定した。ロトムは日廻の胸ポケットに入り込み、完全な姿となったゼットもその傍らに立っている。
ミュウの身体から淡い光が広がり、フライゴンも、ロトムも、ゼットも、日廻たち全員が同じ光に包まれていく。
「……お前は、本当に何でもできるな」
『ミュウ』
ミュウが少しだけ顎を上げる。
『「今さら?」だそうロト』
「お前にはいくら感謝しても足りなさそうだ」
ほんの一瞬だけ、いつもの空気が戻った。
すぐにミュウの目が前を向く。
『行くロト』
「分かった」
光が強くなる。家も、道も、木々も、夜空さえも一度ぐにゃりと歪み、上下の感覚が僅かに狂った。
そして次の瞬間、世界が変わった。
◇◆◇
夜のはずだった。
だというのに、暗くない。
日廻は声を失った。
空を裂く無数の穴から、青とも紫ともつかない光が滲み出している。その光に照らされた眼下には、灰色の大地のようなものが果てしなく広がっていた。
何を思ったのか、日廻は腰に提げていた懐中電灯へ手を伸ばした。念のために持ってきただけの、ごく普通のものだ。
スイッチを入れる。
白い光が灯った。
消す。
もう一度、点ける。
当然、ちゃんと点く。手元も、フライゴンの背もちゃんと照らしている。
それなのに、目の前の異様さは何一つ薄れなかった。
空も、海も、遠くまで続く昏い光も。懐中電灯の白さなど最初から存在しないかのように、目の前の光景は何一つ変わらない。
そこでようやく、日廻は妙なことをしている自分に気づいた。
明るさを確かめたかったわけではない。
自分の知っているものが、まだここでも同じように動くのか確かめたかった。
「……海、だよな」
『座標は合ってるロト』
海だった。
少なくとも、地図の上では。
けれど、その言葉と眼下の光景がどうしても結びつかない。
ここは確かに、自分たちが暮らしていた星の上にあるはずだった。ほんの一瞬前まで、自分はあの家の前にいた。ミュウが飛ばした距離だって、ロトムが示した座標だって、その事実を示している。
それなのに、日廻の知っている世界は、どこにもなかった。
まるで、自分たちの星の一部だけが、別の何かの理屈で上から書き換えられてしまったようだった。
だが、波は動いていない。
盛り上がった水面も、崩れる寸前の波頭も、空中へ弾けたはずの飛沫さえ、その形を残したまま灰色の石へ変わっていた。
日廻の髪が揺れ、フライゴンの翼膜が小さく鳴る。
風はあるのに、海は動かない。
潮騒もなかった。
ついさっきまで、ニュースの向こうでは悲鳴や警報、爆発や雷撃の音が絶え間なく響いていた。
ここには、それが何一つない。
石となった海だけが、異様なほど静かだった。
『――主要脅威反応を確認』
ゼットの声に、日廻は顔を上げた。
海の遥か先を、ゼットが見ている。
同じものを見るために、眼を細くする。
そこに、穴があった。
「……なんだよ、あれ」
空に散らばる無数のウルトラホールとは、明らかに違う。
距離感さえ狂わせるほど巨大な空間の裂け目が、黒い夜空を抉るように開いていた。
その暗闇のさらに向こうで何かが脈打つたび、昏い虹色の光が溢れ出してくる。
赤とも、紫とも、青ともつかない色が夜空へ広がる。
月明かりではない。
星明かりでもない。
夜そのものが、何か別の光に侵食されていた。
『優先排除対象は空間異常内部に存在』
ゼットが巨大な穴を見据える。
その時、穴の奥で別の光が瞬いた。
「……なにかが、落ちて、くる?」
それは青い、巨大な影。
それは穴を抜けた直後から姿勢を崩し、飛ぶのではなく真っ逆さまに落ちてきた。
『時の神、ディアルガ!?』
「ディアルガ?」
『説明はあとロト! 落ちるロト!』
日廻はその名前を知らない。
けれど、傷だらけなのは見れば分かった。
青い巨体にはいくつもの傷が走り、一部は黒く焼け焦げている。四肢は力なく宙を泳ぎ、落下しながら身体を立て直す様子すらない。
「おい……!」
巨体が石の海へ激突した。
轟音が響く。
「っ……!」
それまで音を失っていた世界を、巨大な衝撃が初めて叩き割った。
石となった波が砕け、灰色の破片が高く舞い上がる。粉塵の中には、青い巨体が倒れたまま動かない。
「あれは、生きてるのか!?」
『分からないロト!』
「フライゴン!」
それだけで伝わった。
『ファイ!』
フライゴンが翼を打ち、墜落地点へ身体を傾ける。
名前を聞いたばかりで、どんなポケモンなのかも分からない。敵か味方かさえ。
けれど、それは助けない理由にはならなかった。
ミュウもすぐ横へ並び、フライゴンが加速しかけた、その時。
『上ロト!』
巨大な穴から、もう一つの影が飛び出した。
今度は落ちていない。
翼を広げ、高速で石の海へ降下してくる。
フライゴンが咄嗟に身体を翻した直後、巨大な影が目の前を横切った。風圧に煽られ、日廻は騎乗具へ身体を預ける。
『あれは、メガガブリアスロト!』
「メガ……?」
『ガブリアスのメガシンカロト! でも……何かおかしいロト』
メガガブリアスは大きく旋回した。
その伽藍洞のような目が捉えているのは、日廻たちではない。
石の海に倒れた青い巨体。
「……追ってきたのか」
その身体には黒いものが這い、隙間から昏い虹色が脈打っている。怒りも興奮も感じられない目が、倒れたディアルガだけを捉えていた。
やがて、その視線が救助へ向かおうとする日廻たちへ移る。
「……黒いアブソルと」
『似てるロト。たぶん、こいつも何かに支配されてるロト』
そこで、日廻はメガガブリアスの背にもう一つの影があることに気づいた。
青と黒の身体。
その影が背を蹴り、石の海へ飛び降りる。
灰色の波頭を砕いて着地した姿を見て、ロトムが息を呑んだ。
『メガルカリオ……!』
こちらも同じだった。
身体を黒い侵食が這い、目から意思が抜け落ちている。
向こう側で何が起きていたのかは分からない。
ただ、ディアルガを追ってこの二匹が現れたことだけは分かる。
メガガブリアスが空を塞ぎ、メガルカリオは石の海に立って倒れたディアルガへの道を塞ぐ。
だが、ゼットだけは二匹を見ていなかった。
その視線は、さらに向こう。
巨大な穴だけを捉えている。
『主要脅威反応、増大』
日廻も穴を見る。
ゼットが何をすべきなのか、考えるまでもなかった。
「ゼット、こいつらは俺たちがなんとかする」
巨大な頭部が僅かにこちらを向く。
「お前は先に行け」
ゼットは一瞬だけ、日廻を見ていた。
『了解した』
それだけだった。
巨大な身体が浮き上がり、海の果てに開いた穴へ向かう。
直後、メガガブリアスが反応した。
大きく開かれた口元へ、眩い光が収束する。
『日廻!』
ロトムが叫ぶより早く、高出力の『はかいこうせん』が放たれた。
狙いは、遠ざかるゼットの背中。
それでもゼットは振り返らない。
「――頼むっ!」
フライゴンが翼を打った。
日廻が何かを指示するより先に急加速し、光線の進路へ横から食らいつくようにその口元から迸った『りゅうのはどう』が、『はかいこうせん』の側面へ斜めに突き刺さった。
真正面からぶつかることすらしない。
それでも竜の波動は、触れた端から凄まじい光に削られ、散らされていく。
その一瞬で光線の軌道が、僅かに逸れる。
ゼットの脇を巨大な光が通過し、遥か下の石の海へ突き刺さった。
凄まじい爆発が夜を白く染め、石化した波をまとめて吹き飛ばす。衝撃波が遅れて押し寄せ、フライゴンの身体が大きく揺さぶられた。
「ぐっ……!」
『ファイ……!』
それでもフライゴンは翼を止めず、ゼットもまた、巨大な穴へ向かって進み続けている。
そして地上では、メガルカリオが片腕を引いていた。
掌の間に青白い波動が膨れ上がり、その狙いが遠ざかるゼットへ向く。
日廻は反射的にホルダーへ手を伸ばした。
「アブソル、コジョンド!」
二つの赤い光が石の海へ走る。
着地した瞬間、コジョンドの目がメガルカリオの掌を捉えた。
『コジョ!!』
メガルカリオから『はどうだん』が放たれると同時に、コジョンドの掌にも波動が集まる。
放たれた二つの波動が接触した瞬間、コジョンドの一撃は相手の出力に押し潰されるように崩れながら、その側面へ食い込んだ。
真正面から止めるには、あまりにも力が違う。
だが、ほんの僅かに軸をずらされた青白い波動が形を歪ませる。
次の瞬間、ゼットへ届く遥か手前で暴発した。
閃光が石の海を照らし、その向こうでコジョンドが静かに構え直し、アブソルもメガルカリオとゼットの間へ自然に身体を入れる。
空ではフライゴンがメガガブリアスの前へ留まり、その横へミュウが並んだ。
既にゼットは日廻たちより、上空へ進んでいく。
二つの攻撃が自分を狙ったというのに、一度も振り返らなかった。
やがて、その巨体が昏い虹色の光へ近づき――そのまま、巨大な穴の中へ消えていった。
日廻は一瞬だけ、その先を見た。
何が待っているのかは分からない。
穴の奥からは、相変わらず昏い虹色の光だけが滲み出している。
日廻は一瞬だけ、石の海へ視線を落とした。
その先には、青い巨体――ディアルガが傷だらけのまま倒れている。
名前すら、さっき初めて聞いた。
その手前にはメガルカリオ。
上空にはメガガブリアス。
どちらも身体を黒い何かに侵され、意思のない目をこちらへ向けている。
あの黒いアブソルと同じなら、こいつらだって好きでここに立っているわけではない。
日廻はフライゴンの背から二匹を見た。
「……止まってくれ。頼むッ」
返事はない。
メガガブリアスが、鎌状の両腕を広げた。
石の海では、メガルカリオがゆっくりと腰を落とした。
その目には、何も浮かんでいなかった。