アニメだとメンチの審査がスシじゃないと知って驚きました。
日本人向けに放映するアニメで、スシを知らないって流れが不自然に思えたんですかね?
「私はクラピカというものだ。貴方のような有望なハンター候補と知り合えて光栄に思う。話を聞く限り、もし試験官への支援…もといテスト生全体への奉仕等考えなければ、貴方はもっと楽に試験をクリア出来ていた筈だ。」
「レオリオだ。あーその…何だ…助かったぜ。正直あんたの支援が無ければ俺は合格出来て無かったと思う」
いやいやそんなと謙遜しつつ、持ち上げられるのはやはり嬉しい。私だって一人の人間なのだ。…とはいえやはり体力面については過大評価されている気がする。実際、長時間の付与の継続には神経を使うため消耗はしたが、体力の方とは直接紐づかない筈。
(元の世界でもランニングなんて20km以上はしたことないし…長時間に渡るダンジョン内での探索も適度な休息ありきだ。その辺りはエルドやオーリスがかなり厳格に管理してくれていたし、6時間以上走りっぱなしなんて、ダンジョン内では基本的にあり得ないからね…)
別途稽古はしているとはいえ、体力を鍛えるくらいなら付与の腕を磨くし、論文の一つでも執筆する。仲間の都合がつくなら酒場に繰り出すこともあるだろう。やはりその辺りの差が影響しているのだろうか?
「僕としてはもう少し体力面を鍛えて欲しく思うけどね…♦ 試験中に他の事に気を取られるだけの余裕があるのは良いことだけど、もう少し己を顧みないと危ういかな♥」
「すみません師匠…要らぬ心労をお掛けしたこと、申し訳なく思います」
「それに君はここ暫く全力で走ったことが無いだろう? 今の身体能力と走り方が明らかにミスマッチだ♠ 流石に僕が運ぶような醜態こそ無かったケド、それでも勿体なくて見てられなかったよ…♥」
「言われてみれば確かに…。基本的に療養期間でしたし、その辺り殆ど試してませんでしたね。あれだけ走った割には筋肉痛もあまり無さそうなので…体力切れは心因性?」
「それはそれとして素の肉体面はもう少し鍛えて貰うけどね♠ 伸び代の放置は許さないよ♥」
こうして師弟らしい会話をしてるのを、ゴン君達は物珍しそうに見ていた。クラピカさんとレオリオさんも『思ったよりはまとも奴なのか?』と師匠を見直してくれているようである。去年は色々と暴れていたらしいけど、少なくとも今年は何も悪いことはしていないからね。
「あっねえ、そろそろ時間だよ! 二次試験は正午からだから、そろそろ建物の前まで行かないと!」
ゴン君の声でふと意識は試験の方に切り替わる。20分程度の休憩時間であったが、もう息は上がっていない。私の予想では戦闘能力テストだが、果たしてどうかな?
▽ ▽ ▽
唸り声かと思ったら大男の腹の音でした。
建物の中にいたのは腹を空かせた大男と、髪を沢山縛った独創的なヘアスタイルの、少し露出多めの女性。
課題は料理とのことだが食材の調達まで含めての試験とのこと。ここは湿地帯を抜けた先のビスカ森林公園、池や川に森と、確かに食材の調達には困らないだろう。
(一人目の課題は豚の丸焼きね…まあ多分普通の豚じゃないだろうから、戦闘能力テストってのは正解とみた)
予想は当たり、受験生達が探し当てた豚は、グレイトスタンプという鼻が強靭に進化した巨大な豚。皆が思い思いに狩りをするが、どうやら頭部が弱点のようだ。
あのヒソカと死闘を繰り広げた私だ。流石にこの程度に手間取る程弱くない。魔物換算でも深層ダンジョンでは序盤の雑魚枠が関の山だろう。初撃を躱して頭部をあっさり『突』で穿いて即死させる。
(問題は持ち運びかな)
(狩に成功したものの多くは、普通に持ち上げて運んでおるぞ)
(念を覚えた今なら、私も同じように運べるけど…これ少なくとも300kg以上はあるよね? この世界の人達、身体能力おかしいよ!)
愚痴を挟みつつも『纏』で強化した身体で巨大な豚をえっちらおっちらと運んで調理していく。天空闘技場で200階まで上がっておいて本当に良かった…念無しでは多分魔力が足りない。
内臓を取り出してから全体を洗い、香草と思われるものとお米をお腹に詰めてから注文通りに丸焼きにする。一次試験の合格者は200名以上いたが、豚を捕まえて調理できているのはどうやら100名にも満たなそうだ。
とはいえこれだけの人数の豚の丸焼きを審査するのは大変だろうなあと、焼き上がった豚を一人前に切り分けていた時…
な…なんと受験生達が我先にと巨大な豚の丸焼きをそのまま提出しているではないか! いやいやいやいや…! おかしい! どう考えてもおかしい!
一匹だけでも可食部が100kgはあろうかという巨大な豚だ。それが10.20と積み上がる光景を想像してみて欲しい。食えるわけないでしょそんなもん!
しかし現実はダンジョンよりも摩訶不思議。ブハラと呼ばれた試験官は喜び勇んで食べ始め、もう既に一匹目は平らげている。
あっ…もういいや…もう『そういう能力』だと割り切ろう。
遠い目をしながら一人前は自分用に残し、減った分はそれっぽく整えてから提出した。『匂いも良いし、肉の旨味が米に移ってるのも憎い演出!』とコメントを頂き合格は出来たが…個人的には私の付与よりよっぽどな魔法である。
…結局彼が平らげた豚は84匹。残った骨だけでも彼の体積を超えてる時点で生物の限界を超越していると評する他ない。
「ねえ師匠…あれも念なんですか?」
「美食ハンターらしいし、そうなんじゃない? 何らかの誓約を組み込めば不可能ではないと思うよ♣」
念て奥が深いなあ…。
――二次試験前半。合格者84名。
▽ ▽ ▽
次の試験官の課題はスシ。調理機材もご飯も用意してくれるとのこと。一体何を測る試験なのだろうかと訝し気に思っていたが、どうやらこの世界ではスシはかなりマイナーな料理らしい。
(えっそんなことある? ハンバーグとかコロッケとかも普通にあって、魚料理もあるのにスシは知らない? …
軽いカルチャーショックであるが、試験の意図は分かった。きっとヒントを頼りに知らない料理を推測する注意力や洞察力を求めているのだろう。海はないから川魚がネタになるが、寄生虫や衛生面の問題もある。正直これだけでかなりの高難度の試験であることが推測される。それに加えてあのメンチという試験官が、ブハラ氏と同じく大食漢であるという保証もない。ならば…
「師匠、私は寿司を知っています。この試験は私が仕切って良いですね?」
「!…本当かい? 持つべきものは仲間だね♥ それならよろしくお願いしようかな♥」
「なら5分以内に魚を何匹か捕まえて来てください。時間厳守で、急いで!」
私の剣幕に驚いたのか、ヒソカは一瞬呆けた顔をしたが、気づいた時にはもう森の中に姿を消していた。しかしこの試験はきっと時間との勝負。時間が経過するに従い提出される料理は正解に近くなり、食した試験官の胃を圧迫する。仮に30貫を食べて半分が合格したとしても、合格者は僅か15名。私とヒソカの2名をその中にねじ込まないといけないとなると、きっと余裕などはない。出来ればキルアやゴン君達も助けてあげたいが、当然最優先は己である。
(ご飯は既に酢飯になっているから、シャリの用意は不要。醤油は試験官の手元、お酢とワサビ、そして海苔等も調理場に用意されている! 握る寿司の方向性は決まった。後はどれだけ早く、確実に通過できるだけのクオリティを担保出来るか…)
そうこうしているとレオリオさんが「魚ぁ!?」と叫ぶ。それを聞いた他の受験者達も一斉に魚の確保に動くが、幸い私の方が初動は早い。皆が魚を捕りに行くのと入れ替わる形で、魚を確保したヒソカが戻ってきた!
「急いで捕って来たよ♦ 周りも魚を求めてるみたいだから、どうやら正解みたいだね♠」
「ありがとう御座います! 体を拭いたら直ぐに調理に入りますよ!」
ヨシ…この速度なら提供速度で負けることは無いだろう。作る寿司ネタは既に決まっている。
「私はグレイトスタンプの残りで『肉寿司』、ヒソカは『川魚の酢締め炙り』です。急ぎますよ!」
(あっロードはポケットに戻ってて! 不衛生とか指摘されたら言い返せない!)
失礼な奴だと不機嫌そうだったが、黙ってポケットには戻ってくれた。あ…危ない、気づいて良かった。
▽ ▽ ▽
普段はお店で食べることが多い私だが、自炊が出来ない訳ではない…いや、むしろ得意な方だ。それこそ探索者になる前は色んなレシピを考案する程には料理に嵌っていた時期もある。それに加えて最近…国賓待遇が増えてからはお高い寿司を食す機会が急増したので、特に握りの技術についてはその経験が活きるだろう。当時の記憶を頼りにした見様見真似でしかないが…知識の有無は出来上がりの質に大きく影響する。少なくとも握りについては
一人前程残しておいたグレイトスタンプの肉については筋に隠し包丁を入れて食べやすくし、醤油とは合わないと思うので甘辛いタレを自作して塗り込む。それと並行する形で、ヒソカが捌いた川魚は、炙った後に酢締めするように指示を出す。骨抜き等の細かい工程は手伝ったりもしつつ、最終的な調理時間は15分ほど、各種三貫作った中で、一番出来が悪いものを、互いに食して味見してみた。
「いける! ちゃんと寿司!」
「まさか君の手作り料理が頂けるなんて♥ 手ぬるい試験続きでちょっとタルかったけど、何事も真面目にやってみるもんだね♦」
ヒソカからは味の感想では無かったが…食べて満足そうだからきっと問題ないだろう。
さあ提出一番乗り!と思った矢先、先客が二名程…。おかしいな…調理時間含めたら追い抜ける筈が無いのだけど…?
「出来たぜー!! 俺が完成第一号だ!!」
名付けてレオリオスペシャル!と題して提供されたその料理は……料理かこれ?
否、『ご飯の塊に複数の生魚を突っ込んだ謎の物体』である。
…レオリオさん? 貴方の普段の食生活大丈夫ですか? 試験官に食ってくれ!と言ってますが、貴方は普段から生きた魚をそのまま踊り食いでもするんですか? 案の上、その謎の物体は「食えるかぁっ」とメンチ試験官に放り捨てられていた。心より同情する…勿論試験官に。
「よーし次はオレだ!!」
二番手はゴン君。親御さんの教育がまともそうなこの子なら多分流石に大丈夫だろう。釣りを趣味にしてそうだし、釣った魚は焼いて食べたりしている筈だ。
……出てきたのは
『生きた魚そのままを、胴体部分だけご飯で包んだもの』だった。
「403番とレベルがいっしょ!! ダメ!!」と同じく捨てられていたが、同意見である。おかしいな…生きたままの魚を丸ごと食べる文化でもあるのかなこの世界?
(というかあれは料理じゃない! 調理してないならそりゃこっちより早いよ!!)
とまあ言いたいことは色々あったが、まだまだ試行錯誤の第一段階であれば…いや無理か。どんな見てくれであれ、自分が食べれるもの、食べたいと思うものを提供するのが最低条件の筈だ。残念ながら二人の擁護は出来ないなあと思いつつ、三番手での提供を実施する。ヒソカとの同時審査という形にするので、当然ヒソカも付き添いである。
「こちら私の『グレイトスタンプの肉寿司』と、ヒソカの『川魚の酢締め炙り寿司』です。二貫セットでお楽しみください。もう一セットありますので、ブハラ試験官もよろしければ。」
「おっそうそうこれよこれ! さっきまでと全然レベルが違うじゃない!」
「肉寿司の方は既にタレが掛かっているのでそのままで大丈夫ですよ」
「うんうん…成程」
そのままパクリと食べてくれるメンチ試験官。少なくとも『食べる』段階までは進めたようだ。これにより彼女の胃が小さく…しかし確実に圧迫される。未来の合格者がこの瞬間に2名分減ったと考えると重い行為だ。さあ…結果は如何に…そもそもスシを一切知らない人間がこれを超えるレベルを提供できるとはとても思えないので、不合格だとあまりにも厳しい気がするが…こればかりは試験官の胸先三寸である。こちらとしては少しでも味方を増やすために、味についてはかなり甘めに審査していたブハラ試験官まで巻き込んだのだ、出来る事ならここで決めたい。
「『美味しい』わ、合格よ。」
「やったあ!!」
「うん…確かにこれは美味い。いやーここで手に入る材料で、こんなまともなスシが食えると思わなかった。キワモノどころか十分正統派だよこれ」
既に合格が決まった後ではあるが、ブハラさんも援護射撃をしてくれる。ここまで褒めてくれるなら、全力を出した甲斐があるというものだ。
「特に肉寿司の方…シャリの握りが素人のそれじゃないわね…。この短期間で見事なスシを用意してくるあたり、あんた達は最初からスシを知ってたのかしら?」
メンチ試験官から確認が入るが…まあ流石にそうだろう。謎の物体⇒生魚のご飯包みからのきちんとした寿司だ。あまりにも他の受験者と段階が違い過ぎる。
「あっ、知ってたのは私だけです」
「ふーん? ジャポン出身って感じには見えないけど…文献で知ったってとこかしら? まあ良いわ。細かく講評したいとこだけど、まだまだ試験は途中だからね。あんた達は私の後ろに控えてなさい。他のテスト生に情報を渡しちゃ駄目よ?」
こうして二次試験合格第一号、第二号となった私達師弟。追加の情報提供は封じられたが、提供したスシは既に何人にも見られている。スシを一切知らない受験者達も、一つの正解を目にした後であれば、ここからの進みは早いだろう。そう思っていたのも束の間…焦ったように駆け込んだ忍者っぽい人が、合格か不合格かの当落線上で悩まれ、最終的に不合格が宣告された後、事態は急速に進むこととなる。
▽ ▽ ▽
「君…教えるの上手だったりするのかい? 僕まで合格しちゃった♠」
「一応15の新米の頃から、模範講師って言われてましたよ? 料理じゃなくて付与理論の講師ですけど。」