翌朝。ゴン君はきちんと集合場所まで来てくれた。
良かった……そこまで心配はしていなかったが、契約内容を不服として離脱することはなかったようだ。
「それじゃあ基本方針をおさらいしようか……
こういうのは事前に取り決めておいた方がいいからね」
「うん!」
――私達が組んで活動するうえでの基本方針は以下である。
①二人で固まって行動する。即席の連携は難しいため、戦闘の際には双方が動きやすいよう、それぞれ勝手に戦う。その際、ゴンに対しては付与での支援を行う。ただし戦う相手によっては別途私が指示を出すため、ゴンはそれに従う。
②ヒソカ・キルア、クラピカ、レオリオの四名とは、基本的に敵対しない。
③現状ターゲットが不明のクラピカ、レオリオのターゲットが、仮に私達であった場合、まずゴンが説得を試みる。説得に失敗した場合には敵対する。説得の際には、ゴンのプレートを私が一時的に預かる。
④その他の参加者とは基本的に敵対するが、状況次第では交渉に応じる。
⑤ギタラクルについては、相手に余程の隙が無い限り静観とする。
まず前提として、キルアのターゲットは199番、ヒソカのターゲットは384番であるため、敵対する可能性は低い。問題は三番目であり、これが私達二人にとって最も懸念していたことだ。ゴン君が二人のターゲットを知っていれば良かったのだが……どうやら情報交換していたのはキルアだけらしい。
説得時にゴン君のプレートを預かる行為については、単純に私のリスクヘッジだ。彼が私と組んでいることの証明になるし、それ以上に……仮にゴン君が私を裏切った場合の保険という意味合いが強い。
親しい二人と合流し、3対1の状況になった途端に裏切る……彼の性格的にもそんなことはしないと思いたいが、これはハンター試験である。絶対とまでは言い切れない。
逆に万が一、私がゴン君のプレートを預かった途端に逃げ出すようなことがあれば、三人で協力して私を仕留めれば良い……という風に説明したところ、ゴン君としてもきちんと了承してくれた。
そもそも二人のターゲットが私達である可能性は、そう高いものでもない。試験中に遭遇するかどうかすら未知数であるため、杞憂に終わればそれで良い話ではあるのだが……その時が来れば確実に揉めるであろうこういった問題こそ、事前の取り決めが必要なのである。
「やっぱりお姉さんって頭良いんだね。いっつもそんな風に考えてるの?」
「……パーティで動くからには、色々考えて皆が納得する最善を選ばないといけないからね。そういうのは本来リーダーの役割だけど、全体の動きを支援する立場の私が思考放棄する訳にはいかないの」
こうして基本方針が固まった私達は、試験二日目の本格的な行動を開始した。
▽ ▽ ▽
それから約30時間後…三日目の昼過ぎ。
「やっっっと、一人見つけたよ!! ただ……多分あれはヒソカだと思う…。」
ゴン君の視力は非常に高い。木に登り、高所から周囲を眺めることで受験生を見つけること自体は、そう難しいことでもないはずである。そう期待したのだが……どうにも巡り合わせが悪く結果は振るわず、1日半にも渡る捜索によりようやく見つけることが出来たのは、木陰で休んでいるヒソカ一人だけだった。
距離的には、まだ植物ネットワークの範囲外である。
(うーん……このタイミングで
とはいえ、今後色々とゴン君への指導を丸投げする予定もある。ターゲットの被りもないので、接触すること自体に問題はないだろうと思い直し、折角だからと二人で会いにいくことに決めた。
……そろそろヒソカのもとに辿り着くか、といったところで、何やら戦闘音が聞こえる。
まさか今このタイミングでヒソカが戦闘を開始したのか? と二人して驚くが、可能な限り気配を消してその場まで近づいていく。
……私への尾行を成功させていた時から勘づいていたが、どうやらゴン君は『絶』だけは既に使えるようだ。
これなら他の受験者からも、そう簡単にバレることはないだろう。
そのまま近場の茂みに二人して隠れ、ヒソカと戦っている相手――姿形からして恐らく371番を視界に入れた。
ドォォオオオオオン、という音とともに樹木が倒壊する音が響き、ザンッ、ブオッ、と尋常ではない風切り音がここまで聞こえてくる。
371番は熟練の槍使いといったところだろうが……どうにもその動きは精彩を欠いているように思える。焦っているような……消耗しているような……そしてそれ以上に、どこか覇気が感じられない。
――どうやら私の観察眼は、捨てたものではなかったらしい。
彼は既に致命傷を負っており、戦士としての死に場所を求めてヒソカに戦いを挑んでいたようだ。
しかしそれはヒソカにも看破されており、死人には興味がないとばかりに相手にもしない。
ヒソカは攻撃を躱すだけで手出しはせず、ただただ彼の命の灯火が消えるのを待っていた。
(ヒソカの趣味が悪いとは思わない。そもそもが相手側の都合だ……それに付き合う道理など無い。戦士としての死に場所を欲する気持ちが分からない訳ではないが、応じてもらえるかどうかは別の話……ヒソカからすれば、いい迷惑だろうね)
己の最後の悲願が叶わぬと知ったのか、371番は決死の特攻を仕掛ける。応じてくれないならば、応じざるを得ない攻撃を仕掛けるのは正解だ。仮に槍が避けられても、全身で覆い被さるだろう程の気迫が感じられたが……残念ながら、その機会は永遠に来なかった。
次の瞬間には371番の顔面は針だらけとなり、そのまま倒れ込み絶命した。
そしてそこに現れるは……私のターゲット、ギタラクルである。
(来た! ヒソカとは元から知り合いみたいだったし…そりゃあ合流する可能性もあるか…とはいえ今飛び出すわけにはいかないから、ここを離れるまでは待機かな?)
ギタラクルはヒソカ相手に幾つか会話するが、どうやら371番は彼のターゲットだったらしい。
そしてヒソカも既にターゲットを狩り終えていたようで……二人で簡単にではあるが、互いの合格を称え合っていた。
(もう狩ってたんだ……お相手は生きてるのだろうか?)
なんて考えていたのも束の間、ギタラクルが顔に刺さった針を抜いたかと思えば、ボンッ、ビキッ、ビキ、ととんでもない音を出しながら顔を変形させていく。変装とは聞いていたが、ここまでとは完全に予想外である。
(骨格まで変わってるよ!? なんなら髪の毛まで生えてきた!! もうこれ単品でそういう能力でしょ!?)
普段ならば声に出して突っ込みたいところだが、生憎今は隠密中。隣のゴン君も驚いてはいるようだが、『絶』は乱れていない……流石である。
私も何とか『絶』は維持出来ているが、こと隠密に限っては人のことより自分の心配をするべきだろう。
ギタラクルは能面のような顔をした、長い黒髪の男性に姿を変えた。どうやらこれが彼の素顔であるらしい。
暫くすると今度は素手で穴を掘り始め、人が入れる程の穴を掘り終えたかと思えば、「じゃ、俺期日まで寝るから」と言って穴の中に潜ってしまった。
(掘り返した土がそのままだから、何かが埋まっているようには見えるけど……流石に人が眠っているとは思わないよね……。というか、呼吸どうしてるんだろ?)
ギタラクルが目の前で眠り始めたのは千載一遇の好機ではあるが、ここで飛び出すのは些か早計である。私は茂みから杖だけひょこっと出して、無言でヒソカに合図を送り続ける。
……暫くすると気付いてくれたので顔を出し、シーッとジェスチャーをしてから手で招き、その場から少し離れた位置まで誘導した。
途中でゴン君の存在に気付いて少し驚いたようだったが、今は何も聞かずについてきてくれているようだ。
(流石にまだ寝てないかもしれないし、殺気を向けると寝ていても勘付かれそうだから、せめて少しでも距離を取りたい。寝込みを襲うにしても、しっかりと策を練ってから実行するべきね)
▽ ▽ ▽
場所を移して、互いの四次試験開始から今までについての情報を交換する。
「そうかゴン♥ 君も彼女に買われてしまったんだね? これで僕等は穴兄弟ということに……」
「殺すよ?」
「じょ……冗談だよぉ……♦
殺して魚の餌にしようかと、本気でそう考えてしまう程度には、大変失礼な人である。そもそも私はまだ
……幸いゴン君には何のことか分かっていないようであるが、もし気恥ずかしい反応でもされていれば、即刻この変態不貞ピエロの〇〇を磨り潰してペースト状にしていたところである。
「まあ、一旦は置いときます。一旦ですよ? 無茶振りポイントには加算します。……そちらの話は聞いてましたが、師匠も、あそこで寝始めたギタラクルも、既に6点を集めたってことで良いですね?」
(無茶振りポイントってなんだ……?)
(無茶振りポイントってなんだろう?)
「……うん、そうだね♠ いやあ、ターゲットが分かるっていうのは助かるねえ。契約的には僕が試験のサポートをする筈なのに、これで二回も君に助けられてるよ♣ 因みに384番は、ゴン、君がターゲットだったようだよ?」
「えーっ!? それじゃあ俺は既にヒソカにもお姉さんにも助けられてたってこと?」
随分と幸運の星に愛されている子だなあと苦笑しながら相槌を打ちつつも、流石にそろそろ本題に入ろうと話を進める。
「ギタラクルは先程、地面に潜って試験終了まで眠ると言ってましたが……本当にずっと眠るつもりなのでしょうか? 残り4日もありますし……何より地中では酸素が続かないと思うのですが……?」
「うーん……そうだね♣ 僕もそこまで長い付き合いでもないから、確証までは無いのだけど、多分ずっと眠ったままだと思うよ? 冬眠みたいなものなんじゃないかな?」
(ふむ……まあ確かに、意図的に代謝を落とすことが出来るのであれば、それも可能……か? それでも油断は出来ないが、これは正しく鴨が葱と鍋と出汁と調理器具一式を運んで来たような望外の幸運。これを活かさない手はない)
「それだけ情報を頂ければ十分。とはいえ、サポートが足りない自覚があるのなら、今回の大物獲りに参戦して頂いても、私は一向に構いませんが?」
「……これでも一応、彼とは持ちつ持たれつの関係でね。明確に敵対するのは、いつか僕が彼を刈り取る時だけにしたいなあ……♠」
まあ、彼にも彼なりのラインというものがあるのだろうと納得して、ここは大人しく引き下がる。
「僕はどこかで観戦でもしておくよ♣ 邪魔はしない♥」
そう言い残して何処かへ去るヒソカを見送る…観戦とはいい御身分であるが、既に十分過ぎるだけの情報は得たのだ。後は私と、サポート役のゴン君だけで何とかしてみせよう。
「それで、これからどうするの? 今すぐやる?」
と、戦意たっぷりに確認を飛ばしてくれるゴン君。ギタラクルの狸寝入りへの警戒をしたいところだが、あと数時間もすれば日が沈む。暗殺者にとっての闇夜がホームグラウンドであることを加味すれば、決行するならば今を置いて他にないだろう。
私は即興で考えた作戦をゴン君に伝え、ベストなタイミングが来るその瞬間までは気配を消して待機してもらう。念のため合図は決めているが、彼のアシストが必要な場面など、それこそコンマ一秒を争う場面が推察される。タイミングの判断は彼に一任するのが無難だろう。もしも私が死んだら、その時は脇目も振らず逃げるように強く言い含めてはいるが…勿論そんな無様を晒す気はない。
▽ ▽ ▽
――覚悟が決まれば、後はただ粛々と実行に移す。
何度か深呼吸をして、杖に魔力を集中させる。
狙うは勿論完封勝利。相手が本気のヒソカと同列だと言うのなら、またも相手を魔物と見做して、殺す気で行ってもきっとお釣りがくるだろう。
(奇襲が通るボスは!奇襲でそのまま倒すのがセオリー!!)
(その眠りを、永眠に変えてやる…!)
ギタラクルとの距離は凡そ50メートル。昂らせるのはオーラではなく魔力。私の世界では広く知られるその力を最大まで昂らせ、全力の一撃をお見舞いする。
(地面に『土』を付与!! 最大出力!!)
――その日、ゼビル島の観測史上、最も不可解とされる超局地的な地震が発生。
震源地は異常に地表に近く、詳しい原因は今も尚判明していない。
VSイルミ。ファイッ
尚、相手は睡眠状態から開始で即死もあり得るものとする。
開始三秒でミンチより酷えや!で終わる世界線もきっと存在する。
原作にてイルミはヒソカを「持ちつ持たれつ」と評してましたが、
試験編でもヨークシン編でもイルミ側しか手助けしてない…
まさか「(ヒソカがお金を)持ちつ(イルミが仕事を)持たれつ」だった?
⇒アルカ編で滅茶苦茶協力してました。うーんこれは無罪!