四次試験終了から三日後、試験会場に集められた私達は、最終試験が1対1のトーナメント形式であることが知らされ、その試合の組み合わせが発表された。
(随分と偏ったトーナメント表…まさか合格者は1名だけ? だとしたら私、凄まじく大変なんだけど!?)
内心焦る私だったが、すぐに「たった1勝で合格である」と説明される。成程…負けあがりのトーナメント…ということはむしろ私はかなり優遇された位置にいるようだ。私とゴン君が5回まで機会がある一方で、レオリオさんとボドロさん(残り人数も少ないので全員と自己紹介して覚えた)の機会は2回だけ。随分と不公平であるが、何か理由があるのだろうか?
――どうやらその辺りの疑問は他の方々も同様に抱えていたようで、ボドロさんから「組み合わせが公平ではない理由は?」と質問が飛んでいた。
質問への回答としては、今まで行われた試験の成績をもとに決められていて、当然、成績優秀者が優遇されるとのことだったが…その回答を不服に思ったのか、機会が3回までとされたキルアが詳細な点数の付け方の開示を要求する。
(私から見ても、キルアとゴン君で成績に大きな差はないはず…むしろ『苦戦せずに合格した』という意味ではキルアの方が成績が良いくらいかもしれない。私としても点数の付け方は気になるかな…)
残念ながら詳細な採点内容については極秘事項で開示はされなかったが、審査基準については大きく3つ。身体能力値、精神能力値、印象値とのこと。この中でも特に重要なのが印象値で、いうなればハンターの資質評価ということらしい。それに加えて先の面談の生の声を合わせて組み合わせを決定したと締めくくり、説明は終わった。
(ターゲットを仕留めるまでの工夫だったり…他の受験者を手助けしたりするのも加点されたってことかな?)
採点内容が開示されない以上、無益な推測にしかならないので考察はここで打ち切る。勝負のルールは武器OK、反則無し、相手に「まいった」と言わせれば勝ち、ただし相手を殺した場合は即失格、その時点で残りの受験者が全員合格して試験終了とのことだった。ゴン君に「まいった」と言わせるのは大変そうだなあとげんなりするが…むしろこれは逆に好都合かもしれない。
「ねえゴン君。四次試験の時の約束…覚えてるよね?」
「うん! 俺も同じこと考えてた!」
▽ ▽ ▽
――最終試験、第一試合開始。
開始しても一向に戦おうとしない私達に、なんだなんだと周囲が少々ざわつくが、こちらとしてはまずゴン君が提案する勝負方法を確認しないといけないのだから仕方がない。
『勝負は要らない……というより、これは最終試験にでも持ち越させてもらうわ。最終試験で似たような状況になられても困るし……その時こそ、ゴン君にも勝ち目があるような勝負で決着をつけましょう。まあ最終試験の内容は知らないし、やらない可能性の方が遥かに高いけど、一応勝負内容は考えておいて』
運命とはかくも奇なるもの…まさかのフラグ回収である。ゴン君は約束通りにきちんと勝負内容を考えていたのか、あまり時間を掛けずに一つの勝負方法を提案してくれた。
「勝負方法は
キルアは目が点になり、クラピカさんレオリオさんは困り顔だ。ハンゾーさんからは「阿呆か――!!これ最終試験だぞ!?お遊戯で決めてんじゃねー!」とまで野次が飛ぶ。ごもっともな反応ではあるが…流石に阿呆と断じるのは些か早計である。
「あー周囲の方、これは事前に取り決めていた話なので、こちらは至って真面目です。そもそもここまで残った人たちがそう簡単に「まいった」なんて言う訳もないですし…最終戦なら兎も角まだ機会が残っている内は、こういったやり方も十分ありだと思いますよ?」
周囲の野次を牽制しつつ、私は勝負内容を吟味する。
(ジャンケン…運次第という意味では確かに誰でも勝ち目があるけど…ゴン君が
「ゴン君、勝負内容についてはジャンケンで同意する。ただ流石に一本勝負じゃ味気ないし、三本先取でどうかしら? 先に三本取られた方が潔く負けを認めること。それで良いよね?」
「それで良いよ! 俺もお姉さんも、絶対に約束は守るからさ…審判の人もそれで良いよね?」
「構いません。過程に関するルールはありませんので、勝負方法は双方の自由です。」
黒服サングラスの審判への許可も取れたため、私達はそれぞれの合否を賭けた、ジャンケン三本勝負に挑むのであった。
▽ ▽ ▽
「「最初はグー、ジャンケンポンっ」」
まず一本目は小手調べだ。こちらの手を確定させるギリギリのタイミングで、グーをチョキに変える。
人体の構造上、手を確定させない半開きの状態から瞬間的に変化させるなら、最も負荷が掛かるのは確かグーのはず……気休めにしか過ぎないが、あちらの対応限界を測るという意味でもやる意味はある。
結果は…私チョキ、ゴン君グー。
幸先の良いゴン君の先勝にギャラリーのレオリオさんが沸く。当然ではあるが、やはり彼はゴン君の方を応援するようだ。一応私も手伝ったんだけどなあ…。
(成程…自信があると宣うだけあって、やはりこの程度の小手先には対応してくるみたいだね。でも、ここからが本番だよ?)
続く二本目…私は付与の力を解禁する。
「「最初はグー、ジャンケンポン!」」
今度は私がパー、ゴン君がグーで私が勝ちだ。ゴン君は不思議そうに目をクシクシと擦るが、それはそうだろう。ゴン君の目には、
私は相手に思考する時間を与えず直ぐに三本目に入り、着実に勝ちを重ねる。これで逆転し2勝1敗の王手である。ただ…流石にここで私が何かしていると、ゴン君には確信を持たれたようだ。
「解った…! お姉さん、魔法で出す直前の手を別のものに見せてるでしょ! 気付いたからにはもう騙されないぞ!」
いや…それ(魔法)はまだ限られた人にしか明かしてないから、黙ってて欲しかったなお姉さん…。
(あーもう、周りも『魔法?』とか『そんな風には見えなかったが…』とか『マジカル少女クー子ちゃん?』とか言ってる…いや最後の言ったの誰!? もう20歳過ぎだから、流石に少女は苦しいですよと言ってやりたい。)
ただまあ種明かしするとその通りだ。私がやったのは、幻影師である氷雨の十八番、《
「…否定はしないけど、それが解ってどうするの?」
「そりゃあ途中までの手は無視して……あれ? 確かにどうもできないかも…?」
そう。仮にゴン君が途中の手に惑わされずに出す手を固定するとして、そこから先は唯のジャンケンである。私の思考を先読みして裏をかこうにも、裏をかけるのは私も同じ。幻影を出す出さない。出しても手を変えない等、私が取る選択肢までは特定できない。つまり私がゴン君の強みを封じた時点で、あとは普通のジャンケンの心理戦と何も変わらないのである。そして現在、私が2勝ゴン君が1勝と引き離しているため、有利なのは私の方。75%の確率で私が勝つ計算だ。
「くっそ~~~! そ、それでもまだ諦めないよ。二連勝すれば俺の勝ちだ!」
「生憎、こっちも負ける訳にはいかないの。動体視力で負けても、心理戦で負けるつもりはないよ。」
――勝負は最終戦まで縺れこんだが、私の3勝2敗で決着。
ハイテンションで拳を振り上げて喜ぶ私を尻目に…ちょっと悔しそうに苦笑いして、審判に「まいった」と宣言するゴン君にはちょっと申し訳なくも思う。大人げないお姉さんでごめんね…。
次の勝負で読み負けてイーブンに持ち込まれた時は冷や冷やしたが…こうして長きに渡った私のハンター試験は、ついに『合格』という形で幕を閉じた。天空闘技場でも似たようなことを言っていたような気がするが、これで万が一、元の世界に帰れなくても残りの人生が超ハイソなものになると思えば、浮足立つだけにウッキウキである。
(少なくともこの世界に転移した直後は何者でも無かったからね…)
とはいえこれで試験自体が終わる訳ではない。あくまで第一試合が終わっただけである。ゴン君を励ます声や、そもそもなんでジャンケンやねんという声、私に対して合格おめでとうと祝福してくれる声と周囲の反応は様々であったが、そんなものは関係ないとばかりに試験運営は粛々と進む。ヒソカに対して「師匠も頑張ってくださいね」と声を掛ける頃には、既に第二試合の開始直前となっていた。
『第二試合:クラピカ VS ヒソカ』
「思えば、
「…何のことかは知らないが、こちらも合格を狙うからには容赦はしない。全力で行かせてもらうぞ!」
木刀を持ち込み、クルタ二刀流による流麗な連撃を叩き込むクラピカさんであったが…ヒソカは『纏』すら使わずに遊んでいるようだった。オーラのガードを自ら捨てることで相応の手傷を負ったようであるが、勝負としてはヒソカの辛勝…というより、そろそろ終わらせようかと『纏』を使って素手で木刀を掴んだところで、クラピカさんが負けを認めた。
相手が明確に格上であるならば影響が少ない内に撤退する。冷静に損切りを選べるのもまた、クラピカさんの強みだろう。…聞いた話では怨敵の幻影旅団とやらの証のモチーフである蜘蛛を見ただけで理性が抑えられなくなるそうだが…そこを除けば、彼は非常に理知的で頼れる切れ者の類であろう。
『第三試合:ゴン VS ハンゾー』
早いもので、もうゴン君の二戦目である。私とは直接の戦闘がなかったことからもゴン君の体調は万全…。しかしそれでも、相手のハンゾーはゴン君の身体能力を完全に上回っており、速さも技のキレも…まるで届いていない。明確な格上を相手に、ゴン君は終始圧倒され続けた。負けを認めるように再三勧告されても断固拒否をするため、試合は長引き…結果として三時間以上も嬲られ続け、もう血ヘドすら出ない程に痛めつけられている。
(…我が事ながら、ジャンケンにしといて良かったな。人相手の拷問の経験なんて無いし…やりたくも無い。任意の言葉を喋らせるような魔法なんてのも当然修めてないから、正攻法でゴン君に「まいった」を言わせるのはやっぱり難しいよね)
知り合い…契約相手…いや、もう友人で良いか。友人のゴン君がここまで痛めつけられている姿を見るのは心苦しくも思うが、それでもこれは彼自身が貫こうとしている意地が引き起こしたことだ。少なくともレオリオさんのように義憤が沸くようなことはなく、私はどこか冷めた目で、この一方的な試合を眺めていた。
…その後に腕の骨を折られても諦めない彼であったが、脚を切り落すという脅しには「それは困る!!」と反論。失血死で己が死ぬ(=ハンゾーの失格)ことすら交渉材料として別の勝負方法を考えようと主張するゴン君に、私は既視感を覚えて頭を抱える。
(ハンゾーさん…ご愁傷様です。そうなったらもう止まりませんよ、その子。)
結局これ以上ゴン君を嬲ることも、殺すことも出来なかったハンゾーさんは、負けを認めてトーナメントを負けあがった。ゴン君はその過程で全力で阿呆と罵倒され、殴り飛ばされてはいたが…まあ些事であろう。気絶してしまったために碌に祝福することも出来なかったが…こうして試験合格者第三号として、彼のハンター試験は終わったのである。
――残りは、合格の機会が三回までの受験生達の戦いである。
ハンター試験に合格したクー子。
物語的にはこっからが本番ですね。
そして不合格する一名は一体誰なのか…
因みに高潔なようで割と俗っぽい子なので、脳内ではさっそく祝勝会の企画を練ってます。