とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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20.ハンター試験編_⑨

 

 ゼビル島に到着後、塔を脱出した順に下船が許されるということで、私が一番手で下船することとなった。

 

(ターゲットを監視するなり、罠を仕掛けるなり、野宿に適したスポットを占有するなり……先に動ける方が色々と有利だから、これが成績優秀者への優遇措置ってところかな?)

 

 イルミ……いや、一応ギタラクル名義で試験中だからギタラクルで良いか。彼については一旦放置。試験終了は一週間後。どうしても残り三点が必要になるまでは、ノータッチでいるのが無難だろう。実は向こうのターゲットも私……みたいなこともあれば避けようがないが、いくら何でもその可能性は低いと考えたい。

 

(まあ、その時は流石に腹を括ろうか……私が静観する以上、向こうから仕掛けてくることになりそうだし、警戒を怠らないようにしたいところだね)

 

 ロードにお願いすれば索敵くらいは手伝ってくれるかもしれないが……ペットに頼るというのも、何とも言えない気分になってくる。

 

(……就寝中だけでもお願いしていい?)

 

(不眠不休は人の身では辛かろう…その程度は頼るが良い。勿論、一般マウスたる我のほうが辛いから、先に寝させてもらうぞ)

 

(あっ、はい。どうぞどうぞ……)

 

 ポケットから顔だけひょこっと出したかと思えば、またすぐに戻って寝息を立て始めた……。何というか、自由で羨ましいことである。ただ、行動自体はかなり合理的な子なのは伝わってくるので、相談相手としてはかなり頼りになる部類だろう。

 

 

――試験開始から二時間ほど。

 

 私はその間に野宿にちょうど良い木のうろと水場を見つけ、一週間のサバイバルに適した拠点を作り終えた。

 

 それも、ただの拠点じゃないぞ?

 

 少年少女が夢見る秘密基地もかくやと言わんばかりに、あらん限りの付与を駆使して創り上げた、隠密性と快適性、防水性まで兼ね備えた特製拠点である。拠点作成についてはオーリスの結界の方が万能なので留守番も多かったとはいえ、元々ダンジョン内での拠点作成の一翼を担っていた私である。この程度の拠点作成は造作もないのだ。

 

(『万物との対話(ワールド・オーダー)』も少しは役に立ったしね)

 

 最近は植物とも話が出来るようになってきたので、拠点のベースにした木のうろの主からも許可を取れている。

 

 植物から許可を得たところで何のメリットが……と思うなかれ。彼らは動物と比べて非常にゆっくりとはいえ、きちんと思考し、他の植物との意思疎通も図っている、れっきとした知的生命体なのだ。

 

 とはいえ、そのままではとても対話にはならない。

 

 こちらから一方的に要件を伝え、向こうからは○や×、あっちやこっちのような単純な回答だけを頂く形式で、どうにか対話を成立させている。

 

 今回は土壌の改善と害虫の駆除を見返りに、宿の提供と植物ネットワークを利用した人間の監視をお願いした。島全体となると試験中には間に合わないだろうが、周辺一帯くらいなら数日もあれば伝わるだろう。

 

「これで拠点作りと情報収集の下準備は完了。周囲の散策でもしようかな?」

 

 

▽ ▽ ▽

 

 一方その頃の ゴン=フリークス。

 

 彼は木の上で、己のターゲットからどうやってプレートを奪うかを悩んでいた。

 

 素の実力では、きっと届かない。まともに戦っても軽くあしらわれてしまう自分を幻視する程には、分かりやすく格上の相手であることも理解していた。

 

(うーーん……やっぱり、とても真っ向勝負じゃ奪えそうもないよなー)

 

 思考中にふと気配を感じた。

 

 それを確認するため、気配のする方へ身体を向けると、一人の受験生が剣を片手に構えながら、茂みの中を歩き進めている姿を見つけた。

 

(受験生だ……!! 更に後ろにもう一人……)

 

 後ろの受験生が、前を歩く受験生を狙っていることは明らかだった。前を歩く受験生……赤鼻の男もまた、尾けられている自覚があるのか、キョロキョロと周囲を警戒しながら歩を進めているが、後ろで彼を狙う、紫色の帽子を被った狩人風の男を見つけることは出来ていない。

 

それを好機と捉えたか、狩人風の男は無音で弓に矢を番え……放つ!!

 

 しかし相手もまた、四次試験まで残った猛者。矢を射る瞬間の殺気を察知して、赤鼻の男は飛来する矢を掠り傷一つの軽傷で躱してみせた。

 

 奇襲を見切った己への鼓舞か、それとも近接戦には自信があるのか、赤鼻の男はニッと笑って、構えた剣を狩人風の男に向ける。……が、そのまま握った剣を落としてしまった。

 

 実は放たれた矢には即効性の痺れ薬が塗ってあり、かすっただけでも勝負がつくよう事前に備えていた狩人側の狙い通りに、事は進んでいたのだ。

 

 そしてその一部始終を見ていたゴンは、その内心で感嘆する。

 

(すごい! これが――)

 

「地面に『土』を付与。あっ、転んだ…死なない程度に一発殴りますね」

 

(狩り(ハント)?)

 

 

▽ ▽ ▽

 

 期せずしてプレートを2枚も手に入れてしまった…。漁夫の利というかなんというか…ターゲットでは無いのは分かっているので2点にしかならないが、これで早くもリーチである。

 

(驚いた。ちょっと散策してたらちょうど戦闘…というか狩りの真っ最中のところに遭遇するなんてね。53番はレンジャーとしては優秀なのかもだけど、純粋な戦闘能力は低めかな…もう少し抵抗されるかと思ったのだけど。)

 

 私の中ではレンジャーとはエルドのことだ。私達のパーティのリーダーであり、指揮官としてもレンジャーとしても、一流では収まらない()()()の彼であれば、念を覚えて更に強くなった私といえども、自然生い茂るこの環境で勝てるとは全く思わない。奇襲は確実に察知され、罠も当然のように看破され、付与は予備動作から予測され、彼に先制されたが最後、《天縫煌鎖(てんほうこうさ)》の黄金の鎖で拘束されて終わるところまでが容易に想像出来る。

 

(多分この人も英傑級はあるんだろうけど…戦闘能力も磨けばエルドみたいになれるかもね?)

 

 入手した53番と105番のナンバープレートは、食料などを詰めてあるリュックの中にしまい込み。私はこの場を後にする。獲物を狩る瞬間や、狩った後の浮足立った瞬間こそが最適な狩りのタイミングだと、リーダーは言っていた。人間が相手でも、魔物が相手でも、それが変わらない真理だというのは、私も経験上分かっている。

 

(今襲われなくてちょっと助かったかな?)

 

 なんて思いながらも。警戒心を一段引き上げ、いるかも分からない尾行を撒くように遠回りに拠点へと戻った。

 

 だが…どうやら私の索敵能力はまだまだ未熟らしい。

 

 拠点から10メートル程度の近場の木に『聞いた』ところ、どうやら尾行されているようで…私は溜息一つを吐いてから、折角だからこれで合格圏(6点)にしてしまおうと、尾行者を炙りだすことに決めた。

 

 

▽ ▽ ▽

 

◇ゴン視点

 

(み…見つけた! けど…)

 

()()()()()()()()()()()が、いきなり現れるとは思わなかった。

 

 俺が驚いている間に、お姉さんは、今しがた俺が狩りのお手本にしようとしていた狩人風の男性を、あっという間に無力化してしまった。

 

 足場の土が突然盛り上がったかと思えばそのまま足を拘束。バランスを崩して転んだその人を、容赦なく杖で殴打していた。それで終わりかと思えば、今度は躊躇なく弓と矢…そして利き腕であろう右手首を破壊。そのまま流れるように二人分のナンバープレートを回収して、その場を離れてしまったのだ。

 

(や、やっぱり強い…! それでいて徹底的!)

(策も備えも関係ない、不可思議で…それでいて圧倒的な強さ!)

 

 一次試験の時は少し変わった女性だと思った。天空闘技場のことは良く知らないけど、あのキルアが褒めるのだ。そこの200階の闘士というのが並大抵ではないということくらいは分かる。殆ど疲弊もなく一番前を走る程の身体能力に加え、()()()()()()()()、周囲の風を味方につける不思議な力。そして何とも言えないネーミングセンス。少なくとも、印象に残る人だと感じた。

 

 二次試験の時は、実質唯一の合格者だった。スシという料理を最初から知っているようだったので何も特別なことではないのかもしれないが、同じく知っていた筈の忍者の人が不合格だったことからも、やはりそれだけの素養がある凄い人なのだと思った。

 

 三次試験では初っ端から、心がどこか()()()()した。空を飛んで怪鳥と戦い、圧倒するその姿に…ハンターの親父もこれくらい強いのだろうか? と少し憧れた。そしてハンターを目指すなら、試験中はこれを目標にしようと思う程に、その姿が強く輝いて見えた。

 

 三次試験終了までの長い待ち時間、お姉さんはずっと修練していた。きっと俺よりずっと強いのに、それでもこんなものではまるで足りないとばかりに、ヒソカからのメニューを消化しながらも貪欲に学びを続けていた。…純粋に気になったのが一番大きな理由だけど、わざわざ修練に混ぜてもらったのは、お姉さんのその直向きな姿勢に、どこか俺も感化されていたんだと思う。

 

(い…急がないと…! 匂いである程度は追えるけど、離れすぎると見失う)

 

 お姉さんは普段から香水とかは使ってないみたいで、特に強い匂いはしない。それでも人によって匂いは違うから、ある程度の距離までなら匂いで追跡が出来る。だから離れすぎず…近づきすぎず…じっと尾行を続けて、隙を窺う。俺がお姉さんからプレートを奪うには、きっとそれしかない。

 

 気配を消すのも、獲物を尾行するのも…小さいころからクジラ島の友達と一緒に、遊びながら鍛えてきた。別に誰かから指導を受けた訳ではないけど、何度もやって来たそれは、まるで獣が本能で身につけるように、自然と俺の特技になっていた。

 

「警告! 隠れてる人は3秒以内に出てくるように。

 出てこないならそこら一帯を更地にします!」

 

(バレてる!? だめか……!!)

 

 それは明確に、俺のいる方角に向けての警告だった。

 




Q:更地に出来るの?
A:出来ません。はったりです。普段なら躊躇いなく燃やしますけど、協力関係を前提とした植物ネットワークを使いたいのでそこは自重してます。
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