ポケモン、彼らはそう呼ばれている   作:燐2

22 / 22
【くるしい】

 

 ミュウが一度だけ頷く。眠気は、それだけで消えた。

 

 横になっていた日廻は布団から身体を起こす。枕元に浮かぶミュウの傍らには、眠る前にはいなかったゼットが静かにこちらを見上げていた。

 

「ロトムは?」

 

 ミュウは廊下の方へ顔を向け、そのまま先に部屋を出ていく。

 時計を見ると、日付はとっくに変わっていた。身体にはまだ重さが残っているが、少なくとも頭は動く。

 廊下へ出ると、居間から青白い光が漏れていた。

 

     ◇◆◇

 

『日廻、起きたロト。早速だけど見てほしいロト』

 

 入ってきた日廻に気づき、ロトムが振り返った。

 壁際のテレビは音量を絞ったまま、まだ世界各地の異常を報じ続けている。その横でロトムが画面を切り替えると、日本列島から太平洋へ地図が広がり、海上の一点に赤い印が現れた。

 

「……海?」

 

『そうロト。ミュウ様が感じた異常の方向と強さ、それに世界中で起きてる空間異常を重ねて絞り込んだロト』

 

 赤い点を囲むように、新たな境界線が表示される。

 日廻は画面へ顔を寄せた。陸地からはかなり離れている。だが、日本列島との位置関係を見ているうちに、別のことに気づいた。

 

「……ここ、日本の排他的経済水域の中じゃないか?」

 

『問題があるロト?』

 

「ある。ここなら日本も無関係じゃいられない」

 

 スマートフォンを取り出し、先ほどの通話履歴を開く。

 防衛大臣と話した番号は、まだ一番上に残っていた。

 ロトムから座標を受け取り、異常の大本と思われる地点を特定したことと、確定ではないことだけを短く打ち込んで送信する。

 日本の排他的経済水域内なら、政府も放ってはおけないだろう。知らせる前から動いているだろうし、これで艦艇なり航空機なりが確認へ向かう可能性もある。

 それが必要なのも分かっている。だから、来るなとは言えない。

 

(……来ないでくれ)

 

 それでも、そう思った。

 何が待っているのか、自分たちにすら分からない。

 日廻はスマートフォンをポケットへ戻した。

 

「行こう」

 

     ◇◆◇

 

 準備は最低限で済ませた。

 

「なんだか、もうお守りみたいだな」

 

 そう独り言を零して、ゼットから送られてきた変哲もない石をポケットに入れる。

 アブソルとコジョンドには、現地までモンスターボールへ入っていてもらう。二匹とも拒むことなく、日廻が差し出したボールへ自分から触れた。

 二つをホルダーへ収めたところで、ロトムが三つ目のモンスターボールを差し出してくる。

 

『日廻。これも持っとくロト』

 

「これは予備か?」

 

『そして、最後の一個ロト。材料はまだあるけど、プリンターがもう限界ロト』

 

「ああ……騎乗具まで作ったもんな」

 

『これ以上は本当に壊れるかもしれないロト』

 

「分かった。持っとく」

 

 空いている場所へ収め、そのまま玄関へ向かった。

 外ではフライゴンが待っている。背には騎乗具が取り付けられ、いつでも飛べる状態だった。

 けれど、その前に。

 

『クマ!』

 

 小さな身体が飛び出してきた。

 

「ヒメグマ?」

 

『クマッ!』

 

 ヒメグマは日廻の前へ立つと、前脚を高く上げた。小さな爪を伸ばし、ぶん、と夜気を引っかく。

 もう一度。今度はさらに強く、何かを証明するように。

 

『クマ!』

 

 日廻は笑わなかった。昨夜は何かを感じ取っただけで震えながら母屋へ逃げ込んできた。そのヒメグマが今は、自分から前へ出て爪を見せている。

 

「……お前も行きたいのか」

 

『クマ!』

 

 力強く頷いたヒメグマの視線が、不意に横へ向いた。

 そこには、いつもと変わらない小さな緑色の身体がある。

 ヒメグマはゼットを見て、それから日廻を見た。

 

『クマ……クマ?』

 

 何かを訴えるように、自分とゼットを交互に指す。

 ロトムが少し言いづらそうに口を開いた。

 

『……ゼットはいいのに、どうして自分は駄目なのか、って言ってるロト』

 

「…………」

 

 ここまでくれば、日廻にも分かっていた。

自分のすぐ傍にはミュウだけではない。もう一体、神話に名を残していてもおかしくないほどの存在がいたのだ。

 口を開きかけた時、ゼットが前へ出た。

 

「ゼット?」

 

 小さな身体が、夜空を見上げる。

 次の瞬間、周囲の空気が震えた。

 草むらの奥に、緑色の光が浮かぶ。

 一つだけではない。木々の間から、畑の向こうから、さらには遠い山の方角からも、蛍の群れにも似た光が次々と夜を横切ってくる。

 

「……なんだ、これ」

 

『セル、そしてコア、ロト』

 

 ロトムが小さく呟いた。

 無数の光は、すべてゼットへ迷いなく向かっている。

 小さな身体が緑に呑まれ、その光は瞬く間に膨張して巨大な球となった。

 光球の内部に、四本の脚を持つ犬(・)のような輪郭が浮かび上がる。だが、それが形を成したのも束の間、さらに流れ込んだ光に呑まれて崩れていった。

 次に現れたのは、大地を這う巨大な蛇(・)を思わせる影。

 

 それすら、完成ではなかった。

 

 なおも集まり続ける光の中で長大な身体がほどけ、分かれ、さらに巨大な何かへと組み上がっていく。地面まで低く震え始め、日廻は知らず一歩後ろへ下がっていた。

 やがて、見上げるほどに膨れ上がった光球が弾けて、緑色の残光が夜へ散っていく。

 その中心に立っていたものを見て、日廻はしばらく言葉を失った。

 

「…………でか」

 

 ついさっきまで足元にいた小さなゼットの姿はない。

 大地へ根を下ろすような巨体。大きく張り出した上半身には、夜の中でも鮮明な緑の光が走っている。

 見上げなければ顔さえ視界に収まらない。

 やがて、巨大な王冠のような頭部がゆっくりと下がった。

 姿も、大きさも、何もかも違う。

 それでも――目が合えば、分かった。

 

「……それがお前の本当の姿か、ゼット」

 

『――訂正する。当該形態のみを本来の姿と定義することは、適切ではない』

 

 突然の人語に日廻は瞬きをした。

 

『先ほどまでの形態も、変化の過程において確認された各形態も、すべて私を構成する形態の一つである』

 

「…………」

 

『したがって、すべて私の姿である』

 

 一拍遅れて、日廻の口元が僅かに緩んだ。

 

「……そっか」

 

 声が違う。姿も違う。

 それでも、自然と受け入れることが出来た。

 

「それにしても喋れたのか?」

 

『当該形態において、意思伝達機能の拡張を確認』

 

「……もうちょっと何かないのか」

 

『質問の意図を解析できない』

 

「……ゼットだな」

 

 日廻が視線を戻すと、その横でヒメグマが呆然とゼットを見上げていた。首をいっぱいまで反らしていたが、やがて視線を下ろし、自分の前脚を見る。

 先ほどまで必死に見せていた爪は、もう引っ込んでいた。

 何を伝えるべきか、もう決まっている。

 

「ヒメグマ」

 

『……クマ』

 

 しゃがんで、その小さな手を取る。

 

「ゼットには、ゼットにしかできないことがある」

 

 ヒメグマが、もう一度だけ巨大な姿を見上げる。

 

「お前にも、お前に頼みたいことがある」

 

『クマ……?』

 

「……家を頼む」

 

 日廻が包んだ小さな前脚に、きゅっと力が入った。

 

「畑も。ここに残る皆も。俺たちがいない間、頼めるか?」

 

 ヒメグマはしばらく自分の手を見つめていたが、やがて顔を上げた。

 

『……クマ』

 

 一度頷く。

 それから、もう一度。

 

『クマ……ッ』

 

 今度は強く頷いたはずなのに、声は震えていた。

 大きな目に溜まったものが一粒こぼれ、それでも日廻の手を握ったまま離さない。

 

「……頼んだぞ」

 

『クマぁ……』

 

 横からピカチュウが近づき、ヒメグマの肩へ小さな手を置いた。

 それをきっかけにしたように、チュリネも、マリルも、ニャスパーも近づいてくる。

 日廻は困ったように息を吐くと、その場で腕を広げた。

 広げた腕の中へ、小さな身体が次々と飛び込んでくる。柔らかな毛や耳、葉が頬へ触れ、ヒメグマの鼻を啜るような声がすぐ近くから聞こえた。

 

 全員を綺麗に抱えられるほど、日廻の腕は長くない。

 昨日までなら、何でもなかった距離だ。畑へ出ればそこにいて、飯を作れば集まってきて、縁側へ座れば誰かしら勝手に隣へ来る。

 今だって、それと大して変わらない。

 普段の日常より少しだけ、近いだけだった。

 しばらくして、日廻は腕を解いた。

 

「じゃあ……いってきます」

 

『ピカ』

 

『チュリ』

 

『マリ』

 

『……ニャス』

 

 ピカチュウに支えられたヒメグマはまだ目元を濡らしていたが、それでも日廻の手を名残惜しいように離した。

 ピカチュウと目が合い、一度だけ頷く。

 日廻も頷き返した。

 それで十分だった。

 

 立ち上がり歩みだす。振り返ることもない。

 帰ってくれば、また見るのだから。

 

『ミュ……?』

 

 突然、ミュウが動きを止めた。

 

「どうした?」

 

 ミュウは遠くの何かを聞くように顔を上げ、目を閉じている。

 数秒後、再び開かれた目がロトムへ向いた。

 ロトムの表情が変わる。

 

『……ゼルネアス様からロト』

 

 一拍置いて、ロトムが続けた。

 

『「こちらも始まりました」』

 

 日廻は黙ってミュウを見た。

 ミュウがもう一度、小さく鳴く。

 

『「……ご武運を」』

 

 日廻は夜空を見上げた。

 

「……そっちもな」

 

 それだけ返した。

 

     ◇◆◇

 

 日廻はフライゴンの背へ乗り、騎乗具へ身体を固定した。ロトムは日廻の胸ポケットに入り込み、完全な姿となったゼットもその傍らに立っている。

 ミュウの身体から淡い光が広がり、フライゴンも、ロトムも、ゼットも、日廻たち全員が同じ光に包まれていく。

 

「……お前は、本当に何でもできるな」

 

『ミュウ』

 

 ミュウが少しだけ顎を上げる。

 

『「今さら?」だそうロト』

 

「お前にはいくら感謝しても足りなさそうだ」

 

 ほんの一瞬だけ、いつもの空気が戻った。

 すぐにミュウの目が前を向く。

 

『行くロト』

 

「分かった」

 

 光が強くなる。家も、道も、木々も、夜空さえも一度ぐにゃりと歪み、上下の感覚が僅かに狂った。

 そして次の瞬間、世界が変わった。

 

     ◇◆◇

 

 夜のはずだった。

 

 だというのに、暗くない。

 

 日廻は声を失った。

 空を裂く無数の穴から、青とも紫ともつかない光が滲み出している。その光に照らされた眼下には、灰色の大地のようなものが果てしなく広がっていた。

 

 何を思ったのか、日廻は腰に提げていた懐中電灯へ手を伸ばした。念のために持ってきただけの、ごく普通のものだ。

 スイッチを入れる。

 白い光が灯った。

 消す。

 もう一度、点ける。

 当然、ちゃんと点く。手元も、フライゴンの背もちゃんと照らしている。

 それなのに、目の前の異様さは何一つ薄れなかった。

 

 空も、海も、遠くまで続く昏い光も。懐中電灯の白さなど最初から存在しないかのように、目の前の光景は何一つ変わらない。

 そこでようやく、日廻は妙なことをしている自分に気づいた。

 明るさを確かめたかったわけではない。

 自分の知っているものが、まだここでも同じように動くのか確かめたかった。

 

「……海、だよな」

 

『座標は合ってるロト』

 

 海だった。

 少なくとも、地図の上では。

 

 けれど、その言葉と眼下の光景がどうしても結びつかない。

 

 ここは確かに、自分たちが暮らしていた星の上にあるはずだった。ほんの一瞬前まで、自分はあの家の前にいた。ミュウが飛ばした距離だって、ロトムが示した座標だって、その事実を示している。

 

 それなのに、日廻の知っている世界は、どこにもなかった。

 

 まるで、自分たちの星の一部だけが、別の何かの理屈で上から書き換えられてしまったようだった。

 

 だが、波は動いていない。

 

 盛り上がった水面も、崩れる寸前の波頭も、空中へ弾けたはずの飛沫さえ、その形を残したまま灰色の石へ変わっていた。

 日廻の髪が揺れ、フライゴンの翼膜が小さく鳴る。

 風はあるのに、海は動かない。

 潮騒もなかった。

 ついさっきまで、ニュースの向こうでは悲鳴や警報、爆発や雷撃の音が絶え間なく響いていた。

 ここには、それが何一つない。

 石となった海だけが、異様なほど静かだった。

 

『――主要脅威反応を確認』

 

 ゼットの声に、日廻は顔を上げた。

 海の遥か先を、ゼットが見ている。

 同じものを見るために、眼を細くする。

 そこに、穴があった。

 

「……なんだよ、あれ」

 

 空に散らばる無数のウルトラホールとは、明らかに違う。

 距離感さえ狂わせるほど巨大な空間の裂け目が、黒い夜空を抉るように開いていた。

 その暗闇のさらに向こうで何かが脈打つたび、昏い虹色の光が溢れ出してくる。

 赤とも、紫とも、青ともつかない色が夜空へ広がる。

 月明かりではない。

 星明かりでもない。

 夜そのものが、何か別の光に侵食されていた。

 

『優先排除対象は空間異常内部に存在』

 

 ゼットが巨大な穴を見据える。

 その時、穴の奥で別の光が瞬いた。

 

「……なにかが、落ちて、くる?」

 

 それは青い、巨大な影。

 それは穴を抜けた直後から姿勢を崩し、飛ぶのではなく真っ逆さまに落ちてきた。

 

『時の神、ディアルガ!?』

 

「ディアルガ?」

 

『説明はあとロト! 落ちるロト!』

 

 日廻はその名前を知らない。

 けれど、傷だらけなのは見れば分かった。

 青い巨体にはいくつもの傷が走り、一部は黒く焼け焦げている。四肢は力なく宙を泳ぎ、落下しながら身体を立て直す様子すらない。

 

「おい……!」

 

 巨体が石の海へ激突した。

 轟音が響く。

 

「っ……!」

 

 それまで音を失っていた世界を、巨大な衝撃が初めて叩き割った。

 石となった波が砕け、灰色の破片が高く舞い上がる。粉塵の中には、青い巨体が倒れたまま動かない。

 

「あれは、生きてるのか!?」

 

『分からないロト!』

 

「フライゴン!」

 

 それだけで伝わった。

 

『ファイ!』

 

 フライゴンが翼を打ち、墜落地点へ身体を傾ける。

 名前を聞いたばかりで、どんなポケモンなのかも分からない。敵か味方かさえ。

 けれど、それは助けない理由にはならなかった。

 ミュウもすぐ横へ並び、フライゴンが加速しかけた、その時。

 

『上ロト!』

 

 巨大な穴から、もう一つの影が飛び出した。

 今度は落ちていない。

 翼を広げ、高速で石の海へ降下してくる。

 フライゴンが咄嗟に身体を翻した直後、巨大な影が目の前を横切った。風圧に煽られ、日廻は騎乗具へ身体を預ける。

 

『あれは、メガガブリアスロト!』

 

「メガ……?」

 

『ガブリアスのメガシンカロト! でも……何かおかしいロト』

 

 メガガブリアスは大きく旋回した。

 その伽藍洞のような目が捉えているのは、日廻たちではない。

 石の海に倒れた青い巨体。

 

「……追ってきたのか」

 

 その身体には黒いものが這い、隙間から昏い虹色が脈打っている。怒りも興奮も感じられない目が、倒れたディアルガだけを捉えていた。

 やがて、その視線が救助へ向かおうとする日廻たちへ移る。

 

「……黒いアブソルと」

 

『似てるロト。たぶん、こいつも何かに支配されてるロト』

 

 そこで、日廻はメガガブリアスの背にもう一つの影があることに気づいた。

 青と黒の身体。

 その影が背を蹴り、石の海へ飛び降りる。

 灰色の波頭を砕いて着地した姿を見て、ロトムが息を呑んだ。

 

『メガルカリオ……!』

 

 こちらも同じだった。

 身体を黒い侵食が這い、目から意思が抜け落ちている。

 向こう側で何が起きていたのかは分からない。

 ただ、ディアルガを追ってこの二匹が現れたことだけは分かる。

 メガガブリアスが空を塞ぎ、メガルカリオは石の海に立って倒れたディアルガへの道を塞ぐ。

 だが、ゼットだけは二匹を見ていなかった。

 その視線は、さらに向こう。

 巨大な穴だけを捉えている。

 

『主要脅威反応、増大』

 

 日廻も穴を見る。

 ゼットが何をすべきなのか、考えるまでもなかった。

 

「ゼット、こいつらは俺たちがなんとかする」

 

 巨大な頭部が僅かにこちらを向く。

 

「お前は先に行け」

 

 ゼットは一瞬だけ、日廻を見ていた。

 

『了解した』

 

 それだけだった。

 巨大な身体が浮き上がり、海の果てに開いた穴へ向かう。

 直後、メガガブリアスが反応した。

 大きく開かれた口元へ、眩い光が収束する。

 

『日廻!』

 

 ロトムが叫ぶより早く、高出力の『はかいこうせん』が放たれた。

 狙いは、遠ざかるゼットの背中。

 それでもゼットは振り返らない。

 

「――頼むっ!」

 

 フライゴンが翼を打った。

 日廻が何かを指示するより先に急加速し、光線の進路へ横から食らいつくようにその口元から迸った『りゅうのはどう』が、『はかいこうせん』の側面へ斜めに突き刺さった。

 真正面からぶつかることすらしない。

 それでも竜の波動は、触れた端から凄まじい光に削られ、散らされていく。

 その一瞬で光線の軌道が、僅かに逸れる。

 ゼットの脇を巨大な光が通過し、遥か下の石の海へ突き刺さった。

 凄まじい爆発が夜を白く染め、石化した波をまとめて吹き飛ばす。衝撃波が遅れて押し寄せ、フライゴンの身体が大きく揺さぶられた。

 

「ぐっ……!」

 

『ファイ……!』

 

 それでもフライゴンは翼を止めず、ゼットもまた、巨大な穴へ向かって進み続けている。

 そして地上では、メガルカリオが片腕を引いていた。

 掌の間に青白い波動が膨れ上がり、その狙いが遠ざかるゼットへ向く。

 日廻は反射的にホルダーへ手を伸ばした。

 

「アブソル、コジョンド!」

 

 二つの赤い光が石の海へ走る。

 着地した瞬間、コジョンドの目がメガルカリオの掌を捉えた。

 

『コジョ!!』

 

 メガルカリオから『はどうだん』が放たれると同時に、コジョンドの掌にも波動が集まる。

 放たれた二つの波動が接触した瞬間、コジョンドの一撃は相手の出力に押し潰されるように崩れながら、その側面へ食い込んだ。

 真正面から止めるには、あまりにも力が違う。

 だが、ほんの僅かに軸をずらされた青白い波動が形を歪ませる。

 

 次の瞬間、ゼットへ届く遥か手前で暴発した。

 閃光が石の海を照らし、その向こうでコジョンドが静かに構え直し、アブソルもメガルカリオとゼットの間へ自然に身体を入れる。

 空ではフライゴンがメガガブリアスの前へ留まり、その横へミュウが並んだ。

 既にゼットは日廻たちより、上空へ進んでいく。

 

 二つの攻撃が自分を狙ったというのに、一度も振り返らなかった。

 

 やがて、その巨体が昏い虹色の光へ近づき――そのまま、巨大な穴の中へ消えていった。

 日廻は一瞬だけ、その先を見た。

 何が待っているのかは分からない。

 穴の奥からは、相変わらず昏い虹色の光だけが滲み出している。

 日廻は一瞬だけ、石の海へ視線を落とした。

 その先には、青い巨体――ディアルガが傷だらけのまま倒れている。

 名前すら、さっき初めて聞いた。

 

 その手前にはメガルカリオ。

 上空にはメガガブリアス。

 どちらも身体を黒い何かに侵され、意思のない目をこちらへ向けている。

 あの黒いアブソルと同じなら、こいつらだって好きでここに立っているわけではない。

 日廻はフライゴンの背から二匹を見た。

 

「……止まってくれ。頼むッ」

 

 返事はない。

 

 メガガブリアスが、鎌状の両腕を広げた。

 石の海では、メガルカリオがゆっくりと腰を落とした。

 その目には、何も浮かんでいなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった(作者:うどん風スープパスタ)(原作:ポケットモンスター)

パルデア地方で悪質ないじめを受け、瀕死の重傷を負った10歳の少年ウノ。▼生死の境をさまよい、彼の中で前世である現代日本人・佐野の記憶と人格が覚醒する。▼少年は一命を取り留めたものの……心と体に深い傷を負い、相棒と冒険の旅に出られる状態ではなかった。▼その後、少年は家族とジョウト地方に移住し、療養生活の中で“きのみ”の栽培を始める。▼移住先の大人や街の人々との…


総合評価:300/評価:7.75/連載:22話/更新日時:2026年10月03日(土) 20:00 小説情報

ポケモンと俺(作者:祐。)(原作:ポケットモンスター)

 この物語は、野生の個体であるメスのリオルに惚れられた一般成人男性が、社会人を辞めてポケモントレーナーの道を目指すお話である。


総合評価:283/評価:8.45/連載:55話/更新日時:2026年08月13日(木) 15:02 小説情報

ポケモン現代入り(作者:ささみ)(原作:ポケットモンスター)

▼ よくあるポケモン現代入り系作品です。それ以上も以下もないよ。


総合評価:16281/評価:8.28/連載:102話/更新日時:2026年08月16日(日) 00:00 小説情報

僕のヒーローアカデミア A Little Extra(作者:ジョン堂)(原作:僕のヒーローアカデミア)

 日本に生きるごく普通の一般人だった男は、唐突に【個性】が存在する世界へ転生する。▼ 原作に登場するキャラ達、事件の数々、襲い来る敵、物語の中心『雄英高校』での試練……。▼ 転生主人公が、薄い原作知識とチート【個性】をもって、どうあがいていくか……。▼ これは、そんなよくある話――▼※注意※▼ 拙作・愚作・凡作・駄作、ご注意されたし。▼ 何卒寛容な心をもって…


総合評価:969/評価:7.41/連載:34話/更新日時:2026年10月01日(木) 17:30 小説情報

よくある巻き込まれ転生……ってアルセウスじゃねぇか!!〜転生したらダンデとソニアの同期だったのでソニアちゃんとイチャイチャします編〜(作者:五十嵐まな)(原作:ポケットモンスター)

現代を生きる普通のSEの優(まさる)は乗っていたバスが事故に遭って死んでしまう。▼真っ暗な空間に現れた光に「巻き込んじゃったから続きを用意するね」と告げられ、転生させられる。▼母に「マサル」と呼ばれ、生まれも育ちも「ハロンタウン」、剣盾主人公かと思っていたら、ブラッシータウンで「ソニア」と出会う事に。▼つまり無敵のダンデと同期じゃねぇか!あー解散解散。▼ダン…


総合評価:482/評価:7.67/未完:10話/更新日時:2026年09月13日(日) 06:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>