とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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03.天空闘技場_200階②

 

 リールベルトとの対戦は二日後。

 

 私はその時間を使って彼らが話した『念能力』について深堀することに決めた。

 リールベルトさんには大変申し訳無いが……既に幾つか対策は思いついているので、十中八九どころか九分九厘私が勝つだろう。何なら殺してしまう可能性が高い策も複数ある。200階以上の試合はそれなりに死亡率が高く、ルールの範囲内であれば仮に相手が死んでも罪には問われない。とはいえ、魔物なら幾千と殺して来たが殺人の経験は無いし、今後もしたいとは思わない。

 

 勿論私が殺されてしまう可能性だってある訳だが……戦いである以上、それは仕方が無いことだ。私も伊達に探索者をやっていない。少なくとも、殺される覚悟はとうに出来ている。

 

 ──話を戻そう。

 深堀を優先するというのも、個人を再分析するよりもむしろ、現時点ではあまりにも未知が多い『念』とやらを既知とした方が、短期的にも長期的にもより意義があり勝率も上がる筈だというのも判断基準である。

 

 以下、既に得られた情報から私の考えを纏めていく。

 その全てに()()()という注釈は付くことはご容赦願いたい。

 

 まず念とは生物に宿るエネルギーの総称。そしてオーラは念の要素であり、身体の外側に表出しているエネルギーを指していると推測される。常人でもオーラは出ているが、通常は垂れ流しの状態である。それを留めて身体に纏う技術が念能力者の基本……というか大前提として存在するようだが、一旦それは置いておこう。

 

 オーラを込めることで思い入れのある物を操ったり、失った腕を再現したりすることも可能であるが、何でも出来るという訳では無く、実現にはそれ相応の修練が必要である。

 

 究極的には素養さえあれば誰でも再現が可能な、学問に近い体系化された魔法とは違い、人其々の個性にあった力の発現・能力者の潜在的な願いを実現させることに長けている……。とでも考えるべきか。サダソさんは失った腕を。ギドさんは思い入れのある独楽を動かす。リールベルトさんは失った歩行能力を補う推進力を……失ったものを補填した二人に比べ、ギドさんだけ方向性が違うように感じるが、やはり本人の願いや思いに沿ってデザイン可能な特殊能力であると、少々乱暴ではあるが、そう仮定してしまっても良いかもしれない。

 

 もし私が念を覚えることが出来るのであれば、目的達成にも一役買ってくれるかもしれない。いやいや純粋に私欲を満たす能力も良いかもと内心ワクワクしながらも、今度は過去の200階の試合のビデオ(元の世界には無いが、記録水晶をテープ状にしたものと認識した)に集中する。

 

 

「………………」

 

 

 視聴しているのは奇術師ヒソカとやらの試合。因みに対戦相手はこの試合で死亡しているため、スナッフビデオとして少々高値での取引となった……別にそんな趣味は無いのであるが、貴重な資料であるためそこは身銭を切って入手した。

 

 試合は一方的であり、両者にかなりの実力差があることが見て取れる。それは人体を容易く切断するトランプであり、何かに引っ張られたかのように動きが崩れる対戦相手であり、物理法則を無視したような機動性で動き回るヒソカ自身であった。

 

「……強い」

 

 明らかに本気を出していないが、それでも強いと分かる。

 少なくとも純粋な身体能力では、私は相手にもならないだろう。

 

(聖遺物装備で固めた前衛なら、多分対処は出来る。それでも相手の動きを崩したり自分の動きを補助してるように見える特殊能力……念能力とやらも含めると初見では厳しいかもしれない)

 

 対戦相手の首が斬られて飛んだところでビデオの再生を止め、もう一度最初まで巻き戻す。

 

 そして今度は眼を()()()()最初から視聴する。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 クーデリアは空前絶後という慣用句すら物足りない才媛である。

 

 出来ないことが少ないと言える程に器用万能な彼女は、特に付与師として天賦の才があり、10歳の頃には既に並の講師を遥かに凌駕する程の技量を携えていた。

 

 国家最高位の探索者として認められる頃には、現存する全属性での付与に加え、一部を除いた魔法は上書きさえ出来てしまうという埒外な領域に到達していたのだから、成長性もまた普通の尺度では計り知れない傑物であることは疑いようもない。

 

 ……そんな彼女が『念』という未知を知った。

『オーラ』という概念を知った。

 心源流の門下として正確で十分な情報を仕入れた訳では無い。

 そして当然、()()()()()()()()()()()()

 それでも、部分的にでも未知を既知とした。してしまった。

 

 

 

 

 するとどうなるか? 

 

 

 

 

 そうだね。()()()()()()()

 

 

 

 

 ──────

 ──―

 ―

 

 

 

 

「……前から薄っすらとは感じてたけど、今ならよく()()()

 

 否、実際には()()()()()()。しかしその存在を知ったことで純粋に()()することが出来た。白色を白と認識出来ない人が黒の画用紙の白丸を見て「何か違うものがここにある」と感じるように。そこに確かにある「視えない何か」が「オーラ」であると紐づいた瞬間、それは実質的に視認された。

 

 薄い魔力の痕跡を追うように目を凝らすことで、確かにそこにある何かがくっきりと浮き上がる。

 

「これは見辛いけど……糸? にしてはちょっと太いかな……それを地面や身体にくっつけて……あっ伸縮した! そういうことか!」

 

 

 ヒソカの(能力)は「伸縮自在の愛(バンジーガム)

 ガムとゴム、両方の性質を併せ持つ応用に富んだ変化形の能力である。

 

 勿論クーデリアはそんなことは知らない。

 しかし能力の術理の大半は理解出来た。

 その上でビデオを3回4回と繰り返し視聴する。

 

 探索者とは摩訶不思議で殺意の塊のダンジョンを踏破するもの。

 備えを怠れば己のみならず、仲間全員の命を捨てることになる魔境。

 未知が基本であるならば、備えて既知に出来る部分等、()()()()()()()

 クーデリアに限らず、優秀な探索者必携のマインドである。

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 ──―二日後、対リールベルト

 

「ついについについに! この日が来てしまったあ!! 観客の皆さん、信者の野郎(ぶた)共ご存知ぃ!! あの『破砕の魔王』が200階に殴り込みだああああ!!」

 

 いつもの実況が毎度喧しく捲し立てる……というかなんで私の時はいつもあの実況何だろう? 専属とかあるの? そんなルール無かったと思うのだけど……。呆ける私を他所につい先日までの快進撃や異名の解説までをまるでコンボのように繋げていく。あまり好ましくないタイプだが、多分実況としては優秀なんだと割り切ることにした。

 

 それより『クー子様♡破砕して♡』団扇を持った複数のファン? の方が気になる。いや死ぬよ? 普段あれでも手加減してるからね? 本来鉄より硬い魔物とかに使うものだからね? 

 

(……取り敢えず今日は『壊』は使わずに勝とう)

 

「えー対するはリールベルト選手。こちらは3勝1敗と、初戦の手痛い敗北を除けば絶好調!! まさに今、波に乗っております!! 今の彼を車椅子と侮るなかれ、両の脚を遥かに凌ぐ、爆発的な機動力は必見ですよぉ!!」

 

 リールベルトはいつもの車椅子……その脇には映像で何度か見たあの電撃鞭が控える。まともに喰らえばまず戦闘不能の強力な武器だ。

 

「おお! オッズは互角!! これは凄いぞ流石は『破砕の魔王』!! 117階での対戦からは突如覚醒したかのように対戦相手を秒殺! 病院送り! 腹筋で受ければ腹筋が砕け、肘で受けても肘すら海月に! 受けが通用しないその拳は正に魔王の拳ぃ! そこに痺れる憧れるぅ!!」

 

「「「「おおおおおおー! そうだ──壊せー!」」」」

 

 

こんなの付与師への声援じゃないやい……。

 

 

 内心かなりしょげてる私に対し、リールベルトさんはポーカーフェイスで開戦をただ待っている。あまりの四面楚歌に正直それだけで好感度が上がってしまう。

 

「おおっと今回も喋りすぎましたあ! もう場は温まりましたし、やりましょう。審判さーん始めてくださーい!!」

 

「試合開始っ!!」

 

 審判が腕をクロスした直後、リールベルトが動く。

 

 

 

双頭の蛇による二重唱(ソングオブディフェンス)

 

 蛇を模した鞭が超高速で振られ、鞭の結界を作り出す。

 生身で突っ込むのは無謀……そして仮に受け止めることが出来たとしても高圧電流の二段構えと、接近戦は難しいだろう。

 

 しかしこちらも武器の使用は認められている。策を切る前に少し相手のお手並み拝見と洒落込もうか! 

 

 私は杖を手放し、二本のナイフをホルスターから抜き取り、勢いよく投擲する!! 

 

「!!」

 

 鞭をただ高速で振っているだけなら対処は難しい筈だが、流石に念無しで200階まで辿り着いた本物の闘士。微細な操作により鞭の軌道が変わり、ナイフは二本とも外に弾かれる。それも刃の横っ面を叩くように的確に……だ。

 

(成程……これは仮に『突』を付与してても駄目だったかもね)

 

 杖を回収して相手の出方を伺うように待機する。

 

「おおっとクーデリア選手! 鞭対策かナイフを投擲! しかし流石はリールベルト選手、危なげなく対処します! こーれは厳しいぞおお!?」

 

「石でもナイフでも……その程度で突破出来ると思うなよ! 『爆発的推進力(オーラバースト)』!!」

 

 勝機と見るや車椅子の後ろから、文字通り爆発的な勢いでオーラを放出。鞭の結界を維持したままに突進してくるリールベルト。成程、確かにこれなら無理やりにでも接近戦に持ち込める! 

 

「靴に『風』を付与」

 

 当然、私は全力で逃げる。今回は事前に構えていたこともあり、ある程度は余裕を持って退避出来た。しかしタイミング次第では回避が間に合わないだろう。

 

「ナイフに『水』を付与」

 

 策の1つをここで切り、今度は水を付与したナイフを三本投げつける。当然のように途中で弾かれるが、ここからが本番。弾かれた瞬間、まるで水風船が破裂したかのようにナイフから水が振りまかれる。

 

「っちぃ、水だと!? どっから?!」

 

 リールベルトの武器の最大の特徴は高圧電流を流せることにある。ならば鞭の持ち手を含め濡らしてしまえばおいそれと使えなくなるだろうと見越しての一手だ。

 

「舐めるなあああああ!! 『双頭の蛇による二重唱(ソングオブディフェンス)』!!」

 

 維持されていた鞭の結界の密度が更に上がり、振りまかれる水すら弾かれていく。1秒後には水は全て吹き飛ばされ、殆ど濡れてないリールベルトが出現する。それを見た私は内心歓喜して「凄い!」と感嘆を漏らしてしまう。どうやら相手を過小評価していたようだ……今、私の目の前にいるのは自力で200階に到達したうえで、念という特異な能力すら修めてみせた武闘家なのだ。でも、それでも、勝つのは私だ。

 

「次は逃がさん! 『爆発的推進力(オーラバースト)』!!」

 

 もう一度突進してくるリールベルトだが、ここで策の2枚目を切る。少なくともこの世界で初めて使う属性の付与、見切れまい! 私は杖を振るい、先端を闘場にぶつけて付与を発動する。

 

「闘場に『土』を付与!!」

 

 その瞬間、勢いが最高潮に達しているリールベルトの目の前の闘場の土台が盛り上がる。即席のジャンプ台の完成だ。

 

「は!? はあああああああああああああああ???」

 

 爆走する車椅子は宙を飛び、観客席の方角に吹っ飛んでいく。

 

 ──―ドガアッ

 

 リールベルトを載せた車椅子はそのままの勢いで壁にぶつかる。流石にこれには観客も審判も、あの実況すら沈黙してしまった。

 

 

「じょ、場外! リールベルト選手は10カウント以内に戻ってください!」

 

 一番早くフリーズが解けた審判は流石だが、私はもう勝敗が付いたことを悟った。これが念能力者の耐久力か、リールベルトはまだやれそうであるが……車椅子の方は完全に壊れてしまっている。歩行能力を失ったリールベルトが戻ってくることは難しいだろう。仮に這って戻れるにしても、肝心要の機動力を失った時点で最早詰みである。

 

 その後、降参を申し出るリールベルト。

 

 この日、私は200階以上での初勝利を飾った。

 





実質凝が使えるようになった主人公。
ただ纏すら覚えてないのでかなりの紙装甲です。
あとこの主人公、天空闘技場なのに全然ポイント取得しない…魔法解禁後は基本的にクリティカルヒットの2ポイント取得してそのままKOで終わってます。今回はなんと0ポイント勝利。
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