(ああ…駄目だ…身体が…私の身体の操作権が奪われた…。意識はギリギリで保ってなんとか抵抗してるけど…それすら長く持ちそうにない…これは相手の操作能力を甘く見積りすぎた。…と…止まらない…!)
己の意思に反し、愛杖には『突』が付与され、その切っ先は己の心臓へと向かっている。今まさに全力で刺し貫こうとするそれを、事前に発動して備えていた私の『発』…私利私欲の産物でありながらも今回の大捕物の虎の子としていた能力によりギリギリのところで抵抗しているが…それも最早時間の問題だ。
(針だ…!首筋に針が刺さってる! 見えないけど…これはきっと無色透明な針! 込められているオーラも尋常じゃない…間違いなくギタラクルの奥の手の一つ…そうでなければ、ここまで温存する理由がない…!)
相手はもう、まともに手足を動かすのも難しいほどに消耗している。新たに針を投げることすらできないようであるが、それでも現在進行形で追い詰められているのは私の方である。
(あっ駄目だ…意識が…途切れ……)
▽ ▽ ▽
「お姉さんっ!」
思わず飛び出してしまったが、この状況でクーデリアを助けることができるのは己を置いて他にはいない。理屈がついた判断だ。
(きっとお姉さんは今、『操作』されている! 俺ができるのはその動きを止めて、針を抜くこと!)
作戦について伝えられる中で『ギタラクルは針を刺すことで人間や生物を操る能力を持っている可能性が高い』とは聞いていた。どうやって?という質問にははぐらかされてしまったが、『もし私に針が刺さって、それに私が抵抗出来なかった場合、可能なら針を抜いて欲しい』とも言い含められていた。
「ぐっ…!?……重っ!?」
既に虚ろな目をしたお姉さんの杖を奪おうと全力で力を込めるが、奪うどころか動きを阻害するので精一杯。彼女の腕の一体どこに、それ程の力があるのかと驚くが、まるで力負けする気配がない。
(身体は押さえつけるのが限界…! どこか…どこかに針が刺さってるはずだ)
「ん…お前は確か…ゴンだったかな? 試験中はよくキルと行動してたね。その女の仲間なのは知らなかったよ」
ギタラクルから話し掛けられるが、受け答えする気なんか無い。言葉こそ流暢だが、声にはノイズが混じっている…きっと喉もヤラれているのだろう。
(針…針…どこだ見えない!)
刺さっている筈の針はどこにも見当たらない。焦りが焦りを生むが、ここで沈みかけの太陽の光が、首筋で反射される瞬間を、目で捉えることに成功する。
「あった!透明な針だ!これを抜くっ!! ふんぐぐぐぐ……!!」
「んー無駄無駄。その針は対象が自殺するまで絶対に抜けないよ。ましてや能力者でもないお前に「抜けたあっ!!」抜け……え?」
「あっ…ゴン君? …そっか、針、抜いてくれたんだね。ありがとう…助かったよ」
「すっごい固かったけど、なんとか抜けたよ! …大丈夫だった?」
お姉さんの目は既に正気を取り戻していた。動揺が冷めきらない満身創痍のギタラクルを、発生させた突風で仰向けに倒した後、ドロドロにした地面をまたも固めてしまうことで拘束した。万全の状態のギタラクルであれば効果が薄い緩い拘束であるが、流石に今の状態から脱出を試みるほどの余力はないようだ。
「脱出自体は容易でも、した後を考えると無駄だから大人しくしてるだけだよ」とはお姉さんの言。
ギタラクルの身体に刺さっている針を一つ一つ丁寧に抜いて処分した後、俺達はとうとう彼のプレートを奪う段へと移った。
▽ ▽ ▽
「あれは俺のとっておきでさ…『
「この状況でよくそれが言えますね…無条件で奪うことも出来るんですよ?」
流石の生命力か、見た目とは裏腹に、まるで死ぬとは思えないほどに元気に受け答えするギタラクルに少々呆れつつも、言葉を返す。私の皮肉を込めた回答もどこ吹く風、柳のように受け流されてしまいそうだ。
「だってさー君、全然俺のこと殺す気無いよね? 精々が『死んでも良い』程度かな?
「…まあ…そうですね。四次試験は殺人すら許容されてるようですし、そちらからすれば私は甘くてお優しいんでしょう。『私の操作系の発がそちらの発を相殺した』。これ以上は答えませんが、これで十分ですよね?」
「相殺…にしては完璧に操作されてたと思うけど、自殺までにラグがあったのはそういうことか。まあ今回はレアケースにしても、やっぱり自分を操作するタイプとは相性悪いなー」
そう言ってから「プレートは多分俺の腰辺りの土に埋もれてるよ」と残して眠ってしまった…掘り返している間に観戦が済んだヒソカが合流。
ギタラクルのことは彼に任せて、私とゴン君は拠点に戻り、ささやかながらも祝杯を挙げた。とはいえ二人ともノンアルコールである…流石の私も試験中はね…。
▽ ▽ ▽
『
そしてこれらは全て
私はそのルールを利用し、『自分の肉体に対する操作権を予約しておく』ような形で能力を調整したのだが…どうにも能力の真の目的の方が優先されるのか、効き目は今ひとつ。『アルコールを分解する過程で生成される有害物質の無害化』こそがこの能力の本来の目的であるが故に、数分で人を死に至らしめるような劇毒等の無害化には…少々遅いのだ。勿論効果自体はあるが…適切な処置なしでは、せいぜい死ぬまでの時間を三十分ほど延ばせる程度の軽減効果。この世界に来て初めて目にしたゲームとやらの表記に倣うなら、その効果は『解毒促進(小)』『操り耐性(小)』と言ったところである。
(まあつまり…ギリギリで抵抗出来たからゴン君の助けが間に合った。という意味では役にたったけど、これ単品で敵の操作を防げるような万能なものではないということだ。あと数秒遅ければ、間違いなく『突』を付与した杖で、心臓を貫いて死んでいただろうね)
相手の発への過小評価と自分の発への過大評価。それが今回の窮地を招いた主要因であろう。ゴン君がいなければ死んでいた可能性が高いと思うと、随分と綱渡りなことをしたなあと思い返す。そもそもいつあの針を投げたのだろうか? 燃えてる時に暴れていたからまさかあの時? …だとすれば並の精神力ではない。ヒソカ戦の時もそうだが、どうにも私は相手の強靭な精神に対して、毎度やられてしまっている気がする。
(探索で大怪我したこと無かったからなあ…そんな状態でも最善を尽くす気概はあるつもりだけど、どうにも経験が足りていない。元の世界に帰れたら、ラナから【紅環の腕輪】を借りようかなあ。でもあれは痛覚も遮断するから…ちょっと違うか?)
(汝を追い込むのでなく、追い込まれた側の最後の一手を見越すだけで十分であろうよ…)
(あっロード! ただいま! 戦闘中は危険だから先に拠点まで戻っててくれたんだったね…勝って帰ってきたよ)
(ああおかえり。話を戻すが、そんなことをされれば汝の仲間らは確実に泣くぞ?)
(私だけでなく仲間のことも知ってるんだ…でも、そうだね。ラナが【紅環の腕輪】を使う程に負傷した時なんて、それこそ血の気が引く思いがしたし…うん。ごめん。ちょっと考え足らずだったかな…私らしくもない)
ペットに説教されてしまった…。いやこれはある意味で告解?
どうにも元の世界では経験が浅かった人間との戦闘が続いたことで、考え方が少し擦れてしてまっていたようだ。こうして引き戻してくれたロードに感謝しよう。
(ありがとうロード。)
(構わぬ。迷える人の子を導くのもまた、我の務めよ。)
寝る前に好物のチーズでも差し入れておくかと心に決める一方で、点数も合格ラインの6点(現在9点だが最終日にゴン君に渡すので実質6点)に届き、少し精神に余裕が持てた私は、ここらで心身ともにリフレッシュしようかと思い至る。
そうそれは…命の洗濯、入浴である。
「確か向こうにも水場はあるし…私ならお湯も作れる…ちょっと手間掛かるけど…作っちゃおうかな? お風呂!」
今の私の高まった欲求は、水浴び程度では収まらない。試験は残り4日…大きな痕跡を残すことになるため拠点から離れた水場を利用することとなるが…一度決めたら私の行動は早い。さあやるぞーと意気込んで、杖とタオルと着替えを抱え、こことは離れた水場まで向かうのであった。
次回入浴回なのでじっくりやります。