私を含むハンター試験受験者達は今、飛行船に乗せられてマフタツ山と呼ばれる場所に来ている。
切っ掛けとしてはスシが課題の二次試験中。294番の忍者っぽい人が、料理を軽んじる発言をした上で、スシの作り方の概要を大声で語ってしまったことにある。四番手として提出したスシが不合格となったことに対しての不満があるのは認めるが…美食ハンターを名乗る人相手に『お手軽料理』という発言は看過出来ても、『誰が作っても大差ない』は流石に軽率が過ぎる発言だろう。
誰が作っても大差無いならこの世に寿司職人は存在しない。もしかすると歴史を辿れば大差のないお手軽料理だったのかもしれないが、それならそれで信念を持ってそのことを真っ向から説明すべきだった。試験官と受験者という立場の差こそあれ、圧倒的に知識面で負けていると反論も難しい。そうであるならば軽はずみな発言はそのまま命取りになるのである。
話を戻すと、その後は私達が示した一つのスシの正解と、294番が広めたスシの作り方の概要が合わさり、受験者達からの試作スシの審査依頼が殺到。残念ながらそれらは294番が作ったものと大差が無かったことから、結果として全員が不合格。
そのままメンチ試験官がお腹一杯になったということで、二次試験は終了してしまった。…キルアにゴン君、そしてクラピカさんもレオリオさんも、あの針男に294番も、全員漏れなく不合格。合格者二名で二次試験は幕を閉じる…。
とはならず、ハンター協会のトップまで出動しての問答の末、メンチ試験官が途中から適切な試験運営が出来ていなかったと認めたことで、再試験が実施される運びとなった。
▽ ▽ ▽
(あのネテロ会長って人…ほんの少しだけ今のラナに似てるかも…? 存在感というか…その在り方が人を超えて…まるで樹齢数百年の大木がそこにあるように感じる。人が人のまま世界の一部になった…は流石に言い過ぎだけど、成程確かに…この世界で最強レベルの存在というのは恐らく間違いない。)
まだ天空闘技場の200階に辿り着く前、ハンター協会について調べる過程でネテロ会長についても当然調べたが、残されている伝説がどれも人類を逸脱した話ばかり。やれ正拳突きが音速を超えただの、観音様が見えただの…あまりにも逸脱しているため、もし調査に本腰を入れるならそちら方面だろうとあたりは付けていたが、まさかこれ程とは…。念能力者最大のコミュニティである心源流の師範であり、ハンター協会の会長ともなれば…それこそ『世界の壁を超える方法』に心当たりがあっても不思議ではない。
(まさか今会えるなんて思っていなかったけど、どうしたものか…どうせ聞くなら真剣に答えて欲しいし、少なくとも今は早計。どこかで一対一でじっくり話せれば良いのだけど…)
最終試験前か、合格後か、相談相手としてはこの上ない存在であるため、機会を窺うに越したことはないだろう。
因みに隣のヒソカも
――閑話休題
「崖から飛び降りて、途中にある糸に掴まって卵を1つ回収…そのまま崖をよじ登って帰還ですか…。やれなくは無いですけど、もっと安全な方法でやりたいですね。」
「例えば君ならどうするんだい?」
「ロープを使いたいところですが、禁止されてます。それなら浮遊するか…クモワシと話して交渉でしょうか? こっちは大変そうなので実質一択ですね。」
不合格者を対象にした再試験の内容は『ゆで卵』。卵の回収方法は試験官が実演した先程の方法通りであるが、実際にやるなら私は浮遊を選択する。
出力を上げればそれなりの速度で上昇も可能…流石にまだ縦横無尽に空を翔けるようなことは出来ないけど、単純な下降と上昇くらいは安定して出来るからこその選択肢だ。
「ふふふ…糸を掴む直前に宙に浮いてる君を見たら、吃驚して掴み損ねる人が続出しそうだね♥」
「ええ…それも危惧して私はゆで卵を諦めました。ちょっと食べたいですけど、流石にリスクや労力が釣り合ってないので…」
崖から飛び降りたのは40人程…私の知り合いは全員出来て当然の如く飛び降りたが、やはり度胸と身体能力が違うのだろう。
続々と戻ってきては回収した卵を試験官に渡し、その場で合格が言い渡される彼等彼女等。卵は市販の卵と一緒に大鍋で茹でられ、どうやら食べ比べをするようである。
……何やら途轍もなく美味しいらしい。その美味さは、不合格の腹いせに美食ハンターを馬鹿にしていた255番の受験者すら改心させてしまう程のもの。
(良いなあ…)
と内心思って眺めていたところ、茹でたクモワシの卵を持ったメンチ試験官が近付いてきた。
「はいこれ。44番と分けて食べなさい。本来の合格者だけが食べられないなんて、不公平でしょ?」
「い、良いんですか!? ありがとう御座います!」
あ…有難い…。早速ヒソカと半分こして実食するが、確かにこれは素晴らしく美味だ。濃厚な舌触りと圧倒的な旨味、それでいてとろけるような深い味わい…何なら今から落下して何個か回収したいくらいだが、試験の進行の妨げになりそうなので流石に自重する。試験官が1個と数を指定していた以上、複数個の回収も認められないだろうしね。
「どう? 私達美食ハンターはこうした美味しいものを発見する喜びのために、普段から命をかけてるのよ。良かったらあなたも美食ハンターにならないかしら?」
「…魅力的な提案ですが、私にはやらなきゃいけないことがあるので…。でも、美食ハンターがとっても尊敬出来て、共感も出来るお仕事だってのは分かりますよ。食を蔑ろにして幸せな人生は送れません!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない! 同性で歳も近そうだし、あんたのことは応援してるわ。仕事があれば連絡しなさい。格安で受けたげる。」
『不正を疑われるから、連絡は試験後にお願いね』という忠告とともに、ホームコードが渡されたことに少し驚くが、まさか現役のプロハンター(それも多大な功績が認められた
「『肉寿司』についてはちょっと盲点だったわ。フツーのスシダネは食べつくしたつもりだったけど、基本は魚介だったしね。一瞬面食らったけど、胡瓜や干瓢がスシネタになるなら肉もありだと思って食べたら、ちゃんと美味しかったわ。これは、少なからず未知を教えてくれたお礼みたいなもんよ。」
そう言って渡されたホームコードを指す。
「…そっちの44番のスシも悪くなかったわ。衛生面にも気を遣っていたし、何より『美味しいものを作ろう』という気概が伝わってきた。あのハゲ(294番)もそれがあれば合格にしたんだけどねー」
試験の講評を最後に伝えてくれたメンチさんは、バイバーイと手を振って飛行船に去っていった。
――二次試験合格者 44名。
▽ ▽ ▽
飛行船に乗り込む頃には夜になっていたが、どうやら今日の試験はこれで終わりらしい。次の目的地は明日朝8時に到着予定ということで…やっと!ようやく!!念願の!!! 休みである。
「肉体的にも精神的にも疲れた…シャワー浴びてもう寝たい…。ベッドで寝たい…。」
(既に我が配下に探索はさせたが、ベッドは救護室くらいにしか無いようだぞ。恐らく使えん。)
なんかロードが勝手なことしてる…ポケットの中身が空であることに、今更気付いた私である。当然配下とはチュー助とまーちゃんのことだろう。
「そんな…酷い…」
(それでループさせても何も改善せんぞ?)
素直な感想によく分からない台詞を返されたが、このマウスは一体どこで仕入れたのかと言いたくなるような知識を豊富に持っている。もしかしたらそれらの何かに引っ掛かったのかもしれない。もうどうでも良いやとヤケになって、食堂のテーブルでふて寝した。
…何やらその間にキルアとゴン君が、ネテロ会長とボール捕りで遊んでいたそうだが、どうせ気力が続かなかったので惜しいとも思わない。
こうして長い試験初日の夜は、静かに粛々と深けていった。
▽ ▽ ▽
――幕間・飛行船内の試験官の集まり
「ねェ、今年は何人くらい残るかな?」
「合格者ってこと?」
「そっ なかなかのツブ揃いだと思うのよね、一度ほぼ全員落としといてこう言うのもなんだけどさ」
「でも それはこれからの試験内容次第じゃない?」
「そりゃまそーだけどさー、試験してて気付かなかった? 結構良いオーラ出してた奴いたじゃない。サトツさんはどぉ?」
「ふむ、そうですね…
「あっやっぱりー!?」
「あたし43番がいいと思うのよねー。あれは絶対残るよ間違いない(連絡先まで渡しちゃったし)」
「私は断然99番ですな 彼はいい」
「あいつきっとワガママでナマイキよ、絶対B型! 一緒に住めないわ!」
「ブハラは?」
「そうだねーうーん。俺も43番かなあ。あとは…気になるって意味では301番。」
「えーと…確か針だらけのヤバい奴だっけ?」
「そうそう。何というか試験へのモチベーションが低いっていうか、ついでみたいな感じがしてさ。まあそういうの奴も一定数いるんだけど、流石に不合格が決まった時でも反応無かったのが不気味でさー」
「あー確かに。何のために受験してんの? てやつねートンパとかは試験官からしても有名だけど、あれは理由も分かりやすいし」
「まあなんか都合があるんだろうけどさ、それでもライセンスがついでってのは試験官的には不気味だし、気にはなるなーと」
「
「ふむ…彼は昨年20名以上の受験者を再起不能にした上で、試験官を1名半殺しにしているようですが…今年はどうやら大人しいですね。私も担当の試験後に知りましたが、同一人物とは思えません。」
「あーなんか聞いたことあるな。その試験官、今年の試験官とも協力してリベンジの機会を狙ってるとかなんとか」
「まあその辺は因果応報よね。ハンター目指すなら過去の因縁程度は返り討ちするだけの力量も求められるし」
「去年と今年の彼の違いは、やはり一緒に行動することが多い43番の有無でしょう。試験中に聞こえてきましたが、どうやら二人は師弟関係のようです」
「あーそうそう。43番が44番の弟子だっけ? じゃあやっぱり43番が凄いんじゃない!」
「お気に入りだからってここぞとばかりに褒めるなー」
「師が弟子を鍛えるように、弟子もまた師を鍛える…きっとそういうものなのでしょう」
「あー私も弟子とろっかなー? 43番には振られちゃったしー294番も多分断ってきそうだから…今年で改心した255番あたりにもっと才能があればねぇ」