ポケモン、彼らはそう呼ばれている   作:燐2

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【喰らえ】

 

 メガガブリアスが鎌状の両腕を左右へ開き、石の海ではメガルカリオがゆっくりと腰を落とす。その目には、やはり何の意思も浮かんでいなかった。

 

「……駄目か」

 

 分かっていた。それでも、言わずにはいられなかった。

 フライゴンの背で日廻が身構えた、その直後だった。

 

『上ロト!』

 

 ロトムの声に顔を上げる。メガガブリアスの周囲に、幾つもの眩い光が浮かんでいた。

 夜空に開いた無数の穴とは違う。赤紫に燃える光が急速に高度を上げ、頭上で一斉に膨れ上がる。

 

『りゅうせいぐんロト!』

 

 その一つ一つが、家屋ほどもある光の流星だった。

 

「フライゴン!」

 

『フリャ!』

 

 日廻が眼下へ目を走らせる。石になった海には、波が崩れる寸前の形を残したまま、巨大な灰色の壁が幾つもそそり立っている。

 

「波の裏を盾にしろ!」

 

 騎乗具へ身体を押しつけた次の瞬間には、巨大な波頭が視界いっぱいに迫っていた。フライゴンはその縁を掠めるように潜り込み、石の波を挟んでメガガブリアスから姿を隠す。

 

 直後、世界が揺れた。

 

 頭上で轟音が重なり、石の波が次々と爆ぜる。飛沫の形で固まっていた岩が粉々に砕け、灰色の破片となって降り注いだ。

 

「ッ……!」

 

 日廻は反射的に顔を庇ったが、飛来した石片が不自然に軌道を変えていく。

 フライゴンの横には、ミュウが静かに浮かんでいる。こちらを振り返りもしないまま、最低限の念力で飛来する破片だけを逸らしていた。

 

「助かった!」

 

『ミュウ様、あんまり無理するなロト!』

 

「え?」

 

『今もずっと――』

 

 ロトムの声が途切れた。

 石の壁が、内側へ膨らんだ。

 

「フライゴン、離れろ!」

 

 翼が大きく空気を叩く。

 その刹那、先ほどいた場所で爆発した。

 灰色の粉塵を突き破り、メガガブリアスが飛び出してくる。

 考えるより先に、フライゴンも動いていた。緑色の光が爪を包み、振り下ろされたメガガブリアスの一撃へ、自らも『ドラゴンクロー』をぶつける。

 激突音が腹の底まで響き、拮抗したのは一瞬だった。

 

『フリャ――ッ!』

 

 フライゴンの腕が弾かれる。

 そのまま身体ごと押し切られた。

 

「ぐっ……!」

 

 見ていた世界がひっくり返った。

 騎乗具が腹へ食い込み、次いで背中を強く打ちつける。一瞬だけ息が止まり、思考が止まる。

 フライゴンも空中で大きく姿勢を崩していた。

 その身体へ、ミュウの念力が絡む。

 吹き飛ばされた勢いそのものを殺すことはできない。それでも横転しかけた身体が僅かに支えられ、フライゴンはどうにか翼で空気を掴んだ。

 

「っ、は……」

 

 ようやく息が戻る。

 痛む脇腹を押さえながら顔を上げれば、メガガブリアスは追撃のためにこちらへ向き直っていた。

 同じ技を真正面からぶつけ合い、この有様だ。

 

「……真正面じゃ駄目だ」

 

『同感ロト!』

 

 ロトムの返事と同時に、下方から青白い閃光が走った。

 地上ではコジョンドが身体を捻り、頬すれすれをメガルカリオの拳が通過する。続く蹴りも、上体を沈めて紙一重で躱した。

 身体能力に差があろうとも、高速の攻防を交わすコジョンドの目は、相手の動きを確かに捉えていた。

 踏み込んできたメガルカリオの腕を外へ払い、その重心が僅かに流れたところへ掌底を叩き込む。メガルカリオの身体が半歩ずれた瞬間、後方から飛来した『サイコカッター』がその足元を切り裂いた。

 

 灰色の石が弾け、メガルカリオが跳ぶ。

 その着地点へコジョンドが踏み込み、膝を跳ね上げた。

 だが、空を裂いただけだった。

 メガルカリオは空中で身体を捻り、膝を外すと同時に踵を振り下ろした。

 コジョンドもそれを読んでいたかのように、流麗な足捌きで横へ滑る。

 互いの攻撃が、僅かな差で空を切った。

 

「コジョンド……」

 

 押されてはいない。

 少なくとも、まだ。

 

『日廻! 前ロト!』

 

 顔を戻した瞬間、メガガブリアスが目前まで迫っていた。

 

「っ、躱せ!」

 

 フライゴンが急旋回する。

 鎌状の腕が、ほんの少し前まで日廻の頭があった場所を薙いだ。風圧だけで髪が激しく煽られる。

 そのまま逃げる。

 だが直線では追いつかれる。

 さっき砕かれた波の向こうに、別の波頭が幾つも連なっている。崩れる瞬間に石へ変わったそれらの間には、翼を傾けなければ通れないほど狭い隙間があった。

 

「下! あそこ抜けて視界を切れ!」

 

 フライゴンが急降下した。

 石の海すれすれまで高度を落とし、巨大な波と波の隙間へ飛び込む。左右へ張り出した石を避けるように身体を大きく傾け、その狭間を高速で駆け抜けた。

 押し退けられた空気が石壁にぶつかり、乱れた風となって横から叩きつけてくる。日廻は思わず身を縮め、騎乗具へしがみついた。

 背後から、石を砕く破砕音が追ってくる。

 狭い隙間を通るのではなく、邪魔な石そのものを鎌状の腕で叩き壊しながら追ってくるのが見なくても分かった。

 

「無茶苦茶だな……!」

 

『でも、少し遅れてるロト!』

 

 なら、使える。

 フライゴンも分かっていた。

 次の石柱を抜ける直前、尾を大きく振る。側面が砕け、巻き上がった灰色の粉塵が一気に背後を覆った。

 視界からメガガブリアスが消える。

 

「上を取れ!」

 

 フライゴンが跳ね上がった。

 粉塵の上へ抜け、反転する

 直後、灰色の煙を突き破ってメガガブリアスが飛び出してきた。その頭上を取ったフライゴンの口元に、竜の力が集まっている。

 

 『りゅうのはどう』が炸裂した。

 

 まともに入った。メガガブリアスの巨体が下へ叩かれ、石化した波頭へ激突する。巨大な石壁が崩れ、粉塵がさらに広がった。

 

「よし……!」

 

 だが、崩れ落ちる石の中で、影が動いた。

 メガガブリアスが立ち上がる。

 傷はある。間違いなく効いている。

 それなのに、痛みに怯む様子がない。

 こちらを見上げた目にも、怒りさえ浮かんでいなかった。

 その目を、日廻は知っている。

 

「……やっぱり、あの時のアブソルと同じだ」

 

 傷ついても止まらない。

 身体が壊れることさえ、自分のことではないように動き続ける。

 

 そして、それは地上も同じだった。

 コジョンドの掌から放たれた『はどうだん』が、メガルカリオの肩口で炸裂する。身体が僅かに傾いたところへ、アブソルのサイコカッターが走った。

 

 二方向からの攻撃。

 それでもメガルカリオは退かなかった。

 爆煙の中から踏み込み、疾風の如き速さでそのままコジョンドへ拳を振るう。

 コジョンドは『見切って』いた。

 寸前のところで首を傾け、拳を躱す。

 その瞬間。

 

『アブッ!』

 

 二匹と距離があったからこそ見えたアブソルが吠えた。

 メガルカリオの拳は囮だった。

 既に身体が回っている。

 横薙ぎの『けたぐり』を、コジョンドは後ろへ跳んで避けた。

 蹴り抜いた勢いのまま、メガルカリオが石面を蹴る。次に狙ったのはアブソルだった。

 

『コジョ!』

 

 それ見逃さず、コジョンドが割り込む。

 メガルカリオの拳を掌で外へ流し、アブソルから軸を逸らした。

 しかし、勢いまでは完全に殺せない。軌道を逸らされた拳が、それでもアブソルの肩口を掠めた。

 

『――フオッ!』

 

 直撃していない。

 それだけなのに、アブソルの身体は横へ大きく流され、着地した前脚が石へ沈む。

 

「アブソル!」

 

 日廻が思わず下を見る。

 その一瞬がまずかった。

 

『日廻、前ッ!』

 

 メガガブリアスが来る。

 

「フライゴン!」

 

 フライゴン自身も気づいていた。

 横へ逃げようとするが先ほどと同じ石柱の隙間へ入ろうとした瞬間、メガガブリアスが進路を変えた。

 

「な――」

 

 先回りされた。

 さっきの動きを見られていた。

 巨大な鎌が待ち構えている。

 

「戻れ!」

 

 フライゴンが無理やり翼を開く。

 急制動に日廻の身体が前へ投げ出され、騎乗具の固定具が食い込んだ。

 鎌の先端が眼前に迫ろうとした時、不意に腕が横へ引かれた。

 メガガブリアスを止めるには到底足りない力だったが、その一瞬でフライゴンは身体を沈め、腕の下を抜けた。

 

「ミュウ、助かった!」

 

『ミュ……!』

 

 返事が苦しい。

 そこで初めて、日廻は気づいた。

 ミュウの身体を包む淡い光が、家からここへ来た時より明らかに強くなっている。

 

「……お前、ずっと何かしてるのか?」

 

『石化を抑えてるロト!』

 

「石化?」

 

『説明は――』

 

 ロトムが言い終える前に、警告音のような声を上げた。

 

『待つロト! ディアルガが……!』

 

 遥か向こう、ロトムの声に石の海へ倒れたままの青い巨体に目が向く。

 それは傷だと思った。ただ、ディアルガの脚、その一部から青が失われている。

 生気のない灰色が、ゆっくりと身体を侵していた。

 

「……石に」

 

『光を奪われてるロト』

 

 ロトムの声が低くなる。

 

『ミュウ様の周りだけ、光を奪われるのを抑えられてるロト! でもディアルガは遠すぎる。それに、ここへ来る前から相当消耗してるロト……!』

 

「じゃあ、早くこいつらを――」

 

『それだけじゃないロト!アブソルが!』

 

 その言葉に、今度はアブソルへ視線を動かす。

 

「……え?」

 

 それを見て息が詰まった。

 上空からでも前脚、その毛先に薄い灰色が混じっている。

 ディアルガと同じ色だった。

 

「なんで……」

 

 そこで日廻は気づく。

 さっきメガガブリアスに吹き飛ばされた時、自分たちはミュウごと地上から大きく離れた。

 

「ミュウ、近づけば止められるか!?」

 

『ミュ!』

 

「フライゴン、行ってくれ!」

 

 視界が一気に下がり、アブソル達の元に近づこうとする。

 メガガブリアスが追ってくるが、今度は逃げ切るためではない。日廻は石の波を次々と視界に入れながら、地上組との距離を詰めていく。

 それにミュウも続き、やがてアブソルの毛先を侵していた灰色が、それ以上広がらなくなった。

 

『石化は一時的に止まったロト!』

 

 安堵する暇はない。

 ミュウは、ずっと自分たちが戦っていられる状況を作り出している。

 その上で、飛んでくる石を弾き、メガガブリアスの攻撃を逸らし、フライゴンを支えている。

 これ以上を求めるのは無理だ。

 ――いや。そこまで考えて、ふと思い出した。

 

「ミュウ!」

 

『ミュ?』

 

「さっきの! 家からここに来た時の、『テレポート』使えるのか!?」

 

『無理ッ!ミュウ様が今どれだけ――』

 

 ロトムの声が爆音に掻き消された。

 メガガブリアスの攻撃が石の海へ突き刺さり、粉塵が噴き上がる。

 

『だから無理ロト!』

 

「分かったよ!」

 

 フライゴンが粉塵の中を駆け抜ける。

 視界が灰色に染まったが、すぐ後ろからメガガブリアスが迫ってきているのは分かる。

 

「フライゴン、海面すれすれを飛べ!」

 

 高度を更に落とす。

 翼の先が石と化した海面を掠めそうな位置まで降り、フライゴンは巨大な波の間を縫うように飛んだ。

 追ってくるメガガブリアスも迷わない。先ほどまでなら、そのまま次の狭間へ飛び込ませていた。

 だが、同じことをすれば読まれる。実際、一度こちらの動きを見ただけで、あいつは先回りしてきた。

 

「まだ……そのまま!」

 

 日廻は逃げ道ではなく、周囲の石へ目を走らせる。

 

 『りゅうせいぐん』。

 メガガブリアスの突進。

 

 何度も繰り返された衝撃で、石化した海はあちこちが砕け、巨大な波の根元にも幾筋もの亀裂が走っていた。

 その中に、一際大きく傾いた波頭がある。

 上半分はまだ巨大な塊のまま残っている。

 だが、支えている根元は――もう半分以上が砕けていた。

 

「フライゴン、あの波の横を抜けろ!」

 

『フリャ!』

 

 迷う時間もなく、日廻は声を上げた。

 進路が変わり、メガガブリアスも追従した。

 日廻は背後を振り返る。あの速さでは、波を通り過ぎる前に追いつかれる。

 

「もう少し……!」

 

 巨大な灰色の波が目前へ迫る。

 フライゴンがその脇を滑り抜けた。

 メガガブリアスも続く。

 日廻は前を向いたまま叫んだ。

 

「今だ!――波の根元を撃て!」

 

 フライゴンが答えた。

 口元へ竜の力が集まり、『りゅうのはどう』が放たれた。

 狙ったのはメガガブリアスではない。

 そのすぐ横、亀裂だらけになった石の波、その根元。

 青い光が突き刺さった瞬間、石の海に低い音が走った。

 罅が広がる。一本だった亀裂が枝分かれし、巨大な波頭全体へ伸びていく。

 

『崩れるロト!』

 

 次の瞬間。石の波が、メガガブリアスへ向かって倒れた。

 灰色の巨塊が崩壊し、無数の岩塊となって降り注ぐ。

 メガガブリアスが腕を振るった。

 正面から迫った岩を反射的に鎌状の腕で砕く。

 だが、その間にも次から次へと落ちていく。

 轟音とともに巨体が瓦礫の中へ呑み込まれた。

 

『今度は直撃させてないロト!』

 

「あいつに当てても止まらないなら、動けなくすればいい!」

 

 舞い上がった粉塵の向こうで、灰色の瓦礫が山を作っている。

 倒したいわけじゃない。

 今はただ、止まってくれればいい。

 その間に地上へ戻れる。

 

「フライゴン、コジョンドたちのところへ――」

 

 言い切る前だった。

 瓦礫の山が、揺れた。

 

「……は?」

 

 もう一度、今度は明確に。

 ごり、と石同士が擦れ合い、積み重なった岩が内側から押し上げられる。

 

『まだ動くロト……!』

 

 次の瞬間、石塊が弾け飛んだ。

 粉塵の中から現れたメガガブリアスは、全身に新しい傷を増やしていた。

 それでも、腕を広げる。

 こちらを見据える目には、やはり痛みも怒りもない。

 

「……これでも、止まらないのかよ」

 

 長引けば、こちらが先に削られる。

 フライゴンだけではない。

 ミュウも、地上の二匹も。

 そして、ディアルガも。

 

 その時だった。

 遠くの巨大な穴が光った。

 翠の光。その直後に、黒とも紫ともつかない昏い虹色。

 二つの光が穴の奥でぶつかり合い、一瞬だけ夜空の色を塗り替えた。

 遅れて、衝撃が来る。

 石の海全体が震え、フライゴンの翼が空気の揺れに煽られる。

 

『ゼットも戦ってるロト……!』

 

 日廻は巨大な穴を見た。

 その奥で何か途方もないもの同士がぶつかっている。

 見ていられたのは一瞬だった。

 

『地上!』

 

 ロトムの声で視線を落とす。

 コジョンドが押され始めていた。

 メガルカリオの拳を躱し、蹴りを外し、反撃まで返している。

 だが、それが永遠には続かない。

 本当に僅かずつ、身体が追いつかなくなっていた。

 アブソルの『サイコカッター』が割り込み、メガルカリオを退かせる。

 コジョンドは一度だけ自分の袖のように垂れた長い毛を見た。

 次の瞬間、それを口元へ持っていく。

 

「コジョンド?」

 

 牙を食い込ませ、力任せに引き裂く。

 白い毛が、石の海へ落ちた。

 袖のような毛を噛み切った両腕を下ろす。

 目に宿る闘志はむしろ鋭さを増していた。

 

『コジョ……』

 

 短くなった両腕を下ろす。

 目に宿る闘志はむしろ鋭さを増していた。

 メガルカリオが拳を放つ。コジョンドの身体は、消えたように横へずれた。

 先ほどまでなら頬を掠めていた一撃が、今度は何も捉えない。

 

 返す掌底を、メガルカリオが受ける。

 その腕へ触れた瞬間、コジョンドは力を競わず身体を回し、横から『はたきおとす』を叩き込んだ。

 軸がずれた瞬間、別方向から『サイコカッター』が追撃する。

 

 メガルカリオが明確に体勢を崩したその時。

 待っていたように、コジョンドは地面を蹴る。

 『とびひざげり』が腹部へ入った。

 初めて、メガルカリオの身体が大きく浮いた。

 

「入った!」

 

 着地したコジョンドが、すぐに距離を取る。

 大技を入れたからといって、終わったと思っていない。

 メガルカリオは石の海を転がり、止まる

 腹部を庇いもせず立ち上がる。

 ただ、コジョンドを虚ろな目で見る。

 

「……やっぱり」

 

 効いていないわけじゃない。

 傷ついていないわけでもない。

 ただ、止まらない。

 

 メガルカリオが再び踏み込んだ。

 コジョンドも迎撃のため構える。

 身軽になった身体で、一発目を外す。そこから繋がる二発目も、今度は余裕をもって躱した――はずだった。

 

『コ、コジョ?』

 

 次の瞬間、腹部へ衝撃が突き刺さった。

 見えなかった。

 メガルカリオの拳だけが、いつの間にかコジョンドの懐へ入り込んでいる。

 『バレットパンチ』。

 今まで見せたことのない一撃に、コジョンドの動きが止まる

 メガルカリオは、既に『インファイト』を叩き込める距離にいた。

 

「まずい!」

 

 軸足が沈む。

 一度でも始まれば、今のコジョンドには避けきれない。

 

『アブッ!』

 

 アブソルの『サイコカッター』が飛ぶ。

 メガルカリオは片腕だけで受けた。

 腕が裂けても構わず、そのまま振り抜こうとする。

 コジョンドは動けない。

 日廻からは遠い。

 

「コジョンド!」

 

 間に合わない。

 

『日廻! モンスターボールロト!!』

 

 ロトムの叫びで、手が勝手に動いた。

 腰のボールを掴む。

 向ける。

 

「コジョンド、戻れ!!」

 

 赤い光が石の海を走った。

 蹴りが届く、その寸前に

 コジョンドの身体が光へ変わる。

 次の瞬間、メガルカリオの拳と蹴りが、コジョンドの消えた空間を苛烈に打ち抜いた。

 赤い光が日廻の手元へ戻る。

 

「…………っ」

 

 地上には、アブソルだけが残っていた。

 メガルカリオがゆっくりとそちらへ顔を向ける。

 上空では、傷だらけのメガガブリアスがなおも飛んでいる。

 遠くに倒れたディアルガの脚には、先ほどより僅かに灰色が増えていた。

 日廻は手の中のボールと腕に巻いているゼンブイリングを見た。

 コジョンドは、まだ戦える。

 まだ誰も、倒れてはいない。

 けれど、このままでは、足りない。なら―――

 

「―――使うぞ、ロトム」

 

 

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