ポケモン、彼らはそう呼ばれている   作:燐2

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八日目【宙と響】

 

 

 撤退準備を進める艦内に、安堵と呼べるものはなかった。

 窓の向こうに広がっているのは、ほんの数時間前まで確かに海だったものだ。押し寄せた波はその形を残したまま固まり、砕けるはずだった飛沫までが白く硬質な姿を晒している。水平線まで続く海面は、いまや巨大な石の平原と化していた。ただし、護衛艦の周囲から後方へ細長く伸びる一帯だけは、不自然なほど海水のまま残されている。まるで何かが、そこだけ石化の進行を食い止めているようだった。

 その細い水路に浮かぶ護衛艦は、異様な世界へ迷い込んだ模型のようにも見えた。

 何が起きたのか、誰にも説明できない。

 世界各地で同時多発的に確認された空間異常。突如として空に開いた穴。そこから現れた既存の生物分類に当てはまらない存在。そして、日本近海で発生した、あまりにも大規模な異常現象。

 通信状況はいまだ安定せず、外から入ってくる情報も断片ばかりだった。国内外で同じような混乱が起きているらしいことだけは分かる。しかし、その原因も、終息したのかどうかさえ分からない。

 それでも、この海域に留まり続ける理由はもうなかった。

 

「機関、異常ありません。離脱可能です」

 

「周辺海域の観測は」

 

「継続中です。ただ……これ以上の停泊は推奨できません」

 

「分かっている」

 

 短く答え、艦長は窓の向こうへ視線を戻した。

 問題があるとすれば、そこだった。

 護衛艦から少し離れた場所に、巨大な影が立っている。

 岩。最初に見た誰もが、そう表現した。

 全身を巨大な岩石で組み上げたような人型の何か。大きさだけなら、それがこちらへ向かって一歩踏み出すだけで総員に戦慄が走ってもおかしくない。事実、発見当初には兵装使用の是非まで検討された。

 だが、その巨人は一度として艦へ攻撃しなかった。

 むしろ逆だった。

 何が起きているのかさえ理解できない乗組員たちの目の前で、巨人は艦と異常現象の間へ割り込むように立ち続けた。その行動にどこまで明確な意図があったのかは分からない。それでも、結果だけを見れば――この艦は、あの存在によって守られた。

 さらに遠方では、氷塊を思わせる巨体と、鈍い金属光沢を持つ別の巨人も確認されている。

 敵なのか。

 味方なのか。

 そもそも、人間の側が勝手にその二つへ分類していい存在なのか。

 何も分からない。

 ただ、分からないものに守られて、自分たちは生き残った。

 

「……離脱する」

 

 艦長が告げた。

 

「周辺の記録を可能な限り継続しながら、この海域を――」

 

「艦長!」

 

 鋭い声が、艦橋の空気を切った。

 

「新たな大型目標! 複数、接近しています!」

 

 張りつめていた空気が、一瞬で変わる。

 何人もの視線が計器へ落ちた。艦長も報告された方角へ身体を向け、すぐに双眼鏡を取る。

 最初は、石の海の向こうに揺れる巨大な影にしか見えなかった。

 一つ。

 いや、違う。

 複数。

 その中でも一際大きな影が、こちらへ向かってくる。

 

「……なんだ、あれは」

 

 それは白い巨人だった。

 黒い線の走る巨体。人型に近い輪郭を持ちながら、人間とは比較にもならないほど巨大な存在が、石の海を越えてこちらへ近づいてくる。

 しかも、一体ではない。

 白い巨人の傍には、さらに緑と黒の巨大な生物がいた。

 その周囲には、白い四足の獣がいた。細長い身体を持つ、人とも獣ともつかない生物。翼に傷を負った緑色の飛竜。そして、巨大なものたちに混じれば見失ってしまいそうなほど小さな、桃色の生き物。

 どれも傷ついていた。

 だが、そんなことよりも先に、その異様な姿が人間の警戒心を刺激した。

 

「戦闘配置!」

 

「大型目標、なおも接近!」

 

「艦長、発砲準備を――」

 

「待て」

 

 艦長の声に、報告が途切れた。

 

「しかし、艦長」

 

「見えている。少し待て」

 

 敵ではない保証など、どこにもない。

 世界各地を襲った異常な生物。その全容すら掴めていない状況で、今度は正体不明の巨大生物が集団でこちらへ向かってきている。

 攻撃可能なうちに攻撃する。

 その判断にも、十分な理由はあった。

 だからこそ艦長は、双眼鏡から目を離さなかった。

 白い巨人がこちらへ向かってくる。

 だが。

 

「……おかしいな」

 

「艦長?」

 

「こちらを見ていない」

 

 もう一度、倍率を調整する。

 白い巨人だけではなかった。

 四足の白い獣も。

 細身の生物も。

 傷ついた飛竜も。

 桃色の小さな生き物も。

 誰も、艦を見ていない。

 警戒している様子さえない。

 全員の視線が、一つの場所へ向けられていた。

 

「……全員、同じところを見ていないか」

 

「同じところ?」

 

「先頭の個体だ。手元を見ろ」

 

 白い巨人は、両腕を胸の前へ揃えていた。

 掌を上へ向けている。

 巨大な身体には似つかわしくないほど、慎重に。

 まるで、何かを運んでいるように。

 

「光学、先頭個体の両手を拡大」

 

「了解」

 

 数秒、映像が切り替わる。

 白い掌がモニターいっぱいに映し出され、その上にいくつもの小さな影が見えた。

 

「もう少し寄せます」

 

 倍率が上がる。

 映像が僅かに乱れ、再び焦点が合う。

 観測員が息を呑んだ。

 

「……待ってください」

 

「どうした」

 

「中央です。掌の中央に……」

 

 さらに拡大する。

 それを人間だと認識した瞬間、艦橋から音が消えた。

 

「……人、人がどうしてあんなところに?」

 

 巨人の掌に、一人の人間が横たわっていた。

 動いている様子はない。

 その周囲を、異形たちが囲んでいる。

 守るように。

 心配するように。

 全員が、その人間だけを見ていた。

 艦長はしばらく画面を見つめていた。

 そして、ようやく理解した。

 

「あいつらはこっちへ来ているんじゃない。人を連れてきているんだ」

 

 直後、声を張った。

 

「発砲中止。全兵装待機。こちらからは絶対に撃つな」

 

「しかし艦長、罠の可能性もあります!」

 

「ある」

 

 艦長は即答した。

 ないなどと言える状況ではない。

 

「だから警戒は解くな。警備要員も出せ」

 

 そして、もう一度モニターの中の人影を見る。

 

「だが、人間を運んできている。敵なら、その後で考える」

 

 一拍。

 

「今は救助だ。救護班を出せ」

 

     ◇◆◇

 

 映像で見るのと、実際に目の前へ現れるのとでは、まるで違った。

 白い巨人は、あまりにも大きい。

 護衛艦の傍まで来たそれを見上げながら、甲板に待機していた救護班と警備要員の間に緊張が走る。銃口は下げられている。だが、誰もそこから手を離してはいない。

 白い巨人が止まった。

 その背後や周囲にいた異形たちも、同時に動きを止める。

 しばらく、人間と、未知の存在たちが互いを見た。

 言葉はない。

 何をすればいいのか、どちらにも分からないような沈黙だった。

 やがて、白い巨人が動いた。

 

「……来るぞ」

 

 誰かの声に、警備要員の身体が強張る。

 しかし、巨人は攻撃しなかった。

 胸の前で揃えていた両腕を、ゆっくりと下ろし始めた。

 信じられないほど、ゆっくりと。

 あれほど巨大な身体を持つ存在が、その掌にあるものへ振動一つ与えまいと神経を尖らせている。そうとしか思えない慎重さだった。

 巨大な掌が、甲板の縁へ近づく。

 そこで、白い四足の獣が先に降りた。

 着地した脚が僅かに揺れる。全身には無数の傷が残っていたが、自分の傷を気にする様子はない。すぐに振り返り、巨人の掌を見る。

 細身の獣人が続いた。

 こちらも満身創痍だった。片腕を庇うような動きが残り、足取りにも疲労が滲んでいる。

 緑の飛竜は傷ついた翼を大きく動かすこともできず、巨人の手から甲板へ移る。桃色の小さな生き物はふわりと宙へ浮いたが、その飛び方にも普段ならあるはずの軽さはなかった。

 最後に、小さな機械のようにも、生き物のようにも見える奇妙な存在が降りる。

 それでも、白い巨人は掌を引かなかった。

 中央に、まだ一人残っている。

 

「救護班、行きます」

 

 隊員たちが前へ出た。

 近づくほど、足が重くなった。

 人間だ。

 若い男だった。

 二十代ほどに見える。

 だが、その身体を一目見ただけで、救護班の表情が変わった。

 衣服はぼろぼろに裂け、乾いた血が全身にこびりついている。片手の指は一部が失われ、身体のあちこちに激しい戦闘と落下によるものと思われる損傷が残っていた。

 それ以上に異様なのは、その身体そのものだった。

 ひどく、乾いている。

 水分だけでなく、人間を人間たらしめる何かまで使い果たしたかのように、肌は生気を失い、若い男の身体とは思えないほど痩せ衰えていた。

 救護班の一人が息を呑む。

 

「要救助者一名。接触します」

 

 それでも、職務として声を出した。

 白い巨人は動かない。

 掌を差し出したまま、ただ見ている。

 救護班は慎重に男の身体へ触れた。

 

「聞こえますか」

 

 返事はない。

 

「聞こえますか!」

 

 身体を移そうとして、その軽さに隊員の表情が歪んだ。

 成人男性の身体とは思えなかった。

 壊さないよう慎重に支え、用意した場所へ横たえる。

 一人が首元へ手を伸ばし、別の隊員が器具を準備する。

 額へ張りついていた髪を退けようと、手袋越しに指先が触れた。

 さら、と。

 

「……っ」

 

 数本の髪が崩れた。

 抜けたのではない。

 乾いた砂のように、形を失って手袋の上へ落ちた。

 一瞬だけ、隊員の手が止まる。

 それでも確認をやめるわけにはいかなかった。

 呼吸、脈、瞳孔反応。

 身体の状態。

 何度確かめても、結果は変わらない。

 胸は動かない。

 鼓動もない。

 声にも、刺激にも、何の反応もない。

 そして身体はもう、蘇生処置を施せばどうにかなるという段階ではなかった。

 

「…………」

 

 隊員が唇を噛んだ。

 そのときだった。

 白い四足の獣が、一歩だけ近づいた。

 警備要員が反応する。

 銃口が上がりかけた。

 

「待て!」

 

 救護隊員が振り返りもせずに叫んだ。

 

「何もしてない!」

 

 銃口が止まる。

 白い獣も止まっていた。

 こちらへ飛びかかろうとしたわけではない。

 ただ、男を見ていた。

 そこで、救護隊員は気づいた。

 自分たちの周りを、彼らが囲んでいる。

 白い獣。

 細身の獣人。

 緑の飛竜。

 桃色の小さな生き物。

 宙に浮かぶ、奇妙な存在。

 

 そして、その向こうにいる巨大な白い影。

 全員が、自分たちの手元を見ていた。

 誰一人、自分の傷を気にしていない。

 救護班が何をしているのか。

 横たわる男がどうなるのか。

 ただ、それだけを見ている。

 その目を、隊員は知っていた。

 病院の廊下で、事故現場で、災害現場で。

 救命処置をしている者の向こう側で、家族がする目だった。

 ――助かるのか。

 そう聞いている。

 言葉など一つも通じていないのに。

 分かってしまった。

 

「……どうする」

 

 隣の隊員が小さく尋ねた。

 答えられなかった。

 どう伝えればいい。

 そもそも死というものを、自分たちと同じように理解するのか。

 そんなことさえ分からない。

 けれど、期待する目だけは、いつまでも逸らしてくれなかった。

 救護隊員は、横たわる男をもう一度見た。

 ゆっくりと、首を横へ振った。

 

「……すまない」

 

 通じるはずのない言葉だった。

 次の瞬間。

 

『――ッ!!』

 

 細身の獣人が飛び出した。

 

「うわっ!」

 

 胸元を掴まれる。

 あまりの速さに反応できなかった。隊員の身体が引き寄せられ、目の前に細身の生物の顔が迫る。

 警備要員が一斉に動いた。

 

「撃つな!」

 

 声が飛ぶ。

 艦長だった。

 細身の生物は、救護隊員を睨んでいる。

 怒っていた。

 それだけは、何者なのか知らなくても分かった。

 

『コジョ……! コジョォォ!!』

 

 何度も声を上げる。

 違う。

 そんなはずはない。

 もう一度やれ。

 助けろ。

 何を言っているのかは分からない。

 けれど、そう叫んでいるように聞こえた。

 

「……すまない」

 

 隊員には、それしか言えなかった。

 

「本当に……もう……」

 

 掴んでいる手が震える。

 次の瞬間、白い獣が間へ入った。

 細身の生物へ身体を押しつける。

 低く、一度だけ鳴いた。

 それだけで細身の生物の動きが止まる。

 白い獣を見る。

 横たわる男を見る。

 もう一度、救護隊員を見る。

 やがて、胸元を掴んでいた指から、力が抜けた。

 するりと離れる。

 そのまま、細身の生物――コジョンドは膝をついた。

 

『……コジョ……』

 

 小さな声だった。

 それから身体が折れた。

 甲板へ額をつけてしまいそうなほど深く俯き、両肩を震わせる。

 漏れた声は、もう怒りではなかった。

 泣いていた。

 止めたアブソルも、その場から動かなかった。

 日廻へ顔を向けている。

 しばらくして、ゆっくり近づくと、その頬へ鼻先を寄せた。

 ほんの少しだけ触れる。

 

『……ァ……』

 

 小さく鳴く。

 返事はない。

 もう一度。

 それでも、返ってこない。

 アブソルの脚から力が抜けた。

 伏せるように身体を落とし、そのまま日廻へ額を寄せる。目を閉じても、身体の震えだけは止まらなかった。

 

 それを見ていた桃色の小さな生き物――ミュウが、ふらりと動いた。

 日廻の胸元へ降りて小さな手を、破れた服の上へ押し当てる。

 それが鼓動なのか、温もりなのか。

 それとも、人間には分からない何かなのか。

 やがて、ミュウの手が握り締められた。

 肩が震え、顔を上げようとして。

 そのまま、日廻の胸元へ額を押しつけた。

 

 緑の巨体だけは動かなかった。

 横たわる日廻を見下ろしたまま、まるで機能そのものを停止したように。

 

 フライゴンは少し離れた場所に立っていた。

 ただ、日廻を見ている。

 自分の背から落ちていった人間を。

 追いつけなかった人間を。

 助けられなかった人間を。

 やがて長い首を伸ばす。

 鼻先が日廻の肩へ近づいて――触れる直前で止まった。

 触れれば壊れてしまうとでも思ったのかもしれない。

 それでも最後には、ほんの僅かに。

 確かめるように触れた。

 

『ファイ……』

 

 掠れた声が落ちる。

 そして。

 

『……日廻』

 

 人の声がした。

 

「……?」

 

 救護隊員が顔を上げる。

 宙に浮かんでいた奇妙な存在。

 橙色の小さな身体から発せられた声だった。

 

『……日廻……?』

 

 電子音の混じった、人間の言葉。

 その事実に驚くより先に。

 声の震えが伝わった。

 

『日廻……日廻……』

 

 ロトムは呼び続けた。

 最初は小さく。

 返事を待って。

 それでも返ってこなくて。

 

『日廻ッ!!』

 

 もう、誰も銃を向けなかった。

 彼らが安全だからではない。

 何者なのかは、依然として分からない。

 白い巨人がどれほどの力を持つのかも。

 桃色の小さな生物が何なのかも。

 空を飛ぶ竜が、白い獣が、泣き崩れている細身の生物が、この世界にとってどんな存在なのかも知らない。

 それでも。

 誰かを喪ったのだということだけは、人間にも分かった。

 その理解に、名前は必要なかった。

 

     ◇◆◇

 

 どれほど、そうしていただろう。

 低い振動が、石の海から伝わってきた。

 甲板にいた者たちが顔を上げる。

 遠方から、二つの巨大な影が近づいてくる。

 

「また……」

 

 警備要員に緊張が戻った。

 一体は、氷そのものを積み重ねたような巨人。

 もう一体は、鈍い金属光沢を帯びた巨人。

 そして、それまで護衛艦の近くにいた岩の巨人も、彼らへ応えるように身体を向ける。

 三体が揃った。

 白い巨人――レジギガスが、それを見た。

 レジアイス。

 レジスチル。

 レジロック。

 そこにいることを確かめるよう一体ずつ、ゆっくり視線を向けていく。

 それを確認したレジギガスは、最後に日廻を見た。

 救護班の傍、甲板に横たわる、小さな人間。

 その周囲で泣く仲間たち。

 長い間、レジギガスは動かなかった。

 やがて、巨大な身体を起こした。

 その視線が、上へ向く。

 

「……何をするつもりだ」

 

 警備要員が身構える。

 艦長も同じように空を見た。

 何もない。何もない空を。

 レジギガスは見上げている。

 

『レェェェェジィィィィ――――ッ!!』

 

 咆哮が轟いた。

 空気が震える。

 甲板が震える。

 窓が震え、艦内にまで低い振動が響いていく。

 

「警戒!」

 

 反射的に武器が持ち上がりかける。

 

「待て!」

 

 艦長が制した。

 

「こっちじゃない!」

 

 レジギガスは、艦を見ていなかった。

 人間など見ていない。

 何もない空へ向かって。

 ただ、吠えている。

 

『レェェェェジィィィィギィィィガァァァァスッ!!』

 

 怒りなのか。

 悲しみなのか。

 人間には分からない。

 けれど、勝鬨ではなかった。

 どこにいるのかも分からない誰かへ、届くはずのない声を叩きつけている。

 何かを責めるように。

 何かを訴えるように。

 あるいは――分かっているのだろう。

 そう問いかけているように。

 古い巨人の叫びを、ただ黙って聞いていた。

 やがて咆哮が途切れる。

 余韻だけが、遠くまで響いていく。

 返事はない。あるはずがない。

 人間なら、そう思っただろう。

 だから、最初に変化へ気づいた者が誰だったのかは分からない。

 

「……光?」

 

 誰かが呟いた。

 空が、輝いていた。

 これまで幾度となく目にした、破壊をもたらす光とも違う。

 ただ、何もなかった空から、静かに光が降りてくる。

 暖かさすら感じる不思議な光に目を逸らすことができなかった。

 石と化した海も、巨大な異形たちも、傷ついた生き物たちも。

 日廻の動かない身体さえも。

 そのすべてを等しく包むように、淡い輝きが満ちていく。

 

 艦長は言葉を失った。

 神々しい。普段なら、そんな曖昧な言葉で目の前の現象を表現することを好まなかっただろう。

 だが、他に言葉が見つからない。

 

 黄金の光の中心に白い身体。

 四本の脚、その胴を囲む、黄金の輪。

 神話で語られる伝説のような生き物が、ゆっくりと空から降りてくる。

 

「……なんだ、あれは」

 

 誰かが呟いた。

 答えられる者はいない。

 当然だった、艦上の人間は、誰一人としてその名を知らない。

 けれど。レジギガスは知っていた。

 泣いていたミュウが、ゆっくりと顔を上げる。

 アブソルも。コジョンドも。フライゴンも。ロトムも。ゼットも。

 光の中から降りてくる存在を見た。

 レジギガスが、一歩だけ前へ出る。

 そして、もう一度、声を上げた。

 先ほどのような、空を震わせる咆哮ではなかった。

 低く、深く。訴えるように。

 レジギガスは日廻へ視線を落とし、再び光の中の存在を見る。

 何を伝えているのか、人間には分からない。

 それでも、返事を求めていることだけは分かった。

 白い存在はしばらく、何も言わなかった。

 黄金の輪を背負ったまま、甲板に横たわる青年を見る。

 その周囲に集まった者たちを見る。

 静かに、目を伏せた。

 

 

『分かっています。古き友よ』

 

 

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