とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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01.天空闘技場_001-190階

 

「決まった──────!! クーデリア選手、相手の攻撃を見事にいなしての掌底一閃。文句なしKO!! 100階に上がってからこれで通算三度目の勝利です!!」

 

 そろそろ定着して欲しいですねー等と宣う実況の声と観客の熱狂を背に、倒した相手に一礼。粛々と闘技場を去るのはこの私、クーデリア・リーフィス。

 とある国家では知らぬ者はいない程に優秀な()()()であると自負している、青髪と華の意匠のブローチがトレードマークの、弱冠20歳の()()()である。

 

(これで資金は500万は貯まったかな……それにしても今日の相手も強かった。武器なしで対人は専門外とはいえ、100階以上……町の力自慢・喧嘩自慢のレベルを超えた、それこそ道場の師範代やプロの格闘家崩れとかが多くなってくると、勝ち抜くのは流石に厳しいわね……)

 

 そんな感想を独り言ちながらも今回失わずに済んだ個室(天空闘技場では100階以上の闘士には個室が与えられる)に戻り、シャワーで汗を流した後、身体を放り投げるようにベッドに倒れ込み、そのまま寝転びながら紫色の華のブローチを外して台座に置き、枕に顔を埋めて目を閉じる。

 

 

「…………………………」

 

()()()()()()()して早一月……短期目標は達成したと言っていい。

 ごろりと寝返りを打ち、今までのことを少し振り返る。

 

 転移事故? により見知らぬ場所に飛ばされた後……所在の確認のために役所と思しき場所を探し、幸い言語が通じる事に安堵したのも束の間。この世界が所謂、異世界であることに気付いた衝撃は多分一生忘れないだろう。前人未到の樹海の奥地の未開村なら兎も角、見るからに文明が発展している都市であって……探索者という職業、魔法という概念、そして王国(サンライズ)の名を誰も知らないというのは流石にあり得ない。どうしたものかと悩んだものだが、こちとら摩訶不思議が当たり前のダンジョンの探索が本職である。まずは当面の生活費稼ぎと情報収集と頭を切り替えることが出来たのは我が事ながら褒めてやりたい。

 

 因みに文字は見たことも無かったがこちらも幸いあまり複雑な体系では無く、数日もあれば簡単な読み書きは一通り熟せるようになった。

 

 そこからある程度の情報収集を終え、万が一に備えて持ち歩いている換金用の貴金属がこちらでもきちんと値がついたことに安堵した私は、更にまとまった資金を稼ぐためにも『野蛮人の聖地』と謳われる、ここ天空闘技場にまで足を運ぶこととなったのである。

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

「当面の資金は貯まったけど、ここから先はどうしようかな……本命のハンター試験にはまだ時間があるし、ここ(天空闘技場)での活動を打ち切って調査の方に本腰を入れるか、それともまだここで頑張るか……」

 

 役所で探索者やら魔物について説明する過程で、この世界にもハンターというある程度近いことをしている職業を知った(魔物でなく魔獣では? と訂正されたが)。プロのハンターになるにはライセンスが必要とのことだが、その資格の倍率はなんと数万分の1から数百万分の1、新人が合格するのは平均して三年に一度という途轍もなく狭き門である。しかしそれに見合ったリターンも大きい。

 

 ・公的施設の95%を無料で利用できる

 ・銀行からの融資を一流企業並みに受けられる

 ・一般人立ち入り禁止区域の約80%に立ち入ることができる

 ・ライセンスを売れば七代遊んで暮らせる

 

 等々、まるで王国(サンライズ)における紫位(ししい)の称号を思わせる程の圧倒的なステータスである。

 今後達成すべき目標を考えても是非とも取得しておきたい。

 

 

 一方で悲しいことに、今の私には身分が無い……100階以上で戦えている間は天空闘技場(ここ)の個室を住所に使えるが、それを失うと一瞬にして住所不定無職である……曲がりなりにも世界を救った英雄の姿か? これが? 国家最高の探索者パーティの一員たる『紫華の付与師』の異名は、異世界たるこの世界では通じないので残念ながら当然であるのだが、ちょっとだけ泣きたい。

 いや住所が欲しいだけなら別途ホテルに長期滞在すればそこを住所には出来るんだけども。

 

 

 ────閑話休題

 

 

 

「まあ別にここで闘士をやりながらでも調べものは出来るし、無理に出て行く必要もないか……」

 

 一頻りの逡巡の後にそう結論する。短期目標(当面の生活費を稼ぐ)は達成したとはいえ、中目標と大目標の達成にはお金はいくらあっても良い。

 ただそうなると、そろそろ()()しないと身が持たない。そう……恐らくこの世界には存在しない()()の力を。

 

 私は徒手空拳も鍛えているが、それは仲間との稽古の一環でやってきたことに過ぎない。本業(正確には講師との兼業)は、危険極まりないダンジョンを踏破する『探索者』である。対処を怠れば即死するギミックの解除、自身の数十倍はあろうかという強大な龍種、都市一つ滅ぼしかねない上位種の魔物を討伐した経験は両の手でも足りない。そう、私は本当はもっともっと強いのだ。自分の純粋な格闘能力を試したかったのと、相手が持ってない力を使うのに少し気が引けていただけなところが大きい。

 

 ヨシっと気合を入れてベッドから起き上がり、普段着に着替えてから暫くご無沙汰だった愛杖を手に取る。

 

「素手の自力の確認は済んだし、これからは本気で行こう! 

 杖術の腕も磨きたいし武器が解禁される200階までね! 他にも色々気になってるし!」

 

 そう、天空闘技場は200階以上からは武器が解禁される。栄誉のための戦いになるとやらでファイトマネーも出なくなるという、190階までとは余りにも毛色が違うことからか、190階で勝利後も200階の受付をせずに闘技場を去る人も多いのだそう。お金を稼ぐことを第一に考えるなら180-190階をループするのが最適解のように思えるが……運営側も分かっているのかその当たりの階層の八百長チェックは他よりも遥かに厳しく、警告無しの一発永久追放すらも珍しくないという。ただ仮に殆どストレートに上っても数億円は稼げるらしいので、私としては八百長までやる気はない。

 

(200階以上の闘士の試合を映像で見たけど……魔力とは違う何か別種の力を行使しているように思えるのよね。この世界独自の技術なら、そこもしっかり調べておくべきね)

 

 肩まで掛かる青髪を揺らしながら、杖を握る感触を確かめるようにぐっぐっと力を込めて何度か振るう。

 杖の先端の結晶が、仄かに周囲を照らしていた。

 

 

 

 ──―次の日、117階闘技場

 

 

「さあさあ始まります! 次の闘士は野蛮人の聖地に似つかわしくない華!! クーデリア・リーフィスゥ!! 危険地域での対魔獣で鍛えたというびっくり経歴な益荒乙女! 何やら一部でカルト的な信者もいるようだぞぉ!! しかぁし、人気の割にはオッズがイマイチ振るいませんねえ……彼女の最高到達階は120階!! やはりこの辺りが壁なのかあああああああ!!?」

 

 

「それに対するはゲンドウ! 皆さんお馴染み、130階を主戦場にするアル中闘士! とある流派の免許皆伝を受けた直後に傷害事件で投獄とかいう色々な意味で酷い経歴を持ちます! 間近二試合も深酒による体調不良での棄権とかいう厳重注意もん! おいこれ大丈夫かああああああああ!?」

 

 

 喧しい実況の声が闘技場を揺らすが、よくもまあここまで口が回るものだと感心してしまう。

 私のオッズが高いのも想定内。100-120階で勝ったり負けたりの女と130階が主戦場の男では残念ながら当然とも言える。因みに今日は()()()()()つもりなので、自分に全賭けである。私は強かな女でもあるのだ。きっとエルドでも同じことをする。

 

 対戦相手は、大柄な男だった。身長は190はあろうか。筋肉の付き方は格闘家というより、重い拳を何度も打ち込んできた実戦派のそれだ。顔は赤らみ、酒の匂いが微かに漂ってくるが、目は笑っていない。試合に出るからには勝つ。余裕はあれど侮りは無いのだろう。

 

「はーい。賭けは締め切りでーす!それでは審判さんお願いしまーす!!」

 

 

「――試合開始!!」

 

 

 試合開始後も男は突貫はせず、ゆっくりと焦らずに間合いを詰めてきた。私の徒手での戦闘スタイルは相手の攻撃をいなして重心を崩した上での急所への一閃。逆に言うなら、それ以外の方法で屈強な男を昏倒させることはまず出来ない。ヒットアンドアウェイでポイントを稼ぐ方法もあるが、ダメージ覚悟で耐えて掴まれてしまうと腕力差でどうしても劣勢になってしまうのだ。

 

 

(…これは…研究されてるかな?)

 

 

「嬢ちゃんは強えが格闘家って訳じゃねえだろ? 打撃に比べて組技・寝技の対処がお粗末だぜ?」

 

 うん……どうやら見抜かれているようだ。

 残念ながら、こういった場合の私の勝率は高くない。

 そう、昨日までの私なら。

 

 

 

「ええ、貴方の言う通りよ……そして御免なさい。手加減するから死にはしないわ」

 

 

 

 私は右拳に、付与(別世界の力)を行使した。

 

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 32秒TKO。勝者、クーデリア・リーフィス。

 

 ボディに拳の一撃受けたゲンドウがそのまま蹲り動かなくなったことで審判が即座にKOを宣言。そのまま病院に搬送されたが幸い命に別状は無かった。腹筋が粉々に粉砕。出血は激しかったが、想定され得る衝撃に反して不思議と臓器への損傷は浅く、まるで破砕機が臓器の手前までで止まったかのようだと医師は診断した。

 

 

 その衝撃の試合から一週間後『破砕の魔王』は200階に到達した。

 

 尚本人は『紫華のクーデリア』にして欲しいと要望を出している。

 

 





念とは別体系の不思議パワー世界の住人は念をどう解釈するかというのがテーマだったりします。取り敢えず主人公は別世界の英雄レベルの人材程度に認識して頂ければOKです。
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