ポケモン、彼らはそう呼ばれている   作:燐2

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【たすけて】

 

 

 榊原日廻は、立っていた。

 

 ただ、それを「立っている」と呼んでいいのかは分からなかった。膝は震え、背筋を伸ばそうとするたびに身体の奥で何かが軋む。呼吸は浅く、口元から落ちた血が顎を伝い、石の海へ赤い点を作っていく。

 顔の半分は石と化し、片方の目は何も映していない。騎乗具を掴んでいた指の一部は砕け、残った指も満足に握れなかった。

 本当なら、もうここに立っているはずのない身体だった。

 

『日廻……』

 

 傍らでロトムが名前を呼ぶ。

 フライゴンも石化した脚をぶら下げ、低く浮いたまま寄り添っていた。日廻が少しでも傾けば支えられるように、身体を近くへ置いている。

 日廻は答えなかった。何かを言おうとしても、喉が上手く動かなかった。

 残った目を、前へ向ける。

 ゼットも、ミュウも、レジギガスも、まだ戦っていた。

 『プリズムレーザー』を受けたゼットの巨体には無数の損傷が走り、灰色が各所を侵している。レジギガスも石化した腕を上げ、異形の攻撃を受け止め続けていた。

 その間をミュウが飛ぶ。光が結晶を削り、修復の輝きが走るより先に別方向からもう一撃。後に残す力まで注ぎ込み、小さな身体を弾き飛ばされても攻撃をやめない。

 それでも、足りない。

 

「…………」

 

 日廻はその戦いを、そして、異形のさらに奥を見ていた。

 ダークマターネクロズマが頭部を持ち上げる。巨大な裂け目にも見える口の奥、黒紫の結晶と昏い虹色に覆われた場所に、別の輪郭があった。

 顔。そうとしか思えないもの。

 その中で、小さな光が瞬いた。

 一度消え、もう一度。

 弱く、今にも途切れそうに。

 意味などないのかもしれない。ただの残光か、内部を巡る力が漏れ出しただけなのかもしれない。

 それでも、日廻には。

 ――たすけて(・・・・)。

 そう、見えた。

 

「……まだ」

 

『……え?』

 

 ロトムが振り向く。

 

「まだ……いる」

 

 声は掠れ、ほとんど息だった。

 遠くでミュウがこちらを見た。異形と対峙していたその目が、日廻を捉える。

 

「……あいつの、なかに……まだ……」

 

 言葉はそこで途切れた。けれど、ミュウには十分だった。

 青い目が大きく見開かれる。

 血に濡れた服。石になった顔。欠けた指。立っていること自体がおかしい身体で、日廻はなおも敵の内側を見ていた。

 

『――バカ!!!!!!』

 

 頭の中へ直接叩きつけられた声に、日廻の身体が僅かに揺れた。

 

『なんで――なんでそういう顔するのよ!!』

 

「…………」

 

『あなた!自分が今どうなってるか分かってる!? さっき――さっきあなた……!』

 

 言葉が止まる。

 ミュウは知っている。日廻の呼吸が一度消え、それでも帰ってきたことを。

 

『あなたが動けなくなったら……!』

 

 その先が出なかった。

 誰が自分たちの面倒を見るのか。あの家で朝を迎え、どうでもいいことで困った顔をして、食事を用意してくれるのか。

 そんなことを、今ここで言えるはずもなかった。

 日廻は、せめて謝ろうとした。

 

『謝るな!!喋ろうともするな!!頭に言葉を浮かべただけで分かるから!!』

 

「…………」

 

『……ほんっとに』

 

 怒鳴る震えた声が、急に小さくなった。

 

『バカ』

 

 ミュウはそれ以上何も言わず、日廻の腕に巻かれたゼンブイリングへ視線を落とした。

 筐体には幾つもの罅が走り、砕けた表面から内部機構が覗いている。

 

『日廻』

 

 ロトムが震えた。

 

『ゼンブイリング、もう駄目ロト。出力制御も、安全機構も……ほとんど死んでるロト』

 

「……」

 

『今使ったら、どうなるか……』

 

「……」

 

『…………』

 

 ロトムは、それ以上言えなかった。

 日廻は腕を持ち上げようとした。一度では上がらない。もう片方の手を添えようとして、欠けた指先が空を掻く。

 それでも少しずつ、リングを前へ向けた。

 アブソルが傍らから進み出る。

 

「アブ、ソル」

 

 灰色に覆われた四肢では走れない。先ほどメガシンカし、コアを切り裂いた消耗も残っている。

 それでも一歩ずつ、日廻の前へ出た。

 

『フォウ……』

 

 振り返らず、そこに立った。

 アブソルは分かっている。自分が何のために戻ってきたのかを。

 だから、前へ出たのだ。

 罅割れたゼンブイリングが唸る。

 

『エラー……出力制御、応答なしロト……!』

 

 警告音が鳴った。本来ならそこで止まるはずの機構は、止まらなかった。

 光が無理矢理、引きずり出される。

 

 日廻の身体が揺れた。胸の奥から何かを掴まれ、そのまま腕の先へ引き抜かれたようだった。

 痛みすら、もう遠い。

 アブソルナイトが応え、白い光が身体を包んだ。

 明滅し、弾け、時折黒い筋まで混じる輝きが、その輪郭を書き換えていく。翼を思わせる毛が広がり、頭部の刃が鋭さを増した。

 メガシンカ。

 光が収まっても、不安定なエネルギーは火花のように散り続けていた。

 メガアブソルは一度だけ日廻を見て、前へ向き直った。

 

 続いてコジョンドが、残った右腕を胸元へ寄せる。

 

「コジ、ョンド」

 

『コジョ……』

 

 短い返事に重なって、リングが再び鳴った。

 

『日廻……!』

 

 ロトムの警告より早く、赤い光が噴き上がる。

 巨大化する身体の周囲でエネルギーが暴れ、赤黒い雲が幾重にも渦巻いた。石と化した左腕も、そのまま巨大化して垂れ下がる。

 ダイマックスしたコジョンドは右脚を踏み下ろして姿勢を支え、異形を見据えた。

 

 次に、ミュウが戻ってきた。

 

『…………』

 

 何も言わない。怒っていることだけは、日廻にも分かった。

 喋らなくても伝わる。それでも、その名前だけは自分の声で呼びたかった。

 

「……ミュ、ウ」

 

 日廻が腕を動かす。

 手元へ集まった光は、何度も形を崩していた。それを投げるように、ほんの僅かに腕を振る。

 放たれた光がミュウを覆い、巨大な結晶体を形作った。桃色の身体が隠れ、その内部で輝きが激しく乱れる。

 次の瞬間、結晶体が砕け散った。

 宝石のような輝きを纏ったミュウが現れる。

 頭上の結晶は時折輪郭を揺らしていたが、テラスタルしたミュウは日廻を見ず、そのままアブソルとコジョンドの隣へ飛んでいった。

 

 フライゴンが、傍を離れる。

 

「フライ、ゴン」

 

『ファイ……』

 

 緑の頭が、ほんの一瞬だけ日廻の肩へ触れた。

 それから翼を打ち、石化した脚をぶら下げたまま前へ出る。

 リングがまた光った。途切れた電子音とともに、膨大な竜の力がフライゴンへ流れ込む。

 巨大な輪郭が周囲に生まれては崩れ、翼が軋んだ。それでもZパワーを纏ったフライゴンは逃げず、全身でその力を抱え込んだ。

 

 四匹が、それぞれの力を抱えて進んでいく。

 涙を堪えて、前へ。

 脚がもつれる、それでも前へ。

 翼を翻し、あの向こう側へ。

 禍つ光を見据え、戦うために前へ。

 ―――命を賭した彼の願いを叶えるために。

 

 ◇◆◇

 

 四匹が前線へ加わるのと入れ替わりに、ゼットが日廻の傍へ戻ってきた。

 戦場の音が、少しだけ遠くなった気がした。

 傷ついた巨体はなお、ダークマターネクロズマを見据えている。

 四匹が並んでも、日廻には勝てるという確信がなかった。

 ゼットなら、答えを出すはずだった。

 必要な行動を計算し、実行する。勝てるかどうかではない。やる。

 それがゼットだった。

 

『――私は、既に奴に一度敗北している』

 

「…………」

 

 顔は上げられなかった。それでも、ゼットがこちらを見ていることは分かった。

 

『現状から、勝利条件を算出できない』

 

 その声には、迷いがあった。

 

『日廻』

 

 一拍。

 

『……どうすれば、勝てる』

 

 日廻は答えようとした。

 頭が回らない。視界が白く霞む。作戦も、敵の弱点も、攻撃の順番も、何一つ浮かばなかった。

 

「……しんじろ」

 

『…………』

 

「ムリなら……」

 

 息を吐くと、一緒に血が石の海に落ちた。

 

「おまえが、しんじるやつを……しんじていけ……」

 

 ゼットは答えず、日廻もそれ以上言えなかった。

 ふと、何かを思い出す。

 

「……」

 

 服の中へ手を入れた。指が布へ引っかかる。それでも探ると、小さな石に触れた。

 よかった。割れてなかった。

 以前、ゼットから渡されたもの。

 お守りのように持っていたもの。

 

「……こ、れ」

 

 取り出そうとして、落とした。

 石が地面へ転がる。屈もうとした膝が崩れかけ、ゼットの巨大な手が先に伸びた。

 指先が石を拾い上げる。

 

『…………』

 

 ゼットが掌の上を見た時、小さな音がした。

 ただの石にしか見えなかった表面へ亀裂が走る。外殻が剥がれ落ち、その内側から光が漏れた。

 日廻には、もう見えていなかった。残った片目さえ焦点を失い始めている。

 けれど、ゼットには分かった。

 砕けた石の内側で光を放つ、ジガルデナイト(・・・・・・・)。

 

『――回答を得た』

 

「……?」

 

 ゼットが日廻を見る。

 

『私が信じるものは――』

 

 声から迷いが消えた。

 

『お前だ』

 

「…………」

 

 日廻の口元が、ほんの少し動いた。

 ゼンブイリングが反応する。最後まで残っていた何かを吐き出すように光が溢れ、ジガルデナイトと呼応した。

 

 光の中で、ゼットの輪郭が変わる。

 パーフェクトフォルムを形作っていた巨体が、さらに別の秩序へ組み替えられていく。全身を走る緑の光が一斉に強まり、膨大なエネルギーが噴き上がった。

 頭上へ、ゼット自身を覆ってしまいそうな巨大な黒い構造が展開される。幾本もの黒い肢が、緑の身体とそれを繋ぐように伸びていく。

 

 メガシンカの光が晴れる。

 

 けれど、日廻にはもう、その姿をはっきりと見ることができなかった。残った片目にも光は滲み、緑と黒の巨大な輪郭が揺れていることしか分からない。

 それでも。

 

「いって、こい」

 

 ゼットが前へ出る。日廻の傍から、仲間たちのところへ向かっていった。

 

 ◇◆◇

 

 ダークマターネクロズマが、大きく距離を取った。

 アブソルを避け、コジョンドの攻撃範囲から離れる。ミュウの光を振り切り、フライゴンの竜の力とゼットの攻撃から逃れるように、巨体が上昇していった。

 

『逃げる……?』

 

 ロトムが呟いた。

 違った。

 上空で異形が止まり、身体を構成する結晶が一斉に開く。その隙間から光が漏れた。

 ロトムの画面を数値が走り、止まる。計測限界を超えていた。

 

『……駄目ロト』

 

 空が明るくなる。

 黒紫の異形を中心に、巨大な光が形成されていた。雲も石の海も照らされ、影が消えていく。世界中から奪った光を、一か所へ集めたような輝きだった。

 

『あれが……地表に触れたら』

 

 ロトムが計算を止めた。

 

『この星が終わるロト』

 

 誰も答えなかった。

 ダークマターネクロズマの全身から溢れた力が収束し、天を埋め尽くす。

 日廻たちも、戦場も、星ごと終わらせるための光。

 ゼットが前へ出た。メガシンカした身体へ、これまでとは比較にならない力が集まっていく。

 アブソルも頭部の刃を持ち上げ、走れない脚で地面を踏み締めた。周囲へ闇が渦巻く。

 巨大化したコジョンドが右腕を引くと、集まった格闘の力がさらに巨大な拳を形作った。

 フライゴンの周囲では、抑え込んでいたZパワーが一つの竜へ収束する。

 ミュウの頭上でも結晶が形を変えた。荒れる光の下で、青い目が上空を見据えていた。

 

 日廻はその背中を見ていた。

 見えているのか、もう自分でも分からない。それでも、そこにみんながいることは分かった。

 

「……いけ」

 

 アブソルの前から、巨大な闇が放たれた。

 『あくのはどう』。黒い奔流が空へ伸びる。

 

 同時に、コジョンドが右腕を突き出した。

 『ダイナックル』。拳を覆っていた格闘エネルギーが本体から離れ、空を駆け上がる。

 

 フライゴンが翼を打った。

 『アルティメットドラゴンバーン』。傷ついた身体を包んでいた巨大な竜が、咆哮とともに昇っていく。

 

 ミュウも結晶の輝きを一点へ集めた。

 『テラバースト』。宝石のような光が、三つの攻撃へ重なる。

 

 そして、ゼット。

 X、Y、Z。

 砲口に光が走り展開される。

 一瞬の空白。

 解き放たれた数多の光の柱が、四匹の攻撃とともに天へ伸びた。

 それら全てを上回るほどの極光の柱『無に帰す光』。

 五つの力が、『天焦がす滅亡の光』にぶつかる。

 

 光の境界で空間が歪み、石の海へ巨大な亀裂が走る。触れられてすらいない灰色の大地が、次々と砕けていった。

 

『まだ……足りないロト……!』

 

 その時、レジギガスが石化した腕を持ち上げた。

 まともに立つことさえ難しい身体で、掌を空へ向ける。そこに集まった光が、一条の奔流となった。

 『はかいこうせん』。

 六つ目の光が加わり、境界が僅かに押し返される。

 だが、まだ足りない。

 

 離れた石の海で、長い身体が動いた。

 深い傷も、身体を侵す石化も残ったまま。空へ戻る力など、もうなかった。

 それでも黄色い瞳が上を向く。

 天空に座する者が地上から頭を持ち上げ、口を開いた。

 レックウザは飛べないまま、地上から空を撃った。

 『はかいこうせん』。

 七つ目の光が重なる。

 異なる力が一つの巨大な奔流となって昇り、衝突する。

 境界が止まり。一瞬、完全に拮抗した。

 

『…………』

 

 ロトムは数値を追っていた。「頼む」と口にする余裕さえなかった。

 やがて境界が動く。

 下へ。

 

『……そんな』

 

 僅かに、敵の光が勝っている。

 七体すべての力を合わせても、なお足りなかった。

 

『出力……足りないロト……ほんの少し、ほんの少しだけ……!』

 

 境界がまた下がる。

 このままなら、負ける。

 

「ミュウ」

 

 その声に、ミュウが反応する。

 振り返るより早く、白と赤の球体(モンスターボール)が、その横顔を掠めて飛んでいった。力のない投擲だった。速度も、高さも足りない。

 

 何も言わず、青い瞳を光らせた。

 『サイコキネシス』。

 次の瞬間、念力に押されて加速した。

 七つの攻撃と、『天焦がす滅亡の光』。

 

 世界を二つに割るほどの光。その奔流の縁をかすめ、あまりにも小さな球が昇っていく。

 七つの攻撃を押し返すために、すべての力を使っていたダークマターネクロズマは気が付かない。

 

 裂け目の奥、黒紫に呑まれた別の顔。その中で瞬く光へ、届いた。

 

 ボールが開き、赤い光が走った。

 

 ダークマターネクロズマではなく、その内側のネクロズマへ。

 

 一匹のポケモンとして認識し、捕まえようとする。

 

 黒紫の身体が、大きく痙攣した。

 

 赤い光がネクロズマを包む。だが、引き込めない。

 

 絡みついたダークマターから昏い虹色の光が逆流し、捕獲の光を押し返していた。ボールが軋み、表面に罅が入る。

 

 捕まらない。

 それでも、十分だった。

 

 ネクロズマを引き込もうとする力と、離すまいとするダークマター。その二つが逆方向へ引き合い、一体となっていたものの間に僅かなずれが生まれた。

 小さな光が、強く瞬く。

 全身を巡っていた昏い虹色が途切れ、『天焦がす滅亡の光』が揺らいだ。

 

『――今ロト!!』

 

 全員が、同時に力を込めた。

 

『フォォォォウッ!!』

 

 アブソルの闇の奔流が膨れ上がる。

 

『コジョォォォォォンドォォッ!!』

 

 巨大な拳が光を押し上げた。

 

『ファイイイイイッ!!』

 

 竜が咆哮する。

 

『ミュゥゥゥウッ!!!』

 

 ミュウの結晶が激しく輝き。

 ゼットの砲身から更に光が溢れた。

 

『一天四海(いってんしかい)―――ぶち抜く』

 

 レジギガスの巨体が震える。

 レックウザも地上から咆哮した。

 七つの力が境界を押す。

 下がり続けていた光が止まり、上へと動いた。

 

 七つの攻撃が『天焦がす滅亡の光』を押し返す。

 少しずつ、やがて一気に。

 天を覆っていた光が逆流し、敵の攻撃を呑み込みながら、その先へ届いた。

 光が爆ぜる。腕も翼も、異形を構成する黒紫の結晶が次々と砕けていく。千切れた昏い虹色は繋がらず、ホウオウの炎もディアルガの時間も、修復へ回らなかった。

 モンスターボールが砕けた。

 赤い光が消える。

 だが、その直前、ダークマターと閉じ込められていたものの間へ、決定的な亀裂が入っていた。

 黒が剥がれ、隙間から光が溢れる。

 七つの攻撃が、異形を貫いた。

 

 ◇◆◇

 

 音が戻った時、巨大な異形はもうそこにはいなかった。

 空から黒いものが降っている。灰とも霧とも結晶の欠片とも違う粒が、形を保てなくなった感情のように崩れていった。

 その中に、一瞬だけ別の輪郭があった。

 黒く、角張った身体。

 先ほどまでの異形とは違う、一匹のポケモン。

 その身体から黒い霧が離れ、光が漏れた。

 巨大な翼。獣の輪郭。月を思わせる翼と、鮮やかな鳥。稲妻を束ねた両腕を持つ影の隣には、巨大な竜の頭部を思わせる影がある。

 そして、青い巨体。

 

 奪われていた光が、今度こそ離れていく。

 戻されることなく空へ昇り、それぞれが還るべき場所へ向かっていった。

 その輝きが、石の海へ降り注ぐ。

 誰かを焼くためでも、奪うためでもない光が、戦場を静かに照らしていた。

 

 アブソルを包んでいた光が消え、白い毛が元へ戻る。

 コジョンドの巨体も赤い粒子を零しながら縮み、フライゴンを覆っていた竜の力が消えた。

 ミュウの頭上で結晶が砕け、宝石の輝きがほどけていく。ゼットのメガシンカも、静かに解けた。

 

 レジギガスが腕を下ろし、最初に振り返った。

 少し離れた場所では、レックウザも地面へ伏したまま、黄色い瞳を同じ方向へ向けていた。

 

『………日廻ッ』

 

 ロトムの声がした。

 

 五匹は、まだ振り向かなかった。

 

 分かっている。

 分かっている。

 分かっている。

 分かっている。

 分かって……いる。

 

 誰よりも帰りたがっていたのが、誰なのか。

 

 あの古い家へ、いつもの場所へ、またみんなで帰りたいと言ったのが。

 

 誰よりも、生きたがっていたのが。

 

 だから、振り向けなかった。

 

 そこにあるものを見れば、本当だと認めなければならない。

 

 空から光が降っている。

 奪われていたものが、次々と還っていく。

 

 何秒だったのか、何分だったのか。もう誰にも分からなかった。

 

 やがて、アブソルが。

 ミュウが。

 コジョンドが。

 ゼットが。

 フライゴンが。

 振り向く。

 

 もう、榊原日廻は動かない。

 

 

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