「はあ、はあ。」
部屋に俺荒い息が響く。
窓は閉め切られ、薄暗い室内であるがPCの画面は爛々と灯り、布団の上で全裸の男が汗を滴らせていた。
「はあ、はあ、美幸ちゃん。はあ」
男の運動が激しくなる。
「あっ、うっ……!っグウッ!」
解放感が訪れるとともに男の心臓は止まった。
こうして男の生涯は幕を閉じた。死因は心臓麻痺、短い生涯であった。
…………
……
…
天井が見える。ここは医務室であり、自分は司馬達也である。現在6歳であり、家族構成は両親、妹。
だんだんと意識が鮮明になってきた。自分は確か母の深夜により人造魔法師実験の被験体となったはずである。それを意識すると同時、自らの記憶に多数の魔法式が浮かぶ。「グッ!!」
さらに自分の体験していない出来事に対する記憶が浮かぶ。なんとその記憶では青年である自分が妹の名前を呼びながらおぞましい運動を行い、最後には果てたのである。
それを知覚すると、少年は意識を失った。
「ねぇあの子、ウィードじゃない?」
「こんなに早く……補欠が張り切っちゃって」
「所詮スペアなのにね」
周りから自分を嘲笑する声が聞こえて達也は顔を顰めた。
(こいつら、制服を分解してやろうか)
別にそこまで腹を立てたわけではないが、自身に対する悪意に反応するのはもはや癖である。
あの運命の日からもはや9年がたつ。
あの時知覚した人1人分の記憶は自分の前世なのか、はたまた魔法現象により出現した、現実に存在しているのかは定かではないが、人に寄生するパラサイト的ななにかが、自身の記憶領域にパラサイトしたのかそれとも他の原因があるのかははっきりとはしないが、達也は後者の理由を推す。それは、あんな奴が自分の前世であることは悪夢だと考えてのことではあるのだが。
さて、その例の男であるが、それはもう自家発電が趣味の男であった。死の間際に「天罰じゃ」という声を聴いたとか聞いてないとか。
また、成人男性一人ぶんの記憶が混濁した達也の性格や価値観が変わらないはずがない。男からそれを取ったら何も残らないのではないかと思われるほど、生きがいであった性欲が、達也には皆無なのである。さらにフリーセックスの時代が終わり、女性が肩を見せるだけでも扇情的であるといわれている現在、男のPCデータの記憶が残る達也にはいったい何が扇情的なのか分からない。
代わりに自身が持つのは、最強の便利魔法「分解」である。なんとこの魔法、物質を分解するだけでなく、自身の脂肪を分解することができる。記憶の男は生前0.1トンもの体重を誇っていたため、現在の身軽さには大変な感慨を感じている。尤も、血反吐を吐き、肉を切らせて骨も断たされる訓練を受けながら、肥満でいることはないであろうと思われる。さらにはアルコールの毒素を分解することで二日酔い知らずであり、いつまでも飲み続けることができる。
また、記憶の男は目の前にJKを見ると、制服が散り散りにならないかなあ、と常日頃妄想しだすような変態であった。今では実際に魔法を使って実演できるわけであるが、性欲が皆無の達也は行動には起こさない。但し、男の影響か悪意を覚えた際、服を分解してやろうかと内心で悪態をつくようになってしまった。
達也はあの日、世界に絶望すると同時、悟りを開いたのである。